駅と街が一体となった渋谷駅周辺の再開発。
アーバン・コアと歩行者デッキで街に人を送り出す−−東浦亮典さんに聞く、2019年の再開発が街にもたらす変化とは(前編)

PICK UP駅消費研究センター VOL.29

東急グループの主導で進む渋谷駅周辺再開発事業において、「渋谷スクランブルスクエア」「渋谷フクラス」が開業した2019年は、大きな節目の年となりました。新たな「まち」の姿が明らかになり、今後の展開にも注目が集まっています。再開発事業に携わる東急株式会社 執行役員 渋谷開発事業部長の東浦亮典さんに、再開発の全体像と今後についてお話を伺いました。今回は、その前編です。

<プロフィール>
東急株式会社 執行役員 渋谷開発事業部長 兼 フューチャー・デザイン・ラボ
東浦 亮典さん
1985年、 東京急行電鉄(現・東急)入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。その後、東急総合研究所に出向し、復職後は、商業施設開発やコンセプト賃貸住宅ブランドの立ち上げなど、新規事業を担当。都市創造本部 戦略事業部 副事業部長などを経て現職。渋谷駅周辺再開発をはじめ、東急沿線全体の開発戦略、マーケティング、ブランディング、プロモーション、エリアマネジメントなどを統括する。

渋谷再開発の要となる2つのビルが誕生

2019年は渋谷駅周辺再開発事業において、大きな年だったという印象があります。街はどう生まれ変わったのでしょうか。

東浦:東急グループが「日本一訪れたい街」を目指して進めている渋谷駅周辺の再開発は、2012年の「渋谷ヒカリエ」の開業からスタートしました。2018年には「渋谷ストリーム」が誕生していますが、その段階では見えにくかった全体像が2019年11月の「渋谷スクランブルスクエア」と「渋谷フクラス」の開業によって明らかになってきました。
 渋谷スクランブルスクエアは、渋谷エリア最大級のハイグレードオフィスと、「ASOVIVA(アソビバ)」をコンセプトに「世界最旬」を掲げる商業施設を備え、国内外からの集客を目指しています。最上部には屋外と屋内からなる展望施設「SHIBUYA SKY」を設置し、渋谷最高峰のパノラマビューを実現しました。
 一方、渋谷駅西口に開業した渋谷フクラスは、旧東急プラザ渋谷エリアの建て替えとなるプロジェクトで、その系譜を受け継いでいるのが特徴です。商業ゾーンには「大人をたのしめる渋谷へ」をコンセプトに新生「東急プラザ渋谷」が12月に開業。アクティブシニアをターゲットとしており、終活などの〝ライフプランのお悩み解決″を提供するサービスフロアも展開しています。また、渋谷フクラスの1階には、空港リムジンバスが乗り入れるバスターミナルやアートセンター併設型の観光支援施設「shibuya-san」を設置し、訪日外国人に渋谷の魅力を伝えています。

地下空間も変化してきていますね。

東浦:そうですね。東口地下広場の整備も行われました。この広場は東京都、渋谷区、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントの公民連携によって実現した空間です。渋谷にはハチ公前広場がありますが、くつろげる広場としての機能は不十分とも言えます。そこで、高い階層の駅と地下の駅を結ぶ重要な位置にあるこの場所に、広場の機能を持つ快適な空間を整備しました。カフェがあったり、トイレには企業(@cosme)タイアップのパウダールームがあったりと、ゆったりくつろげる空間です。まだ、告知と認知が進んでいないところもあり、今は穴場的なスポットですが、さらに整備が進んで全施設がオープンすると、皆さんから「あって良かった」と喜ばれるような広場になると思います。

「アーバン・コア」と「歩行者デッキ」が回遊性を向上

国道246号を跨ぐ「歩行者デッキ」が整備され、利便性が高まったと感じています。移動という面での取り組みについてもお伺いできますか。

東浦:渋谷駅構内は、JR線や東急線などの鉄道会社各社が駅施設の移設や増改築を繰り返してきたことによって、動線が複雑化していました。さらに、スリバチ地形であることから、回遊性が良くない点も長年の課題でした。これに対し、今回の再開発では、分断された街をつなぐ歩行者デッキを設置しています。また、エレベーターやエスカレーターで多層な都市基盤を上下に結び、地下やデッキから地上に人々を誘導する縦軸空間「アーバン・コア」の整備も進めました。渋谷区は国土交通省が進める「ウォーカブル推進都市」の一つですが、こういった動線整備により、歩行者が移動しやすくなり、街の回遊性は向上したのではないかと思います。
 国道246号周辺についても、かつてはスムーズな行き来が難しい場所でしたが、歩行者デッキを整備したことで回遊性が向上しました。しかも、デザイン性にも優れ、明るいイメージになったと思います。このデッキの整備は、国土交通省の東京国道事務所との連携により実現したものです。特に、渋谷スクランブルスクエアと渋谷ストリームが、まるで同じ施設であるかのような動線で結ばれたのは、非常に良かったと思います。

16層ものフロアからなる商業施設を備えた「渋谷スクランブルスクエア」。地上47階、約230mの高さを誇る。(提供/渋谷スクランブルスクエア)

渋谷の街を利用する人々の動線には何か変化がありましたか。

東浦:渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラスの開業は、先ほども述べたスリバチ地形である渋谷駅周辺の動線整備の要でもあり、2つのビルの誕生後、多層階を使った駅周辺の移動がスムーズになりました。特に渋谷スクランブルスクエアのアーバン・コアの供用開始後は、駅を利用する方々から、「駅周辺がすごくすっきりした」「行き来がしやすくなった」というお声をいただいています。
 地下3階から地上3階に分かれる鉄道4社の改札を縦と横に結ぶ快適な空間が生まれたことで、利用者が自分にとっての最適ルートを考え、自由に移動している、という印象です。2つのビルの集客力に加え、渋谷ヒカリエや渋谷ストリームとの動線も改良されたことから、新たな人の流れが生まれています。定点で見ると人が減っているように映るかもしれませんが、多層的な歩行ルートによって人が分散しているのです。このような快適性・回遊性の向上が、渋谷のエリア集客の強化にもつながり、街が人を集めるパワーが非常に高まっていると感じています。

利用される層、属性には変化がありましたか。

東浦:渋谷は「若者の街」と言われてきましたが、開発が進む中で〝多様な人が増えた″と感じています。
 駅周辺のビルの開発に伴い、オフィスの供給も増えています。渋谷のオフィスで働く人が増え、それに伴い取引先の来訪者も増えました。渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラス誕生後は、駅からの動線が整備され、落ち着いて過ごせる飲食店も増えたことから、ミドルやシニア世代の利用者も増加しているように感じます。先に述べたように、空港リムジンバス乗り場も整備したので、訪日外国人も増加した印象です。
 さらに興味深いことに、商圏も広がってきています。これまでは東急線沿線の方が大半でしたが、2つの新ビルが開業してからは、都心やJR中央線沿線など東急線沿線以外の方も増えています。今年6月には、埼京線ホームが移設し、山手線ホームと並走することになり、より利便性が高まりますので、さらに多様な人たちが渋谷を利用するようになるでしょう。

渋谷駅周辺のアーバン・コアと歩行者デッキのイメージ図。縦と横の移動によって駅から街への動線が整理されているのが分かる。(提供/東急株式会社)

取材・文 重松久美子

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.44掲載のインタビューを一部加筆修正の上、再構成しました。インタビュー内容、固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2020年3月)のものです。

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このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。