世界観に寄り添い、情報の“アンベイル”で期待感を高める 映画『竜とそばかすの姫』

エンターテインメント VOL.9

写真右:日本テレビ放送網 グローバルビジネス局 映画事業部主任 プロデューサー 谷生俊美 氏
写真左:ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局 岡本藍

『時をかける少女』や『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』と、数々の名作アニメーション映画を生み出し、日本のみならず世界中の観客を魅了し続けてきた細田守監督。その細田監督の最新作『竜とそばかすの姫』が、7月16日(金)より公開されます。

今回は、本作品の幹事会社である日本テレビ放送網株式会社 グローバルビジネス局映画事業部の谷生 俊美氏に、同プロモーションパートナーの一社として参画し、タイアップや広告宣伝等を担当しているjekiコンテンツビジネス局の岡本藍が、映画制作の背景や作品の見どころ、宣伝プロモーションの狙い等についてお話を伺いました。

仮想世界<U>を舞台に、心を閉ざした少女の変化と成長を描く

岡本:細田監督の新作ということもあって、既にSNSなどでも大きな話題になっていますね。プロモーションパートナーメンバーの役得として絵コンテを拝見しましたが、それだけでもビジュアルのすばらしさが想像できて、ストーリーに引き込まれました。

谷生:ぎりぎりまで制作されているので、完成版は公開間際でないと観られないのですが、魅力の片鱗が少しずつ公開されていますよね。細田作品でおなじみのクジラが登場する印象的な場面、主人公が暮らす高知の鏡川や仁淀川の美しい風景、仮想世界<U>の一度観たら忘れられないくらいユニークで印象的なビジュアル…、もう見どころは紹介しきれないほどです。そして、音楽が非常に重要な役割を担っていて、これも大きな魅力と言えるでしょう。

岡本:細田監督の作品はファンが喜ぶような、他の作品とリンクする場面も多いのですが、既存の作品との違いをどのように感じられていますか。

谷生:あらゆるものの「濃さ」でしょうか。これまでの作品以上に、絵の密度、設定の密度、音楽、人の思いまでもすべてが濃くて、しかも相互につながりあっている。その結果、圧倒的なビジュアルと音楽、物語が三位一体となったまさに総合芸術となり、約2時間、観る人の心を捉えて離さないエンターテインメント作品となっています。

その上で、細田監督の作品らしさが感じられるのは、「仮想世界を席巻する謎の歌姫」という魅力的なモチーフを用いながらも、「世界の片隅で暮らす少女の成長物語」という、シンプルで普遍的な人の姿を描いていることです。そこには家族や恋愛なども絡んでくるのですが、細田監督作品のすべてに通底する「変化する人」が今回も一番のテーマであることは間違いないと思います。高校生といえば、人間として最も変化する時期ですよね。『時をかける少女』以来の女子高校生が主人公という、監督にとっては原点回帰とも言える面もあるかもしれません。

岡本:どの作品でも主人公が変化していく姿は胸を打ちます。私も絵コンテを見ながら、毎回泣けてしまうところがあって。映像になったらどうなるんだろうと、今からすごく期待しているところです。

谷生:それはもう、すごいでしょう。実は先日、歌っている様子を映像で撮ってCGの映像制作に落とし込む「フェイシャル」という工程があり、絵コンテをつないだ映像に合わせて主人公を演じる中村佳穂さんが歌われるのを見ていたら、コントロールルームで涙が止まらなくなってしまったんです。本当に感動して、滂沱としながら「監督、すごい映画になりますよ!」と言ったら、監督もちょっと引きながら「うんうん」と何度も頷いてくださって(笑)。物語としても重要な場面ですが、音楽だけでも、ビジュアルだけでもない、すべてが一体となった何かが私の琴線に触れたんでしょうね。

この話にはまだ続きもあって、その直後、現場からあるリモート会議に参加してアフレコの様子を紹介していたら、また涙が溢れてきて…。目を赤くして「すばらしい映画なので、ぜひ皆さんの力をお貸しください!」と、まるで泣き落としのようになってしまい、本当に恥ずかしかったです。でも、本編を観てまた号泣しそうです。

映画の普遍的なメッセージを、広くあまねく多くの人に届けたい

岡本:谷生さんはかなりの熱量をもって、本作品のプロデューサーを務められていますが、報道番組『news zero』のコメンテーターとしてご存じの方も多いと思います。その前は記者としても活躍されていらっしゃいました。そこからどのようにして映画に関わるようになられたのですか。

谷生:2000年に日本テレビに入社して約12年間、報道局に所属し、外報部(現国際部)での記者をはじめ、事件記者やカイロ支局の特派員などを経験し、北朝鮮やアラブの春も取材しました。報道の仕事は大変やりがいがあったのですが、実は入社前からずっと映画事業部を希望していたんです。ようやく2012年に異動があって『金曜ロードショー(当時はSHOW!)』のプロデューサーになり、2018年にようやく映画事業部に異動しました。そしてスタジオ地図担当となり、『竜とそばかすの姫』でプロデューサーとして参加することになりました。いわば20年越しの”大願成就”なんです。

岡本:そうすると、『竜とそばかすの姫』は、かなり思い入れが強い作品なのですね。

谷生:そうですね。映画にはテレビメディアの即時性とは異なる「普遍的な魅力」があり、そこに強く惹かれます。時を超え、国境を越え、文化や年代、性別、言語の違いも超えて人の心を動かし、印象を残し続けるーー。そんな映画作品に携わりたいとずっと思っていたんです。まさに『竜とそばかすの姫』も、エンターテインメントでありながら、普遍的なテーマを扱っていて、人の心を揺さぶる作品です。初めての担当で、この作品のプロデューサーとして携われたことを本当に嬉しく思っています。

岡本:『金曜ロードショー』のプロデューサーのご経験があるとはいえ、映画プロデューサーとしては初めての担当作品で、戸惑われたことはありませんでしたか。

谷生:もともと日本テレビは、2009年の『サマーウォーズ』から「スタジオ地図」作品の製作幹事として深く携わってきましたし、作品は『金曜ロードショー』でも定期的に放送してきました。そのため、私自身も細田監督はもちろん、「スタジオ地図」の皆さんと以前から交流があったんです。2018年には、番組のプロデューサーとして『金曜ロードショー』の新オープニングの制作を依頼したこともありました。そうした経緯もあって、異動してからは、完成した映画の宣伝活動など実務を学びつつ、「スタジオ地図」とは定期的に打ち合わせも重ねて、『竜とそばかすの姫』にも構想のかなり早い段階から関わらせていただきました。

岡本:かなり以前から監督とのコミュニケーションがあったのですね。映画の構想を伝えられた時はどんな印象を持たれましたか。

谷生:脚本になる前段階の物語の骨子を「プロット」として、細田監督がA4の紙何枚かに描かれたものを見ながら意見を出し、キャッチボールするという場から始まりました。その際は、監督も言葉にされていましたが、以前の作品と比べても「さらなるエンターテインメント作品にしたい」という思いを強く感じましたね。観て面白いのはもちろん、それによって強く普遍的なメッセージを広く多くの方に届けたいということなのだろうと。私もその思いに応えて、老若男女、人種・民族、セクシャリティも問わず、あらゆる人に観ていただきたいと思って取り組んでいます。

プロデューサーは作品の全工程に携わる「よろず屋 兼 責任者」

岡本:映画プロデューサーとして、具体的にはどのようなことを行われているのですか。

谷生:製作幹事である日本テレビのプロデューサーとしては、今回の作品をどのように展開するか、ビジネススキームをつくることが最も重要な仕事です。アニメーション制作に関しては、チームに全幅の信頼を置いてお任せしています。プロデューサーとしては、絵コンテ段階で監督と打ち合わせを重ねたり、キャスティング会議に出席して監督と意見を出し合ったり、提案を行なったり、という作業もありますが。作品が完成した後は、ビジネスとして成功させるために多くの方に観ていただく必要があり、完成前からの宣伝・広報活動が重要となります。そのため、去年の段階からjekiさんをはじめチームメンバーを選定し、全体の広告戦略の中での分担や役割を依頼し、映画の成功を目指して全力を尽くしていただくようお願いしてきました。

岡本:そんな映画プロデューサーのお仕事、役割について、谷生さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

谷生:「映画という作品づくりのほぼ全工程に携わり、完成後もビジネス展開を最後までやり続ける人」でしょうか。条件や前提次第ですが、企画を受けてのキャスティング、資金集め、制作に伴走し、完成後は二次使用まで含めてビジネス展開を行っていく。そのためなら何でもする「よろず屋さん」と言えますね。今回も、本当にいろんなところにひたすら頭を下げまくりました(笑)。それもひとえに、作品を多くの方に知ってもらい劇場に足を運んでいただくため、映画を成功させたいという思いゆえです。そのすべてに責任を担っているからです。

岡本:今回の広告戦略ではどのような部分を意識されたのでしょうか。

谷生:チャネルの多様化はやはり意識しましたね。それでも現在の日本のメディア環境を鑑みると、テレビの持つ発信力・伝達力は大きく、日本テレビを中心としたテレビメディアでどのようにして本作について訴求できるのか、パブリシティのあり方を考えました。特に今回はアニメーションなので、実写の映画のように演者がプロモーションに参加して作品の意識付けをするのとは違う。作品のアニメーション映像をどうやって観ていただくかに重きをおいて、施策を組み立てました。

その上で、Webの拡散力をどう活かすかという期待のもと、材料を広く細かく用意して、自然に話題になって転がっていくことを狙いました。テレビメディアが大きな話題を提供し、それに触れた人がWebメディアで拡散するというイメージですね。

岡本:確かに新しい情報にはすぐにSNSでも反応がありましたね。映画でも登場人物の「竜」の正体探しで「アンベイル(ベールを脱ぐ)」という表現がありましたが、同じように映画の情報が少しずつ明かされていくのはワクワクしました。

谷生:宣伝戦略の中で、作品の世界観やストーリー展開に沿うことが大切だと考えていました。物語の柱に「竜は誰?」という謎解きがあり、それとリンクする形で実際に完成した部分や素材、宣伝予告などを少しずつ出していくことで、映画の雰囲気が伝わればと思いました。

加えて今回は、私の方から「制作過程を見せること」を提案しました。日本テレビの番組『笑ってコラえて!』とコラボレーションし、オフィシャルメイキング枠になってもらい、プロデューサーや美術担当など、あらゆるスタッフ、裏方さんの仕事を見せながら作品を紹介する展開が代表的な施策です。私自身、アニメーションの制作現場に立ち合って「こんな風に作っているのか」と驚きがあったので、同じように視聴者の皆さんにも魅力的に映るのではないかと考えました。

岡本:あの内容はディープなファンはもちろん、ライト層にも興味深く響いたと思います。つくる方々の熱い思いにも触れられて、その点でも多くの方に観ていただきたいと思いました。

デジタル世界とリアルをつなぐ、交通広告のフィジカルな存在価値

岡本:私たちjekiも多くの方に映画を観ていただくために、プロモーションに取り組んでいます。JR東日本「FUN!TOKYO!」とのタイアップではインスタグラムキャンペーンを行い、首都圏のJR各駅にはコラボポスターが大々的に掲示されています。また、新宿駅東西自由通路の国内最大規模の大型デジタルサイネージ「新宿ウォール456プレミアム」でもインパクトのあるプロモーションを行う予定です。どちらも目を引くことは間違いなく、リアルな写真をSNSでシェアということも大いに期待できると思います。

谷生:ありがとうございます!新宿は日本が誇る映画館街で、そうした場所でのリアルな宣伝・プロモーションは絶大な力があると期待しています。

昨今コロナ禍もあって、家に閉じこもってテレビやスマホで情報を得る機会が増え、人と会うことや交渉もリモートで行われることが増えて、人間の関係性や活動において、バーチャルが主流と言えるほどになりつつあります。でも、人間の本来の活動はやはり”リアル”であるはず。バーチャルな広告や情報と、移動して映画を観に行くというリアルの間を、駅のポスターやデジタルサイネージのような交通広告が埋めてくれるように感じています。スマホから目を上げて、リアルに戻った時に、すっと目に入ってくる。そうしたフィジカルな訴求力ってあると思うんですよね。メディアの連携で認知度が上がり、コミュニケーションが促進され、映画を観に来ていただける方が増えることを信じています。

岡本:そうおっしゃっていただけるとすごく嬉しいです。一つ残念なのが、コロナ禍のためにスタンプラリーの企画が実現できなかったことです。自ら動くことで少しずつ謎が解けていくというのは、「アンベイル」にもぴったりだったのに…。残念です。

谷生:本当にそうですね。ただ、そうしたコロナ禍も含め、今の時代は、自分や社会、将来に対して何らかの不安を感じながら生きている人が多いのでは、と感じています。迷える人、悩める人、自分を抱きしめられない人…、そんな方々に『竜とそばかすの姫』は前向きになれるメッセージを届けられる作品だと思います。「あらゆる人に観ていただきたい」と申しましたが、あえて個人的にお勧めするなら、なにかしら不安や悩みのある方にこそ観てほしいです。きっと自分を抱きしめてあげたくなるはずですから。

岡本:温かいメッセージをありがとうございました。引き続き、大ヒットに貢献できるようがんばります。

谷生:こちらこそ、ありがとうございました。

映画『竜とそばかすの姫』 2021年7月16日(金)公開! 

公式HP:https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/

<ストーリー>

50億人がすれ違う
美しくも残酷な仮想世界。
ベルの歌声は世界を変える――

自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴(すず)は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。
母と一緒に歌うことが何よりも大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。

曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずのすずだったが、「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者になっていく。

数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった。乱暴で傲慢な竜によりコンサートは無茶苦茶に。そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと近づくベル。一方、竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。

やがて世界中で巻き起こる、竜の正体探し(アンベイル)。

<U>の秩序を乱すものとして、正義を名乗るAsたちは竜を執拗に追いかけ始める。<U>と現実世界の双方で誹謗中傷があふれ、竜を二つの世界から排除しようという動きが加速する中、ベルは竜を探し出しその心を救いたいと願うが――。

現実世界の片隅に生きるすずの声は、たった一人の「誰か」に届くのか。
二つの世界がひとつになる時、奇跡が生まれる。

エンターテインメント

jekiが取り組むコンテンツビジネスの開発背景や裏話など、表には見えてこない舞台裏をキーマンへのインタビューを中心に紹介します。

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  • 岡本 藍
    岡本 藍 コンテンツプロデューサー

6月15日公開 PICK UP 駅消費研究センター VOL.39 について

2021年6月15日公開のPICK UP 駅消費研究センター VOL.39「地域や自然とつながる循環型レストラン「Maruta」(調布市)―社会問題に応える、生産緑地の開発モデルへ」について、6月17日より公開を中止しておりましたが、一部内容を修正のうえ、7月9日に再公開致しました。