新たなライフスタイルとして、流動的な住まい方を実践する人が少しずつ増えているなかで、その変化をいち早く捉え、生活にさまざまな豊かさをもたらす住宅やサービスが生まれています。沿線や地域を積極的に移動する居住者たちはいま、暮らしに何を求め、どんな価値を感じているのでしょうか。これからの住まい方と移動の可能性を広げていく先進的な3つの取り組みを、全3回で紹介します。
unito(ユニット)
株式会社Unitoが運営する、「スマホで契約、即日暮らし。」を実現する物件を掲載したプラットフォーム。掲載物件は家具・家電・日用消耗品やインフラを完備し、部屋探しから内見、契約までをアプリ上で完結させる。1泊の宿泊から一ヶ月より賃貸可能な物件、ホテルタイプに一軒家など、選択肢がそろう。Unito社自身でも、家に帰らない日はホテルとして貸し出し、その分の家賃を減額するシステムを採用したホテルレジデンスの運営を行っている。
帰らない日の家賃は返金する全く新しい料金システム
家賃は住んだ分だけ。家に帰らない日があれば、その分は家賃から差し引かれる。そんな画期的な料金システム「リレント(Re-rent)」を採用した、日本で初めての賃貸サービス「unito」。家賃を下げられるのは、使わない日をホテルとして貸し出すからです。例えば、10日間部屋を貸し出せば、20日分の家賃でその部屋に住めることになります。
「江戸時代に始まったといわれる不動産賃貸業において、マネタイズの仕組みには300年間大きなイノベーションが起きていなかった」と、サービスを展開する株式会社Unitoの代表取締役CEO近藤佑太朗さんは言います。その「月決めで賃料をとる」という仕組みに風穴を開けたのが、世界的にも珍しいリレントの採用でした。不動産賃貸業の常識だった最小単位1カ月という賃貸料金を小口化し、1日単位での課金を可能にしたのです。これによって暮らしはよりフレキシブルになり、一つの拠点に縛られず複数のまちに「住む」ことが、現実的な選択肢になったと言えます。
unitoが提供する部屋は家具・家電付きで、洗面具や食器などのアメニティも揃っています。ホテルとして貸し出した際はきちんと清掃が入り、清潔な状態で居住者に戻されますし、居住者の荷物は備え付けの鍵付き収納ボックスなどに置いておくことができます。また、建物内にはランドリーやキッチン、ポストや宅配ボックスも完備され、日常生活に困ることはありません。同じような家具・家電付きの賃貸物件として、ウィークリーマンションやマンスリーマンションもありますが、借り手にとっては、どんな違いがあるのでしょうか。
「ウィークリーマンションなどが一定期間だけ“利用する”のに対して、リレントは“住む”という考え方がベースにあります。サブ拠点ではなく、ここをメイン拠点としてあちこち出かける人たちをターゲットとしてきました。半年から1年、少なくとも2、3カ月は住むという人たちです」
契約はスマホで完結 即日入居も可能に
unitoのイノベーションは、料金システムだけにとどまりません。もうひとつの大きな特長が、スマートフォンだけで賃貸契約が完結する点です。専用のアプリケーションで部屋を探し、そのまま契約へ。審査に4時間ほどかかりますが、物件が空いていれば当日に即入居可能となります。退去手続きはさらに簡単で、スリータップで終了。留守にする際も、3日前までにアプリのカレンダーから日にちを選んで申請するだけで、自動的に家賃が下がる仕組みです。
そもそもunitoを開発したのは、近藤さん自身の経験がきっかけでした。学生時代から起業家として活動していたという近藤さんは、当時まだ扶養される立場。親の保証がなければワンルームマンションさえも借りられない現実に、無力感があったと言います。「起業家として世の中から期待される一方で、自分一人では部屋の契約もできない。ロマンとソロバンのギャップを感じて、クレジットカードで月の家賃さえ落とせれば住める、という仕組みを作ったのです」
さらに、起業により忙しく全国を飛び回る中で、ある疑問が浮かんできたそうです。 「出張で月に15日ほどしか家にいないのに、なぜ毎日家にいる隣人と同じ家賃を払わなければならないのだろう、と思ったのです。生活費の中でも、家賃が占める割合は一番大きいですから。もっとそれぞれの住まい方にフィットしたシステムが必要だと考えて、リレントを思いつきました」
unitoのサービスをスタートさせたのは、2020年2月。ちょうど、コロナ禍が始まった時期と重なりました。当初は出張の多い人や単身赴任者などをターゲットに想定していましたが、コロナ禍によってリモートワークを含めたハイブリッドな働き方が広まったことから、地域を移動しながら仕事をするデジタルノマドやアドレスホッパーも視野に入れるようになったそうです。
より合理的に望む住まい方を実現する
どのようにすれば、3日前にリレントの申請をされた部屋が、ホテルとしてうまく稼働するのでしょうか。「送客は弊社が行うわけではありません。リレント申請された瞬間に、その部屋は旅行予約サイトに掲載されます。都心のホテルなどは、前日に予約されるケースが一番多く、次に多いのが当日。そのくらい流動性があるマーケットなのです。基本的に、都心だからこそ成立するビジネスです。郊外や1〜2カ月前に予約されるリゾート地では成立しません」
そう話す通り、主なunitoのサービスを展開するのは、東京をはじめ大阪、名古屋、京都、福岡、札幌、仙台などの都市部です。利用者の半数は出張での利用ですが、増えているのは、家賃を節約しながら渋谷や恵比寿など憧れの都心に住みたいという若者たちです。週末は郊外の実家、平日はunitoで都心に住むという「半一人暮らし」や、恋人と同棲する部屋とunitoの住まいを併用する半同棲のような住まい方をする人たち。また、同じ駅の圏内でunitoの部屋を住み替え、エリアごとの雰囲気の違いを楽しむ人もいます。
サービスを始めた頃、3年ほど自分でもunitoを利用していたという近藤さん。数カ月単位で、赤坂、渋谷、押上など、合計5カ所に住み替えたそうです。「赤坂では朝もやが煙る公園でコンビニのコーヒーやドーナツを食べたり、押上では朝シャンの代わりに銭湯へ通ったり。住んでみて初めて分かる地域のよさを発見できるのも、unitoならではだと思います」
しかし、「居住者の多くは暮らしを楽しむというよりも、便利、リーズナブルという合理性を重視している」と近藤さん。「この住まい方はニッチで、マスにはならないでしょう。でも、求める人は確実にいます。住まいはインフラですから、ニーズをしっかりつかめたらビジネスとして十分成立します」
本来、“unit”とつづる語尾に「o」を付けたのは、明確な目的地を意味する“to”を意識してのこと。「住む」と「泊まる」を1つにユニットし、未来に向けて、新しい一つの住まい方を切り拓いていきたいと、近藤さんは話します。
聞き手/松本阿礼 取材・文/初瀬川ひろみ 画像提供/株式会社Unito
※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.58掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2023年12月)のものです。
町野 公彦 駅消費研究センター センター長
1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。