駅周辺の地域価値を高める「公民連携」事例<後編>
〜「MONTO PARK/OZU ROOF」行政と連携し、高架下を起点に街を活性化〜

PICK UP 駅消費研究センター VOL.46

近年、さまざまな手法を使った公民連携の事例が見られる中、駅消費研究センターでは、特に駅や鉄道周辺の事例に注目しています。公園や高架下といった空間の特性を生かし、民間と行政が巧みに協働しながら、賑わいの創出と地域価値の向上に取り組む2つの事例を取材しました。後編では、大阪府泉大津市、泉大津駅近くの高架下に開設された広場「MONTO PARK」と、隣接する施設「OZU ROOF」をご紹介します。
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泉大津駅近くの高架下に、遊ぶ・集まる・楽しむ広場が開設

大阪湾に面した大阪南部に位置する泉大津市。市の中央を走る南海本線の泉大津駅周辺は、大阪市の中心部からも関西国際空港からも電車で20分ほどという利便性の高いエリアです。30〜40代の子育て世帯が数多く暮らす泉大津市の中でも、泉大津駅周辺は、大型商業施設が立ち並ぶ街の中心。その駅近くの高架下に、2020年、南海電気鉄道株式会社(以下南海電鉄)と泉大津市が整備した「MONTO PARK(モントパーク)」「OZU ROOF(オヅルーフ)」が開設されました。

MONTO PARKではさまざまなイベントを開催。芝生を生かしたアウトドアエクササイズ体験や、吹奏楽団によるミニコンサートなどが実施されている。写真は、絵本の読み聞かせイベントの様子

MONTO PARKは泉大津市が運営する広場で、アーチ状の構造物を配した「アーチ広場」、はだしで遊べる「芝生広場」、芝生のステージを設けた「イベント広場」によって構成されています。市民の憩いの場としてはもちろん、市民や企業がさまざまなイベントに活用する場所として、賑わいの創出が期待されているほか、泉大津市が進める健康増進施策「あしゆびプロジェクト」の推進拠点としても活用されています。整備費は市が負担し、企画・設計・施工を南海電鉄が行いました。

アーチ広場に設置されたユニークな構造物には、多様な使い方を誘発する狙いがあると、高架下の開発を担当する南海電鉄まち共創本部開発部の松本新さんは言います。

「滑り台などの遊具を置くと遊び方が決まってしまいますし、利用する年代も小学生ぐらいまでに限定されてしまいます。それを避けるためアーチを組み合わせたデザインにし、子どもたちがそれぞれ使い方を工夫しながら遊べるようにしました」

定休の木曜日を除き10時から18時まで開放されているMONTO PARKには、日常的に子どもたちが遊ぶ光景が見られるようになりました。

「思っていた以上に、幅広くいろいろ考えて遊んでくれているなと思います。アーチの壁面には黒板塗料が塗ってありチョークで自由に絵が描けるのですが、単に子どもたちが落書きして楽しむだけではなくすごく上手な絵が描かれているときもあって、それは予想外でした。また、学校が終わった後、子どもたちが芝生の上で集まってゲームをしている姿も見られます。ゲームなら家でもできると思いますが、なんとなく集まれる場所になっているようで、それも意味のあることだと思います」

利用する子どもたちが遊び方を工夫できるよう、使い方の決まった遊具ではなく、高さ2.5mのアーチ状構造物だけを配した「アーチ広場」。アーチには黒板塗料が塗られているため、チョークで絵を描くことができる

コンテナ型の建築物で利用用途もフレキシブルに

一方、南海電鉄が運営するOZU ROOFには、増減築が可能なコンテナ型のユニット建築物「アーキペラゴ」を5棟置き、中でショールームや店舗を展開しています。5棟のうちの2棟は、アーキペラゴの開発会社である屋根裏株式会社が所有し、試泊も可能なショールームになっています。キッチンも備えているため、MONTO PARKでイベントが行われる際にはイベントの補助的な機能を担えることを想定しているそうです。

残りの3棟は南海電鉄が所有し、あしゆびプロジェクトに参画する株式会社ドリーム・ジーピーがテナントとなって、足の計測や足の健康アドバイス、オーダーインソールの販売などのほか、あしゆびプロジェクトの啓発イベントへの協力なども行っています。

「OZU ROOFをコンテナ型のユニット建築物にしたのは、トレンドやニーズの移り変わりに対応できるよう、フレキシブルに利用用途を変えられるものにしたかったからです。また、高架下には大きな柱があるため、柱の間を埋めるようにコンテナを配置することで、スペースのロスを防ぐ効果も期待しました」

MONTO PARKに隣接するOZU ROOFには、5棟のユニット建築物「アーキペラゴ」を設置。そのうちの2棟はアーキペラゴ開発元の屋根裏株式会社がショールームとして利用。残り3棟は泉大津市のあしゆびプロジェクトに参画する株式会社ドリーム・ジーピーによる店舗「My Foot Station泉大津店」となっている

長期にわたる協力関係が行政との連携を強固なものに

南海電鉄と泉大津市の連携は、1995年に都市計画決定された「南海本線(泉大津市)連続立体交差事業」がきっかけでした。この事業は大阪府が事業主体となり、泉大津駅付近の約2.4kmにおいて鉄道を高架化するというもので、側道工事や用地買収等を泉大津市が、鉄道工事を南海電鉄が行いました。

その後、2017年3月、南海電鉄は泉大津駅の高架下に商業施設「N.KLASS(エヌクラス)泉大津」を開業。その際も、泉大津市が整備する歩道を、賑わいを創出するようなデザインにするなど、協力する形で一体的に開発を行いました。

また、連続立体交差事業で結ばれた協定では、高架下空間の15%が公共利用分として定められたため、N.KLASS泉大津の並びには市の子育て支援施設と市営駐輪場を設置。その際にも、建築敷地をN.KLASSと一体にして建築申請も共同で行うなど、協働関係を築いてきたと言います。

「N.KLASS泉大津と駅周辺の整備は、地域の住民の方々にとても好評でした。泉大津市との一連の協働関係が、MONTO PARKやOZU ROOFでの連携にもつながっています」

理想の空間へ、公民連携で経済合理性を乗り越える

高架化事業が進んで行く中、高架下に生まれた空間の活用はそれまで駐車場や駐輪場、倉庫などが中心になっていました。

「高架化事業の目的の一つには、今まで線路を挟んで分断されていた地域の一体化を図るということもあります。ですから、出来上がった高架下空間には、街をつなぐための機能があるべきだと考えています。経済合理性を考えると、高架下の開発には難しいところがあるのですが、開発の重要性をよく認識しておられ、またこれまでに協働経験もあった泉大津市とならば、新しいチャレンジができるのではないかと思いました」

そこで南海電鉄は、高架下を起点とした街の活性化を目的として、賑わいを生む公園や広場の機能と、それらの機能を高めるための施設の開発を提案しました。当初は新たな駐輪場の設置なども検討されていたそうですが、N.KLASS泉大津の開業により、賑わいを生む施設の重要性を実感していた泉大津市も、市民が使える広場や、あしゆびプロジェクト推進拠点としての利用意向を示すようになり、MONTO PARKとOZU ROOFの開発が決まりました。

「結果的に、市が運営するMONTO PARKをOZU ROOFがサポートする形となり、一方当社にとっても、あしゆびプロジェクト関連の企業にテナントとして入っていただけることにつながりました。泉大津市と連携することによって、お互いにメリットを感じられるいい関係が生まれたのです」

自治体と共に、沿線の街の価値を高めていきたい

泉大津駅から隣の松ノ浜駅へと延びる高架下は、約1km。MONTO PARKとOZU ROOFの北側にまだ800mほど残っており、その開発はこれからです。また、連続立体交差事業により他のエリアでも着々と高架化が進んでおり、今後も新たな高架下空間が生まれていきます。

「都心から離れた郊外になればなるほど、マーケット的にも単に建物をつくってテナントに貸すだけでは、投資回収が難しくなります。だからこそ、経済合理性ばかりではなく、まちづくりに寄与するような機能を入れながら、街のポテンシャルを上げていくことが必要だと思います。そこは、自治体と方向性を合わせて進めていかないと、魅力的な街にはならないでしょう。自治体との協力は必須だと思っています」

今後は、MONTO PARKとOZU ROOFを高架下開発のパイロットモデルとし、自治体との連携をさらに強化したいと松本さんは語ります。

「鉄道会社単独で開発を進めるのではなく、自治体の要望や提案を検討しながら進めるのは、それなりに手間も時間もかかる面はあります。しかし、これからの時代は、鉄道会社と自治体が互いの強みと弱みを補完し合って結束する必要があります。さらに、会社や自治体のやりたいことだけをやるのではなく、それが本当に地域住民のためになるのかということも第一に考えていかなければならないと感じています」

そんな高架下開発を掲げる南海電鉄では、「沿線価値向上プロジェクト」という取り組みも進められています。沿線である南大阪・和歌山に「くらしたい」「出かけたい」人を増やすことを目指し、「働く場を増やす取り組み」や「くらしたいまち」のイメージ・実体づくりといった「くらす人」を増やす施策を実施。また、新たな雇用を生むビジネスチャンスをつくるため「出かける人」を増やす施策も実施しています。

これからも、沿線の街を元気にしたいという思いを同じくする自治体や企業との連携は、南海電鉄にとって欠かせない取り組みになると言えるでしょう。

取材・文 初瀬川ひろみ

〈完〉

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』VOL.51掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2022年3月)のものです。