商業施設のこれからを見据える、新たな取り組み(1) 「GREEN SPRINGS」
〜エリアを広く捉え、次の時代まで続く“ウェルビーイングタウン”〜

PICK UP駅消費研究センター VOL.34

コロナ禍によって大きな社会変化が起き、以前と以後では全く異なる考え方が必要とされています。そして今、駅商業施設にも、これまでとは違う新たな視点が求められています。

今後の社会で、持続的に生活者に寄り添っていくためには、どのようなことを考えなければいけないのでしょうか。駅消費研究センターでは、新たな視点、指標をもってビジネスに取り組み始めていると感じた、複合施設や商業施設など3つの事例を取材しました。
それぞれのインタビューを全3回でお送りします。

GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)

写真提供:株式会社立飛ストラテジーラボ

2020年4月、「空と大地と人がつながる“ウェルビーイングタウン”」をコンセプトとして、東京都立川市緑町(JR立川駅北側)に開業した複合施設。水と緑のあふれる広場を中心に、次世代型多機能ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」や、都市型リゾートホテル「SORANO HOTEL」、ショップ・レストラン、オフィスが連なる。立川市全体の面積のおよそ25分の1を所有する株式会社立飛ホールディングスが立ち上げた、株式会社立飛ストラテジーラボが開発・運営に当たっている。

空が広く緑が多い、立川ならではのポテンシャルを生かすまちづくり

空と大地、緑と水辺を身近に感じながら、誰もが思い思いにくつろげる、立川市の複合施設「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」。2020年4月の開業から1年ほどが経過する中で、その魅力あふれる新しい環境が評判を呼んでいます。約4万㎡もの敷地内には、心地良い風が吹き抜ける広場を中心として、商業店舗、多機能ホール、都市型リゾートホテル、オフィス棟が緩やかに連なっています。

開発と運営に当たるのは、株式会社立飛ストラテジーラボ。立川市で長年不動産事業を営み、同市の25分の1の土地を所有する株式会社立飛ホールディングスがこのプロジェクトのために立ち上げた会社です。

「かつてここは国有地で、2015年に立飛ホールディングスが落札しましたが、その背景には、立川の98万㎡を所有する企業としての責任を果たしたい、という意図がありました。用地取得段階では開発プランはまっさらの状態でしたが、エリア全体を強くしていくために何をするべきかというところが出発点でした」と、同施設の構想を担った立飛ストラテジーラボの執行役員、横山友之さんは語ります。

「私自身は元々、会計監査人として立飛ホールディングスとお付き合いがありました。そのころ都心のオフィスから立川に向かうたびに感じたのは、空気感が変わるな、ということです。空が広くて緑も多い、ここならではのポテンシャルを生かすべきだろうと。立川には、効率化しきっていない良さと、利便性と自然が共存する環境があり、それが大きな魅力になると考えました」

訪れる人々の憩いの場となっているのが中央の広場。中心部でX型に交差する街路には、歴史と未来が“交差する場所”という意味合いが込められている
写真提供:株式会社立飛ストラテジーラボ

次世代に求められる“ウェルビーイングタウン”へ

用地取得後は、横山さんを中心とするプロジェクトメンバーで構想を練る日々がスタート。その過程は試行錯誤と紆余曲折の連続だったと言います。具体的に何をどう造るかは相当苦労しましたが、その段階から抜け出せたのは、「今の時代を生きる人が未来に求めている思いを探り、その実現を考えた」ことが契機だったそうです。

「現代はモノがあふれ、効率性が重視される時代です。次に求められるのは、“人間らしく過ごせる場所”だろうという結論に至りました。そこから出てきたのが、ここのコンセプトである、心と体が健康的で幸せな状態を指す“ウェルビーイング”です。それを数年だけではなく、はるか100年先のスパンで見据えて、形にしていきました」

都心とは目線の違う開発を考える上で、事業効率を重視し、容積率いっぱいに建物を詰め込むことはしたくなかったと、横山さんは話します。

「GREEN SPRINGSでは、許容容積率500%に対して160%くらいしか消化していません。空の広さを取るというのが、ここのポテンシャルを生かすために必要だったからです。貸し床面積ばかりを広くするのではなく、低層階にして、共用部も含め広々とした空間を心掛けました。私は、元々は不動産開発の専門家ではないので、常識を踏み越えて実現できた部分があるかもしれません」

地区計画上、敷地の約4分の1は文化施設を造るという規定があり、さらに立川市からは「多摩エリアでオンリーワンの施設を造るように」というリクエストがありましたが、それについては、多目的・高機能なホールとして具現化しました。ホール屋上から広場までを長さ約120mのなだらかな階段で結び、そこに水を流す「カスケード」というぜいたくな意匠も施しています。

さらに、これからのまちづくりには、地域とつながっていくことが重要との考えから、オフィス、商業店舗の軒天井などには、杉を中心とする多摩産材を使用。多摩エリアの森林の維持や循環、地域経済の活性化に貢献することを目指しています。

ホールの屋上と街路をつなぐなだらかな階段に滝が流れる「カスケード」。長さは約120mあり、かつてこの地にあった飛行場の滑走路がモチーフになっている
写真提供:株式会社立飛ストラテジーラボ

都心とのコントラストが際立つ環境の良さが好評価に

GREEN SPRINGSは、昭和記念公園に隣接し、JR立川駅からは徒歩8分ほどの場所にあります。駅周辺に商業施設が密集する立川において、決して立地に優位性があるとは言えません。

「完成予想図などをお見せしながら、『これまでとは違う新しい施設をつくりたい』という思いをご説明し、共感してくださるテナントさんに入っていただきましたが、開業前のリーシングには、相当苦労しました」
しかしコロナ禍と重なった開業後に、風向きは変わったと言います。

「人や建物が密集する都心環境とのコントラストが際立ちました。コロナ禍で、広くて風が通り抜ける環境の良さが安心感につながったようで、商業エリアは予想以上の集客が続いています。こういう環境の良い場所なら、駅から多少遠くてもお客さまが来てくださることが分かったので、ほとんどの出店者さんが出てよかったとおっしゃってくれています。お客さまからも、『水と緑があって気持ちがいい』『こんな場所はなかなかない』との声をいただいています」

エリアを広く捉えた、次世代の準郊外の都市開発像

今後は、GREEN SPRINGSの開業を契機とした、立川エリア全体の変貌にも期待が高まります。

「この場所だけではなく、エリアを広く見て、より長期的に考えないと、将来的に街が廃れてしまうかもしれないでしょう。似たものをつくるのではなく、そこにしかないものを創造しないと、都市間競争には勝てない。ここをきっかけに立川エリアの雰囲気を変えていき、街に対するイメージを上げていきたいです。例えば、住みたい街ランキングに自然と上がってくるような現象が起き、色あせない街になってほしいですね。

この施設単体の採算も大切ですが、立川の未来を見据え、エリア全体の価値を上げる取り組みがますます重要になります。GREEN SPRINGSの開発は、一般的な事業理論とは一線を画しますが、盤面を広く捉えると、次の時代の準郊外の都市開発モデルの一つになると思います」

GREEN SPRINGSには優しく穏やかな時が流れ、コンセプトの通り、心身の健康と元気をサポートしてくれるような空気感があります。今後も地元の人たちの憩いの場でありながら、さらに、都心から立川エリアへ人を呼び込む、大きな牽引力となっていくでしょう。

取材・文 重松久美子

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.47掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2021年3月)のものです。

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。