官民連携して持続可能な地域社会を実現する、新時代のショッピングセンター(前編)
─山田宗司氏(日本SC協会近畿支部・SC研究会座長)×ハーレイ・岡本氏((株)イマジネーションプロみなみかぜ代表取締役)×村井吉昭(ジェイアール東日本企画)─

未来の商業施設ラボ VOL.29

商業施設の「買い物の場」としての価値が揺らぐ中で、生活者の視点に立った「理想の商業施設像」を考える、「未来の商業施設ラボ」。今回は、「新ショッピングセンター論」を掲げ、次世代のショッピングセンター(以下SC)の実現を目指す未来SC研究所の活動に携わってきた山田宗司氏とハーレイ・岡本氏をゲストにお迎えしました。人口減少や消費の変化、SC間の競争が進み、今、地域とSCの双方のあり方が問われています。こうした社会変動の中で、持続可能な地域社会を実現するためにSCはどう生まれ変わるべきなのか――意見を交わしました。今回は対談の前編です。

人口減少と空床増加により存続が危ぶまれる地方SC

村井:SC業界全体の存続を危惧する業界人を中心とした有志が集まり、未来SC研究所を立ち上げられたそうですね。まず研究所の活動についてご紹介いただけますか。

山田:メンバーは30人で月に一度、事例研究を実施しています。そしてそこから見えてくるSCが抱える問題の解決案を提示した『突破するSCビジネス』(発行:繊研新聞社)を2021年6月に出版しました。私たちは未来のサステナブルなSC像の「あるべき論」を議論するだけでなく、それを実現して初めて意味があると考え、岡本氏の会社に研究部門を創設し、地方SCのコンサルティングなどを行っています。

2021年6月に刊行された、『突破するSCビジネス 続/新ショッピングセンター論』(繊研新聞社)。日本にSCが誕生して半世紀。競合激化、ECの台頭、社会構造の変化などにより、曲がり角に立っているSCの今後のあり方を提示。ショッピングから行政サービスの支援までを担う基盤施設づくりを提案している。山田・岡本両氏も共同執筆者として名を連ね、両氏による対談も収載されている

村井:理論だけでなく実現に向けて動かれているのですね。それではまず初めに、VUCAの時代ともいいますが、未来のSCを考えるうえで、お二人の問題意識についてうかがえますでしょうか。

岡本:人口減少と土地や床の無駄遣い、この2つを問題視しています。日本の人口減少は避けることのできない問題ですが、人口が減少していくことはわかっていたのにSCを未だに開発し続けて過剰になり、床を持て余している現状の方をこそ危惧しています。

山田:都心はまだ人口が増えていたり、オフィスビルや病院、映画館を合わせたミクストユースなどで対応できるかもしれませんが、地方ではそんな魔法のような方法はありません。これからは地方のSCがどうすれば生き残れるのかを考えていかなくてはなりません。

岡本:かたや行政に目を向けると、公共施設でも床を持て余しているところが多いのです。というのもこれまでは、税収が上がり、少しでも予算が余っていると投資しようという話になり、行政機能の一部を切り離して、別棟をつくるケースがありました。その結果、何が起こるのか。住民の皆さんがワンストップで全部の行政サービスを回れない。それどころか、それぞれに維持費や修繕費がかかるようになり、費用のツケがもう数年で回ってくる。財政状況が崖っぷちに立たされている状況です。この公共施設の床の無駄遣いとSC施設の空床の増加を同時に解決しなければならないというところに来ているのです。

山田:この最も厳しい地方のSCと行政が生き残っていくために、お互いに接点を見出し、連携していけるのではないかというのが、私たちの発想の出発点です。日本だけでなく、世界でも少子高齢化が進んでいくので、もし今、日本で新たな官民連携SCのスタイルをつくることができれば、世界に先駆けたモデルになるはずです。

SCの循環型MDとしての”アップサイクルセンター”を

村井:課題先進国の日本の中でも、課題の大きい地方のSCが世界のモデルになれたらいいですね。そのほかに問題視されていることはありますか。

山田:アパレルが売れなくなってきていることです。SCが何でもっていたかといえば、アパレルでもっていたのです。アパレルは高家賃が取れるうえ歩合家賃なので、売り上げが上がれば上がるほど、SCも共に発展してきました。しかし、そのアパレルが衰退したことによって、SCの衰退に拍車がかかっています。
生活者の意識も変わってきましたよね。Z世代の人たちは、「高いもの=いいもの」という感覚があまりないように思います。誰かが着ているから私も同じものを着たいということもなく、むしろ古着屋に行って自分だけの1点ものを探す方が好まれている。同じものを大量生産してきたアパレルとは感覚が合わなくなってきているのではないでしょうか。

岡本:Z世代という話もありましたが、北京の若者の中で今「Stooping」というものが流行っています。日本語に訳すると、前にかがむという意味ですが、不用品の中から使えそうなものを拾ってくることを指します。自分の家具に使えそうなものやパーツなどを拾ってくるようですが、新作を手にするよりも、拾ってきたものに手を加えてお宝に変える方が楽しいということなのです。これはアップサイクル(※)の考え方です。リサイクルではなくビフォーアフターで、断然アフターが良くなります。これをキーワードにして、SCでリペアに必要な部品や用具を販売したり、DIYのノウハウを学べるようにすれば指導料も取れる。マネタイズできる業態の1つとして、アップサイクルセンターというのはありですね。

※アップサイクルとは、本来であれば捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせること。

村井:ただリサイクルのために回収するのではなく、SCだからこそ、さまざまな商品やスタッフの知恵も活用して付加価値をつくり、豊かな暮らしを提案する。SCならではのサステナビリティへの貢献だと感じます。

“縮充”をコンセプトとした官民連携SC

岡本:このままいくと、ある地方自治体では公共施設の運営ができなくなり、近隣の市町村に依存せざるを得なくなります。そしてSCでもデッドモールが出てきています。この状況で誰が困るのかというと、それは地域の住民の皆さんです。これをなんとかサバイバルできるよう、行政サービスと商業機能を未来につないでいくためにはどうすればいいのでしょう。答えは一言で言うなら、官民連携による”縮充”です。

山田:縮充というのはマイナスの意味ではなく、機能を効率的に集約したコンパクトシティみたいなイメージです。私たちはそれのSC版をつくることが地域の暮らしを守ることにつながると見込んでいます。

岡本:具体的には公共施設をSCの核テナントとして入れて、その公共機能に親和性のある商品・サービスを提供するテナント群をあわせて配置し、シナジー効果を図るものです。もちろん、公共施設からはそんなに高いテナント料は得られないので、それに代わる収益として、SCが公共施設の指定管理者になって管理料を得たり、SCが公共施設を活用した自主事業も行うようにする。これまでSCと公共施設とで、床も人件費もイベントもダブルでかかっていたのを、2030年に向けて官民連携SCという新たなスタイルで縮充してこうという考えです。

山田:地方自治体の肩代わりをできるのは、地域に根差したSCしかありません。これからはSCが地域を支える公器となっていくべきだと考えています。

SCが住民ひとりひとりの生きがいの場へ

村井:官民連携を中核に据えたSCということですね。SCが運営するのに適した公共サービスとはどのようなものでしょうか。

岡本:子育て支援、健康増進、図書館などの機能は相性が良いですね。静岡県焼津市や石川県加賀温泉には地域の人たちが参画できる図書館があり、私たちも注目しています。いわば「まちの本棚」といった感覚で、図書館内の一定のスペースを定額で借りて、まちの人たちに読んでもらいたい本を並べたり、自分の作品や写真を展示できる権利を得られたりする仕組みになっています。本を借りた人が感想文を付けるとオーナーさんと会うことになったりして、市民交流機能も生まれています。

村井:自分の好きなことを発信できて、興味を持ってくれた人と交流が生まれる空間なんですね。SCがそういう場を魅力的に演出できたらいいですね。

山田:これらの図書館のように、SCで小さなボックスでもいいけど、自分だけのスペースが持てるようになれば、生きがいにもつながると思います。今後一人暮らしの高齢者も増えていきますが、そうした方々の自分の生きがいが全部詰め込まれているような、SCがそういうものの集合体になれると良いと思います。

前編では、地方において公共施設の維持が困難になり、SCもデッドモール化する中、双方の生き残り策として、官民連携スタイルのSCで”縮充”を図るという考えを伺いました。後編では、地方の生活・文化・交流の基盤施設として未来のSCが果たす役割について、山田さん、岡本さんとお話していきます。

〈後編へつづく〉
構成・文 松葉紀子

山田 宗司
未来SC研究所主宰。日本SC協会近畿支部・SC研究会座長。福井県産業政策課・SC研究会委員。NPO法人トムネット理事。箕面自由学園理事。福井県企業誘致アドバイザー。前・日本SC協会調査研究委員会委員長。国鉄入社後、JR西日本へ転籍。旅行業本部国内旅行課長、神戸支店長、京都支店長を経て、JR西日本ファッショングッズ(株)を設立、駅やSCに「episode」など10ブランドの服飾雑貨店約50店舗を展開。その後SC分野に転出、天王寺SC開発(株)、神戸SC開発(株)の各社長、JR西日本SC開発(株)の会長、顧問を経て2022年6月末に退任。

ハーレイ・岡本
未来SC研究所主宰。株式会社イマジネーションプロみなみかぜ代表取締役。SCアカデミー1期生(現在講師)。SC経営士23期生。1992年SCイベント業を始める。1996年法人化。同年SCにテナント(ファッション・雑貨)として入居し、専門店オーナーの立場からSC販促を考える。中心市街地活性化に寄与するNPO法人まちづくりネットワークTOMネット専務理事。再開発組合コンサルタント。アマチュアストリートダンスの全国コンテスト「芸王グランプリ」主宰。2016年SC経営士誕生25周年 記念論文 最優秀賞受賞。福井県企業誘致アドバイザー。

上記ライター村井 吉昭
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社会の環境変化やデジタルシフトを背景に、商業施設の存在価値が問われる現在、未来の商業施設ラボでは、「買い物の場」に代わる商業施設の新たな存在価値を考えていきます。生活者の立場に立ち、未来の暮らしまで俯瞰する。識者へのインタビューや調査の結果などをお届けします。

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  • 村井 吉昭
    村井 吉昭 未来の商業施設ラボ プロジェクトリーダー / シニア ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。家庭用品や人材サービスなどのプランニングに従事した後、2010年より商業施設を担当。幅広い業態・施設のコミュニケーション戦略に携わる。ブランド戦略立案、顧客データ分析、新規開業・リニューアル戦略立案など、様々な業務に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 篠原 りな
    篠原 りな 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2017年jeki入社。営業局で商業施設のプロモーションに従事した後、2年間出向。 若年向けファッションビルでの販促業務や、顧客分析やアプリ運営などのオムニサービス推進を担当した。 現在はコミュニケーション・プランニング局で化粧品などのプランニングに取り込んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。

  • 渡邊 怜奈
    渡邊 怜奈 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーション プランナー

    2021年jeki入社。仙台支社にて営業職に従事。自治体案件を中心に、若年層向けコミュニケーションの企画提案から進行まで、幅広く業務を遂行。2023年よりコミュニケーション・プランニング局で、官公庁、人材サービス、化粧品、電気機器メーカーなどを担当する。

  • 宮﨑 郁也
    宮﨑 郁也 未来の商業施設ラボ メンバー / コミュニケーションプランナー

    2022年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局に配属。 食品、飲料、人材などのプランニングを担当する。