山手線30駅を舞台にしたアイドルプロジェクト『STATION IDOL LATCH!』スタート!
その誕生の裏側とこれからに迫る

エンターテインメント VOL.10

写真右から
株式会社アミューズ 執行役員 山内 学 氏
オリガミクスパートナーズ株式会社 加藤 奈都美 氏
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー 岡本 藍
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー 埜田 麻由

山手線30駅の個性豊かな駅員のキャラクターが、終業後はアイドルとして活躍するというビッグプロジェクト『STATION IDOL LATCH!』。駅や街の特徴を盛り込んだキャラクター30人の魅力もさることながら、豪華声優陣によるボイスドラマを軸に、楽曲の配信・CD化やグッズ販売など、マルチな展開が話題となりつつあります。

今回は、原作窓口のAAO Projectのメンバーかつ製作委員会の幹事会社である株式会社アミューズの山内学氏、原作でありシナリオチームとしても参加しているオリガミクスパートナーズ株式会社の加藤奈都美氏、そして同じく原作に携わり、委員会メンバーとして企画開発に取り組んでいるjekiコンテンツビジネス局の岡本藍と埜田麻由が集まり、『STATION IDOL LATCH!』誕生のきっかけや、キャラクター開発の裏側、今後の展望などを語り合いました。

「がんばっている駅員さん」を起点に企画の種が誕生

岡本:『STATION IDOL LATCH!(以下、LATCH!)』のティザーを公開した5月以降、期待以上に大きな反響があり、これからのことを考えてワクワクしています。オリガミクスさんから初めてアイデアを聞いた時には、「駅員さんがキャラクターに!?」と、興奮したことを今でも覚えています。

加藤:もともとは、AOI Pro.とアミューズ、オリガミクスの三社でオリジナルIPを開発するという「AAO Project(以下、AAO)」の一環として、私が「駅員さんが好きだから」というシンプルな理由で企画をあげたのがきっかけです。駅員さんは私たちの日常を支えるエッセンシャルワーカーの代表格でもあり、とてもハードな仕事なんですよね。そんな彼らが終業後はアイドルとして活躍する、という設定については、JR九州のよさこいチーム「櫻燕隊」をイメージソースの一つにしています。多忙な鉄道員さんたちが業務後に練習を重ね、イベントではキレキレのダンスで盛り上げるという姿に心を射抜かれてしまいました。

岡本:同じように、業務後に「ラッチ=改札口」を出るとアイドルになる!という変身の瞬間を表して、「LATCH!」としたんですよね。

山内:アイドルであり、駅員であるという。そのギャップのある両面が魅力的に映る作品になっていければと思っています。アミューズとしては、プロジェクト幹事会社でありながら、ボイスドラマや楽曲制作など、アイドル活動の方を支援することが多いので、つい彼らが駅員さんであることを忘れがちになるのですが(笑)。

埜田:確かに、私も初めて相談をいただいた時には、「駅員さんがアイドルに?」と一瞬イメージが湧きませんでした。jekiでは「シンカリオン」や「とれたんず」など車両をモチーフにしたキャラクター開発を行うことはあったのですが、駅員さんにフォーカスしたものは経験がなかったんです。でも、話をするにつれ「いけるかも!?」と全員一致で盛り上がり、早速取り組むことになりました。

岡本:最初は戦闘モノというアイデアもありましたね。でも、鉄道モチーフで女性向けのコンテンツが少ないということで、加藤さんから出ていた「イケメン駅員さんが業務後はアイドルになる」という設定に、割と早い段階で決定しました。私は音楽好き、埜田は声優やキャラクターが好きで、担当決めでは「私と埜田がやります」って前のめりで手を挙げました。

山内:そうだったんですね。2人ともすごく熱意があって、加藤さんを含め、ファン心理をすごく大切にされているとは思っていましたが、コアターゲットでもあったという(笑)。私自身は、AAOでの企画にjekiさんが参画して原作となる企画として固めていただくのを、作戦を練りながら見守る形でした。なので、私が合流した時には、原作の企画がほぼ完成し、世界観も明確だったので、それを具体的に委員会でプロデュースする時点で、その時点でのある種目指すべき方向は明確になってきていた感じです。

加藤:企画から原作開発はオリガミクスとjekiで行い、その内容をAAOや委員会に共有して、フィードバックをいただくという流れでしたね。とはいえ、本当に「見守る」という感じで、自由にさせていただいたと思います。

駅や街のキーワードから、魅力的なキャラクターを膨らませる

加藤:そもそもの企画が「山手線の30駅の駅員さんの話にしよう」という漠然とした設定だったので、原作およびキャラクターの設定については、まずは駅の特徴を書き出すところからはじめました。

埜田:そうでした!秋葉原は電気街でアニメの街で…とか、駅の特徴やイメージを書き出して。でも、自分がよく使う駅はすぐに思いついても、あまり知らない駅もあって、いろいろ調べました。

加藤:1人の人間として魅力的にしたいという想いを大事にしました。そのため全ての特徴を盛り込んだというより、ピンポイントで特徴やイメージを取り出して、そこから個性のあるキャラクターになるようにイメージを膨らませていきましたね。

埜田:東京駅は駅舎が綺麗で皇居も近いことから、王子様っぽいキャラクター、というようにすぐに想起できたものや、鶯谷駅のように、駅名の「うぐいす」から発想してキャラクターの性格や嗜好、そして衣装などへと膨らませるなど、ひねりを加えたものもあります。

岡本:駒込駅も特徴的で、実は「ソメイヨシノ(桜)の発祥の地」というところから膨らませています。六義園もあるので花言葉を操るフローリストに。意外とイメージの湧きづらい駅の方が、調べるといろいろと発見があって、その分愛着が湧きました。ファンの方にも伝わるといいなと思います。

加藤:あまり知られていない駅のキャラクターのデザインにはより強く特徴を打ち出して、全体のバランスを取っていきました。順番としては、駅の特徴の調査・抽出→カギとなる要素から発想したキャラクターの設定やデザイン→名前付け、でしょうか。30駅分の個性の出し方のバリエーションが必要なので、バランス感なども含めて悩みましたね。

埜田:パーツとしては制服のデザインが一番大変でしたよね。JR東日本とも細かく調整することになりました。

山内:確かに、駅や街に潜む背景がキャラクターに活かされていたり、‟気づく人は気づく”設定が多数盛り込まれているところの深みは、肝となる魅力の一つでコンテンツを応援してくださる方々に少しずつ広げていきたいですね。永遠に気づかれないことがないように(笑)。

世界観を共有し、協力しあって“妄想”を具現化させる楽しさを実感

岡本:キャラクターができ、「LATCH!」の世界ができて、それをさらに事業化するにあたり、アミューズさんの中ではどのような議論がなされていたのですか。

山内:コンテンツの動きは、ここにいらっしゃる皆さんも含む、委員会メンバーみんなで決めていっている感じですが、魅力的なキャラクターがいて、まず、最初の世の中との接点の一つが「ボイスドラマ」、その次にドラマに紐づく形で音楽を作ってく感じでしたよね。キャラクター設計ができた時点で、声優のキャスティングを行っていきました。まず決定したのは、圧倒的なカリスマ性を持つ「レジェンドユニット」です。東京駅を小野賢章さん、新宿駅を田丸篤志さん、池袋駅を島﨑信長さんにご依頼しました。そして、数々の駅のキャスティングが進み、最後が、渋谷駅・原宿駅・代々木駅を決めることになった、「JUNON×AMUSEアイドルオーディション」で選ばれた新人3人という感じでしたよね。

埜田:その他の駅についても、キャラクターのイメージに合わせて日韓で活躍する方、渋めのベテランの方、というように決めていきました。アミューズさんから数名ずつ推薦いただいての内部オーディションでしたが、ほぼブレずに決まったのは、予めかなり絞ってくださったからでしょう。

山内:歌と密接に関わるコンテンツだったので、キャラクター性だけでなく歌唱の要素も考慮してキャスティングのチームが動いてくれました。結果として、声優の方をはじめ、さまざまなキャストの方に参加いただけることになっていきました。

加藤:キャスティングの時に、セリフだけでなく歌唱サンプルを聴けたので、キャラクターが歌っているイメージがぱっと浮かんできました。

山内:委員会の中でも、作品における音楽のあり方はいろいろな案がありましたが、ボイスドラマで生まれるストーリーやキャラクターの関係性を重視して、ユニットやチームで音楽をリリースしようということになったんです。この2人なら「友情」、この3人なら「夢」がテーマというように、楽曲や歌詞、歌い方などにも反映されていきました。音楽の質感としては、いろいろなキャラクターが歌うキャラクターソングでありながら、従来の音楽アーティストが、アーティスト活動の中でリリースするような質感や、多様性を感じられるクオリティにと考えてはいました。

埜田:私は曲ができる度に、毎回感動していました。私たちから提供した情報やリクエストは、たとえば「王道アイドルソングで」というように曖昧だったにもかかわらず、あがってきたものは想像以上でしたから。

加藤:私たちは「LATCH!」のファンでもあるので、いちファンとしても素直に「良い!」と思えるものばかりになりましたよね。実際、ファンのツボを押さえているなという実感もあります。

1st CD 「STATION IDOL LATCH! 01」
※YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UC19AuJdQsCloOfc-mi3nsiA

山内:音作りに関しては、まずキャラクターと世界観があって、次にキャラクター同士の物語や関係性があって、彼らがどんな歌を歌うのかというイメージを音楽ディレクターや委員会でも吟味しながら、作品に花を添える音楽であれれば良いなと思っています。原作・プロデュースなどいろいろな立場の人間が混ざった委員会なのですが、意見はそれぞれでも、全員の根っこでは共有感を感じていました。たとえば、テーマソングの作詞を森雪之丞さんにお願いしたところ、プロジェクトにすごく興味を持っていただけて、作品に込めたいろいろな想いのお話をしたんです。依頼して終わり…ではなく、キャッチボールしながら世界を創り上げるという、ゼロからイチのコンテンツ作りにお付き合いいただけるのは本当に感謝です。

岡本:本当に一曲一曲が素敵で、聴き応えがありますよね。それぞれに背景があって、物語があって、親しみやすさもあれば、アーティストが歌うような重厚さもある。単なるキャラクターソングとひとくくりにできない多彩な音楽性が魅力の一つだと思います。

山内:今後は、なんといっても30駅30様のキャラクターがあり、その掛け算で、ユニットやソロなど組み合わせに関して、必然的にすごいバリエーションが生まれます。キャラクターは自立しているので、今後の展開の中にも新しいドラマが生まれたり、30駅・30キャラの関係性が広がったり、新しいユニットで楽曲ができたりするかもしれない。先々楽しみにしていただければと思います。

地域の人とともに駅・街を盛り上げる、アイドルとしても成長に期待

岡本:今後、さまざまな展開を予定していますが、新たにこんなことに取り組んでみたいとか、「LATCH!」がこういう風になってほしいと思っていることはありますか?

加藤:私は3つ「こんな風になったらいいな」と思っていることがあり、まず1つは「街を盛り上げるハブになること」。そして、2つめは「現実とリンクした世界観を楽しんでもらうこと」。そして、3つめは「駅員さんを知ってもらうこと」です。なので、コンテンツとして楽しんでもらえるのももちろん嬉しいですが、そこから派生して電車に乗って駅や街を訪れたり、駅員さんにも親しみを感じたりしてもらえるといいなと思います。

ただ、そうした楽しみや価値観をビジネスとして押し付けるのではなく「ファンが楽しむのをサポートする」くらいのスタンスがちょうどいいのではないかと思っています。特に日本の女性ファンは複数のコンテンツを切り替えながら楽しんでいる方が多数かと思います。そのコンテンツごとに「推し」が存在していて、「楽しさ」や「好きな気持ち」を共有するのを好む方も多いんですよね。相手の推しの話も聞いて、そうかそうかと盛り上がる‟ソーシャル性”がすごく高い。それを支援する「場」を作っていけたらと思います。

埜田:確かに、女性は「推し会」大好きですよね。カラオケをしないカラオケが流行っているらしいですが、そのユーザーは女性がほとんどだと聞きます。

山内:ドラマがあって、音楽があって、イベントがあるということが軸ではありますが、それを受ける大きな受け皿が山手線ですので、応援してくださる方に「楽しんでもらえる」場や仕掛けをどんどん出していきたいですね。「LATCH!」はパラレルとはいえ「山手線」が企画の中心にあるので、そこから派生する楽しみがあると思います。たとえば、キャラクター決めの中で駅や街を調べて発見があったという話がありましたが、好きなキャラクターの愛する街を知るためにそこに行こう、街を知ろうという行動が生まれると嬉しいですね。

岡本:30駅全てが‟聖地”ですしね!リアルな駅や街とキャラクターとのつながりが発見できれば、ますます楽しくなりそうです。もともと「駅から街を元気にする」というコンセプトもあり、くまモンやふなっしーのようにアンバサダーとして、通勤や通学で使う駅や街だけでなく、それ以外の駅にもいざなえるといいですね。そして、ファンの方にもキャラクターとともに楽しんだ様子を発信してもらえればと思います。

埜田:そうした情報のやり取りが、ファンの間で自然に生まれるといいですよね。ただ一番情報を持っているのは公式なので、SNSなどでブースター的な発信はしていきます。キャラクターによってボイスドラマなどでの登場回数など情報に差があるので、「‟推し”がなかなか出ない人の悲しみ」をどう救済するのか悩ましく。そこをSNSでフォローできればと思っています。

加藤:それにファンは忙しいので、プッシュされないと忘れてしまうこともありますからね。タイムリーな情報提供も求められていくのかなと思います。

山内:今後は、新たな企画を次々と投下していきたいと考えています。10月にはファンミーティングがあり、その間もドラマが動き、次々にキャラクターが楽曲デビューしていきます。並行して、声優さんたちもニコニコ生放送や自身のSNSなどでも情報発信してくださっているので、接点が増えてたくさんの人に楽しんでもらえるようになればいいなと思っています。

ただ、露出だけでなく、たとえばドラマの中で高田馬場駅のキャラクターが「ぜんざい最中」を差し入れるなど、‟気づく人は気づく“仕掛けはコンテンツの深みにもなり、さりげなく街の魅力を伝える情報にもなります。そうしたことで街と街を応援するキャラクターの関係を醸成し、街を愛する「LATCH!」のキャラクターたちと地域のお店や商業施設などが連携しながら、山手線や改札の先にある街と密接に結びついた展開ができればと考えています。

埜田:キャラクターのタイアップ活用については、「高額そう」「決まり事が多そう」と思われがちですが、「LATCH!」は、商店街の看板息子や体育会系・文系タイプ、イケオジなど、さまざまなキャラクターがいるので、多様なニーズに応えられると思います。「面白そう!」と思われたら、まずご相談いただけると嬉しいです。

岡本:イケメンアイドル好きの女性だけにとどまらず、鉄道ファンやその地域の住民の方々、駅利用者などを巻き込みながら、山手線を中心としたキャラクターコンテンツとして成長し、将来的には地方の方や外国の方なども含め、多くの方に新しい気づきと楽しみを提供できればと思います。皆さん、この度は、ありがとうございました。

<了>

岡本 藍
コンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー
SP広告代理店にて主にコンテンツを活用したプロモーション業務に従事し、2017年jeki入社。コンテンツビジネス局に配属後、多くの映画やアニメ製作委員会に事業参画。
「STATION IDOL LATCH!」では原作兼プロジェクトメンバーとして企画立ち上げから事業化まで担当している。

埜田 麻由
コンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー
2016年入社。コンテンツビジネス局に配属後、映画・アニメへの事業参画・宣伝等に従事。コンテンツタイアップのサポート業務も取り組んでいる。「STATION IDOL LATCH!」では原作兼プロジェクトメンバーとして企画立ち上げから事業化まで担当している。

山内 学
株式会社アミューズ 執行役員
2000年入社。音楽・役者のマネジメントを通じて数々のコンサート・舞台、映像作品の制作に携わる。
現在コンテンツ開発部を担当しオリジナルのIP開発を行っている。
「STATION IDOL LATCH!」ではプロジェクトの事業化全体に携わっている。

加藤 奈都美
オリガミクスパートナーズ株式会社
オリガミクスパートナーズ株式会社内原作企画チーム「RANGPONG」に参加し、企画・編集として主にプロジェクトの発案やシナリオ/イラストディレクションを担当。
「STATION IDOL LATCH!」では原作兼プロジェクトメンバーとしてシナリオチームの編成も行っている。

上記ライター岡本 藍
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