鉄道会社・行政・地域の連携でもっと楽しく新たなパブリックスペースを。
〜馬場正尊さんに聞く、公民連携の可能性〜<後編>

PICK UP 駅消費研究センター VOL.44

近年、人口減少や厳しい財政状況、公共施設等の老朽化など、顕在化するさまざまな課題に、民間と協働して挑戦する自治体が増えています。公民が連携したからこそ、新たな地域活性につながるような取り組みが出始めている今、地域と共にある鉄道会社も、そうした事例から学ぶことは多いのではないでしょうか。建築設計を基軸としながら、リノベーション、公共空間の再生、地方都市の再生などを横断的に行うOpen A代表取締役の馬場正尊さんに、公民連携の可能性についてお話を聞きました。今回はその後編です。
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馬場 正尊(ばば・まさたか)
1968年佐賀県生まれ。Open A代表取締役、建築家、東北芸術工科大学教授。早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂入社。2003年、Open Aを設立。建築設計、都市計画まで幅広く手掛け、WEBサイト「東京R不動産」「公共R不動産」を共同運営する。近作に「佐賀城内エリアリノベーション」「泊まれる公園 INN THE PARK」など。近著に、『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』(編著)、『公共R不動産のプロジェクトスタディ 公民連携のしくみとデザイン』『テンポラリーアーキテクチャー 仮設建築と社会実験』(共著)、(いずれも学芸出版社)など。

大きな開発よりも、小さな社会実験から始める意義

また別の事例として、「LIVE+RALLY PARK.(ライブラリーパーク)」についても聞かせてください。

馬場:2018年、仙台市役所前の勾当台(こうとうだい)公園で、公園の可能性を顕在化させるための社会実験の場として仮設建築をつくりました。ポップアップのカフェや本屋さんなどを、地域の会社とコラボしながら約10カ月運営したのです。それまでこの場所は、イベントがあるときだけ使われ、日常的にはあまり利用されていないような広場だったのですが、そこにカフェや本屋さんができたことで、皆さんが「これ、あるといいね」と気づいてくれたようです。

今後、市役所は建て替えられることになっているのですが、市役所の1階部分と勾当台公園をつないで、そこを民間でマネジメントする構想が立ち上がっています。うまくいくと市役所の敷地の一部を公園のようにするなど、面白い連携ができると思います。社会実験が、市役所建て替えの大きな政策に反映されることを期待します。

左/2018年3月~2019年1月、仙台市役所の南側、勾当台公園内に設置されたLIVE+RALLY PARK.。中心となる約60㎡の仮設建築内には、東北の食材を使ったカフェや東北の魅力を伝える物販スペースがつくられた 右/広場内にはカフェのほかにも屋台やアウトドアファーニチャー(屋外家具)が並べられ、公園に遊びに来た親子や近隣のワーカーなどで賑わった
(Photo:Kohei Shikama)

社会実験の意義は大きいですね。

馬場:社会実験は、ちょっと先の未来の予感を、みんなで共有するためのもの。市民も行政も民間企業も、目の前で起こったことだからこそ、この場所に賑わいが生まれるのをリアルに感じることができたんだと思います。小さな仮設建築でも、それによって未来に起こり得る風景の一端を垣間見ることで、人々の間に暗黙知がつくられるのだと思います。描かれたパース(完成予想図)を見るよりも、リアルにその出来事が起こると、全く違う説得力を持ち始めるのです。

公園利用の幅を広げた「泊まれる公園」

もう一つ、「INN THE PARK(インザパーク)」の事例についても聞かせてください。

馬場:静岡県沼津市の「少年自然の家」は、年間数千万円の赤字を出していた公共施設でした。施設の在り方を見直し検討していた沼津市から、公共R不動産に記事掲載してほしいという依頼があったのです。実際に現地を見に行ってみると、施設はかなり老朽化していましたが、目の前にはものすごく良い公園が広がっていた。それで我々も活用方法を提案しようということになり、公共R不動産のメンバーで株式会社インザパークを設立。運営事業者として応募し、選ばれたという経緯です。

森に浮かぶテントは、ビジュアル的にもインパクトがあります。

馬場:「こんな風景ができたら面白い」という、デザイン企画から走り出したプロジェクトです。「泊まれる公園」をコンセプトに新しいタイプの宿泊施設をつくり、沼津市と10年の定期建物賃貸借契約を結んで、運営も我々がやっています。

市は、少年自然の家の有効活用だけを考えていたのですが、それを拡大解釈して公園活用にまで広げました。運営会社のインザパークは、市と公園活用の連携協定を結んでおり、公園で映画祭やフェスなども行っています。イベントの運営はそれぞれ別の民間企業が行っていますが、行政への届け出の窓口になっているのは協定を結んでいるインザパークです。我々が窓口になることで公園利用がスムーズになり、映画祭やフェスなど利用の幅が一気に広がりました。マネジメントが変わることによって、新しい取り組みが生み出されたと言ってもいいと思います。

左/静岡県沼津市にあるINN THE PARKはかつて林間学校などに利用されていた施設をリノベーション。4棟の宿泊棟のほかにテントエリアを備え、木々の中に浮かぶ球体テントのユニークな姿がSNS等で話題に。現在も多くの宿泊客が訪れている(Photo:TAKAYA SAKANO)
右/施設の目の前にある芝生広場で行われた、野外映画イベントの様子(写真提供:株式会社インザパーク)

駅とその周辺を魅力的にするために

駅消費研究センターでは、鉄道会社における今後の開発の在り方について、公民連携からヒントを学びたいと考えています。駅の開発だけでなく、行政と連携して街を盛り上げていける可能性はあるでしょうか。

馬場:鉄道会社は駅と鉄道がベースですから、まずそこを主軸に物事を考えていくのは自然なことです。

一般的に、駅ビルがどんどん充実すると、どうしても他のエリアから人や資本を吸い取っていくという構図に見えてしまいます。しかし、そのことで、駅から少し離れた場所ももっと盛り上げなければいけないという動きが生まれることもあります。そのような適度な競争がある方が、どちらも知恵を絞って新しい空間や新しいマネジメントシステムをつくろうと頑張りますから、あってしかるべきことだと思います。

また、鉄道会社が既に持っている不動産などもうまく使えば、沿線やエリアの価値を上げることにつながり、その効果はとても大きいと思います。

駅という“点”をスポット的に開発するだけで、沿線やエリアの価値向上につなげられるのだろうかという課題も感じています。どのようなやり方が効果的でしょうか。

馬場:リノベーションされた小さな“点”が2つ3つと増えていくと、連携し合って“面”的にリノベーションが進み、街が活性化されます。「エリアリノベーション」(※)という概念です。

※エリアリノベーション……馬場さんの提唱する新たなまちづくりの手法。あるエリアにおいて、リノベーション(建物の再生)が同時多発的に起こることで、互いが共鳴し、ネットワークを広げ、やがてはエリア全体の空気を変えていくこと。

駅をたくさんの“点”の中の一つだと捉えた方がいいのではないでしょうか。例えば、駅から適度な距離にある徒歩圏の児童公園のような所を、鉄道会社と地域のクリエイターや地域の組織がコラボレーションして投資し、行政から借りて活性化するような形で、新たな“点”を増やしてみるのはどうでしょう。そうやって“点”を増やしていくことでエリアの価値を上げていくのです。

鉄道会社が、“点”のリノベーションやその仕掛けに力を貸し、そこに地域のクリエイターを巻き込むようなプラットフォームになり得たとすれば、駅とその周辺は魅力的になり、そこに住むことにも価値が生まれるでしょう。鉄道会社がそれをやることには、必然性があると思います。

行政にとって、鉄道会社と公民連携することにはどんな意味があると思いますか。

馬場:小さな組織が相手だと、行政は動きにくいところがあります。その点、鉄道会社のような企業であれば、安心感を持って連携できるでしょう。地域における責任のある企業として、地元の小さな企業やクリエイターなどを巻き込みながら、行政とコラボレーションするとうまくいくと思います。

南池袋公園の事例では、良品計画やサンシャインシティのような大きな企業と、地域のカフェやnestが協働しています。小さな組織だけでは体力がなく、不安定で社会的信用度が足りないと見られがちですが、大きな組織と組むことで行政側も安心しますし、何かをつくったりイベントを企画したりする際の行政への説明もしやすいのです。

例えば、地域のスーパーとか、地域のお目付け役のような小さなお店とか、地域のクリエイターなどと鉄道会社が連携していけば、行政も安心して動き始めることができるでしょう。“点”を“面”に展開するプラットフォームとして、鉄道会社がキーになるかもしれません。

駅の一部と街の公共空間をうまく使った“戦略的換地”という考え方も

例えば、駅に公共図書館を入れてもらうなどのアイデアでの公民連携も考えられるのではないかと思います。

馬場:とても可能性があると思います。例えば、駅の一部に公共図書館を移転させる代わりに、空いた図書館跡地には何か賑わいを集める施設をつくって、運営を鉄道会社に委託してもらうというような、“戦
略的換地”がいいのではないでしょうか。

サイクルステーションのようなモビリティと絡めてみるのも、鉄道会社らしくていいかもしれません。一つの駅だけでなく、沿線の他の駅にもステーションを置いて、多拠点展開を促すこともできそうです。

郊外や地方の駅の遊休スペースなどでそのようなことができたら、駅を中心としたエリア活性にもつながりますね。

馬場:今後、駅はますますミクストユース(複合利用)化されていくでしょう。今までは商業施設やホテルだったかもしれませんが、もっと新しい組み合わせがあるはずです。「駅×○○」の組み合わせを増やし、先ほどの戦略的換地の方法で進めれば、相当可能性が広がると思います。

例えば、駅にエリアマネジメントの拠点をつくり、その拠点自体も何らかの役割を持ってその場所を運営するとか。駅を拠点にする代わりに、駅を中心とした“面”展開のアクティビティを仕掛けなければならないという条件を付けるのです。行政と鉄道会社が協働でやると面白いことができるでしょう。

鉄道会社のダイナミズムとして、大きな開発は重要だと思います。しかし一方で、郊外のような開発が少し難しそうな所を、小さな投資と工夫でやってみてもいいのではないでしょうか。必ずしも収益性が高くない所を、どう楽しくするかということは考える価値があると思います。

取材・文 初瀬川ひろみ

〈完〉

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』VOL.51掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2022年3月)のものです。

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab・未来の商業施設ラボ メンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。