駅周辺の地域価値を高める「公民連携」事例<前編>
〜「福山市中央公園」自宅の“庭先”のように使える、市民参加型公園〜

PICK UP 駅消費研究センター VOL.45

近年、さまざまな手法を使った公民連携の事例が見られる中、駅消費研究センターでは、特に駅や鉄道周辺の事例に注目しています。公園や高架下といった空間の特性を生かし、民間と行政が巧みに協働しながら、賑わいの創出と地域価値の向上に取り組む2つの事例を取材しました。前編では、2021年5月、市民による市民のための公園としてリニューアルされた、広島県福山市の中央公園をご紹介します。
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駅前再生の一環として、賑わいを生み出す公園へ

JR福山駅から徒歩約10分の場所に位置する中央公園は、広島県福山市が策定した「福山駅前再生ビジョン」の一環として、Park-PFI(公募設置管理制度)(※)を導入。福山市内の民間企業6社(株式会社leuk、株式会社SPDX、株式会社ガスエナジーヤブタ、建内レンタル株式会社、篠原テキスタイル株式会社、福山電業株式会社)で構成する「中央公園P-PFIコンソーシアム」が事業者に選定され、公園の整備を行うとともに、レストラン「Enlee(エンリー)」をオープンしました。

※Park-PFI(公募設置管理制度)……都市公園において、飲食店・売店など利用者の利便性向上のための施設(公募対象公園施設)を設置し、設置した施設から得られる収益を活用して、周辺の園路や広場など(特定公園施設)の整備等を一体的に行う民間事業者を公募により選定する制度。

福山市では、市街地の拡大に伴い車を利用するライフスタイルが定着し、郊外の大規模商業施設などへ消費拠点が移行。これにより福山駅前の賑わいが減少したことが、福山駅前再生ビジョン策定の背景となっています。街の新たなコンテンツを創出し、駅前を中心としたウォーカブルなまちづくりを目指した再生ビジョンの核となったのが、図書館も隣接する中央公園でした。

中国・四国地方では初めて、Park-PFIを導入した中央公園。レストランEnleeや休憩スペースとなる東屋を新設し、2021年5月にリニューアルオープンを迎えた
写真提供:株式会社leuk

リニューアルした公園は、大きな芝生の広場を囲むようにレストランや東屋が設けられ、夏には心地良い木陰をつくってくれる大きな木が随所に配置された気持ちの良い空間になりました。

プロジェクトの企画から公園の整備・運営までを担ったのは、今回のリニューアルに向けて立ち上がったエリアマネジメント会社である株式会社leuk(ルーク)。取締役で公園のランドスケープデザインも手掛けた亀山本果さんによれば、「以前の公園は、イベント時以外は利用する人も少なく、ひっそりとしていました。本来、公園周辺は豊かな環境で人気があるはずなのに、路線価を見ると公園の周りに近づくにつれて下がっている状態でした」。

福山駅から中央公園までは南に700mほどですが、駅からつながる商業エリアと公園は、間を通る幹線道路で分断され、人の流れが停滞していたのだと言います。また、隣接する図書館も利用者が減っていたため、Park-PFI事業をカンフル剤とした図書館の利用促進も期待されていました。

「駅から商店街を抜けて歩いてきたときに、その流れを自然な形で図書館まで連続させられるよう建物や園路を配置するなど、動線計画でも“街とのつながり”を意識しました」と亀山さん。商店街側には一休みできる東屋を設けて駅からの人の流れを受け止め、図書館近くのレストランは、地域住民に日常的に利用してもらうことを想定して住宅地側にエントランスが設けられています。

パークマネージャーを配置し、イベント企画や運営も行う

2019年夏、中央公園のPark-PFI事業に先立ち、福山市による公園活用の実証実験が行われました。leukもコンソーシアム(共同事業体)として参加し、仮設のカフェスタンド「レモンと本」を出店したほか、天体観測会や絵本の読み聞かせなどさまざまなイベントを開催しました。すると、予想以上に多くの参加者が集まり、公園活用へのニーズが顕在化されたそうです。

2019年6月、週末の夜に行われた実証実験のイベントの様子。地元の天文家グループと連携して行われた天体観測会には、およそ100名もの参加があったという
写真提供:株式会社leuk

「ハード的な整備は当然ですが、それだけでは賑わいは生まれません。目的性の高いコンテンツが日常的に行われていることが重要だということが、実証実験からも分かったのです。年に数回、お祭りごとがあるときだけ賑わうのではなく、今回のプロジェクトでは、地域の人々に日常的に使ってもらい、かつ公園に行くことが“特別な日常”となることを目指しました」と亀山さんは言います。

市民に日常的に使ってもらえる仕組みの一つとしてleukが配置したのが、「パークマネージャー」。公園でのイベントの企画・運営を行い、参加する事業者の調整や、公園を利用したいという相談にも対応する役割です。

現在は、パークマネージャーを中心に、毎月の定例イベント「NIWASAKI」を開催。マルシェやワークショップ、図書館と連携した青空図書館など、日常を豊かにするさまざまなイベントが行われ、多くの市民が集っています。NIWASAKIという名前には、公園を自分の家の“庭先”のように、主体的に使ってほしいという思いが込められているそうです。

「NIWASAKIの活動で大きな収益を上げようとは考えていません。現状の活動も、一般の市民の方たちに、誰でもこの公園を使って楽しいことができることを知り、自分もやってみたいと思ってもらうために行っています。NIWASAKIのようなイベントがなくても、市民が自分たちで主体的に活動してくれることが、理想だと思っています」

さらにleukでは、園内の一定のエリアを年間30日分、事前に市から借り上げるということも行っています。これによって、leukに相談すれば、地域の事業者や市民は煩雑な申請手続きをすることなく公園を気軽に利用することができます。

「例えば、公園にキッチンカーを出店したいと思っても、手続きや備品準備の面倒さから、多くの人が諦めてしまいます。それを解決し、『明日使いたい』という希望に応えられるようにしました。テーブルや椅子などの備品も、公園に映えるようなちょっとおしゃれなものを貸し出していますし、キッチンカーそのものをレンタルしていただくこともできます」

中央公園と商店街が連携する動きも

公園の中心となるレストランEnleeは、開放感のある木造の建物です。設計は、leukの取締役も務める株式会社Studio Tokyo Westの瀬川翠さんによるもの。芝生広場に面した大きなガラスの開口部、その先には店内とほぼ同じ広さのテラス席が設けられ、緑豊かな公園にいることをたっぷり感じさせてくれる居心地の良さがあります。

レストランEnleeには、店内とほぼ同じ広さというテラス席が設けられ、芝生広場に面した開放的な空間で、ゆったりとくつろぐことができる
写真提供:株式会社leuk

Enleeを運営し、leukのメンバーでもある藤井孝憲さんは、元々、中央公園の近くで人気の高いビストロを経営するオーナーです。実は、そんな藤井さんが抱いていた「いつかガーデンレストランをやりたい」という夢が、leuk立ち上げのきっかけにもなったと亀山さんは語ります。

「我々は、いわゆるまちづくりのコンサルティングをやりたくて集まった会社ではなく、メンバーそれぞれが設計や飲食といった本業を持っています。そのことについて良い面も悪い面もあるとは思いますが、良い面として、leukの事業だけで高い収益を上げなくてもやっていけるというのが強みになるかもしれません。元々、ガーデンレストランの夢をかなえたいという藤井の個人的な喜びをきっかけに動き出したチームでもあるので、自分たちが良いと思えることを、急ぎ過ぎずのんびりやっていきたい。その感じが、周りから見ても好印象になるという良い循環になっていたらいいですね」

Enleeは、公園という居心地の良い環境に加え、地元で人気のレストランオーナーが手掛けていることもあって、連日満席の盛況。今後は、ロケーションを生かしたパークウェディングも展開していきたいそうです。

人気レストランの存在やNIWASAKIの活動などによって賑わいを生み出しつつある公園は、近隣の商店街からも好評です。商店街のお祭りを、中央公園と連携して行う動きも出てきました。

「一般的に商店街や町内会は閉じられた寄り合いであることに意義があるとは思いますが、街にとっては、外に拡張していくのは良いことだと思います。みんなが街を“面”で捉えられるようになってきたのかもしれません。公園がそのきっかけになれたとしたら、とてもうれしいです」

内発的な動機がまちづくりにつながっていく

leukの声掛けで集まった中央公園P-PFIコンソーシアムのメンバーは、全て地元福山市の民間企業。“市民による市民のための公園”という考え方に賛同し、出資や協力を申し出てくれました。福山市が行った公園活用の実証実験への参加が実現したのも、メンバーからの出資があったからこそでした。

leukはエリアマネジメント会社として市内の他の場所でも実証実験を行っています。福山駅前の三之丸公園では、「レモンと庭」として、公園のベンチをつくるDIYワークショップ、マルシェ、映画上映などさまざまなイベントを行いました。

「私たちは、自分たちが良いと思ったものを提供することを第一に考えていますが、それは、そうすることが一番エネルギーが湧くことだと思うからです。結果的に、それがまちづくりにつながっていくなら、とても理想的ですよね。中央公園でもそうですが、まちづくり事業だからといって、『100%すべての人を幸せにしなくてはいけない』というのは不可能だし、『会社の利益になるようなことはやってはいけない』ということだけにとらわれていては、何も進まなくなってしまいます。まず自分たちが楽しいと思えるものを見失わないようにすることが、何より大切だと考えています」

取材・文 初瀬川ひろみ

〈後編に続く〉

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』VOL.51掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2022年3月)のものです。

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。