「バーチャル秋葉原」“リアル×バーチャル”の可能性<後編>
“エモい”が、ECや広告の価値を高める

jekiデジタル VOL.11

株式会社HIKKY CEO 舟越 靖 氏
jekiエクスペリエンシャル・プロモーション局 部長代理 光富 憲太朗
jekiメディアマーケティングセンター センター長 直井 伸司

仮想空間(VR)テクノロジーを用いたメタバース(metaverse)の実現に向け、VR領域の先駆者であるHIKKYとJR東日本、jekiは業務提携契約を締結し、「バーチャル秋葉原駅」を皮切りに様々な取り組みを進めていこうとしている。前編に引き続き、後編では、「バーチャル秋葉原駅」の次のフェーズへの展望や、今後のビジネスの可能性などについて、株式会社HIKKY CEOの舟越 靖氏とjekiエクスペリエンシャル・プロモーション局部長代理の光富 憲太朗、jekiメディアマーケティングセンター長の直井伸司(ファシリテーター)が語り合った。<前編はこちら

バーチャル秋葉原駅 駅ビル・改札口

旅行の中に歴史などの「過去の優れたコンテンツ」を融合させることが可能

直井:「バーチャル秋葉原駅」の取り組みは、駅によるコト消費、すなわち「情緒的価値」を生み出すスタートにも位置づけられることがわかりました。フェーズ2以降はどんなことを目論んでいますか?

光富:「Beyond Stations 構想※」には、従前のECに関して消費者が抱えるモヤモヤを解決するヒントがあると思っています。どんなに便利でも、たとえば食品の味や匂い、衣類の正確なサイズまでは体験としてわかりません。これは性質上、仕方ないことですし、ECの限界でもありました。

この課題に対するアプローチの方法、そのヒントが「Beyond Stations 構想」にある気がするのです。

リアルの駅とバーチャル空間を連携させることで、「Beyond Stations 構想」がめざす「つながる」という方向性を軸に、たとえばリテールにおけるリアルとバーチャルの相互補完による新たな体験価値の提供が実現できると考えています。
そのため、リアルの駅を起点とした、「バーチャル秋葉原駅」との連携による新しいワールドを、他の企業と一緒に、新たな体験価値を生み出すプラットフォームとして構築していきたいと考えています。

直井:駅を起点にして様々な行動が生まれ、街に新しい価値や影響を提供していこうという考え方は、今までもJR東日本が取り組んできたことだと思いますし、バーチャルとの連携によって、それを今の時代にあった形で展開していくことかなと思います。舟越さんは今後の展開をどのように見据えますか?

舟越:今回の秋葉原での取り組みでいえば、いわゆる「オタクカルチャー」の聖地としてのブランドを生かしていくことが重要だと思っています。NetflixなどのオンデマンドサービスやSNSなどの普及によって、オタク市場はより一般化し、“非オタ”と呼ばれる人たちが声優のファンになったりする機会も増えました。秋葉原を起点に、そうした新たな「熱」が生まれつつあります。

そこで、その「熱」を生みだす場である秋葉原自体をデジタル化・バーチャル化していく。「バーチャル秋葉原駅」はその具現化の象徴として位置づけ、更に、その場を様々な企業のやりたいことを実現する場としても展開していく。これにより、「バーチャル秋葉原駅」はさらにカオスな空間になりますが、それは本来の秋葉原の姿といえるのかもしれません。

バーチャルマーケット会場エントランス

また、リアルと融合させることで、たとえば「バーチャル秋葉原駅」で見たあのグッズが欲しいからリアルの秋葉原駅を訪れるというような、ロールプレイング要素を含めたサービス展開も可能となる。そうした展開が、今後めざすべき方向ではないかと考えます。

もしかすると、更にその先には、交通広告の価値の再構築ということも考えられるかもしれません。バーチャルとの融合により駅に新しい価値が生まれ、そこにあらたな人の動きや行動をつくりだすことができれば、交通広告への新たな接触機会の創出が期待できるかもしれません。
リアルとバーチャルとがうまく連携することで、現実と仮想の隔たりがなくなり、ユーザーにとっての体験価値も高くなる、「真のメタバース」の姿がそこにあると思います。

直井:では、「バーチャル秋葉原駅」での展開に限らない、より大きな展望としてはどうですか?

舟越:VRというのは「過去」をコンテンツ化できる特性があります。これを生かして、たとえば旅の中に過去の優れたコンテンツ、歴史上の出来事や民話、寓話などを融合させることで新たな商品化の可能性があるのではないかと考えています。

VRによって、そこに自分が紛れ込んだ世界観を構築でき、スマホやVRデバイスを使って、旅行に行った先々でその世界を体験することができる。いわば「日光江戸村」のバーチャル世界版のような商品を旅行商品の一部としてパッケージすることができるかもしれません。派生するグッズ展開などを考えると、とても大きな可能性を秘めていると思います。

リアルとバーチャルの連携によるビジネスを、世界に通用するビジネスへ

直井:あらためて、舟越さんは今メタバースが注目されている理由はどこにあると思いますか?

舟越:数十年前から注目されてきた技術という意味では、VRは古くて新しいテクノロジーといえます。ネットの回線速度や機器の性能向上、ハードウェアの価格低下など、様々な条件が揃ったことで、ユーザー発で様々なVRコンテンツが発信されるようになりました。

一方で、マネタイズの方法はこれまで限られてきました。私は、今までのVRサービスが大きく成長しなかった理由は、誰かがマネタイズの方法を作ったら、そこに一極集中してやがて市場が食い尽くされてしまうことを繰り返してきたからだと考えています。

たとえば、VTuberが流行して、企業のマーケティングやプロモーションに活用するケースが増えました。ただ、その流れを突き詰めていくと、その先にはタレントビジネスに一極集中する流れがあり、大手芸能事務所との競争で市場がレッドオーシャン化する未来が待っているかもしれません。

翻って、今回の3社の業務提携によって、僕らは、JR東日本グループと「その先のビジネス」を作りやすい状況にあると考えています。
たとえば、僕がこの業務提携によって、一緒に取り組みたいことのひとつに、広告の付加価値向上というテーマがあります。これまでのメタバースの取り組みに何かひとつ、付加価値を乗せる広告メディア的なフォーマットを作ることができれば、あとは需要に応じた付加価値をいくらでも乗せていくことが可能だと考えています。

リアルとバーチャルの連携で、売れるモノやコトがひとつでもできたら、それがビジネスとして一般化され、どんな事業者にも取り入れられる、世界に通用するビジネスになると思うんですね。
そして、それはJR東日本グループとしての独自価値として展開していける、ブルーオーシャンの展開だと考えています。

直井:リアルな空間といえば、駅や電車内などがありますが、例えば駅を起点にエモいモノ、コトを生み出していくためには、具体的に何と何を結びつけたらよいと思いますか?

舟越:特別なことではなく、割と純粋な消費と結びつけるのがよいのではないかと思います。
何かよいこと、たとえば、ゴミを拾ったら駅のコーヒーショップでコーヒーが飲めるとか。
駅で良いことをしたら、駅でいいものがもらえたみたいな、その場で発生した体験や気持ちと、その場でしか得られないコト・モノ・体験をうまく結びつけてあげれば、人のエモーショナルな感情を、強く湧き起こさせると考えています。
そういうサービスを新しくうまくつくれたらいいなと思います。

そう考えると「データの活用」は大きなポイントになるでしょうね。
駅利用者の行動データを取得、分析することで、新しいサービス開発のヒントになると思いますし、「その人が行動すればするほど、駅を利用することが楽しくなる」ようなサービスを開発できるかもしれません。
それこそ駅利用者の中には、駅の利用に通じた“駅マスター”のような人が現れてくるかも知れません。
さらに、データ自体が価値を生むという観点では、駅における人の行動を点群データとして取得して、これを時刻表システムと組み合わせたら、どういう世界が実現できるでしょうか。人がどういう行動をして、どういう人流があるか。
人流が変わる要因が何で、その流れをどのようにコントロールできるかがわかるようになったとしたら、無限の可能性が生みだされると思います。
人流・行動を軸に、データを活用した、利用者のマインドや行動に、よりフィットした新しい体験・サービスを提供する空間は、うれしいや楽しいや便利など、様々なエモーショナルな感情を誘発する空間になると思いますし、新しい購買体験などにもつなげられると思います。

「バーチャルのコミュニケーションは楽しい」ことをもっと広く知って欲しい

直井:確かにそうかもしれませんね。光富さんはJR東日本グループの様々なプロモーション展開などを手がけられてきていると思いますが、リアル×バーチャルやメタバースの動き・取り組みをとらえた、JR東日本グループが持つサービスやコミュニケーション展開の可能性など、今後の展望をお聞かせください。

光富:先ほど、駅で飲めるコーヒーの話が出たので、これに関連する取り組みとして、JR東日本クロスステーションさんが始めた「root C」というサービスがあります。これは、アプリから注文すると、指定時刻にスペシャルティコーヒーを駅のロッカーから受け取ることができるサブスクリプション形式のサービスです。

アプリというデジタルでの新しい注文の体験を軸に、リアルな駅を効率的に活用した新しいサービスです。ユーザーにとっては、好きな時間にピックアップ、自分好みの出来たてのコーヒーが飲める、非常に利便性の高いサービスです。

このような取り組みをみるに、JR東日本グループ全体として、新たな価値創造、イノベーションを生みだそうというスタンスが、強く出てきた感じを受けています。コロナ禍で各社の経営環境が苦しいなかで、グループ一丸で共創に取り組んで価値を生みだす、ピンチをチャンスにしようとしています。XRはこれからのチャレンジ領域のひとつ。

今回の3社の業務提携を新たなチャレンジのきっかけとして、舟越さんとアイデアを練りつつ、JR東日本グループ各社との連携を図りながら、新しい価値創造につなげていきたいですね。

舟越:JR東日本グループという、人の移動に必須のサービスやリソースを保有する企業とご一緒できる機会を得て、他では実現できないサービスを一緒につくっていける準備が整ったと思っています。

今、コロナ禍にあって孤独を感じる人が増えています。感染症のリスクから人に気軽に会うことも躊躇されるなか、VRはそこで躊躇する必要がありません。僕らがやりたいことのひとつは、「バーチャルのコミュニケーションはとても楽しい」ということを伝えることです。

また、VRは街の新しい楽しみ方を提示することもできます。同じ秋葉原でも、平日と土日では来街者の顔触れも違います。そんな様々な顔を持つ駅利用者に、最高に楽しいVRコンテンツを作って提供し、リアルやバーチャルの場で体験してもらい、新しい街の楽しみ方を知ってもらう。そして、その体験の感動をみんなに広めてもらい、多くの人に利用してもらう、そんなことを仕掛けていきたいですね。

直井:今回の業務提携はメタバースに向けたスタート地点。
これからイノベーションを生み出していくためにも、現行のサービスの枠組みにとらわれない舟越さんの柔軟な発想を、成長を実現する起爆剤としていけたらと思います。本日はありがとうございました。

直井 伸司
jekiメディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役
1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。 その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、 第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、 2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。 なお、現在は、㈱Data Chemistry、㈱JICの取締役を務める。

光富 憲太朗
jekiエクスペリエンシャル・プロモーション局 部長代理
出版社、FMラジオ局勤務を経て、2007年jeki入社、プロモーション局(現エクスペリエンシャル・プロモーション局)に配属。JR東日本を始め、様々な業種のクライアントのプロモーション業務を担当。

主な業務:大型商業施設 開発/開業関連事業、外資系食品会社 アンバサダー・プログラム支援プロモーション、国内食品会社 新商品開発コンサルティング/プロデュース  他多数
最近の担当業務:JR東日本 高輪ゲートウェイ駅開業イベント「Takanawa Gateway Fest」、J-WAVE NIHONMONO LOUNGE 施設プロデュース(J-WAVE、サニーサイドアップ/中田英寿氏と共同事業)など。
受賞歴:第10回 JPMプランニング・ソリューション・アワード ブランディング・キャンペーン銀賞受賞

舟越 靖
株式会社HIKKY CEO 
通信系インフラ開発・運用事業を経て、 ⾃⾝の夢だったクリエイティブ分野へ進出。数多くのクリエイターを組織化し、ゲーム・アニメ・映画などのコンテンツ制作・事業開発などを行う「有限会社フナコシステム」を設立。2018年、その中でもVR事業に特化した「株式会社HIKKY」を設立し、 100万人以上の来場者を誇るメタバース上で開催する世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット」を主催。2021年12月4日から開催のバーチャルマーケット2021で7回目の開催を迎える。

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  • 直井 伸司
    直井 伸司 jekiメディアマーケティングセンター センター長

    1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。 その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、 第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、 2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。