日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』
プロデューサーが語る、実写化までの道のりと「旅」の魅力

エンターテインメント VOL.17

写真左から)
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー 木暮 太一
株式会社BABEL LABEL プロデューサー 前田 浩子 氏

注目の若手監督である藤井道人氏と、世界的な映画スターである張震(チャン・チェン)氏のタッグによって実現した、日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』。2024年3月14日には台湾での上映が始まり、日本国内でも公開に向けて期待が高まっています。
今回は、本作のプロデューサーである株式会社BABEL LABELの前田浩子氏と、jekiコンテンツビジネス局の木暮太一が、撮影にまつわるエピソードや裏話、作品の見所を語り合いました。

『青春18×2 君へと続く道』STORY

©2024「青春18×2」Film Partners

始まりは18年前の台湾。カラオケ店でバイトする高校生・ジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)と出会う。天真爛漫な彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。意気消沈するジミーに、アミはある約束を提案する。
時が経ち、現在。人生につまずき故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを再び手に取る。初恋の記憶がよみがえり、あの日の約束を果たそうと彼女が生まれ育った日本への旅を決意するジミー。東京から鎌倉・長野・新潟・そしてアミの故郷・福島へと向かう。
鈍行列車に揺られ、一期一会の出会いを繰り返しながら、ジミーはアミとのひと夏の日々に想いを馳せる。たどり着いた先で、ジミーが知った18年前のアミの本当の想いとは。

https://happinet-phantom.com/seishun18x2/

さまざまな人々の縁と努力が重なって実現した映画化

原作は、台湾で話題となったジミー・ライの紀行エッセイ『青春18×2 日本慢車流浪記』です。映画化に至った経緯をお話しいただけますか。

前田:原作は日本の「青春18きっぷ」を利用して旅した台湾人のブログでした。これが実話とは思えないほどドラマ性があって、世界的スターでもある張震(チャン・チェン)さんが「この作品を映画化したい」と約10年前から実現に向けて動いていたそうです。ただ、なかなか「ぜひこの人に」と思える監督に巡り合えていなかった。

一方で、藤井道人監督は祖父が台湾出身。いつか海外との合作を実現したいと夢を抱えながら、それが叶うならぜひ台湾でという想いがあって、以前より足繁く台湾に通っていました。そのとき張さんのプロダクションに立ち寄ったご縁もあり、しばらくして「一緒にやらないか?」と張さんから藤井監督に連絡が入ったのがきっかけです。

前田さんは本作の映画化の話を聞いたとき、プロデューサーとしてどんな心境でしたか?

前田:鉄道や駅での撮影は簡単ではないと思ったので、最初は正直悩みました。
まずは原作に沿ってプロットを作り、それをもとに日本と台湾をそれぞれ旅したのですがあまりしっくりこなくて。ちょうどその頃、テレビで『鉄オタ道子、2万キロ』というドラマを見ていたら、鉄道に乗る主人公と一緒に、自分も綺麗な景色を見ながらまさに旅をしているようで楽しかったんです。それで、そのドラマの監修をされていた旅雑誌の編集部を訪ねました。
編集長から教えていただいた情報をチェックしながら、実際に現地に調べに行く作業を繰り返しました。作中に出てくるアミの故郷である福島県只見町や、新潟のランタン祭りもその編集長からの情報です。ジミーが日本を旅するルートを考えるにあたり、JR東日本へ撮影を打診する中で木暮さんと出会ったんですよね。

木暮:脚本をもとに駅や電車での撮影箇所をリストアップしたら、とてつもなく膨大な量だったので、最初は「本当に実現できるだろうか?」と思いましたが、JRの駅や列車などの現場関係者の方と何度も話し合いました。その内容を前田さんと、もう一人のプロデューサーである瀬崎秀人さんにフィードバックしてルートを再考してもらいました。

前田:事務所で地図を広げながら自分たちで赤い線を引いて、どの駅でジミーが降りたらいいのか検討を重ねました。ルートの確認に木暮さんが情熱を持って親身に取り組んでくださったので、もうこちらの仲間として木暮さんを引きずり込むしかないと思いましたよ。

木暮:「これは絶対にどうにかせねば!」と必死でしたね。

前田:実際に撮影現場にも来てくださいました。幸次役の道枝駿佑さんに「この方がこの撮影を可能にしてくれたんだよ」と言ったら、道枝さんが「ありがとうございました」と深々と頭を下げていて。あのとき木暮さんとても緊張されていましたよね(笑)。

木暮:普段キャストの方にご挨拶する機会はほとんどないので、とてもありがたい経験でした。自分の持ち場で役割を全うしたという感覚でしたが、作り手のメンバーに入れていただけたような気持ちになれて……。

前田:いやいや、木暮さんは私たち制作チームの一員ですよ。Mr. Childrenの主題歌『記憶の旅人』ができあがって、木暮さんにもお聞かせしたら、いろんなことを思い返されたのか号泣されて…。私たちが無理難題を言っているところも多々あったので、きっとあちらこちらで怒られながらも尽力してくださったんだろうな、と。

本当に旅をしながらドキュメンタリーを撮っているようだった

木暮:電車や駅でのシーンは時間やタイミングなど、数々の制限がある中で皆さん集中して撮影されていたのが印象的でした。

前田:実際に走行している電車に合わせて撮影しているので、NGも出せないし、みんな緊張していましたね。

ただ、主演の許光漢(シュー・グァンハン)さんと道枝駿佑さんが「実際に自分たちが旅しながらドキュメンタリーを撮っているようだ」とおっしゃってくれて。列車に乗ってそのまま去っていくジミーと、その場に残るバックパッカーの幸次が「さよなら」と手を振るシーン。あれは実際にシューさんと道枝さんにとってもお別れの場面だったんです。

木暮:本当に旅で出会って仲良くなった二人のように見えました。

前田:「あんな経験は初めてだった。臨場感があって本当に旅している気分になれました」とキャストに言ってもらえたのは、彼らのお芝居の一助にもなっていたのかなと嬉しかったです。いろいろな思いを抱えながら沈んだ気持ちで旅していたジミーを、唯一太陽が当たる日向に引っ張り出す青年が幸次なんです。

台本になかったけれど、二人の芝居を見て追加した要素がたくさんあるんです。特に、二人が別れたあとジミーの声で流れるナレーションにはご注目いただきたいです。

ロケで苦労したことなど、裏話があったら教えてください。

木暮:実は、只見線での撮影ができなくなるかもしれないという話がありました。気温が高くなってきたので、雪崩が発生する恐れがあると。

前田:只見線は2011年の豪雨災害によって断裂してしまって、その間はバスが運行していました。でも、地域住民の方たちの熱意のおかげで2022年に復興し、運転が再開されたんです。その話を聞いて、「只見をアミの故郷にしたい」と藤井監督が言って、それに沿って脚本も進めていたので。撮影ができなくなるかもしれないと聞いた日は夜も眠れず、只見の雪の情景が頭にずっと浮かんでくるほどでした。

木暮:最終的には雪崩の心配なしということで、なんとか撮影ができることになりました。まさに天に恵まれたなと思いました。

前田:木暮さんが「撮影大丈夫になりましたー!」と駆け寄ってきてくれて。あのときの嬉しそうな表情と声は一生忘れられないです(笑)。

会場にいる全員がはっと息を呑んだ、
トンネルを抜けた先の真っ白な雪景色

作中でお二人が心に残っている好きなシーンを教えてください。

木暮:予告でも使用されたジミーとアミが有線のイヤホンを片方ずつ聞いているシーンが好きです。自分もそういう甘酸っぱい青春があったな、と懐かしく思いました。

前田:私はもう好きな場面がありすぎて難しい……! でも、強いて挙げるなら二つあります。一つは、飯山線の列車にいるジミーと幸次がトンネルを抜けて、目の前に雪の景色がパッと広がるシーンです。そこだけすべての音を切った無音の世界になっています。そのあと上空からの列車の実景が入り、音楽を担当してくださった大間々昂さんの切ないキーフレーズが流れるんです。列車の中だけれど、窓外はすべて真っ白の雪景色。それを見たジミーの顔もぜひ見てほしいです。

ここは特に映画館のスクリーンで堪能してほしいシーンですよね。

前田:台湾ではすでに上映されているのですが、劇場でお客さまの「はっ」と息を呑む声が漏れていました。何百人規模になると、声としてはっきりと聞こえるんですよ。

そしてもう一つは、ジミーとアミが台湾の十分(シーフェン)でランタンを見に行くシーンです。手を握られた彼女がジミーを見上げる、あの顔が大好きなんです。

完成披露試写会のコメントでも、キャストの方々全員が本作にとても思い入れがある様子が見て取れました。

前田:日本のキャストは旅するジミーがその先々で出会う人たちなので、撮影日数自体はそんなに多くないのですが、彼らはそこに何ヶ月もいたような気持ちになったそうです。「ジミーが出会う人になれてよかった」と、皆さんそうおっしゃってくださいました。

木暮:僕は日本での撮影にしか携わっていないのでぜひ伺いたいのですが、台湾の現場はどんな雰囲気だったのですか?

前田:もちろん通訳の人に確認していただく場面はありましたが、現場ではみんな直接コミュニケーションを取ろうとボディーランゲージを含めて努力していました。そのため、全体を通して言葉の壁をあまり感じない、笑いの絶えない現場でした。主演のシュー・グァンハンさんと清原果耶さんも、本当にジミーとアミのように教え合っていたのが印象的でした。

登場人物たちが感じる想い、それぞれにとっての「旅」とは?

前田さんのプロデューサーとしてのデビュー作は岩井俊二監督作『スワロウテイル』ということですが、作中には、岩井監督の名作映画『Love Letter』のオマージュがありますね。

前田:映画同様、原作にも『Love Letter』を観ているシーンがあります。実は、岩井監督のテレビドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を見て「この監督、すごいな」と思っていたら、偶然にも映画『スワロウテイル』制作への参加のお話をいただいてプロデューサーデビューした経緯があります。それがなかったらおそらく私はアメリカに渡っていたので、まさに人生の転機でした。私にとって岩井監督は映画の師匠ですが、そんな岩井監督と藤井監督はどこか似ているように感じます。

今回こうして作中でつながったのも感慨深いですね。本作は印象に残るセリフもたくさんあり、「旅」の良さにもあらためて気付かされました。

前田:旅はよく「自分探し」だと言われますが、道枝さんのセリフにも、旅と人生を重ねた「俺はもっと楽しみたいんですよね、人生を」という言葉があります。

その一方で、主人公のジミーは「もし過去にああしていれば……」とぐるぐる考えながら旅をしていて、そんな彼にジョセフ・チャンさん演じる日本に住む台湾人の男性は「これでよかったんだと確かめる旅もあるんじゃない?」と言う。そのセリフが私はとても好きなんです。それを聞いたあとの彼の表情も見ていただきたいです。きっとキャストの皆さん全員にご自分のものとしてこの映画を受け止めていただけたのかなと思います。

ジミーとアミが出会った18年前の台湾の場面を見ながらノスタルジックな想いに駆られたり、ジミーがアミの面影を求めて現代の日本を見ていたり、観客にとっても自分ごととして感じられる場面が所々にありますよね。

木暮:今の時代、どこかせわしないですが、本作はじっくりと一つ一つのシーンを噛みしめて観られる映画だと思います。「人生においても急ぐだけでなく、ゆっくりと自分を確かめながら歩んでいくことも大事なんじゃないかな」という気付きももらえるのではないでしょうか。そして、僕は実際に台湾に行ってみたくなりましたし、日本の原風景を楽しめる昔ながらの鈍行列車の旅もしたくなりました。

前田:台湾のロケ地となった台南はお薦めです。私自身もこの撮影で初めて台南に行ったのですが、古風な街並みが広がる非常に美しい町なんです。「こんなに素敵な町、なんでもっと早く来ていなかったんだろう」と思いました。台南はご飯がとても美味しいですし、ぜひアミが旅した場所をたくさんの方に訪ねていただきたいです。

木暮:本日はありがとうございました。

木暮 太一
jekiコンテンツビジネス局 コンテンツプロデューサー
2016年jeki入社。営業局にてJR、およびJRグループ会社を担当し、2021年より現職。コンテンツビジネス局に配属後、自社IPのプロデュースの他、映画やアニメ、キャラクターなどの製作委員会への事業参画に従事。

前田 浩子
映像企画・製作会社、株式会社アルケミー・プロダクションズ代表取締役、プロデューサー 。
大学在学中より語学力を活かし、マドンナ、ザ・ローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソンなど外国人アーティストのコンサート、音楽番組制作に携わった後、映画・TVドラマ・PV・CMに活動の場を移す。1996年映画『スワロウテイル』(岩井俊二監督・脚本)で映画プロデューサーとしてデビューし、その後も話題作を作り続けながら、『キル・ビル』『2046』など海外作品にも活動の場を広げる。2020年公開の映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』での藤井道人監督との出会いをきっかけに2022年よりBABEL LABELにプロデューサーとして所属。

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