映画『ゴールデンカムイ』大瀧プロデューサーが語る、
実写化へのプロセスとその思いとは?

エンターテインメント VOL.16

写真左から)
株式会社WOWOW 事業局 エンターテインメント事業部 チーフプロデューサー 大瀧 亮 氏
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツ第二部長 鈴木 寿広

原作コミックスは累計2,700万部突破。「マンガ大賞2016」や第22回手塚治虫文化賞「マンガ大賞」など数々の賞に輝いた実績を持ち、熱狂的なファンが多いことで知られる超人気作品『ゴールデンカムイ』。TVアニメ化を経て、ついに待望の実写映画が2024年1月19日(金)に公開されます。今回は、原作の実写化への思いや経緯、作品の見どころなどについて、本作品のプロデューサーである株式会社WOWOW事業局エンターテインメント事業部の大瀧亮氏と、製作委員会メンバーであるジェイアール東日本企画(jeki)コンテンツビジネス局の鈴木寿広が語り合いました。


©野田サトル/集英社 © 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

映画『キングダム』シリーズのチームとともに映像化に挑んだ超話題作

鈴木:TVアニメ化もされた人気漫画作品『ゴールデンカムイ』が実写化されると大きな話題を呼んでいます。映画化のきっかけについてお聞かせください。

大瀧:映像化権取得にエントリーしたのは2020年の夏、コロナ禍の最中です。独自の大型コンテンツを創る配信プラットフォームが多数台頭してきたこともあり、WOWOWも転換期にあって、そんな競合他社に負けないコンテンツを制作する必要がありました。そんなとき、当時の弊社制作局長・小西が、映画『キングダム』を大ヒットさせたCREDEUSの松橋真三プロデューサーが『ゴールデンカムイ』の実写化を狙っていると聞きつけて、「一緒に世界で勝負できる最高のエンターテインメント作品を作りませんか」と持ちかけたんです。そこで集英社さんに共同で企画提案し、2021年に映像化権を取得することができました。

鈴木:超人気作品なので、実写映画の企画がいつ動き出しても不思議ではないと思っていましたが、WOWOWが映像化権を獲得できたのは何が決め手になったのでしょうか。

大瀧:2022年4月に原作の連載が終了しましたが、我々はその後に撮影を開始するというスケジュールだったので結末を見据えて、複雑に張り巡らされた伏線を踏まえた脚本にできたことが大きいと思います。そのずっと前からjekiさんはアニメに関わられていますが、いろいろ大変だったのではないですか。

鈴木:作品性・原作設定など多くの要素が緻密に絡む作品なので、制作チームも非常に苦労は多かったと思います。また、jekiもテレビ放送まわりの調整・タイアップ案件など、『ゴールデンカムイ』ならではの調整をたくさん行ってきました。それが北海道という広大な舞台で実写化されると聞いて、「いったいどうやって実現するんだろう」と思っていました。

大瀧:実際、映像化権取得からクランクインまでが1年半ほどだったので、とにかく準備に奔走しました。まずはシナリオの設計図を作り、冬の北海道にもロケハンに行きました。あまりに雪が深くて撮影隊が入る導線が作れないのでは?という壁にも当たり、その他本州にロケハンに行くものの植生が違うということでやはりメインのロケ地としては北海道に戻りました。沙流郡二風谷(さるぐんにぶたに)のアイヌコミュニティ内に土地をお借りして、オープンセットとしてコタン(集落)を造ることにしたんです。撮影の約半年前にはチセ(家屋)が建つように地元の材木や萱を集め建造し、そこから冬の撮影までの間に風雨にさらしてその土地になじませる徹底ぶりで、まるで本物のコタンでした。雪が降り積もったところでようやく撮影がかない、すばらしい画が撮れました。

鈴木:ゼロから村づくりをされるとは驚きです。原作・TVアニメでもアイヌ語の監修をされた中川裕先生、キャストとしても参加する秋辺デボさんがアイヌ文化の監修を担当されるなど、物語の背景にあるアイヌ文化が尊重されていることを感じます。

大瀧:さらに衣装や小道具などをアイヌ伝統工芸家の方に作っていただいたり、アイヌの方々にもエキストラで出演していただいたりしました。原作にあるアイヌ文化へのリスペクトを引き継ぎ、しっかりと再現できたのではないかと思っています。そして、この積み重ねが、アクションありミステリーありのエンターテインメント作品にリアリティも生み出し、より厚みを持たせてくれると信じています。

絶妙なバランスを見極め、原作の世界観を実現する

鈴木:キャスティングについてはいかがでしたか。濃いキャラクターが多いので、ご苦労されたのではないかと思います。

大瀧:熱狂的なファンが多く、以前から話題になっていましたからね。キャストを決める上でもちろんビジュアルが似ていることも重要ですが「演者としてその役にどこまで染まっていただけるか」も大事だと思っていました。原作のキャラクターがとても個性的な作品なので、その世界観を崩さないように全体のバランスを見ながら1役1役キャスティングさせていただきましたが、結果的に原作ファンだという俳優陣が多数集結してくださったことは大きかったです。主演の山﨑賢人さんをはじめ、これ以上はないキャスティングができたと自負しています。

鈴木:キャラクタービジュアルを見て、納得感がありました。これを見ると、実際にスクリーンの上で演じる姿を観たくなりますね。

大瀧:特に山﨑さんは『キングダム』シリーズに続いての主演ですが、唯一無二の圧倒的な存在感ですね。カメラが回ると激しいアクションや演出にもしっかり応え、まさに「不死身の杉元」になるんですが、普段は本当にナチュラルでニュートラルな方なんです。自然体で現場の空気を良くして、まわりの俳優さんがお芝居をしやすい環境を作ってくれました。あの存在感は同世代で並ぶ人はいないのではないでしょうか。

鈴木:そんな山﨑さんが作り出す雰囲気のもと、アイヌの少女アシㇼパに抜擢された山田杏奈さん、土方歳三を演じるベテラン俳優の舘ひろしさんも、「リラックスして演技ができた」とおっしゃられているそうですね。とはいえ、金塊争奪戦を軸にしたアクションやミステリー的な要素に加え、コミカルな場面も多く、演技や演出も難しそうです。

大瀧:さらにヒグマとの戦いやグルメの要素もあり、前述したようにアイヌ文化や明治期の歴史を知るという側面もあります。原作には「和風闇鍋ウエスタン」というキャッチコピーがついているくらいですが、そこは久保茂昭監督の手腕で、さまざまな要素を上手く融合させることで誰もが楽しめる娯楽作品となり、何度観ても新たな発見がある細部にわたるこだわりも魅力になっています。そして雄大な北海道の自然を背景にした壮大なドラマでもあるので、ぜひ、多くの方に劇場の大きなスクリーンで見ていただければと思います。

様々な思いをまとめ上げ、ワンチームで成功に向かっていく

鈴木:ところで大瀧さんとは『ゴールデンカムイ』の製作委員会でご一緒していますが、初対面は俳優の藤原竜也さんのマネージャーをされていた頃でした。当時から映画づくりにご興味をお持ちだったんですね。

大瀧:そうです。学生時代から映画は好きでしたが、仕事として意識するようになったのは大学で上京してからです。エンタメとは関係のない分野を専攻していたので、そんな自分が映画に関わる方法を考えた末、マネージャー職に就きました。ホリプロという大きな会社で藤原さんを8年間担当することになり、映画はもちろん、ドラマや舞台、CMまであらゆる現場を体験することができました。

鈴木:jekiが製作委員会に入っていた映画『藁の楯』(主演:藤原竜也)では、衝撃的な中づり広告にも挑戦し、大瀧さんにもご尽力いただきました。その後、プロデューサーに転身されたとうかがって驚きました。何かきっかけがあったのですか。

大瀧:もう少し映画に特化した仕事をしたいと考え始めていた頃、ある映画でマネージャーのままプロデューサー的な仕事を担うことになったんです。藤原さんが主演で、どうしても実現したい企画だったので、率先して会社の説得や脚本、キャスティングなどにも関わりました。その経験から、映画の全方位に関わりたいという気持ちが抑えられなくなり、ちょうど30歳になる年に転身を決心しました。

鈴木:それでWOWOWに入られたのですね。マネージャーとしての経験が、プロデューサーとしての仕事に影響しているという部分はありますか。

大瀧:大いにありますね。映画は製作委員会という共同体でつくることが多く、多くの関係者がさまざまな役割や責任の下で映画を成功させようと動いています。その一員としての経験があることは、プロデューサーとして全員の考えや意見を一つにまとめる際の軸になっています。始めの頃は業務の流れを追うのに必死でしたが、今はムダな動きが減って、「あてる」ための工夫がいろいろとできるようになってきたように思います。

鈴木:とはいえ、『ゴールデンカムイ』ほどの大きなプロジェクトを、プロデューサーとしてまとめられるプレッシャーは相当なものだと想像します。

大瀧:プレッシャー含めて日々刺激的です(笑)。企画の根幹から関わり、世の中に羽ばたいていくのを見るのは何ものにも代えがたい喜びがあります。作業量が膨大で大変なことも多く、常に追い詰められて必死ですが(笑)、非常にやりがいのある仕事だと思います。とりわけスタッフィングが肝要で、特に今回はあらゆるチームで経験と実績が豊富で優秀な方々に依頼がかなったので、まさにすごいチームで挑んでいるという感覚があります。自分ひとりで背負っているわけではない。仲間に強力な面々が揃っているからこそ、幹事を全うさせていただけるのだと感謝しています。

コアなファンに響き、新たなファンにもアプローチする方法を模索

鈴木:宣伝・PRもプロデューサーの大きな仕事ですね。我々も製作委員会メンバーとして映画を盛り上げていきたいと思います。

大瀧:多くの方に楽しんでいただける映画なので、広くプロモーションすることを意識しながらも、熱狂的な原作ファンの方々の支持をいただき、しっかりと口コミで広がっていけばいいなと思っています。その意味で、jekiさんがTVアニメの製作委員会で培ってきた経験や知見は、とても貴重だと感じています。

鈴木:ありがとうございます。原作やアニメのファンを映画に動員するだけでなく、ファンを味方にして、そこから新たなファンを映画へとつなげられたらと思っています。

大瀧:原作ファンに対して「どこをどう訴求すればいいのか」という視点からのjekiさんのご意見は、本当に参考になります。それは宣伝だけでなく本編についてもいえることで、たとえば編集段階の試写でご意見をいただき、流れを作り直したこともありました。「ファンならこう感じる」を代弁してくださるのは心強く、一緒にプロデュースワークをしている感がありました。

鈴木:そうおっしゃっていただけると嬉しいです。ただアニメと映画では、映画のほうが”マス”なので、原作やアニメに触れていない人にもアプローチできればと考えているところです。考えうる手法を細かく積み上げることで結果として広く訴求できればと思っています。

大瀧:さまざまな要件に応じてシフトチェンジできるフットワークの軽さはjekiさんの魅力だと思います。ぜひ、お力を貸していただけると幸いです。

鈴木:もちろんです。今回お話をうかがって、改めて『ゴールデンカムイ』のチームのメンバーとして、息の長いコンテンツとなるよう力を尽くしていきたいと感じました。本日はありがとうございました。

©野田サトル/集英社 © 2024 映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

<了>

鈴木 寿広
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツ第二部長
2003年jeki入社。2007年より現職。
映画・TVアニメ等への事業参画、自社オリジナルIPの企画開発等、これまで多くの作品を担当。
「新幹線変形ロボ シンカリオン」シリーズは、プロデューサーとして、企画立上げからビジネス面・制作面など作品全般に従事。

大瀧 亮
株式会社WOWOW 事業局 エンターテインメント事業部 チーフプロデューサー
大学卒業後、ホリプロに入社し8年間タレントマネジメント業務に従事し藤原竜也らのマネージャーを務める。
2015年にWOWOWに入社し、以降映画の企画・製作・出資・配給を担当。
これまでの主なプロデュース作品に『太陽は動かない』『アキラとあきら』、配給作品に『劇場版 そして、生きる』『優しいスピッツ a secret session in Obihiro』など。
今後の待機作に『ミッシング』(5月17日公開)、『ディア・ファミリー』(6月14日公開)がある。

上記ライター鈴木 寿広
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