消費者と農家の“資源の循環”「CSA LOOP」<後編>
〜駅がオープンカルチャー創出の場になる可能性〜

PICK UP 駅消費研究センター VOL.50

<写真右より>
jeki駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー 松本 阿礼
株式会社4Nature代表取締役 平間 亮太さん、宇都宮 裕里さん

雑誌やテレビ番組で農業体験が特集されるなど、近年、「食と農」に対する関心が高まっています。また、消費地と生産地を結ぶインフラをもつ鉄道会社も、農産品の輸送や駅での販売などさまざまな取り組みを始めています。今後の「駅×農」の可能性はどのようなことが考えられるのでしょうか。jeki駅消費研究センターでは、地域支援型農業と食循環を組み合わせた「CSA LOOP」を仕掛ける4Natureの平間 亮太さん、宇都宮 裕里さんにお話を伺い、そのヒントを探りました。

後編では、「CSA LOOP」のコミュニティ交流の拠点のあり方から、鉄道・駅との連携の可能性についてお聞きします。
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CSA LOOP

画像提供:株式会社4Nature

CSA LOOPとは、野菜と堆肥の資源循環をおこなうと同時に、消費者と農家、拠点となるカフェやファーマーズマーケットなどでの人と人との交流も伴いながら、持続可能な循環する場と営みをつくっていく仕組み。消費者は、CSA LOOPのユーザーになることで、事前に農作物の代金を支払い、年間を通して野菜を定期的に受け取ることができ、農家は、収穫量や市場に左右されることなく、独自の販路で営農ができるようになる。また、ユーザーは援農に行ったり、家庭でつくった使い切れない堆肥を農家と連携し、循環を作ることができ、継続的にサポート、コミュニケーションを取りながら、主体的に農業へ関わることができる。
CSA LOOP

食や環境への関心をベースに「楽しさ」を共有する

松本:「CSA LOOP」は、実際に利用されているのはどんな方が多いのですか。

平間:やっぱり女性がメインですね。料理をするのは、まだ女性の方が多いのでしょう。特に30〜50代の方で、お子さんの出産をきっかけに食に興味を持ったという人が目立ちます。一方で、若い方で農業に興味がある人も増えていて、たとえばアレルギーで辛い思いをした経験があるとか、個人的な経験からも食を見直すきっかけになっているようです。

松本:農業という以上に「食」に興味がある方が参加されるほうが多いのですね。

平間:そうですね。これまでいろんなキーワードを使って告知をする中で、どれが一番ひきがあるのか、それこそ「環境問題」なのか、「おいしいお野菜」なのか、「暮らし」や「コンポスト」などのワードでも試してきました。結論でいうと、「おいしいお野菜」が一番反応があり、難しい理念や仕組みよりもやっぱり「美味しい」って、人間の根源的なものだとわかりました。

宇都宮:当初は、ターゲットとして「環境意識が高い人」だと思っていたので、環境系の言葉に寄せて告知をしていたのですがなかなか手応えがつかめませんでした。実際には環境意識が高い人でも、行動原理としては「美味しさ」とか「楽しさ」がトリガーになっているのではないかと思います。

平間:「美味しさ」「楽しさ」で入ってきた人も、根元には「農家さんを支えたい」っていう考え方は持ってはいるので、「理解して何かできることを探そう」っていうコミュニティにはなっていると思います。

松本:環境問題に取り組んだり、サステナブルな消費は、経済的余裕があるからこそできるのでしょう?という見方もありますが、CSA LOOPの会員の方はいかがですか。

平間:経済的に余裕がある方が多そうというのもありますが、経済的な余裕があるから参加しているというわけでもなさそうだなと感じています。それ以上に精神的・時間的にゆとりがあって、「自分の日々の生活を見直したい」っていう延長線上にこの活動を考えている方が多いようです。

消費者と生産者の接点として、地域に開かれた拠点を設ける

松本:コミュニティを回すのに、カフェやファーマーズマーケットというリアルな場が重要というお話がありましたが、もう少し詳しくお聞かせいただいていいですか。たとえば、どんなふうに使われているのでしょうか。

宇都宮:基本的にはユーザーさんが「農家さんの野菜を受け取る拠点」として使われています。ただ受け渡し時間は1日中というよりはある程度区切られているので、自然とその時間にコミュニティのメンバーが顔を合わせることになり、野菜を受け取った後にお茶をしながらおしゃべりを楽しんだり、一緒に駅まで歩いて帰ったりというコミュニケーションも生まれています。

松本:カフェの方にとっては、CSA LOOPの会員さんが常連さんになっていく感じですね。

平間:そうですね。カフェが生活圏内という方々ばかりなので、CSA LOOPを通じて顔見知りの関係になっていく。カフェの店員さんにとってもCSA LOOPの会員さんが特別な存在になっているみたいです。

松本:カフェがCSA LOOPの拠点として参加する理由やメリットについて聞かせていただけますか。もちろん、常連さんになってもらえる機会が増えるなど、経営的に助かるというのはあると思うのですが。

宇都宮:大きな要因となったのはコロナ禍で、「流行るカフェ」になろうというより、地域に根ざした「身近なカフェ」になろうという思いが強くなっているのではないかと感じます。コロナ禍で多くの人が外出を控えるようになった中で、「なんとなく寄る店」より、「今日はあそこに行こう」と生活の一部のような選ばれる店になる必要も生じてきた。そういう考えのお店が増えていて、住民の皆さんとの接点としてCSA LOOPの拠点となることを選んでもらえたのだと思います。

平間:また、スペシャルティコーヒーを出しているお店も多いので、もともと提供するコーヒーのトレーサビリティやサステナビリティを気にされていました。なので、環境や農業、食に興味のある人との親和性が高いんですよね。

松本:そうした拠点の1つとして、エコッツェリア協会さん*が運営されている大手町の「3×3Lab Future(さんさんラボ フューチャー)」という交流施設でも活動を展開されているそうですね。
*一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会の通称

平間:「大丸有SDGs ACT5」という、三菱地所さん、農林中央金庫さん、日本経済新聞社さん、エコッツェリア協会さんなどが手がけられている、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)を起点にSDGs達成に向けた活動を推進しようという取り組みがあって、その中で循環型消費の考え方がまさにCSA LOOPと一致しているということでお声がけいただきました。他の拠点と同様に、農家さんと連携して、「3×3Lab Future」を拠点に近隣の会社にお勤めの方々にもご参加いただける半年間のプランを設けさせていただいたんです。

宇都宮:大丸有エリアと言えば大都会の真ん中で多様な企業があるので、その中でCSA LOOPをきっかけに企業の枠組みを超えて人が出会って、新しい取り組みを協議・協業できたらという狙いがあるのだと思います。なので、カフェと交流施設という違いはあれど、私たちとしてはCSA LOOPが人の集まる場、コミュニティをつくる求心力として期待されていると認識しています。

駅を中心にコミュニティが生まれ、カルチャーが生まれる

松本:CSA LOOPでは生産地と消費地をつなぐ必要があって、その間にカフェやファーマーズマーケットなどの拠点が創出される。それならば、そこまでの物流や人流のインフラとして、たとえば鉄道や駅が役に立てることもあると思うのですが、いかがでしょうか。

平間:個人的に、東京の駅ってすごく面白いと思うんです。一駅違えば、そこにまったく違う個性があり、カルチャーがある。多分、駅ごとにこれだけ個性があることは世界でも珍しいと思います。人が多様な価値観を持ち、さまざまな流通や消費の形が選択肢として存在する自律分散型社会には、カルチャーの多様性がカギになります。だから、駅の単位として取り組んでいくのが非常に大事になってきそうだなと。

松本:「駅の単位」ということですが、都市部だと意外と大きな単位になりそうです。規模が大きくても成り立つものですか。

平間:農家さんのキャパシティにも限界があるので、1拠点50〜100人程度の単位になると思います。とはいえ、CSA LOOPの仕組みの場合、ユーザーの方だけがコミュニティメンバーとは思っておらず、拠点に地域の人が集まるうちに新たなコミュニティがたくさん生まれればいいなと思っています。何人のコミュニティなのかは重要ではなくて、3人でも集まって好きなことを一緒に楽しんで、そこにカルチャーがあればコミュニティだと思うんです。ただ、できれば固定化しないでいろんな人が集まって、その中でまたコミュニティが生まれるという方が面白いと思います。たとえば、CSA LOOPの会員さんが農家さんの野菜を販売する会を自分たちで運営して、翌年のCSA LOOPの会員を集めるとか、そういう伝播力がある方が発展するのではないでしょうか。

松本:駅ナカや駅ビルがそんな活動の受け皿になるというのは、できそうですね。鉄道という視点ではいかがでしょうか。

宇都宮:農家さんは今自動車で拠点に来るというのがメインですが、駐車スペースや高速代金に加えガソリン代も高騰しているなか、時間も半日〜1日がかりになるので楽かと言えば嘘になります。でも、たとえば野菜を電車に乗せて自分も電車で向かったりできると、乗車時間は手を動かせそうです。また、コミュニティでの連携が必要かもしれませんが、農家さんが急な事情があって拠点へ来られなくなってしまった時に、野菜を畑の最寄り駅まで運べば、その後は鉄道で消費地に届いて、ユーザーさんが駅で受け取りをして拠点へという選択肢があったら、そこにコミュニケーションも生まれますし面白そうです。

消費地と生産地をつなぐ鉄道インフラの可能性

松本:鉄道で「野菜を産地から運ぶ」方法はいろいろ考えたいところですね。さらに、逆に「産地に人を運ぶ」という活用の仕方もあると思います。

平間:将来的なことを考えると、もっと若い世代には畑に行ってもらいたいのですが、学生など運転免許を持っていない人向けに、電車でのツアーが企画できるといいなと思っています。あとは、畑に行ったときに畑作業でアウトドアイベントも楽しめたらいいですよね。日中は畑作業をして、収穫した野菜でバーベキューをして、テントサウナをして…絶対楽しいと思います。古民家などをうまく活用できれば宿泊もできるし、地域を知っていただくことにもつながると思います。そうした楽しみの中で、農を知ってもらい、私たちが大切にしている考え方にも触れてもらえればと思います。

松本:それはもうツアーとして企画ができそうですね。スキーツアーみたいに学生向けに特化したものなども作れそうです。

宇都宮:可能性として、面白そうですね。

松本:どんどんアイデアが浮かんできますね。最後に今後の展望などについてもお伺いできますか。

平間:CSA LOOPの可能性や価値をどんどん出していきたいですね。人と人とが持ちつ持たれつの気持ちで、自由に楽しめる。そういう様子を見守りつつ、カルチャーや地域性みたいなものを創り出していけたらと思っています。それが実現すると、いろんなところで同じような仕組みが出てくると思うけど、その中でも「4Natureがやってることっていいよね」と評価をいただける。そして、大きな社会的な流れを生みだせるようになりたいと思っています。

松本:自社にとどまらず、社会を変えていく活動ですね。本日はありがとうございました。

平間 亮太
株式会社4Nature代表取締役。
1990年、千葉県佐倉市生まれ。大学卒業後、信託銀行に勤めた後、2018年に株式会社4Natureを創業。生分解性サトウキビストローの販売回収やコミュニティコンポスト事業、ファーマーズマーケットを通して、都市部におけるサーキュラーエコノミーの醸成に尽力。また、サーキュラーエコノミーによるサステナブルな地域社会を目指す団体530weekに所属。一般社団法人Someino Innovation Farm代表理事。

宇都宮 裕里
1996年、東京都立川市生まれ。
大学在学中に留学した米国オレゴン州ポートランドでは、自然と共生するまちのあり方や市民参加に大きな影響を受ける。また、プラスチックの代替にもなりうるヘンプ(産業用大麻)に可能性を感じ、大学卒業後に入社した会社でヘンプの普及に取り組む。株式会社4Natureには2020年に参画しコミュニティコンポスト事業やCSA LOOPなど、都市部での資源循環や地域循環、社会寛容性を伴ったコミュニティづくりに取り組む。

上記ライター松本 阿礼
(駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー)の記事

消費者と農家の“資源の循環”「CSA LOOP」<前編> 〜楽しさと価値の共有による“コミュニティ”が資源循環の場に〜

PICK UP 駅消費研究センター VOL.49

松本阿礼(駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー)

消費者と農家の“資源の循環“「CSA LOOP」<前編> 〜楽しさと価値の共有による”コミュニティ”が資源循環の場に〜

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。