重厚な社会派小説の映像化にスーパーチームが”奮い立つ”!映画「罪の声」

エンターテインメント VOL.5

写真右:株式会社TBSテレビ プロデューサー 渡辺信也氏
写真左:ジェイアール東日本企画 コンテンツビジネス局 コンテンツ第二部 伊藤渉太

日本中を震撼させ未解決のまま時効となった大事件をモチーフとするベストセラー小説。その映画化作品『罪の声』が10月30日(金)に公開されます。小栗旬さんと星野源さん、人気と実力を併せ持ち、日本のエンタメ界を席巻する二人が本作で映画初共演を果たしたことでも大きな注目を集めています。

今作品のプロデューサーを務める株式会社TBSテレビの渡辺信也氏。実際に起きた犯罪から想起した重厚な社会派長編小説の映画化という難題にあえて挑んだ理由とは何か、そして映画を通じて伝えたい思いとは何か。本映画の製作委員会に参画し、映画のプロモーションを担当する、ジェイアール東日本企画のコンテンツビジネス局伊藤渉太がお話を伺いました。

©2020 映画「罪の声」製作委員会

原作を起点にスーパーチームが“奮い立つ”!
重厚感のある社会派作品が堂々登場

伊藤:早速、試写を拝見させていただきました。最近なかったような、非常に骨太な本物感のある作品だと思いました。

渡辺:それは良かったです。ご覧になった方から嬉しい感想をたくさん頂いたのですが、「いい意味で想像を裏切られた」という声をよく聞きました。事件や犯罪を扱ったミステリー映画なんだけど、観終わり感が全く違うといいますか。

伊藤:確かにずしんと心にくる重みがあるのですが、観た後には不思議な清々しさも感じて…。小説もすばらしかったのですが、映像化されたことで緊迫感といいますか、リアルさが伝わってきて、映画の良さをつくづく感じました。しかし、よくこんなに難しいテーマを映画化しようなどと思われましたね。

渡辺:小説に出てくる台詞をお借りしながら表現すると、“奮い立った”んですよね(笑)。塩田武士先生が書かれた原作は、2016年8月の発売直後から、多くの人が知る昭和の未解決事件がモチーフということで話題になっていて、私もすぐに手にとったんです。読み始めたらプロローグからガツンとやられました。実際の事件の脅迫電話に子どもの声が使われていたという事実を基に、知らぬ間に声を使われた本人が大人になってからそのことを知るというのが物語の端緒ですが、その着想が本当に凄いと思いました。フィクションではあるけれど、確かにその声の主は今もどこかに居るかもしれないと思わせるリアリティに溢れていて。これを映像化したい、もし出来たらお客さんの気持ちを冒頭からわしづかみにして最後まで目が離せない作品になるに違いないとゾクゾクとしたんです。

渡辺:TBSテレビを代表する演出家・土井裕泰監督、「逃げれば恥だが役に立つ」「MIU404」など数々の大ヒットドラマの脚本を担当してきた野木亜紀子さん、演じる俳優陣は小栗旬さん、星野源さんと、自分がこの作品に望んでいたカードが一枚また一枚と揃っていきました。私はそのスーパーチームに何とか食らいついて、ここまで並走させてもらったというのが、本当に素直な感想です。

良質なエンターテインメントでありつつ
世代を超えた普遍的なテーマで心に迫る

伊藤:情熱が情熱をよんで、大勢の方が相当の熱量をもって映画作りに取り組まれたのだろうと思います。その熱量のせいなのか、謎解きミステリーだけではない、心に響く人間ドラマとしての魅力が強く感じられました。

渡辺:まず、この映画が発信するテーマを何にするのかを、那須田プロデューサーと土井監督、野木さん、私の4人で話し合うことから始めました。その話し合いの中で最初からブレずに焦点を当てたのは、「子どもを犯罪に巻き込むことの罪深さ」。声を使われた3人の子どもは、重い十字架を背負って生きることになります。本来であればそれぞれ夢を目指して、違う未来があったはず。彼らがたどる過酷な運命を描くことで、夢を絶たれた子どもの無念、大人たちがしたことの愚かさが伝えられたらと。原作者の塩田先生が大事にされている「子どもは未来」というメッセージを、映画という形でもお客さんにお渡ししたいと思いました。この映画を観に来てくださるお客様は、モデルになった事件に興味をもっている方、原作を面白く読んだ方、小栗さんや星野さんのファンの方など本当に様々だと思います。観るきっかけはバラバラでも、すべてのお客様にエンターテインメントとして楽しんでいただいた上で、この作品のメッセージを受け取って頂き、観賞後に何かを考えたり、思いを馳せて頂けたら嬉しいです。

緻密なパズルのような脚本づくりに四苦八苦
映画ならではの「発明」でまとめ上げる

伊藤:まさに皆さんの熱意や思いが反映されているのだと思います。しかし、500ページもの大作を2時間規模の映画に凝縮するのは、思いの強さだけでは難しいですよね。

渡辺:はい、脚本作りは本当に大変な作業でした。特に原作の前半、事件の真相にじわじわと近づいていくミステリーの情報量が膨大で、2時間程度の脚本にどう落とし込むかが、途方に暮れるほどの難題でした。原作をただカットすれば良いという単純なことではなく、カットしたらその前後のシーンをどう接合するのかの発明が必要で、進んではまた戻るの繰り返し。昼過ぎに始めた打ち合わせが、終わると夜が明けているという日が何日もありました。ただ、野木さんは非常にクレバーな脚本家で、原作が持つ大事な骨を残しながら、大量の情報をさばいていく構成力が素晴らしく、幾つものアイデアで脚本上のピンチを救ってくれました。
脚本でこだわったことの一つが、阿久津と俊也が出会うタイミングを原作より早くして、映画の真ん中くらいに持ってきたことでした。小栗旬と星野源というドリームキャストを生かし、後半をある種のバディムービーとしても楽しめるようにしたいと。

渡辺:完成した作品を見ると、やっぱり二人が一緒に動く場面はワクワクしますよね。終盤、二人がそれぞれ重要な人物に出会い、交互にシーンバックすることで事件の真相が明らかになる構成になっていますが、これも原作から大きく変えさせて頂いた脚本上の発明です。

小栗旬さんと星野源さんの初共演が実現
異なる個性のぶつかり合いに注目を

伊藤:いろいろと脚本化に当たってはご苦労があったのですね。撮影についてはいかがでしたか。主演の小栗さん、星野さんの役への思いやアプローチがそれぞれ個性的で、二人の違いや関係が、うまく映画にも投影されていたように思います。

渡辺:小栗さんは映画やドラマでありとあらゆる役を演じていらっしゃいますが、今回の阿久津は普通の新聞記者。しかも、いわゆる熱血記者ではなく、ジャーナリストとしての最前線・社会部から自ら身を引き、今は文化部にいるという設定です。撮影前の小栗さんと土井監督の話し合いで、普通の男性を演じるのだから、あえて何も準備をしないで臨むことになりました。しかし、阿久津が事件にのめり込んでいくと、表情が徐々に引き締まっていくように見える。完成した作品を観ると、阿久津の人間としての変化が小栗さんの表情や演技を通してしっかりと体現出来ている。現場ではいつも自然体で、間近で見ていても特殊なことをしている感じはなかったのですが、緻密に演技プランを組んで撮影に臨んでいたのだと思います。さすがだと感じました。

渡辺:星野さん演じる曽根俊也は、京都で親から引き継いだテーラーを営み、子ども時代に知らぬ間に自分の「声」を事件の脅迫に使われた男。大人になってからその衝撃の事実を知るくだりはこの物語の象徴的な入り口です。俳優以外にも音楽家や文筆家としても活躍される星野さんが持つ職人性が、テーラーの佇まいにピッタリはまっていました。「なぜ自分の声が過去の犯罪に?」と苦悩しながらも、真実を知るために動かずにいられないという複雑な役どころを繊細に演じてくださいました。星野さん自身も穏やかで繊細な気配りが出来る方ですが、俊也はまさにはまり役だったように思います。クランクイン前から京都弁の習得に苦労されていましたが、ミュージシャンならではの耳の良さが生かされたのか、限られた時間の中で自分のものにしていたのも印象的でした。

伊藤:映画の中で二人が出会うのは中盤からで、以降は一緒にいる場面も多いですが、実際のお二人のご様子はいかがでしたか。

渡辺:スケジュール的には星野さんが先にクランクインして、俊也のパートを10日間くらい撮った後に小栗さんが合流しました。土井監督の強い希望もあって、最初に一緒に撮影したのは、劇中で二人が初めて出会うシーンだったのですが、僕らがずっと思い描いていた阿久津と俊也がまさにそこに居ると感じさせてくれるお芝居で印象深かったです。あの場にいたスタッフ全員がそう思ったのではないかと。激しい衝突から始まった二人が、徐々にその距離を詰めていく関係性の変化も自然に演じられていて、特に瀬戸大橋をバックに阿久津が自らのプライベートを俊也に吐露するシーンは、小栗さん、星野さんの息がピッタリ合っていて忘れがたいです。全撮影を通して、小栗さんも星野さんも終始、スタッフと同じ目線をもったクルーの一員として臨んでくれて、土井監督の温かいキャラクターも手伝って、非常に穏やかで大人な雰囲気の現場だったと思います。

作品の“熱さ”を伝えることで
「映画館へ行く」という行動を促したい

伊藤:この映画の企画を聞いた時、実は個人的に原作を読み、事件のことも調べて、ぜひプロモーションを手伝わせていただきたいと思ったんです。

渡辺:伊藤さんも“奮い立って”くださったんですね!

伊藤:はい!でも、実際の事件がモチーフという社会派作品ということもあって、タイアップが難しいなど現実的には苦労しています。試写も観て、皆さんに観ていただきたいという気持ちが強まって、なんとももどかしいです。

渡辺:本作はタイアップの難しさも含め、作品を広げるためには新しい知恵や努力が必要な企画だと思います。でも嬉しかったのは、jekiさんはじめ多くの会社の方々が、このチャレンジングな企画に興味を持って、一緒にやってみようと集まってくれたことです。作品を「作る」ことにチームの熱量が欠かせないのは勿論ですが、作品を「広げる」ことも全く同じです。僕はどんな作品でも、製作委員会の皆さんの熱量無くして成功はないと思っています。なので委員会のメンバーお一人おひとりに「これは自分の映画なんだ」と思って頂き、プロモーションを「自分ごと」だと実感して頂くことがとても大事だなと。長いお付き合いであることに甘えて、今回伊藤さんにも無理難題ばかりを相談しておりますが(笑)、信頼できるパートナーの気持ちを“焚く”ことも僕らの役割だなと思ってます。会社の枠を超えて、同じ熱量を持った仲間と闘うほうが楽しいし、そういう想いの連鎖が最後はお客さんに届くのだと、そんなアナログなことを信じてやっています。

伊藤:いやもう、原作、試写、渡辺さんと焚かれまくってます(笑)。先ほど難しいとお話ししたタイアップも、小栗さんのスーツ姿や、星野さんのテーラー役という部分をフックに提案したスーツセレクトさんで実施いただくことが決まりました。個人的に、小栗さん演じる阿久津の熱さや働きを観ていて、仕事に対するモチベーションが上がったので、スーツを着るビジネスマンの方には、ぜひ、観ていただきたいと思っています。

伊藤:また、交通広告の展開もお手伝いさせていただいていますが、映画を観た方、原作を読んだ方のレビュー(=声)を届ける企画として、ベストな見せ方を模索しながらギリギリまで皆さんと喧々諤々とやらせていただきました。しっかりと広告を観た人の視聴意欲に繋がるものに仕上がったと思います。こうして僕も少しでも世の中を焚ければと思っています!(笑)

渡辺:ありがとうございます!今回はコロナのこともあって、大規模な試写が出来なかったので、公開前の口コミ効果には若干不安を感じていました。なので、先に映画や原作に触れた方の「声」を伝播させることはとても大事で、交通広告でトライしてくださっている施策は映画に大きな力を授けてくれると思います。伊藤さんがおっしゃるように、プロモーションとは、コンテンツという「薪」を使って、お客様の気持ちを焚くことなんでしょうね。映画『罪の声』は、企画の出発点から制作現場、委員会の宣伝に至るまで、多くの人の熱量が詰まっていると思います。一人でも多くのお客様にそれが届きますよう、引き続きお力を貸してください。

伊藤:jekiとしても、作品の熱量が伝わるようなプロモーションのお手伝いができればと思っています。本日はありがとうございました。

映画『罪の声』 2020年10月30日(金)公開! 小栗旬×星野源 映画初共演!
https://tsuminokoe.jp/

【あらすじ】
35年前、日本中を巻き込み震撼させた驚愕の大事件。
食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件は、誘拐や身代金要求、そして毒物混入など数々の犯罪を繰り返す凶悪さと同時に、警察やマスコミまでも挑発し、世間の関心を引き続けた挙句に忽然と姿を消した謎の犯人グループによる、日本の犯罪史上類を見ない劇場型犯罪――。

大日新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は、既に時効となっているこの未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、取材を重ねる毎日を過ごしていた。
一方、京都でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、家族3人で幸せに暮らしていたが、ある日、父の遺品の中に古いカセットテープを見つける。
「俺の声だ――」
それは、あの未解決の大事件で犯人グループが身代金の受け渡しに使用した脅迫テープと全く同じ声だった!

やがて運命に導かれるように2人は出会い、ある大きな決断へと向かう。
「正義」とは何か?「罪」とは何か?
事件の深淵に潜む真実を追う新聞記者の阿久津と、脅迫テープに声を使用され、知らないうちに事件に関わってしまった俊也を含む3人の子供たち。
昭和・平成が幕を閉じ新時代が始まろうとしている今、35年の時を経て、それぞれの人生が激しく交錯し、衝撃の真相が明らかになる――

エンターテインメント

jekiが取り組むアニメ・キャラクターコンテンツの開発背景や裏話など、表には見えてこない舞台裏をキーマンへのインタビューを中心に紹介します。

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  • 伊藤 渉太
    伊藤 渉太 コンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー

    2016年jeki入社。コンテンツビジネス局に配属後、「新幹線変形ロボ シンカリオン」の立ち上げからアニメ、映画化まで担当。その他、多くの映画やアニメ製作委員会に事業参画。