子どもも大人も魅了する、登場人物のリアルな成長模様。『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』の魅力とは?
総監督 池添隆博氏 × ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局 コンテンツ第二部 部長 鈴木 寿広

エンターテインメント VOL.8

jeki・小学館集英社プロダクション・タカラトミーの3社で企画・開発し、新幹線がロボットに変形する基幹玩具プラレールを中心に各種ライセンス商品を展開してきた『新幹線変形ロボ シンカリオン』。2019年6月に最終回を迎えたテレビアニメ放送から約2年、待望の第2シリーズが4月9日(金)より放送開始となります。

今回は、この『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』に総監督という立場で臨む池添隆博氏と、本作品にチーフプロデューサーとして携わるjekiコンテンツビジネス局の鈴木寿広が語り合いました。

制作チームも気分一新で紡ぎ出す「新しい物語」

テレビアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』の情報が解禁となりましたね。第1シリーズの終了から2年弱の間があっての今回の発表、SNSでもさまざまな反応が起きましたが、いかがですか。

写真右『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』総監督 池添 隆博
写真左 ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局 部長 鈴木寿広

池添:TwitterなどのSNSで反応があったのには、すぐに気が付いて、期待以上の盛り上がりに驚きました。ただ実感があったのは、近所のパパ友・ママ友から声をかけられて、ちょっとした騒ぎになったときです。中には家に「おめでとう」を言いに来る人までいて、改めて皆さんに愛されている作品に関わっていることを感じました。

鈴木:映画のエンドロールで「シンカリオンはまだ終わらないーー」とメッセージを流したこと、覚えていらっしゃいますか? 実際、第1シリーズの最終回前からずっと「またやらないんですか?」という声を山ほど聞いていて、その流れで映画化もされましたが、私としては「TVでも絶対に続編を」と信じて、このメッセージを入れさせていただきました。

池添:正直言うと、私はエンドロールのときにはもう燃え尽きていて、指摘されるまで覚えていなかったんです(笑)。それくらい、映画ではやりきった感があったので、今回はどうするか迷ったんですよ。でも、不思議な作品ですよね。ファンの方の熱意に力をもらって、また総監督としてやらせていただくことになりました。

第1シリーズの速杉家の親子の物語は感動的でしたが、第2シリーズでも「新多シン」という魅力的な主人公が登場します。既に制作は進んでいますが、新しい物語はどのように作られているんでしょうか。

池添:今回からシリーズの構成として新しく加わった赤星政尚さんに、これまでと違う目線からキャラクターづくりをしていただき、さらに山口健太郎監督が率いる制作チームの座組みも変わって、空気は一新といったところですね。その中で、「新多シン」という新しい主人公が、シンカリオンとどのように対峙するのかを見守り、作品の芯をぶらさずに伝えるのが、現在の私の役割だと思っています。

©プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所Z・TX

鈴木:前回は”親子の絆”が大きなテーマでしたが、今回は”友情”という、これもまた普遍的なテーマを描こうとしています。偶然ではありますが、コロナ禍で人と会えない状況下では、とても意味のあるテーマなのではないかと考えています。

池添:そうですね。そして他のシンカリオン運転士や天才少年整備士とのタッグなど、友情にもいろんな形があって…、これから始まるので、これ以上は詳しくはお話しできませんが(笑)。

鈴木:子どもたちの心に響いてくれると思いますよ。親目線でも、子どもたち同士のやりとりや成長を見守るという、これもまた胸が熱くなる展開に注目していただきたいです。

世代を超えて楽しめる仕掛けも、作品独特の持ち味に

今回、『シンカリオン』から『シンカリオンZ』となりました。前作との違いや見どころはどういったところでしょうか。

池添:まず見ていただきたいのは、シンカリオンとザイライナーとの「Z合体」でしょう。ザイライナーは在来線が変形した武装強化車両で、『シンカリオンZ』のZは「ザイライナー」のZでもあるんですよね。

鈴木:やっぱり響きもかっこいいですしね。最後にアルファベットをつけるなら「Z」だなと。ただ、人気アニメでZがつくものが多いので、真似したようで嫌だなあと思ったんですよね。でも、タカラトミーさんにも「子どもたちはやっぱり濁音が好き」と言われて、Zでいこうと。ちゃんと意味があるし…。

池添:響きが先なんですか?

鈴木:もはや何が先だったか(笑)。

テレビアニメ第1シリーズや映画では、他のアニメ作品やCMなどのコラボレーションがありましたが、今回もあるのでしょうか。その狙いはどういったところでしょうか。

鈴木:池添総監督には、いろいろコラボの相談をさせていただいて、それをどう作品の中に融合させるか、無理していただいたのではないかと思っています。

池添:確かに、鈴木さんをはじめ、これまでもいろいろとアイディアをいただいて、子ども向けにと言いつつ、映画でも「ヱヴァンゲリオン」や「シン・ゴジラ」、「JR SKISKI」のCMなど、大人の遊び心をくすぐるようなコラボもいろいろやりましたよね。結果として、それがきっかけでSNSで拡散して大人のファンもかなり増えたのでよかったのですが、正直言うと、内容的にはどうなのかと初めのころは葛藤がありました。でも、出来上がってみると、緊張感のある内容でシリアスになりがちなところでも、ちょっとした”箸休め”的に緩和してくれて、メリハリが付いていい感じなんですよね。独特のリズムが生まれ、作品の個性として確立したように思います。

鈴木:そうおっしゃっていただけると、ありがたいですね。私自身、シンカリオンを観ている子どもたちの親世代ということもあって、子どもだけで完結する作品にはしたくなかったんです。どうしてもアニメというだけで「子どものもの」とされがちですが、新幹線や実在の駅などリアルなモチーフが多数登場することもあり、きっとアニメを観た子どもは親とシンカリオンの話をしたくなるでしょう。でも、その時に親がアニメを観ていなくて話が一方通行になるのは寂しい。だから、親も一緒に楽しめて、例えば「あのJRのCMって知ってる?」というように親子の会話の種にもなればと思いました。

池添:今作も、親子で観てもらいたいという思いは変わらないので、いろいろ仕込んでいきますよ。前作の放送は朝早かったのにもかかわらず、たくさんの大人のファンの方にSNSでつぶやいていただきましたが、今度は金曜夜19時25分からという時間帯なので、もっと多くの方に観ていただけると思います。皆さんの反応が楽しみで仕方がないですね。

登場人物の葛藤や成長を、時間をかけて丁寧に描く

ロボットアニメでありながら、主人公をはじめとする登場人物が人気で、人物キャラクターをモチーフにしたグッズも売れていると伺っています。登場人物を描くうえで、とくに注意されている点などはありますか。

池添:連続アニメということで全編を通して軸になるのは、主人公の成長物語だと思うんですよね。それがあってはじめて、大人も子どもも惹きつけられるし、ロボットの合体や戦闘シーンも映える。でも、制作中には意識したことがなくて、ほとんど脚本家とも話をしたことがなかったのですが、コンテとシナリオで主人公の個性をぶらさずに順に描きたいことを追っていくと、自然と主人公が成長していくという。もう少しあっさりと進められるところを、あえて葛藤する様子など時間をかけて描いたつもりです。それが皆さんに愛されている隠れた理由なのではないかと思います。

新多シン
東京都田端に住む小学5年生。「シンカリオンZ E5はやぶさ」「シンカリオンZ E5ヤマノテ」の運転手。妖怪や霊などオカルトが好きで、「本当に存在する」 と信じている。いつか宇宙人と友達になることが夢。

鈴木:そう、「人間ってそんなに簡単じゃないよね」というところですよね。シンカリオンって、「なんでそうする?」みたいな不可解な行動ってまずないんですよね。そのキャラクターだから、そう感じて考えて、行動したんだという納得感がある。そうした丁寧なキャラクターの描き方が、大人が観ても納得感があり、感動できるのかもしれません。実際、映画初日の鑑賞者アンケートでは「良かった」の合計が95%を超えていたんです。子ども向けとはいえ、アンケートに答えるのは大人なので、間違いない数字だと思いますよ。

池添:それは嬉しいですね。今回もロボットの数だけキャラクターも登場しますが、それぞれの性格付けや関係性をどうするか、すごく悩みますね。

鈴木:玩具との連携も考えないといけないですからね。

池添:まさにそこは物語としてもパズルですね。でも、そちらに気をとられて血の通わない作品を作るんじゃ、プロとして”負け”ですから。今回の場合、登場人物はみんな初めてシンカリオンに乗るので、それぞれ違った葛藤や喜びがあるわけですよ。また前作と違った反応や関係性を見てもらえればと思います。

鈴木:アニメの中でキャラクターたちが見せる不安や期待、さまざまな感情がかなりリアルですよね。親目線で見て、現実世界と照らし合わせたくなってしまう。キャラクター人気は、声優さんやデザインなどの要素ももちろん大きいですが、「このキャラクターは今後どうなるんだろう」と思わせるリアリティも大きい気がします。

池添:前回のハヤトくんは鉄道に熱血を注ぐキャラクター(笑)でしたが、今回のシンくんは、オカルト好きという個性はありますが、鉄道には詳しくはなく、どちらかと言えばどこにでもいる普通のタイプ。全く新しい作品を観るつもりで観ていただければと思います。ただ、共通しているのは、「好きなことを大切にしていて、それで世の中に挑んでいく」というところで、好きなものがそのキャラクターを形作っているということ。もちろんエンターテインメントとして「シンカリオンカッケー!」と思っていただければと思いますが、「好きなものを好きでいよう」というメッセージは作品の「ぶっといところ」としてストレートに伝えていきたいと思っています。

鈴木:そこはまっすぐ、しっかりと届けたいですね。私も一緒にいい作品を作っていくのはもちろんのこと、広告会社の得意領域である、さまざまな企業様による『シンカリオンZ』を活用した商品化やキャンペーン展開、番組の宣伝・プロモーションなどを通じて、『シンカリオンZ』の世界観を子どもたちに届けていきたいと思いますし、海外に展開することも意識しながら多角的に取り組んでいきたいと考えています。本日は、ありがとうございました。

池添隆博 「新幹線変形ロボ シンカリオンZ」総監督

1976年生まれ。千葉県出身。アニメーター、アニメーション演出家、アニメーション監督。ウォルト・ディズニー・アニメーション・ジャパン所属を経て、現在はフリーランス。

新幹線変形ロボ シンカリオンZ
2021年4月9日(金)19:25より
テレビ東京系6局ネットにて放送開始!!

謎の巨大怪物体から日本の平和と安全を守るため、新幹線超進化研究所によって開発された「新幹線変形ロボ シンカリオン」。
超進化研究所は新たな敵の襲来に備え、新型ロボ「シンカリオンZ」、そして在来線から変形し「シンカリオンZ」をパワーアップさせる新たな武装強化車両「ザイライナー」の開発を進めていた。
高い適合率で「シンカリオンZ」の運転士となった子供たちは、研究所員たちと力を合わせ、再び現れた巨大怪物体を迎え撃つ! 未知なる敵の出現-。そして2 人の少年の出会い-。シンカリオンの更なる進化が始まる!!!

公式サイト https://www.shinkalion.com/

鈴木 寿広
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツ第二部長
2003年jeki入社。2007年より現職。
映画・TVアニメ等への事業参画、自社オリジナルIPの企画開発等、これまで多くの作品を担当。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズは、プロデューサーとして、企画立上げからビジネス面・制作面など作品全般に従事。

上記ライター鈴木 寿広
(コンテンツ プロデューサー)の記事