商業施設のこれからを見据える、新たな取り組み(3) 北長瀬コミュニティフリッジ
〜「困ったときはお互いさまの気持ち」をつなぐ、日本初の“公共冷蔵庫”〜

PICK UP駅消費研究センター VOL.36

コロナ禍によって大きな社会変化が起き、以前と以後では全く異なる考え方が必要とされています。そして今、駅商業施設にも、これまでとは違う新たな視点が求められています。

今後の社会で、持続的に生活者に寄り添っていくためには、どのようなことを考えなければいけないのでしょうか。駅消費研究センターでは、新たな視点、指標をもってビジネスに取り組み始めていると感じた、複合施設や商業施設など3つの事例を取材しました。
それぞれのインタビューを全3回でお送りします。

2020年11月、岡山県岡山市、JR北長瀬駅近くにあるショッピングモール「ブランチ岡山北長瀬」内に開業。さまざまな事情で食料品・日用品の支援を必要とする方(登録者)に、個人、企業・商店等(フードプレゼンター)から預かった食料品・日用品を無償提供する。ブランチ岡山北長瀬の駐車場に併設された倉庫内の冷蔵庫・冷凍庫を使い、必要な方が時間・人目を気にすることなくいつでも取りに来られる仕組みを構築。一般社団法人北長瀬エリアマネジメントが運営を行っている。

地域の人が利用できる日本初の試み。無人運営を行う公共冷蔵庫

ヨーロッパで2010年代に誕生した「コミュニティフリッジ(公共冷蔵庫)」は、地域でフードロス削減に取り組む活動です。2020年11月、岡山市で、この活動を参考とした「北長瀬コミュニティフリッジ」がスタートしました。生活に困難を抱える人に、個人や企業などから預かった食料品等を、地域にある冷蔵庫を使って無償提供する仕組みです。地域の人々が利用できる公共の冷蔵庫としては日本初。JR北長瀬駅前周辺の再開発に携わる、一般社団法人北長瀬エリアマネジメントが立ち上げと運営に当たっています。

利用の際には、安全管理のため、提供を受ける人(登録者)、寄付する人(フードプレゼンター)とも事前登録が必要です。食料品や日用品を必要とする人が、人目を気にすることなく24時間都合の良いときに取りに来られるように、無人運営の管理体制を構築。冷蔵庫のある倉庫には電子ロックを設置し、登録者だけがスマートフォンでのロック解除で入れるようにしました。

「気を配ったのは、誰かがしんどい思いをする方法にはしない、ということです。各々の負荷を少なくし、継続していける仕組みをつくりたかった。ベースになったのは、『困ったときはお互いさまの気持ち』という思いです。特定の人だけが頑張らなくても、世の中には誰かを応援したいと思っている人が大勢いるので、そういう人が気軽に参加できる方法が大切だと考えました。それをベースに、提供を受けたい方と支援したい方をつなぐ、今の仕組みをつくっていきました」と、北長瀬エリアマネジメント代表理事の石原達也さんは語ります。

2021年3月初頭の時点で、利用登録は340世帯、フードプレゼンターは393人となりました。寄付できる品物は、未開封で長期保存ができる消費期限内の食品と未使用の日用品。登録者がフードプレゼンター側の登録も行って、自分の家庭では使わないものを持ってきてくれることもあるそうで、「お互いさまの気持ち」の循環が早くも芽生えています。

駐車場に併設され、登録者はいつでも人目につかず出入りが可能。一方でフードプレゼンターは、ブランチ岡山北長瀬内のコミュニティスペース「ハッシュタグ」に提供品を届ける

コロナ禍で支援が必要な人が増え、課題解決の仕組みを模索

JR北長瀬駅は岡山駅の一つ隣にあり、子育て世代やシングルで働いている方が多いエリアだと、石原さんは説明します。
「駅前の再開発に当たって、私たちは、大和リース株式会社が運営するショッピングモール『ブランチ岡山北長瀬』と一緒にまちづくりを進め、地域の課題を解決する仕組みづくりに取り組んできました」

2020年春以降には、コロナ禍で困窮している方が地域で増え、アンケートなどから、食料品と日用品の支援が必要なことが分かってきたそうです。

「2018年の西日本豪雨の際に物資支援を行った経験があり、配ること・渡すことの難しさを実感していました。お渡しするための時間調整が大変だったり、人目が気になって受け取りづらいと言われたり、本当に必要なものを選んでいただけなかったりといった課題があり、より良い方法を模索する中で注目したのが、必要なときに取りに来られる公共冷蔵庫の仕組みでした」と、石原さんは語ります。

2020年夏から仕組みづくりに取り組み、「感染者が増える懸念がある冬までにはスタートしたい」と、同年秋に開所。場所はブランチ岡山北長瀬の駐車場に直結する倉庫スペースを、大和リースが提供してくれました。冷蔵庫と冷凍庫は、業務用冷凍冷蔵庫の製造販売を行う大阪市のフクシマガリレイ株式会社が、同事業に共感し、提供を申し出てくれたといいます。

コミュニケーションボードを活用し、登録者とプレゼンターの声をつなぐ

運営に当たっては、電子ロックをはじめとするデジタル管理に加え、アナログなツールも併用しています。
「無人で運営すると、利用者間でのコミュニケーションが失われがちなので、あえてアナログなコミュニケーションボードを置いて手書きのメッセージを貼れるようにしています。『困っているので本当にありがたい』『私もいつか支援する側になりたい』などの声が多いです」と石原さん。

また、石原さんと共に活動する北長瀬エリアマネジメント専務理事の新宅宝さんは、「フードプレゼンター側も、ボードに自分の寄付品への『ありがとう』の声が寄せられているのを見て、『また持って来たい』と思う方が多く、リピートの動機にもなっているようです」と話します。

「同じ食材が多く余ってしまったときには、登録者が、その食材を活用できる料理レシピをボードに掲げてくれるなどの動きもありました。そうやって、自分のできることで役立ちたい、という気持ちを肌で感じられ、運営側として、とてもうれしいです」と新宅さん。

ボードのベースカラーは黄色で、明るく元気な雰囲気。北長瀬コミュニティフリッジのロゴも同じように明るいデザインを採用し、安心して利用してもらえる工夫の一つになれば、という思いを込めているそうです。

公共冷蔵庫内に設置されたコミュニケーションボード。実感のこもった手書きのメッセージが数多く寄せられている

小分けの寄付やお裾分けができる「フードギフト」の仕組みも準備中

公共冷蔵庫を設置したショッピングモール、ブランチ岡山北長瀬にも少しずつ変化が生まれています。
「よく耳にするのは、スーパーでの『ついで買い』が増えていることです。例えば、公共冷蔵庫に鍋のスープと白菜があるときは、豆腐などの具を買い足して帰る方がいらっしゃいます。店舗の売上にも少し貢献できているようです」と新宅さん。

さらに、ショッピングモールの店舗側から「活動を応援したい」という声もあり、次のステップとして、新しい仕組み「フードギフト」をスタートする予定です。

「イタリアでは、コーヒーショップなどで飲み物を注文する際、寄付分を1杯余分に注文する『保留コーヒー』という風習があるそうで、その日本版として発想したのが『フードギフト』です。スーパーなどでお客さまが買い物をする際に、寄付用のものも購入してもらい、専用ボックスに入れていただく。例えば、プリン1個や缶詰1つでいいんです。こうして、なるべく多くの人が少しずつ、気軽に支援できるような方法を増やし、継続できる仕組みにしていきたいです」と石原さん。

北長瀬コミュニティフリッジの存在は、長い目で見ると、街で暮らす人の意識や行動、街の未来も変えていくでしょう。石原さんはこう語ります。

「人生の中で、一時的に困窮することは誰にでも起こり得る。だから、お互いさまなんです。今、困窮している人がこの先もずっと同じ状況にいるわけではありませんから、生活に余裕が出てきたときには、お世話になった場所に恩返しをしたいと思うはず。例えば、現在、支援を受けている家庭のお子さんが成長したときには、『あそこで支えてもらった』という感謝や愛着を持ってその場所や街に接していくでしょう。

今回の活動では、仕組みをしっかりと構築できたという思いが強いです。他の商業施設や駅ビル、商店街などで同じ仕組みを使っていただき、公共冷蔵庫が日本各地に広がっていくといいな、と思っています」

取材・文 重松久美子

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.47掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2021年3月)のものです。

【商業施設のこれからを見据える、新たな取り組み】
(1) GREEN SPRINGS〜エリアを広く捉え、次の時代まで続く“ウェルビーイングタウン”〜
(2) BONUS TRACK〜下北沢の線路跡に生まれた、個性あふれるこれからの“商店街”〜
(3)北長瀬コミュニティフリッジ〜「困ったときはお互いさまの気持ち」をつなぐ、日本初の“公共冷蔵庫”〜

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。