監督の着想を、チームで実現する 映画『新解釈・三國志』

エンターテインメント VOL.7

監督の着想を、チームで実現する 映画『新解釈・三國志』

写真右:日本テレビ放送網株式会社 グローバルビジネス局 映画プロデューサー 北島直明氏
写真中央:ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局 コンテンツ プロデューサー 俵賢太郎
写真左:ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局 コンテンツ プロデューサー 神田亮太

『銀魂』『今日から俺は‼』『勇者ヨシヒコ』など数々の大ヒットコメディ作品を手掛け、日本中を笑いの渦に巻き込んできた福田雄一監督。待望の最新映画『新解釈・三國志』が12月11日に公開されます。「三國志」といえば、中国・後漢時代に、魏、蜀、呉の三国による覇権争いを記した壮大な物語。そこに“福田監督オリジナルの解釈”を加えた脚本のもと、劉備役の大泉洋さんはじめ、福田組ではおなじみのムロツヨシさん、賀来賢人さん、小栗旬さん、橋本環奈さんら、オールスターキャストが集結し、まさに天下無双の歴史エンターテインメント作品になっています。

本作品の企画・プロデューサーの日本テレビ放送網株式会社 北島直明氏。オリジナル映画が実現するまでの経緯や福田監督とのパートナーシップ、映画作りにおけるプロデューサーの役割や自身のこだわりなどについて、本映画の製作委員会に参画しプロモーションを担当する、ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局の俵賢太郎、神田亮太が話を伺いました。

映画化の着想である「大泉洋さんの“ぼやく”劉備」を実現するために

俵:「三國志」という超有名歴史物語を福田監督の“新解釈”でコメディ映画にすると初めて伺った時には、そのアイディアだけで面白くなりそうだと思いました。どのような経緯で企画ができたのですか。

©2020「新解釈・三國志」製作委員会

北島:もともとは福田監督が温めていた企画で、最初から福田監督が「大泉洋さんが演じる、ぼやく劉備が主役の三國志をやりたい」という具体的なイメージを持っていらっしゃったんです。それを『斉木楠雄のΨ難』という映画作品の撮影現場でお聞きして、すぐさま企画書を書いて2週間後には企画を通しました。それが2016年頃ですね。

神田:それは凄いスピード感ですね!これだと思った決め手はどこだったのでしょうか?

北島:「三國志」は中国の覇権を巡って群雄割拠していた時代の史実をまとめた大歴史書ですが、個性豊かな人物群に加え、逸話にも謎が多い。それを福田監督の独自の感性で“新たに解釈”し、ぼやきまくる劉備を大泉さんが演じるとなれば、面白くならないわけがないですよね(笑)。特に「ぼやきまくる劉備」は企画の骨子であり、絶対に実現させたいと思いました。さらに福田監督の作品には「絶対悪」が存在せず、どんな世代でも楽しめる映画であることも魅力です。世紀の大悪人と伝えられる人であっても、福田監督の手にかかるとどこか愛嬌があり憎めない人になる。そうした人間味のある世界観が世の中的に求められているものだと思ったからです。

俵:2016年に企画が通ってから、実現までに3年がかかったのには何か理由があったのですか。

北島:シンプルに大泉さんと福田監督のスケジュールを最短でおさえられたのが3年後だったのです。他のキャストも多忙な方ばかりなので調整は大変でした。福田監督は「その時撮れる人で撮る」ではなく「その人でないと」という方で、ほぼ当て書きのような形で脚本を書かれます。コメディの難しさの所以ではありますが、変顔や奇妙な動きが面白くなるのもそこにいたるまでの前後の文脈が重要で、キャラクターや物語の構造を理解した上で演じる必要があります。なので、それができるだけの演技力がある役者さんが必要になります。常に撮影現場が楽しそうなので、勢いで撮っているように見えるかもしれませんが、実はそうした計算が台本にも演技にもしっかりなされているんです。

神田:福田組のあの笑いは俳優さんや脚本が重要なのですね。

北島:脚本が一番重要です。「豪華俳優陣が出演する福田雄一監督作品」というだけで企画を通すということはしていません。もちろん映画の中には「役者を集めたから成立する」企画もあるでしょう。しかし、本作品はキャスティングありきではなく、大泉さんの「ぼやく劉備」を中心としたコメディにすることが目的で、それを実現できる方に依頼していったら“結果として”凄い役者さんが揃ったというところなんです。でも、それは映画作りだけでなく、どんな仕事でも同じですよね。いいものを作るために、いい素材を集めようとするし、いい素材が集まらないからといって、「商品ができません」「このレベルのものしかできません」などとは言わないでしょうから。なので、「作品イメージを形作る」脚本が一番大事なんです。

同じ目的に向かって真摯に進むと“本当の楽しさ”が生まれる

俵:「いいものを作る」。これを意識し続けることは、どんな仕事でも重要ですね。

北島:本当にそう思います。実際、いい企画はゴールや目的が明らかで、それに向かって進むうちに人もお金も自然と集まってくるものです。しかし、単に作ることだけが目的になると、とたんに本来の目的がぶれてどんどん何のために作るのか、わからなくなることも少なくありません。そのまま進むと作品の方向性を見失い意に反した作品となる可能性があると判断した企画はストップすべきです。その意味で、『新解釈・三國志』は、みんながゴールや目的を共有できた企画で、結果として、一心不乱に頑張ったから完成した映画と言えるでしょう。とはいえ、ただ一つ誤算だったのが、みんなが頑張りすぎて想定より豪華になってしまったことです(笑)。

俵:誤算なんですか?(笑)

北島:脚本の1行目に「史上最小のスケールで送るオール日本ロケの三國志」と書いてあるとおり、最初はセットも敢えてチープでいいと思っていたんです。それが美術も衣装も、スタッフも役者もみんなが「面白そう!楽しい!」というように頑張りすぎて、どんどんセットや衣装がゴージャスになってしまいまして(笑)。企画の骨子は「ぼやく劉備」と「純粋に笑えるコメディ」と一切ぶれていないんですが、外側を気軽な軽自動車にするつもりがとんでもない高級車になってしまったんです。

神田:北島さんやスタッフの皆さんからも、福田監督作品への溢れんばかりの愛が感じられますね。

北島:ええ、作品に対してももちろんですが、福田組の雰囲気がとにかく好きなんですよ。それに救われたというか…。実は、かつて自分の経験の浅さゆえに、大好きなはずの映画作りが少し辛くなっていた頃、某撮影所を歩いていたら、あるスタジオから腹立たしいくらい楽しそうな笑い声が流れてきて、「何がそんなに楽しいんだ」と思って覗いたら福田組だったんです。その直後から、福田監督と一緒に仕事をされているプロデューサーの松橋真三さんとのご縁のもと、ご一緒させてもらえるようになったのは、「念願かなって」と言えるでしょう。

俵:福田組と一緒に映画を作られるようになって、その前後で何か変わりましたか。

北島:以前から映画プロデューサーの仕事は、小さな会社の社長と同じだと思ってきました。なんでも自由にできると思われがちですが、映画は事業であり、お客様が喜んで観てくださって初めてビジネスとして「成功した」と言えます。そのためには面白い映画を作るだけでは不十分で、製作費やマーケティング、興行のことも考えなければなりません。限られた日本の市場を対象に製作していると、どうしても制限が生じて我慢することも多く、そこが本当に辛くてたまらない時があるんです。でも、福田組では、誰もがお客様が喜んでくれるものを作ろうということだけに純粋に邁進している。楽しく笑って仕事をして、それでいて事業も成功するというのが、こんなに幸せなことかと改めて感じています。

監督がいい空気を作り、プロデューサーは場を守る

俵:作品に関わられる皆さんが最高のパフォーマンスを発揮しようと頑張る。そこは福田監督の存在が大きいのでしょうね。

北島:もうそこに尽きると思います。撮影現場で監督は空気を作る人なんですよね。監督が険しい顔をしていたら、みんな敏感に感じ取るわけです。だから、私たちも現場では、どんなに辛い時でも楽しく仕事に取り組みます。そこは福田監督も役者さんも徹底されていますね。でも、決して特殊なことではなくて、プロとはそういうものでしょう。誰でも悲しいことや辛いことはあります…でも、現場に立ったら全力で役割を全うすることが大切だと思うんです。

神田:様々なプロが集うチームの中で、北島さんなりのプロデューサー像はどのようなものとお考えですか。

北島:現場を進めていくのが監督なら、その場を守ることが私の役割でしょうか。その際、なにより目的の共有が大事で、それに向かって監督と一緒に歩いていけば、自然とみんながついてきて道ができるように思います。福田監督と仕事をして、改めて同じ方向を向いている限り、意見が違っても喧嘩をしないものなんだなと思いました。喧嘩になるのは、目的がぶれてどこを見ればいいのかわからず、相手とバチンと目があった時。だからまずは、監督としっかり目線の先のゴールと目的を合わせることが大事で、さらに映画に関わるスタッフ全員ともコミュニケーションが取れていることが大切だと考えています。そのために、私は若いスタッフとも腹を割って話せるような雰囲気作りをいつも心掛けています。

神田:シンプルなことに聞こえますが、なかなか簡単なことではないですよね。

北島:それがプロデューサーの仕事ですからね。いろんな人の知見や力を借りたいですし、断られないうちは誰とでもつながっていたいと思います。かつて先輩に「困ったら、バカになりきるバカスイッチを押せ」とアドバイスされたこともあるのですが、あえてどんな人に対しても遠慮せずにアプローチするようにしています。ダメもとでも「聞くのはタダ」ですしね。

神田:ご自身でプロデュースする作品を選ぶ際には、どのような基準で選ばれているのでしょうか。

北島:一言で言うなら“日常の崩壊”がテーマです。そもそも映画を観るということは、非日常の世界に行くことですよね。だから、私のプロデュースする作品は、何気ない日常が非日常に一気に変わるストーリーをより意識しているんです。たとえば、私が最初に取り組んだ『藁の楯』では主人公に電話がかかってくる場面、『オオカミ少女と黒王子』では主人公が友人とお茶をしていたところにイケメンが偶然通りかかる場面、『ちはやふる』では屋上に駆け込んだ主人公が運命の仲間に出会ってしまう場面、いずれも物語の起承転結の“起”の部分で日常が非日常に変化します。ハイスピード撮影やワンカット長回しなどの演出で、「非日常がはじまる!」と期待が高まります。そこは全て共通しているというか、明確なテーマになっていますね。観る映画も『スター・ウォーズ』など“日常の崩壊”からはじまるワクワク感があるものが好きなんです。

交通広告は半径1.5メートル内で最後に背中を押すもの

俵:福田監督はじめ、キャストやスタッフの皆さんが総力を挙げた映画が完成し、公開も間近に迫る中で、プロモーションにも力が入ります。

北島:まずは、こだわりや見どころを伝えるというより、とにかく作品の存在を知っていただくことが大事だと思っています。知っていただけないと「見たい」とすら思ってもらえないですから。『新解釈・三國志』に関しては、純粋に笑って楽しんでいただければ嬉しいですね。近年、あらゆるコンテンツのテーマやメッセージを深読みして、批判したり答え合わせをしようとする風潮がありますけど、本作品はあくまで「みんなが笑ってくれればいいな」という思いだけで作った映画なので、深読みせずに「くだらないなあ」と思いながら、シンプルに楽しんでいただければと思います(笑)。

ただ前述のように、思いがけず大作となってしまったので、12月公開になってしまったんですよね。ひっそりと公開しようと思っていたんですが…。さすがにそこはゴージャスなお正月映画としてプロモーション計画を練ることになりました。

俵:作品の規模でプロモーションの仕方も変わってきますよね。様々なメディアがありますが、それぞれの活用についてどのようにお考えですか。

北島:Web広告の成長はすさまじく、テレビ媒体を超える2兆円規模の市場となれば活用しない手はないのですが、私が映画宣伝で特に大事に思っているのがテレビと交通広告です。まずはWebでのパブリシティを先行させ、ニュースサイトやSNSなども含めてじわじわと場を温める。多くの方がWeb上で知ることになると思うのですが、そこにテレビを通じての情報展開やテレビスポットを放送することで、答え合わせをしてもらうイメージですね。

神田:その中でも交通広告についてはどのようにお考えですか。

北島:交通広告は消費者の生活圏半径1.5メートルに自然に入り込み、強い印象を与えられる重要なメディアだと考えています。Webで知り、テレビで答え合わせをし、映画の情報が自分が使う鉄道やバスなどの生活圏まで到達した時、共感性や親近感、興味につながるのは必然と言えるでしょう。だからこそ、交通広告の効果を高める重要なポイントは、「出す順番」にあると考えています。映画の公開前ではなく、認知が拡大した公開直前や公開中に広告を出すことで「観てみよう」という気になり、背中を押される。お客さまの「映画を観る」という行動へとつながるのではないかと思います。

俵:確かに消費者の導線として、映画館に一番近いメディアですよね。ぜひとも、多くの方に作品を楽しんでいただければと思います。本日はありがとうございました。

『新解釈・三國志』とは?

公式サイト https://shinkaishaku-sangokushi.com/

今から1800年前。中華統一を巡り三国【魏・蜀・呉】が群雄割拠していた時代。
民の平穏を願い、のちに英雄と呼ばれる一人の男・劉備が立ち上がった。
激動の乱世を経て、物語はやがて[魏軍80万]vs[蜀・呉 連合軍3万]という、圧倒的兵力差が激突する「赤壁の戦い」に突入していく!ーーー
という超有名歴史エンターテイメント「三國志」を“脚本・監督:福田雄一流の新たな解釈”で描く、完全オリジナル映画です。

上記ライター俵 賢太郎
(コンテンツ プロデューサー)の記事

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jekiが取り組むアニメ・キャラクターコンテンツの開発背景や裏話など、表には見えてこない舞台裏をキーマンへのインタビューを中心に紹介します。

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  • 俵 賢太郎
    俵 賢太郎 コンテンツビジネス局 コンテンツ プロデューサー

    2005年jeki入社。営業局にて一般クライアントを担当した後、メディアコンテンツ推進センターにてエンタメコンテンツを活用した広告キャンペーンの企画プロデュースを担当。 2014年からコンテンツビジネス局にて、多くの映画やアニメ製作委員会に事業参画。

  • 神田 亮太
    神田 亮太 コンテンツビジネス局 コンテンツ プロデューサー

    2015年jeki入社。コンテンツビジネス局に配属後、多くの映画やアニメ製作委員会に事業参画。