小山薫堂 企画・脚本の完全オリジナル作品
映画『湯道』
誰もがほっこり浸れる“お風呂エンタメ”のつくり方

エンターテインメント VOL.15

写真右:株式会社フジテレビジョン 編成制作局 ドラマ・映画制作部 加藤 達也氏
写真左:jekiコンテンツビジネス局コンテンツ第一部 有賀 新

2023年2月に公開を迎える映画『湯道』。小山薫堂さんの企画・脚本に加え、生田斗真さん、濱田岳さん、橋本環奈さんをはじめ、個性豊かな豪華キャスト陣、制作陣が大変話題となっています。今回は、本作品のプロデューサーであるフジテレビの加藤達也氏と、製作委員会メンバーとしてタイアップ企画などに取り組んでいるjekiコンテンツビジネス局の武内佑介、有賀新が、製作の裏側や作品の見所を語り合いました。

©2023映画「湯道」製作委員会

「湯道」に共感した“映画のプロ”がイチから創り上げた物語

武内:『湯道』というタイトルはかなりインパクトがありますが、小山薫堂さんが企画・脚本を手がけられたオリジナル作品となっています。映画化のきっかけをお話しいただけますか。

加藤:小山さんがもともとお風呂好きで、2015年頃より華道や茶道などのように、入浴を日本特有の文化や伝統の一つとして捉える「湯道」を提唱され活動されていたのが企画の起点です。映画化の企画が持ち込まれると鈴木雅之監督や当社の若松央樹プロデューサーが賛同し、そこからプロジェクトとして立ち上がっていきました。

私も2020年から遅れて参加したのですが、原作があるわけでもなく、最初はまったく違う内容だったんです。かねてより企画開発として、小山さんと鈴木監督でキャラバンを組んで、温泉地や銭湯に行ったり、有識者や銭湯経営者に会いに行ったりと、シナリオハンティングに2〜3年をかけました。

小山薫堂
放送作家。脚本家。京都芸術大学副学長。京都の料亭「下鴨茶寮」主人。1964年6月23日熊本県天草市生まれ。日本大学芸術学部放送学科在籍中に放送作家としての活動を開始。「料理の鉄人」「カノッサの屈辱」など斬新なテレビ番組を数多く企画。脚本を担当した映画「おくりびと」で第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回米アカデミー賞外国語部門賞を獲得。執筆活動の他、地域・企業のプロジェクトアドバイザーなどを務める。熊本県のPRキャラクター「くまモン」の生みの親でもある。
2015年より、現代に生きる日本人が日常の習慣として疑わない「入浴」行為を突き詰め、日本文化へと昇華させるべく「湯道」を提唱。2020年10月「一般社団法人湯道文化振興会」を創設した。現在、雑誌PenおよびWebsiteにて、「湯道百選」を連載中。

有賀:マンガや小説などの原作ではなく、オリジナルというのが珍しいですよね。

加藤:メインの舞台となる「まるきん温泉」は長崎の丸金温泉がモデルですし、料理屋「寿々屋」や「くれない茶屋」のモデルになったお店も実在していますが、シナリオハンティングは、単に見聞きするだけではありません。たとえば、東京都・滝野川にある稲荷湯では、実際に片付けを手伝ったり、床掃除をしたりしています。みんなで体験・体感したことが、物語にも活かされているんです。

武内:生田斗真さん、濱田岳さんが演じる銭湯を営む兄弟にも登場人物にもモデルがいるんですよね。微妙な間合いというか、空気感がとてもリアルです。

加藤:はい、兄弟で営業されていた京都の柳湯さんと交流した経験から、兄弟を中心とする「まるきん温泉」の物語にするという構想が湧いたそうです。そして彼らが営む銭湯に集まる人間模様を描き、さらにその人達が交差するという物語へとつながっていきました。そこに映画「マスカレード・ホテル」など群像劇を得意とする鈴木監督のアイデアも存分に取り入れられていきました。お風呂には誰もが何らかの思いや物語を持っていて、個人的でありつつ共感もできる。そうした複数の物語を登場人物に投影させていき脚本を練っていきました。

「楽しむこと」が人を巻き込んで、大きな渦になっていく

武内:キャストの皆さんも豪華ですよね。歌手やお笑い芸人といった普段は映画に出ないような方も参加されています。

加藤:主演の生田斗真さん、濱田岳さん、橋本環奈さんは、企画が固まり始めたところで、皆で話しながら決めてオファーしていきました。皆さん人気もありますし、お芝居も非常に達者で、唯一無二の存在感があります。さらに3人の掛け合いが見たいという意図があったと伺っています。また、「湯道」を学ぶ定年間近の郵便局員の横山という役は、初めから小日向文世さんのイメージが全員にあり、他の候補が思いつかないくらいでした。そして、「お風呂で歌を歌ってもらう」となれば本物の歌手の方ということで天童よしみさん、日本の歌をしっとり歌うハーフの息子役はクリス・ハートさん、風呂仙人はその得体の知れない存在感で柄本明さん、ストイックな「湯道」家元の内弟子に窪田正孝さんというように、みんなで「演じてもらいたい人」をあげて、次々と依頼していきました。

原作もないなかで、どなたもお忙しい方々ながら、小山さんと鈴木監督の企画であり、「湯道」という不思議な世界観を面白がってオファーを了解してくださいました。気づいてみたら「オールスターキャスト」という状態で、本当に華やかな映画になったかと思います。

有賀:皆さんお忙しい方ばかりなので、調整が大変そうですよね。

加藤:一番大変だったのは、「まるきん温泉」に一堂に会するシーンのスケジュール調整です。でも撮影が始まれば、京都の松竹撮影所にホテルから通っていただいたので、まるで合宿のように和気あいあいとして楽しい現場になりました。東京だと他の仕事の合間になるので、なかなか時間を共有することが難しいんです。

武内:その雰囲気は映画からも伝わってきますし、舞台となった銭湯なども細部まで魅力的で、絵としても楽しめますよね。

加藤:鈴木監督はシチュエーションの中で演出されるのが巧くて、どの映画もまるで舞台を見ているようなんです。シンメトリーな画づくりなど、画面がしっかりと計算されていて。その監督の撮り方を目指そうとすると、実際の銭湯でのロケはコントロールが難しいとのことで、京都の撮影所で銭湯と街並みのセットを組みました。結果的に、映画の経験が豊富な京都のメンバーと、気心知れた東京のメンバーというハイブリッドなスタッフが集結したことで、古くて新しい『湯道』らしい試みになったと思います。

有賀:セットでは実際にお湯も使われるなど、本作ならではの撮影ということで大変だったと思います。

加藤:銭湯でのシーンは本当に苦労しましたね。撮影所内に銭湯同様のセットを造り、脇にボイラーを用意して蛇口をひねるとお湯が出て、温度管理もできるようにしました。キャストの方は長く浸かっているとのぼせるし、タオルも持ち込めない。肌水着を着用していますが、それも見えないように人の配置や画角でうまく隠して、そこはもういろいろと工夫しました。

“入浴”という日常の中に、小さな幸せや人生の豊かさを感じてほしい

武内:あらためて、制作プロデューサーとして、この『湯道』を通じて、どんなことを伝えたいと思われますか。

加藤:小山さんは『湯道』について、「入浴は日常的な行為だけれど、少し追求して考えてみると気づいていなかった小さな幸せや人生の豊かさにふれられる」と語っています。映画も同じで、「身近な生活の中にある、ささやかで見過ごされがちな幸せ」に気づいていただけたらと思っています。

ただ、エピソードはさまざまで、刺さる部分は皆さんそれぞれだと思うんですよね。たとえば、小日向さんの家族からのプレゼントの話とか、笹野高史さんのなくした後で気づく大切な存在とか、じんわり泣けたという方は多いです。個人的には、生田さんと濱田さんの兄弟の確執から関係を再生していくところに共感がありました。

有賀:私は吉田鋼太郎さんのキャラクターの強さはさすがだなと思いました。厚切りジェイソンさんのエピソードも非常にコミカルですよね。

加藤:そう、入浴という日本の習慣・文化に対するリスペクトがありつつも、大仰で真面目に取り組むバカバカしさも映画の魅力の一つだと思います。ぜひ肩のこらないコメディエンターテインメントとして気楽に楽しんでほしいですね。お風呂に入るのと同じように、映画を観てジンと熱くなったり、ほっこりしたりして、日々のストレスをすっきり洗い流し”整って”もらえたらと思います。

最後のエンドロールで、ある仕掛けがあるのですが、多幸感が溢れていて、まさに映画を象徴しているといえるでしょう。最後まで観ていただきたいですね。

自由な発想と手法で、楽しみながら映画との出会いを提供したい

武内:加藤さんはフジテレビに入社後、編成関連部の企画班に10年間在籍され、3年前に映画制作部に異動されたそうですね。本作品を含め、映画のプロデュースをどのように捉えていますか。

加藤:「どんな企画をどんな人達とつくっていくか」を考えて実行していくという意味で、プロデューサーはレストランのオーナーのようなものだと思います。シェフである監督がお店のコンセプトを決めて切り盛りするのを、人事や、環境面で支え、事業として成立させていく。そのお店の種類や規模が変わっても行うべきことやスタンスは変わりません。

個人的には、テレビ・映画について高い芸術性を追求していくというより、多くの人が観て楽しめるエンターテインメントを届けたいと思って仕事をしてきました。『湯道』も、笑いながらじわっと幸せになれる作品なので、関われたことをとても嬉しく思っています。

武内:プロデューサーのお仕事として、マーケティングやプロモーションも重要かと思いますが、『湯道』について特に意識されていたことはありますか。

加藤:基本的には「『湯道』ってこうだよね」という先入観をもたれないよう、幅広い方々にさまざまな形で訴求していくことを考えました。そのために、キャスティングやシナリオハンティングと同様、プロモーションについても、みんなで面白がってアイデアを出し合いました。宣伝大使にガチャピン&ムックが就任したのもその一つですし、予告ではコメディ感を強く打ち出したり、劇場用特報にノーリツの「お湯はり完了メロディ」を使ったりしています。フライヤーもノスタルジックに振ったり、ドラクロワ調で遊んでみたり。王道の宣伝をするよりも、「面白そう」「ちょっと観てみたい」と思ってもらえるきっかけを提供できればと考えています。

またメディアが多様化している昨今、適材適所での広告物を届けることを意識的に行いました。テレビ局の強みを活かしながらも、TwitterやTikTokなどのSNSも広く活用しています。カルチャー度が高い方には書店で世代にあったキービジュアルを出したり、キャストのファンの方にはあえて「湯道」色を抑えたり、アプローチ法はいろいろ変えていますね。jekiさんにご提案いただいた、JR東日本の「大人の休日倶楽部」とのタイアップでは、ミドル・シニア層を意識して温泉と絡めています。

有賀:お風呂と旅行は親和性が高いですからね。感謝や自己研鑽といった「湯道」を嗜む姿勢にも共感を持っていただけそうです。

武内:『湯道』を広めるために、他にもお手伝いできることがあればと考えています。
「お風呂」は働いている方と相性が良い要素ですよね。

加藤:ありがとうございます。交通広告では働いている方、「ちょっと疲れたな」と感じる方に訴求できればいいですね。他にも、ぜひ面白くて”変な”アイデアをお待ちしています(笑)。せっかく型にはまらない自由度の高い作品なので、プロモーションについても自由に遊ぶ中でビジネスにもつなげていく。そんなスタンスで一緒に『湯道』を盛り立てていただけば幸いです。

武内:一緒に日本中を沸かせていきましょう!本日は誠にありがとうございました。

<了>

有賀 新
コンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー
2021年入社。コンテンツビジネス局に配属後、映画・アニメへの事業参画・宣伝等に従事。
コンテンツタイアップのサポート業務にも取り組んでいる。

加藤 達也
株式会社フジテレビジョン
編成制作局 ドラマ・映画制作センター
ドラマ・映画制作部 主任。
2009年フジテレビ入社。
編成部に配属され、「世にも奇妙な物語」「リーガルハイ」、「スキャンダル専門弁護士QUEEN」など多くのテレビドラマをプロデュース。
2019年に映画制作部に異動し、21年「地獄の花園」の企画・プロデュースを手掛ける。

エンターテインメント

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