消費者と農家の“資源の循環”「CSA LOOP」<前編>
〜楽しさと価値の共有による“コミュニティ”が資源循環の場に〜

PICK UP 駅消費研究センター VOL.49

<写真右より>
jeki駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー 松本 阿礼
株式会社4Nature代表取締役 平間 亮太さん、宇都宮 裕里さん

雑誌やテレビ番組で農業体験が特集されるなど、近年、「食と農」に対する関心が高まっています。また、消費地と生産地を結ぶインフラをもつ鉄道会社も、農産品の輸送や駅での販売などさまざまな取り組みを始めています。今後の「駅×農」の可能性はどのようなことが考えられるのでしょうか。jeki駅消費研究センターでは、地域支援型農業と食循環を組み合わせた「CSA LOOP」を仕掛ける4Natureの平間 亮太さん、宇都宮 裕里さんにお話を伺い、そのヒントを探りました。

前編では、「CSA LOOP」の仕組み、そしてその活動の基盤となるコミュニティづくりやコミュニケーションなどについてお聞きします。

CSA LOOP

画像提供:株式会社4Nature

CSA LOOPとは、野菜と堆肥の資源循環をおこなうと同時に、消費者と農家、拠点となるカフェやファーマーズマーケットなどでの人と人との交流も伴いながら、持続可能な循環する場と営みをつくっていく仕組み。消費者は、CSA LOOPのユーザーになることで、事前に農作物の代金を支払い、年間を通して野菜を定期的に受け取ることができ、農家は、収穫量や市場に左右されることなく、独自の販路で営農ができるようになる。また、ユーザーは援農に行ったり、家庭でつくった使い切れない堆肥を農家と連携し、循環を作ることができ、継続的にサポート、コミュニケーションを取りながら、主体的に農業へ関わることができる。
CSA LOOP

人と人が交流し資源が循環する、新しい農業支援の仕組み

松本:今日は4Natureさんが企画・運営するマーケット「あおいちマルシェ」での取材と伺って、楽しみにしてきました。都心の南青山で“農”を感じられるのは、ステキですね。これも活動の1つだと思いますが、今回は特に4Natureさんが取り組まれている「CSA LOOP」にフォーカスして伺いたいと思います。まずは概要からお聞かせいただけますか。

平間:CSA LOOPとは、CSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー:地域支援型農業)にLOOP(食循環)を掛け合わせたもので、人と人とが交流しながら野菜と堆肥という資源の循環を行なう仕組みのことです。

日本で一般的なCSAは、農作物の代金を先払いして、収穫できたら届くという仕組みですが、周りから「コロナを機に外出が減って家庭の生ごみを堆肥化するようになったけれど、使いどころがあまりなくて困っている」と聞いて、堆肥を農家さんに還元して有効活用してもらうことを仕組みの中に取り入れました。

コンポスト※にはさまざまな種類があるが、CSA LOOPでは、ローカルフードサイクリング株式会社が販売する「LFCコンポストセット」を選択肢の1つとして特に初心者に向けて推奨している。コンパクトなトートバッグ型で都市部のマンションなどでも使いやすいのが特徴。
※家庭からでる生ごみや落ち葉などの有機物を微生物の働きを活用して分解、発酵して作る堆肥

松本:一般的なCSAとの違いは、野菜と堆肥の交換という循環の仕組みがあるということなんですね。

平間:そうです。それからもう1つ、「手渡し」という手法をとっていることがあります。日本の一般的なCSAは、都市部と農地が離れていることもあって効率を優先し、配送が基本です。一方、海外のCSAはファーマーズマーケットが盛んで、農作物の受け渡し場所にしていることが多いです。CSA LOOPでは、人と人との直接的な交流が重要だと考えているので、カフェやファーマーズマーケットなどを拠点にし、野菜や堆肥の受け渡しをするようにしています。人と人とが直接交流しながら、持続可能な循環する場と営みをつくる。それもCSA LOOPの特徴の1つといえるでしょう。

コミュニケーションを通じて、消費者と農家の信頼関係を醸成

松本:CSAは、先払いなので資金繰りが行いやすく、かつ消費者に直接届けられるという点で、農家さんにとって魅力的な仕組みですね。それでも農家さんが単独で始めるにはハードルが高いと聞きます。CSA LOOPではどのようにハードルを解消されているのですか。

平間:大きくは2つです。まず1つめは、顧客管理やコミュニティでのイベントの管理を簡素化することです。主に個人向けであるCSAは会員を抱える分、顧客管理や支払管理が増えます。そうした管理に慣れていなかったり仕組みが整っていなかったりする農園も多いと感じました。CSAの会員が増えても対応コストに大きな影響が出ないよう専用のアプリを提供しています。そうすることで、より本来時間をかけたい生産に集中していただけると考えました。

そしてもう1つは、プラットフォーム化により、コミュニケーションを潤滑にしたことです。本来CSAは、先払いをすることで農業のリスクをシェアするという考え方に基づきます。農業では悪天候などで収穫量が少なくなってしまうこともあるためです。でも、消費者が単なる先払いと思っていたり、農家さんとのコミュニケーションがとれていないことでリスクシェアの理解が得られていなかったりすると、渡される野菜が少なかった場合に「騙された」と思われてしまう可能性があります。

宇都宮:昨今はクラウドファンディングなども普及し、「リスクを負った投資」という認識も広がりつつありますが、それでもリスク負担を農家さん側から呼びかけるのは難しい。そこで、CSA LOOPがコミュニケーションを円滑にすることで双方の理解を深めることがよいと考えました。そもそも農家さんと都市部の消費者が必ずしも近しい関係にないので、交流する場を作ろうと思ったんです。

松本:なるほど、その場がカフェやファーマーズマーケットなどの拠点というわけですね。

平間:そうです。ここで新しく知り合って、話すようになったという人が多いですね。さらに我々が情報発信をして、「こういう農家さんですよ」とコミュニケーションの仲立ちもしています。そして、CSAを始めて、特定の農家さんとの関係を深めていくという順番です。

松本:先程、「リスクシェアの理解」とおっしゃっていましたが、どのようにお伝えしているのですか。

平間:たとえば、都市部での消費活動が大量のCO2を排出し、気候変動につながって農産物に影響を与えているかもしれませんよね。そのことは、消費者は気にしなくても済む社会の仕組みになっていますが、あえて向き合い、被害を受けている人がいることを想像し、正しく理解することが必要だと考えています。その前提で、野菜の受け渡しの際に生産方法を説明したり、消費者が畑に行く機会を設定したりすることで、農家さんが必死に農作物を育ててくれていることを知れば、共にそのリスクをシェアしようと思ってもらえるのではないかと思っています。

宇都宮:さらに、たとえば震災などで一般の物流が滞り消費地から野菜が消えることがあれば、つながりのある生産者さん側が助けてくれるという可能性もありますよね。今の社会は利害に基づく「仕組み」だけで動きがちですが、そうした「持ちつ持たれつ」の関係が当たり前になれば、もっと良い関係性のある社会になると思います。とはいえ、お互いの信頼が十分でないうちは、どちらかの負担が大きくなって関係が崩れることもあるので、そこのバランスをCSA LOOPという仕組みで補完できればと考えています。

都市部から新しい消費の価値観と選択肢を広げていく

松本:確かに消費地と生産地で分かれてしまって、お互いがわからない、見えないという関係になっています。CSA LOOPによってお互いを知り、支え合おうという気持ちを喚起できればいいですね。

平間:まさに都市と農に距離感があると実感しています。私自身も千葉県の佐倉市の出身で、近くには農地があり、同級生にも農家の子がたくさんいる環境で育ったのですが、2019年の集中豪雨のときに近所のスーパーから野菜が消えたことがあったんです。聞けば佐倉でとれた野菜が都市の大市場に行って、それが戻ってきてスーパーに並ぶのだと。それまで意識していなかったのですが、さすがにそれは「おかしいな」と思いましたね。生産から消費がもっと近くなれば、きっと無駄もなくなるし、お互いに理解しあえたら、もっといいことがあるのではないかと思いました。

松本:CSA LOOPを都市部で展開している理由もそのあたりにあるのでしょうか。

平間:そうですね。そして、生産者さんからは、都市部の方が販売効率が良いという声も多く聞きます。この仕組みが都市部でできれば、商いの持続性を高められ、さらに、汎用的に地方にも伝播できるかもしれない。農について新しい価値観をつくりたい、社会に普及させたいという思いもあって、事業としても持続できそうな都市部から始めたわけです。

松本:私も農産物の物流について取材した際に、中間流通をはさんで生産者と消費者とが分断された現在の仕組みに違和感を覚えたことがありました。効率化するためにつくってきた仕組みが、今、何か他の問題を起こしている可能性もあります。

平間:だから、既存の流通以外の選択肢もいろいろとあってもいいんじゃないかと。農と食とを守っていくためにも、消費者に選択肢を用意する必要があります。その意味でも、都市部でCSA LOOPを展開する価値があると考えています。

コミュニティ内での自主性を喚起する、フラットな関係づくり

松本:消費者と生産者とが直接つながり、お互いを支え合う気持ちが醸成されるのは素晴らしいことですが、改めて、関係性構築のために、意識されていること、工夫されていることがあればお聞かせください。

平間:コミュニケーションについては、実際の物のやり取りと同じくらい、すごく大切にしています。意識していることの1つは、こちらから伝えるだけの一方通行にしないことでしょうか。たとえば、会員同士のコミュニケーションにSlackというチャットツールを使っているのですが、その中に農家さんやカフェのスタッフさんが入っていて、自由にやり取りできるようになっています。

宇都宮:そこでは、受け取った野菜をどのように使ったか、どんな料理を作ったかとか、ユーザーの方同士で野菜の使い方を教え合うなど、農家さんは自分の野菜がどのように使われているのかを知ることができます。さらに、作り手である農家さんからも調理法のアドバイスができるなどコミュニケーションの場になっています。

画像提供:株式会社4Nature

松本:ステキな仕組みですね。ちょっと変わった野菜を見つけても、食べ方がわからなくて買いそびれたり、使いきれなかったりするので、教えてくれる人がいたら心強いです。

平間:この場でのポイントは、コミュニケーションが義務ではなく、あくまで自由で自発的なものになっていることですね。あるユーザーの方がメンバーに向けて、堆肥のつくり方を質問したのですが、農家さんがプロの目線で答えてくれたことがあって。農家さんが質問に回答することは必須ではないですけど、いい関係性ができています。このように、ユーザー同士で疑問点を教え合ったり、苦手な野菜を交換し合ったりして、ユーザー同士がコミュニティ内で問題解決もしているんです。消費者同士がつながることで農家さんを支えていこうという絆がより強まるような気がします。

また、共通の価値観を持った人たちがつながっているので、コミュニティとして洗練されるというか、“色”が出てくる感じがありますね。一方で、農家さんや消費者がいて、拠点としてのカフェがあることで、洗練されながらも一定の多様性を持つコミュニティを作っていけるというのが、この仕組みの面白さかなと思います。

松本:なるほど、面白いですね。ネットの世界ではコミュニティ色が強くなると聞きますが、リアルな場があるとオープンで多様性が保たれ、バランスが取れるのでしょうか。

宇都宮:そうですね。まさに、あえてリアルな拠点があるからこそ、閉じすぎずにいられるのだと思います。
コミュニティコンポストでも、当初、「コミュニティの何が楽しいのかわからない」とおっしゃっていた会員の方が、皆と喋って活動するうちにどんどん楽しくなって、最終的にはかなりの活動量になっていたことがありました。そういう意味でコミュニティって非常に面白いものだなと思っています。

松本:こちらから提供するばかりではない、自律的なコミュニティになっているのですね。

平間:実際、私たちが予想していなかった活動も増えていますよ。たとえば、畑に手伝いに行く「援農」を実施していて、基本的には農家さんが応対する想定だったのですが、現在はユーザーが農家に代わって「この日畑に行ける人は?」と出欠を取るなどの動きが出てきました。さらに農家さんの畑を一部借りて、自分たちも野菜を栽培してみようという話が出てきたり。今後も、そうした自発的な活動が広がってきそうです。

後編ではそんな消費者と農をつなぐインフラとして、鉄道や駅ができることを探りつつ、さらにお話を伺っていきたいと思います。

<了>

平間 亮太
株式会社4Nature代表取締役。
1990年、千葉県佐倉市生まれ。大学卒業後、信託銀行に勤めた後、2018年に株式会社4Natureを創業。生分解性サトウキビストローの販売回収やコミュニティコンポスト事業、ファーマーズマーケットを通して、都市部におけるサーキュラーエコノミーの醸成に尽力。また、サーキュラーエコノミーによるサステナブルな地域社会を目指す団体530weekに所属。一般社団法人Someino Innovation Farm代表理事。

宇都宮 裕里
1996年、東京都立川市生まれ。
大学在学中に留学した米国オレゴン州ポートランドでは、自然と共生するまちのあり方や市民参加に大きな影響を受ける。また、プラスチックの代替にもなりうるヘンプ(産業用大麻)に可能性を感じ、大学卒業後に入社した会社でヘンプの普及に取り組む。株式会社4Natureには2020年に参画しコミュニティコンポスト事業やCSA LOOPなど、都市部での資源循環や地域循環、社会寛容性を伴ったコミュニティづくりに取り組む。

上記ライター松本 阿礼
(駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー)の記事

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。