駅と街が一体となった渋谷駅周辺の再開発。アーバン・コアと歩行者デッキで街に人を送り出す。――東浦亮典さんに聞く、2019年の再開発が街にもたらす変化とは(後編)

PICK UP駅消費研究センター VOL.30

東急グループの主導で進む渋谷駅周辺再開発事業において、「渋谷スクランブルスクエア」「渋谷フクラス」が開業した2019年は、大きな節目の年となりました。新たな「まち」の姿が明らかになり、今後の展開にも注目が集まっています。再開発事業に携わる東急株式会社 執行役員 渋谷開発事業部長の東浦亮典さんに、再開発の全体像と今後についてお話を伺いました。今回は、その後編です。<前篇はこちら>

<プロフィール>
東急株式会社 執行役員 渋谷開発事業部長 兼 フューチャー・デザイン・ラボ
東浦 亮典さん
1985年、 東京急行電鉄(現・東急)入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。その後、東急総合研究所に出向し、復職後は、商業施設開発やコンセプト賃貸住宅ブランドの立ち上げなど、新規事業を担当。都市創造本部 戦略事業部 副事業部長などを経て現職。渋谷駅周辺再開発をはじめ、東急沿線全体の開発戦略、マーケティング、ブランディング、プロモーション、エリアマネジメントなどを統括する。

駅の集客力が街に人を送り出し、人の流れを生む

渋谷駅周辺の変化は、街にどういう影響を与えているのでしょうか。

東浦:駅に人を集めるだけではなく、街に人が流れる仕組みが整ってきていると思います。先述のアーバン・コアと歩行者デッキに加え、駅の地下出入口番号の変更と案内サインの整備も進めており、それらが機能してきています。
 渋谷駅の地下出入口番号は、開発により出入口が増える度に番号を振っており、番号と位置に規則性がなく、利用者にとって複雑で分かりにくいものでした。渋谷スクランブルスクエアの開業時に、案内サインと併せて改善を行い、地上の街の構造からエリアをABCDの4ゾーンに分け、アルファベットと数字を組み合わせて表記し、また数字は外周部から中心部に向け数字が大きくなるといった規則性のある番号に付け直しました。これによって、どのエリアにいるかを把握しやすくなり、地下から地上への動線や回遊性がさらに良くなったと思います。

渋谷駅地下出入口番号の変更(提供/渋谷駅前エリアマネジメント)

渋谷に住む方からは、街の変化について、何か反響がありましたか。

東浦:昨年末以降、渋谷で長らく商売をされている方々から、「街に人が流れてきている」「客層も多様化している」という声が届いています。渋谷フクラス開業時には、近くの渋谷中央街の歩道整備に加え、「地域荷捌き場ESSA(エッサ)」を設置しました。路地に搬入の車が入らなくなったことで、非常に歩きやすくなり、集客がアップしたと、街の人の満足度も上々です。
 我々のまちづくりを理解してもらえ、これから開発が本格化する他エリアでも、「一緒に頑張りたい」と協力的な雰囲気が生まれています。街の人々が集客の効果を実感することで、街との連携はより強化されていくのだと思います。

多様な顔を持つ街で「コト消費」を提案

先ほど、駅から街への人の流れが生まれているという話がありましたが、街中での回遊行動についてはいかがでしょうか。

東浦:東急は渋谷駅周辺の再開発に加え、駅から半径2.5キロ圏内を「Greater SHIBUYA(広域渋谷圏)」として、渋谷の魅力を向上するまちづくりを行っています。渋谷は、原宿・青山・表参道・恵比寿・代官山など個性豊かな街と徒歩圏で結ばれていますが、それぞれが開発の歴史も文化も異なるので、エリアによって雰囲気が違い、歩いている人も違う。そこがいいのだと思います。
 駅周辺の再開発に加え、今後は街の同質化を避けるため、各エリアが持っている特徴を増幅させながら、持続的な成長を目指す開発を行う予定です。大人の渋谷、若い渋谷、文化の渋谷、ラグジュアリーな渋谷というような多様な顔を、半径2.5キロ圏内に埋め込む作業が行われることになります。
 幅広い世代やさまざまなタイプの人に、半径2.5キロ圏内の全エリアを回遊してもらおうというわけではありません。渋谷駅を起点に自分に合うと思う場所、行きたいと思うところに行っていただければいい。アーバン・コアや歩行者デッキ、地下出入口番号や案内サインの整備は、それをスムーズに行える機能となっていくでしょう。さまざまなタイプの人がそれぞれに行きたいと思える場所がある。その多様性が渋谷の個性だと思います。

2020年以降の取り組みについて、お伺いできますか。

東浦:2020年3月、渋谷の顔であった東急百貨店東横店が営業終了し、今後解体工事が始まります。長年見慣れた空間がなくなると思うと、心にぽっかりと穴が空きそうな気もします。大きなシンボルである「東横のれん街」は渋谷ヒカリエに、「東急フードショー」は渋谷マークシティに拡大。場所は変わりますが、帰宅時、駅へ向かう動線上で食品を買える機能は残りますので、新たな使い方をしていただければと思います。
 また、近年はビッグイベントがあるととりわけ渋谷に人が集まるようになっていますが、今年の夏も、同様のことが起こるでしょう。そういう時の対応には地元商店街、渋谷区、渋谷警察署、東急などが当たっていて、予測と段取り、現場での管理にだんだん慣れてきました。あまり管理が過剰になってしまうと、来街者にとって興ざめになってしまうため、ケースごとに程良い加減を模索しながら行っています。例えば、2019年末のカウントダウンは、適度なお祭り感と管理のバランスがうまくいった例だと思います。
 ただし、集客があっても、管理にコストがかかってしまったり、集客が周辺店舗の売上に十分につながっていなかったりと、渋谷の街は負担ばかりといった課題もあります。その解決策の一つとして、スクランブル交差点の一番いい場所を有料席にするといったことも考えられると思います。安心して楽しめると分かれば、お客さまも有料でもいいと思うのではないでしょうか。

他にも何か取り組んでいることはありますか。

東浦:2019年末と2020年元旦向けに、渋谷スクランブルスクエアの展望施設「SHIBUYA SKY」でのカウントダウンと初日の出営業を実施しましたが、そのチケットはあっという間に完売しました。スクランブル交差点の有料席のアイデアもそうですが、新しい「コト消費」を楽しんでいただくのは、渋谷らしいかなと感じています。特別なタイミングに特別な空間にいて、喜びと楽しみを分かち合うレアな企画をしていけば、渋谷でこその魅力的な体験を提供できると思います。
 いつ訪れても、何度来ても、楽しいコトに出会える「エンタテイメントシティSHIBUYA」を実現するため、今後も街と共に開発を進めていきます。

渋谷駅周辺地区の将来イメージ図。渋谷駅周辺再開発事業は、2027年度の「渋谷スクランブルスクエア 第Ⅱ期(中央棟・西棟)」の開業をもって完成する予定だ。(提供/渋谷駅前エリアマネジメント) 

取材・文 重松久美子

<完>

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.44掲載のインタビューを一部加筆修正の上、再構成しました。インタビュー内容、固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2020年3月)のものです。

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。