アフターコロナの駅消費へのヒント
―鉄道通勤する生活者への調査からみえてきた可能性―

PICK UP駅消費研究センター VOL.31

コロナ禍で生活のありさまは激変しました。自由な外出がしづらい、通勤せずにテレワークをするなど、移動行動にも大きな変化が起きています。移動行動の変化は、生活者の消費行動や意識にどのような変化をもたらしたのでしょうか?駅消費研究センターでは、これまで鉄道通勤をしていた生活者を対象に調査を行い、これからの駅消費へのヒントを探ってみました。

変化した通勤行動。鉄道通勤者の7割がテレワーク等で出社を減らす

コロナ禍の中で、私たちは外出自粛というこれまでになかった経験をしました。駅消費研究センターでは移動と消費は密接に結びつくと考えており、今回の「通勤」の変化が消費にどのような影響を及ぼし得るのかということに注目しました。通勤という、日々の生活を規定していたともいえる移動行動が変化すれば、消費行動にも大きな変化が起こるのではないか。駅消費研究センターは、2020年2月まで鉄道を使って日々通勤をしていた一都三県居住の有職者を対象に、6月19日~24日に調査を実施しました。

まず、どのように通勤状況が変わったのかをご紹介します。外出自粛期間にテレワーク等で出社日を減らした人は約7割という結果(図1)になりました。また、オフピーク出勤を行った人は6割弱となっています。

〈図1 2020年3月以降の生活を経て変化した通勤〉

意識面でも、「毎日、定時出社の必要はない」が約7割、「会社に行かなくても仕事はできる」が約6割(図2)との変化がみられました。また、「出社しなくても問題なく仕事を進めることができる」「通勤にかけていた時間を自分の楽しみの時間にしたい」といった気づき・発見もあったようです(図3)。そうした意識変化を受けてか、コロナ感染拡大の影響が多少残るうちはもちろん、収束後も「テレワーク等で出社日を減らす」は3割(実施者ベースで5割弱)、「オフピーク出勤」は2割(実施者ベースで約3割)と意向が高くなっています(図1)。参考に、「余暇の外出全般を控える」と比べても、通勤の変化はコロナ収束後もある程度継続することが考えられます。

〈図2 通勤に関する意識変化〉

〈図3 通勤に関する気づき・発見〉

働き方改革は叫ばれていましたが、テレワークやオフピーク出勤を導入している企業は多くはないのがこれまででした。しかし、今回、なかば強制的にテレワークやオフピーク出勤という行動を実際にしたことで、新たな働き方は「できない」ものから「できる」ものへと、意識が変わったことは注目すべき変化なのではないでしょうか。

変化する消費。買い物は計画的に。通勤動線上の消費は減少

駅消費研究センターは、この通勤の減少は、消費の変化にもつながるのではないかと考えています。
まず、「必需品以外の買い物を控えるようになった」「計画的に買い物をするようになった」人は約7割と多くなっています。さらに、「自宅周辺で買い物・消費するようになった」「日々の通勤動線上での買い物・消費が減った」も7~8割と多くなっています(図4)。〈コロナ収束後の理想の暮らし〉でも「本当に必要なもの・ことだけを選択したい」「買い物は必要なものだけを買う」「買い物は自宅近くですませたい」といったものが挙げられています(図5)。

〈図4 2020年3月以降の生活を経て変化した消費傾向〉

〈図5 コロナ収束後の理想の暮らし〉

これらは、外出自粛や食品・日用品などの備蓄などの行動が影響していると思われますが、通勤の減少とも関係しているでしょう。買い物は目的的・計画的なものになり、買い物の場所は通勤動線上が減って自宅周辺となっているようです。会社帰りにふらりと居酒屋に入る、気晴らしに駅ビルでアパレルや雑貨を見てから帰るといった行動はみなさんもよくしていたことではないでしょうか。しかし、通勤が減ることで、このような、通勤のついでの非計画な立ち寄りや買い物が減少してしまうことも考えられます。

アフターコロナの駅消費へのヒント

駅消費研究センターのこれまでの調査研究から、駅の消費は、「通勤のついで・動線上で行われる」「非計画的」「移動中に生じるインサイト・心理やニーズに起因する」といった特徴を持つことが分かっています。通勤の減少や、買い物の計画性の変化、買い物する場所の変化は、このような特徴をもつ駅消費に少なからぬ影響を与えるでしょう。それでは、このような通勤や消費の変化を受けて、今後どのように対応していけばいいのでしょうか。
テレワークで自宅周辺にて過ごす時間が増える中では、「自宅周辺で買い物・消費するようになった」ように、郊外を中心とした自宅最寄り駅で提供するサービスを再検討してみるのも一つの手でしょう。これまで「コワーキングスペース」は都心の方に多く見られましたが、今後は郊外でも需要は増えそうですし、働くことをサポートするような機能も求められそうです(図6)。たとえば、会社帰りの気分転換のために利用されていたカフェを、仕事中の息抜き・気分転換に利用するようになれば、求められるサービスも変わってくるかもしれません。

〈図6 テレワーク等働き方が変化する中で、駅商業施設の利用シーン・求めるサービス〉

駅消費研究センターでは、コロナ禍を契機とした暮らしの変化を受けて、これからの駅の消費の在り方を引き続き研究していきたいと思っています。

■調査概要

<新型コロナウイルスを契機とした鉄道通勤者の行動・意識の変化に関する定量調査 (2020年6月)>
調査手法:インターネット調査,調査対象:一都三県在住の20-59歳/有職者/2020年2月まで週5で鉄道通勤(定期券所有),サンプル数:1000名(※対象者の性年代構成比で割付)

上記ライター松本 阿礼
(駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー)の記事

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。