MaaS時代の〈定額乗り放題〉は経済活性と生活満足度の向上につながる?
―生活者からみた都市型MaaSの可能性―(前編)

PICKUP駅消費研究センター VOL.22

移動の利便性向上や効率化を推進すると注目されているMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)。都市部でMaaSが普及すると生活者の〈お出かけ〉と〈消費〉にはどのような変化があるのでしょうか?駅消費研究センターでは、都市型MaaS普及後の外出と消費行動に関する調査研究を行いました。そこから見えてきたのは、都市型MaaSの可能性。今回は、その前編をご紹介します。

なぜMaaS時代の〈お出かけ〉と〈消費〉に着目するのか?

 近年、“MaaS”が注目されています。自動運転やデマンド交通によって、地方での移動難民を救う、都市部での交通機関の混雑を緩和するなど、移動の利便性向上や効率化を図れると期待が寄せられています。
 そんなMaaSですが、私たち、駅消費研究センターは、都市部でMaaSが普及した際、〈お出かけと消費とがどのように変化するのか?〉に着目しました。というのも、私たちは長年、都市生活者(=移動者)の消費研究をしてきて、〈消費のあり方は、移動のあり方に大きく影響を受ける〉ものだと強く感じています。つまり、MaaSによって移動のあり方が変われば、消費のあり方が変わり、マーケティングの仕方、店のつくり方等も、大きく変えなければならないのではないかと考えたのです。
 そこで、都市部でMaaSが普及した際の〈お出かけ〉と〈消費〉について調査研究を行いました。

都市型MaaSにおいては〈定額乗り放題〉がポイント

 まず、都市部でのMaaSに需要があるか調べるため、東京23区内在住の20~74歳を対象にグループインタビューを実施。そこからわかったことは、都市部においては、移動行動そのものには大きな不満がないということでした。「交通ICカードがあれば駅でいちいちお金を払うこともないし、検索すれば、安いルートも早いルートも調べられる。」(男性70代)といった声にみられるように、行きたいところに行けないという悩みはあまりない様子でした。
 一方で、「なるべく交通費を払いたくないので、どうやったら(シルバーパスを使って)お金を払わずに、行けるかを考える。」(女性70代)や、「景色がきれいな場所に興味はあるけど、それだけのために交通費を払ってわざわざ行こうとは思えない。」(女性20代)といったように、交通費を負担に感じる声が上がりました。また、都市型MaaSの一例※を提示したところ、「交通費が定額なら欲張って出かける」、「行きたいところにどんどん行く」など、交通機関が〈定額乗り放題〉になることでお出かけが活性化する可能性がうかがえました。
 ※スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者らが提唱する〈MaaSレベル3〉を想定し、「様々な交通手段の、経路検索・予約・決済が統合され、月額の定額料金で乗り放題になるサービス」として説明した。

定額乗り放題を想定した実験を実施

 そこで、私たちは、交通機関の定額乗り放題に焦点を絞り、東京23区内・交通機関の定額乗り放題を想定した実験を行いました。グループインタビューに参加していただいた方から4名を選出。東京23区内移動の際の交通費を支給し自由に行動してもらい、一か月間の行動記録を日記につけてもらいました。

実験と調査から見えてきた現状のお出かけの問題

 実験後のインタビューからは、現状のお出かけの問題も見えてきました。たとえば、「お出かけ情報を見ても、なんとなくいいなと思ったり、いつか行けたらいいなと思うだけで終わることが多かった。」(女性20代)といったように、行きたくても行かないという、態度と行動とのギャップが存在することがわかりました。また、「飲み会に誘われても、そんなに長居ができず帰らないといけない時は、交通費をわざわざかけてまでして行かなくてもいいかと思ってしまう。」(女性30代)のように、ちょっとした用事のために出かけるのをためらってしまう様子。さらに、「あまり好きな街ではないけど、定期券内のエリアに行くことが多かった。」(男性40代)、「自分がよく行くところに行きがち」(男性30代)のように、定期券範囲内での行動が多くなるなど、行動がパターン化してしまっていることがうかがわれました。

 実験後に実施した、インターネットによる定量調査でも、『行ってみたいと思っても先延ばしになっている場所・お店や施設がある』(65.0%)と、〈態度と行動とのギャップ〉が存在することや、『ちょっとした用のために、交通費をかけて出かけるのはもったいない』(62.8%)と、〈ちょっとした用事のために出かけるのをためらう〉こと、『行く場所・お店や施設がマンネリ化していると感じる』(63.8%)、『普段の外出はなるべく定期券内のエリアで済ませようとしがちだ』(71.9%)のように、〈行動がパターン化してしまっている〉ことを示す結果となっており、お出かけがセーブされていることがわかりました。

 ここまで、現状のお出かけ実態と問題についてみてきました。後編では、MaaSによる交通機関の定額乗り放題で〈交通費負担感がなくなった〉際の変化についてご紹介したいと思います。

■調査概要

  • <現状の移動における課題と都市型MaaSの受容性を探るグループインタビュー(2019年4月)>
  • 調査手法 : インタビュー調査,調査対象:東京都23区在住・20~74歳,サンプル数:12名(3名×4グループ)

  • <交通機関の定額乗り放題を想定した実験(2019年6月)>
  • 実験手法 : 日記式アンケート,実験対象:東京都23区在住・有職者,サンプル数:4名,実験期間:2019年5月20日~6月16日

  • <交通機関の定額乗り放題を想定した実験後のデプスインタビュー(2019年6月)>
  • 調査手法 : インタビュー調査,調査対象:東京都23区在住・有職者,サンプル数:4名

  • <外出に関する実態・意識 定量調査(2019年7月)>
  • 調査対象 : インターネット調査,調査対象:東京都23区在住の18-79歳(高校生除く),サンプル数:1200名(性年代別・人口構成比割付)

上記ライター松本 阿礼
(駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト)の記事

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。