スーパーの惣菜は手抜き?料理は簡単?
西友の「食卓の誤解」動画の狙いとは

イマファミ通信 VOL.32

合同会社西友 マーケティング&カスタマーエクスペリエンス本部マーケティング部 マネージャー 平山 力 様
インタビュアー:イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー 高野 裕美

こんにちは。イマドキ家族のリアルを伝える「イマファミ通信」担当、イマドキファミリー研究所です。
「スーパーの惣菜ははたして手抜きなのか」ーそんな論争はしばしばSNSなどでも話題になっています。そこにあえて一石を投じる形で、西友の「料理を手間抜きに。」プロジェクトでは、普段料理をする人としない人の間にある”誤解”を明らかにし、料理の”手間”を可視化することで、「どんな料理であっても手抜きなどない」というメッセージを実証する動画を公開しました。

その上で、「スーパーの惣菜は、料理の手間と時間を軽減する価値があること」を発信しましたが、動画では必ずしも“西友のお惣菜”への誘導はなされていません。はたしてその裏側には、どのような思いや意図、マーケティング戦略があるのでしょうか。プロジェクトを手掛けた、合同会社西友 マーケティング&カスタマーエクスペリエンス本部マーケティング部の平山 力さんにお話を伺いました。

ポテサラ論争と偶然シンクロ!?「料理の手間抜き」提案

高野:西友の「料理を手間抜きに。」プロジェクトをたいへん興味深く拝見させていただきました。「イマドキファミリー研究所」の活動でも、「ポテサラ論争*」なども含め、「料理の手抜き問題」はホットな話題になっています。様々な議論を呼ぶテーマで、あえてプロジェクトを立ち上げられた背景や経緯についてお聞かせいただけますか。

*惣菜コーナーでポテトサラダを買おうとした子ども連れの女性が、高齢男性から「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言われるのを目撃したというTwitterの投稿に13万件を超えるリツイートがつき、大きな話題となった。

平山:まず私たちの目標は、お客様にお店に来ていただき、お買い物をしていただくことで、そのためのアプローチとして大きく2方向を考えています。まず1つ目は企業戦略である「EDLP=Everyday Low Price:毎日低価格」という価格訴求で、もう1つは価格以外の”西友の魅力”を伝えることです。

価格以外の魅力とは、生鮮食品を扱うスーパーとして鮮度や品揃えはもちろん、生産者の顔や品質、レシピなども含めた情報であり、それらを店舗で伝える”現場のスタッフ”がいて作り出されるものと考えています。その役割を担う人を西友では「アソシエイト」と位置づけお客様のお困りごとを解決しようという気持ちと行動を大切にしています。そして、アソシエイトのユニフォームにも、これを表すように 「Happy to help」という言葉があしらわれています。

https://youtu.be/kEqndV0_Jek
西友 - 毎日の暮らしを支えるために、私たちにできること。 | SEIYU

マーケティングも同様で、新鮮さを伝えると同時に、西友のカルチャーである「Happy to help」を体現していくことを大切にしたいと考えています。そのため、西友では日本の食卓を支えるために、これまでも「子どもの野菜嫌いの克服」や「日本人の野菜不足解消」など、西友の考える方法で食卓の問題を提起し、解決方法を提案する取り組みを行ってきました。その第4弾として「料理を手間抜きに。」プロジェクトを企画するに至りました。

「料理を手間抜きに。」はこの一連の取り組みの中で生まれたプロジェクトで、「ポテサラ論争」が勃発する前から考えていたことです。あまりにドンピシャすぎて、タイムリーな後追いに見えてしまっているんですが(笑)。

高野:西友様と世の中の課題感が一致しているからこそのシンクロなのでしょうね(笑)。ただ本プロジェクトの動画は、食事を用意する人の大変さを伝えることで、間接的にスーパーの惣菜を買うことへの心理的ハードルを下げたように思いますが、必ずしも”西友のお惣菜”に直接的に誘導する内容にはなっていません。これは、どのような狙いのもと、どのターゲットの行動変容を意図されたのでしょうか。

平山:まずターゲットは「スーパーを利用される方」全員なので、あえてコミュニケーションを意図的にコントロールしたわけではないのです。ただ、惣菜を利用される方が30代~50代の女性も多いため、必然的に反応はその層からという結果になっています。

また、先ほどもお伝えしたとおり、西友ではお客様のお困りごとを解決しようという気持ちと行動を大切にしています。そこで、まずはお客様に対して問題提起をすることにしました。そして、その解決方法として“西友のお惣菜”を使ったアレンジレシピをご提案させていただく、という形で、間接的にお客様へメッセージを送るというスキームを組みました。同時に店頭POPやSNSでのプロモーションにも力を入れました。

また、コミュニケーションの対象としては、社外はもちろん社内もすごく大事に思っています。というのも、販促企画はPOPの掲示1つとっても、現場の協力がなければ成り立ちません。アソシエイトには「毎日の食事作りって大変だよね」という共感を持ってもらった上で、「“西友のお惣菜”の価値をお客様に伝えたい」と思ってもらう必要がありました。その上で世の中に問題提起と解決策の提案を行うとき、西友側からいきなり解決策を提示するだけではなく、お客様側に寄り添って一緒に考えながら解決する方法をとることにより、マーケティングと売り場との連携もスムーズになると考えたのです。

高野:あの動画には私たちもザワつきましたし、大きな訴求効果があったと思います。ただ、メディア効果はあっても、それだけでは社内的には納得してもらえませんよね。

平山:もちろんです。1本目の動画では「問題提起」をしつつ、店頭では惣菜コーナーに販促用のPOPを設置、2本目の動画では「“西友のお惣菜”の鮮度」を訴求しつつ、ネット上と店舗で解決策の提案を行っています。本当は、オンライン上とオフラインで1つのメッセージをひと続きで見せたいのですが、店舗だけで「食卓の誤解解消」と言っても伝わらない。そこでお店のPOPは「このお惣菜はちょい足しで”手間”抜き料理になります」という具体的な提案とし、さらに興味を持っていただいた方にはQRコードからオンラインで動画を観ていただけるようにしました。

高野:動画では世の中の課題にフォーカスし、そこに興味を持ってオウンドメディアやお店のほうに訪れると、レシピやお惣菜の情報に触れられるという動線で、さらに店舗から動画への動線も設計されているということですね。

平山:はい、お店を中心にオンラインと連携する形で設計しています。

高野:価格以外の要素で西友のほうを向いてくださる新しいお客様を探すという意味では、オンライン動画の発信が起点だと思いますが、どのようにして拡散していったのですか。

平山:最初は西友の公式Twitterのアカウントをキーにして広めていきました。拡散のポイントは「テーマ設定」と「リアルな動画」だったと思います。とにかく動画への反響は大きく、「夫に見せたい」「泣きました」というコメントが拡散し、それが増幅していった感じがします。そうした反応を引き出す上で、私たちも動画制作にあたって「リアル」を意識しました。なので、役者ではなく一般のご家族にお願いして、実際にプロジェクトに入ってもらって変化していくのを見守るようにして撮影しました。進行内容はあっても台本はいっさいなく、正直いうと怖さもかなりあったのですが、このおかげで生きた言葉や反応が生まれたのだと思います。

高野:ご夫婦の会話が本当に自然でリアルで、だけど嫌な感じがしなくて…、私の夫が見たらまた違うかもしれませんが(笑)。どうやって「作った」のか、伺おうと思っていたのですが、「作った」んじゃないんですね。

平山:はい。リアルだからこそ素の感想、反応なんです。

高野:料理などはどう選ばれたのですか。トンカツとか、唐揚げとか、初心者には難しそうなメニューでしたね。また、普段料理をしない人に料理をしてもらって感想を聞くというシンプルな手法でしたが、それによってどのようなメッセージを伝え、どのような態度変容を期待されたのでしょうか。

平山:まず料理については、料理研究家さんと相談して、「夕食に好まれるメニューでかつ”誤解が多い”と思われるもの」にしました。ポテトサラダもそうですが、普段料理をしない人ほど「簡単に作れる」と思っているものの代表格が揚げ物でしょうと。そして、実際に作ってみると大変で、そもそも材料の買い出しから全体の献立、後片付け、そして翌日翌々日にも使いまわしていく必要があることに気づいてもらう。最終的には作る人と作らない人の間の誤解を解消することで、食卓で生じる課題の解決につながればいいと考えました。

「惣菜=手抜き」へのプレッシャーを軽減したい

高野:料理をしない人の誤解を解きつつ、同時に料理をする人にも「手抜きなどとプレッシャーを感じる必要はないんだ」というメッセージにもなっていますよね。

平山:はい。ご家族のためにご飯を準備するのは、どんな形であっても「手抜き」などありません。ただ「手間抜き」はあります。その「手間抜き」について、西友に何ができるかといえば、惣菜がその1つの答えなのだと思います。ただ、惣菜をそのまま出すことにプレッシャーを感じているのなら、まずはそこを軽くするメッセージを社会に発信したいし、時短を前提としたアレンジレシピなどの情報も提供できるので利用していただきたいと考えています。

事実、西友の調査でも料理をしない人へ「スーパーの惣菜が出てきたら手抜きと感じるか」という質問に対し、そう思うと答えた人は10%以下でした。その一方で7割がお惣菜より手作りに愛情を感じているという結果も出ています。一方、料理をする人の場合、8割がお惣菜を積極的に使用したいと思っているにもかかわらず、「スーパーの惣菜が出てきたら手抜きと感じる」と回答した人は約半数に上ります。これらの結果からも、「料理は手作り」の意識はやはり根強くあり、料理をする人はそのプレッシャーを強く感じて「お惣菜は手抜き」と感じてしまう傾向が伺えます。

高野:「料理をするプレッシャー」が強い人ほど、惣菜やお助け食品への罪悪感があるのかもしれないですね。そうした仮説設定やその調査による実証についてはどのようにして行うのですか。

平山:ディスカッションを経て仮説を構築し、その仮説をもとに調査による実証を行います。ディスカッションでは、問題提起のための問題を特定するワークショップを行います。そこでマーケティング部が音頭をとり、MD部門や広報など他の部門にも参加してもらい、数カ月かけて議論をしながら、問題の本質をまとめていきます。広告会社の皆さまにもワークショップの設計からご一緒いただいています。

そうした取り組みの結果、社内外でチームワークが発揮されて、プロジェクトがローンチできます。社内でも家族のために料理を作る人が多くいるので、共感していただいている手応えを感じます。また今回は西友だけではなく、多くの皆さまとのコラボレーションも行うことができました。

画像提供:西友

プロジェクトに賛同いただいた11名の料理研究家の皆さま、そして8社の企業様と一緒にタッグを組んで、チーム一丸となり、「食卓の誤解」を解消する解決策を提案することができました。
そうしたこともあって、動画がSNSで拡散され、テレビなどのメディアに取り上げられ、店舗でのレシピカードの配布数も通常より多く手に取っていただきました。

高野:大成功でしたね。こうした施策としてのKPIはどのような数字を追われるのですか。売り上げも最終的なKGIとして意識されるのですか。

平山:はい。もちろん売り上げも1つのゴールとして目標設定をしています。しかし。それだけではなく、話題量としてSNSの関連投稿数やPRでの露出、キャンペーン認知なども同時に見ています。今回はSNSを中心にしたプロジェクトでしたが、お客様に寄り添うコミュニケーションを心掛けることで、しっかり売り上げにもつながるのだと実感しました。

オンライン連携でも、店舗の課題解決力が強みに

高野:少し今後のことについてもお聞かせください。社会が変わっていく中で、スーパーのマーケッターとして業界や消費活動についての変化をどのように捉えていらっしゃいますか。

平山:コロナ以前は、立地が重要ファクターで、天気や気温などの影響が大きく、コミュニケーションの中心は「チラシ」です。しかし、コロナ禍を機にネットスーパーなども普及し、オンラインの活用が重要になっているのは明白です。個人的にはオフラインとしてのスーパーの温かい部分とオンラインとしてのネットスーパーの便利な部分のハイブリッドが面白いと思っています。

例えば、「楽天西友ネットスーパー」では商品を注文すると、お店のアソシエイトが自らの目で商品をピックアップして、それがお客様のお手元に届きます。つまり、無機質に商品がピックアップされて届くのではなくて、アソシエイトが責任を持ってお客様のために商品を選び、お客さまのご自宅まで安全な状態で届けていくという一連の流れを提供することが、私たちの強みになるのではないかと思っています。

また、7割が共働き世帯となりつつある中で、品揃えやコミュニケーションも変わっていく必要があると思っています。そして、私も含めて夫や「パパ」などの男性もたくさんいるので、その目線も必要になるでしょう。

高野:「Happy to Help」の方法も、また多様化してくるのでしょうね。本日は興味深いお話をありがとうございました。

上記ライター高野 裕美
(イマドキファミリー研究所リーダー/エグゼクティブ ストラテジック ディレクター)の記事

イマファミ通信

イマドキファミリー研究所では、働き方や育児スタイルなど、子育て中の家族を取り巻く環境が大きく変化する中で、イマドキの家族はどのような価値観を持ち、どのように行動しているのかを、定期的な研究により明らかにしていきます。そして、イマドキファミリーのリアルなインサイトを捉え、企業と家族の最適なコミュニケーションを発見・創造することを目的としています。

[活動領域]

子育て家族に関する研究・情報発信、広告・コミュニケーションプランニング、商品開発、メディア開発等

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  • 高野 裕美
    高野 裕美 イマドキファミリー研究所リーダー/エグゼクティブ ストラテジック ディレクター

    調査会社やインターネットビジネス企業でのマーケティング業務を経て、2008年jeki入社。JRのエキナカや商品などのコンセプト開発等に従事した後、2016年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、食品メーカーや、子育て家族をターゲットとする企業のプランニング業務に取り組む。イマドキファミリー研究プロジェクト プロジェクトリーダー。

  • 荒井 麗子
    荒井 麗子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2001年jeki入社。営業職として、主に商業施設の広告宣伝の企画立案・制作進行、雑誌社とのタイアップ企画などに従事。2011年より現職。現在は営業職で培った経験をベースに、プランナーとして商業施設の顧客データ分析や戦略立案などのプランニング業務に取り組んでいる。

  • 澤 裕貴子
    澤 裕貴子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2002年jeki入社。商業施設の戦略立案などのプランニング業務に従事し、 その後アカウントエグゼクティブとして広告宣伝の企画立案・制作進行などの業務を担当。 2011年より現職。現在はJRやJRグループ会社の調査やコミュニケーション戦略立案などを中心に、 プランニング業務に取り組む。

  • 土屋 映子
    土屋 映子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2004年jeki入社。営業職として、主に企業広告のマスメディアへの出稿などの業務に従事。2009年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、プランニング業務に取り組んでいる。

  • 河野 麻紀
    河野 麻紀 イマドキファミリー研究所 ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。ハウスエージェンシー部門のプランニング業務に従事した後、営業局、OOHメディア局を経て、2017年より現職。現在は営業・メディアで培った経験を活かし、再びプランニング業務に取り組んでいる。