シェアリングエコノミーは社会をどう変える!?
−−石山アンジュさんに聞く、シェアがもたらす豊かな暮らし(前編)

PICKUP駅消費研究センター VOL.20

モノやスペース、スキルや知識まで、あらゆるものがシェアされる時代。大きな広がりを見せはじめたシェアリングエコノミーは、果たして社会をどう変えていくのでしょうか。シェアリングエコノミー協会事務局長であり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師でもある石山アンジュさんにお話を伺いました。今回は、その前編です。

内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/
一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長
石山 アンジュさん
1989年生まれ。2012年株式会社リクルート入社。その後、株式会社クラウドワークス経営企画室勤務を経て、現職。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。17年内閣官房シェアリングエコノミー伝道師に任命。著書に『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』。

個人が主役の社会を実現するインフラになる

そもそもシェアというものに着目されたのは、なぜですか。

石山:新卒でリクルートに入社したのですが、そこで大手企業の人材領域の総合コンサルタントをしていました。そんな中で、個人の人生が組織の論理に優先されてしまうことに疑問を感じていました。本人の意志と関係なく転勤が決まってしまったり、景気の変動によって企業の採用人数が決まり、不可抗力的に就職の道が閉ざされてしまったり。それで、組織に頼らず、個人が自分の意志で自由に生きていける社会になるためのインフラとは何だろうと考えるようになりました。そんな時に、レイチェル・ボッツマンの『シェア』という本に出合った。これだ、と思いました。シェアは、個人が主体的に自由な選択ができるライフスタイルを実現すると確信したのです。
また、自分の生い立ちも要因の一つです。実家がシェアハウスを経営していて、家にはいつもたくさんの人が出入りしていました。いろいろな国、いろいろな世代の人がやってきて泊まったり、ホームパーティーをしたり。ご近所とのつながりも濃く、私を自分の娘のようにかわいがってくれる人たちがたくさんいて、一人っ子だったにもかかわらず全く寂しくなかった。つながりさえあれば、豊かに暮らしていけると思いながら育ってきました。そんな2つの要因によって、シェアこそがこれからの時代の幸せをつくっていくキーワードだと思いました。

シェアの考え方やサービスは、今どのくらい広がっているのでしょうか。

石山:認知度とサービスの利用度は年々高まっています。「Airbnb」や「Uber」などは、既にかなり認知されていますね。他にも、旅行の際に犬を預けたい飼い主と地域で犬の飼育経験がある人をマッチングする犬の預かり合いのサービスや、旅行者を手料理でもてなしたい人と旅先で地元のお宅へ行き家庭料理を食べたい人をつなぐミールシェアサービス、家事をお願いしたい人とスキルを提供したい人を結び付ける家事代行のマッチングサービスなど、今やさまざまな分野に広がっています。利用者側を見るとまだ若い世代が多いですが、例えば家事代行では40代の主婦の方がスキルの提供者になっていたり、Airbnbでも70代、80代の方が自分の家を民泊として貸し出していたりします。サービスの提供者側を含めて見ると、より多くの人に広がりつつあるという感触はあります。

海外を中心に広がりを見せているのがミールシェアサービス。ホストの自宅で一緒に料理を作り、食卓を囲みながら、他国の文化を体験できる。写真は石山さんが中国の大手ミールシェア「Home-Cook(回家吃饭)」を利用したときのもの

社会参画も人とのつながりもシェアで劇的に増える

シェアリングエコノミーの浸透によって、社会はどのように変化していくと思いますか。

石山:個人の社会参画の機会が、圧倒的に増えていきます。これまで仕事といえば、会社に勤めたり個人で商店を営んだりといった形しかなかった。それが、ちょっと自宅の駐車スペースを貸すとか、空いている時間を使って得意の料理をして家事のサポートをするなど、生活の中で稼ぐ、趣味の延長で稼ぐということが可能になります。結果、非労働人口といわれる人々にも可能性が広がる。フルタイムで働くことは難しくても、空いている時間に自分ができる範囲のことをやることで、社会参画につながります。本当の意味で一億総活躍社会へと向かっていく。また、サービス提供者はお金が目的というより、誰かの役に立ちたいというやりがいや人とのつながりができていくことに価値を感じていることが多いです。例えば、犬の預かり合いの場合、預かる側は数千円の謝礼はもらえるけれど、むしろ自分が預けたいときに預けられるネットワークをつくりたいということの方が参加動機になっています。

シェアによる社会参画やネットワークの創出に大きな価値があるわけですね。

石山:豊かさのパラダイムシフトが起こっていると思います。これまで資産といわれてきたのは、お金と社会的ステータスです。大企業に入って高い収入を得て、いい車に乗り豪華な家に住むことが、豊かさの象徴でした。ところが、リーマンショックや震災などを経験し、先が見通せなくなってきた。大企業に入っても、明日倒産してしまうかもしれない。災害で家は崩れてしまうかもしれない。そうなると、地震が起きたときに泊まれる家があるなど、無条件で助けてくれる人がいることの方が重要になってくる。人とのつながりが、大切な資産になってくるのです。
人間関係を大きく分類すると、家族や恋人や友人、会社や学校などの所属組織、町内会のような地縁コミュニティというのがこれまでの結び付きでした。それに対して、シェアが広がることで消費や趣味を通したつながりが新たに加わりました。例えば、これまでは旅行でホテルに泊まってもホテルマンと友達になることはまれでした。でも、Airbnbで泊まれば宿泊先のホストと一晩お酒を飲んで友達になり、SNSでつながり、その後も人間関係が続くことはよくある。それが、B to CのホテルとC to Cのシェアとの違いです。個人間で消費をすることによって、互いに友達のような感覚になる点が今までとは明らかに違います。これが、消費で人とつながるということです。また、個人間で車を貸し借りするカーシェアのような場合、例えば高級輸入車に乗ることが趣味の人が、高級輸入車のオーナーから車を借りると、そこで意気投合しコミュニティをつくって一緒にイベントをするというようなことも起こります。持っているモノをシェアすることで、趣味的なつながりをつくることもできるのです。
これまでの人間関係に加えて、消費や趣味によるつながりが可能になったことで、個人のつながりは増やしやすくなりました。今までは、人脈力や高いコミュニケーション能力がある人しか、たくさんのつながりをつくることはできませんでしたが、今やシェアによって誰でもつながりを増やせるようになったのです。

取材・文 初瀬川ひろみ
撮影 小宮山裕介

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.41掲載のインタビューを一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2019年7月)のものです。

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。