jeki、ADK MS、東急エージェンシー3社出資によるデータ・ケミストリー社 発足から1年、そのキーマンが語るデータマーケティングの未来

デジタルマーケティング VOL.1

写真右:株式会社Data Chemistry 代表取締役社長 沼田洋一氏
写真左:株式会社ジェイアール東日本企画 メディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役 直井伸司

データマーケティング領域で共同の取り組みを行うことを目的に、jeki、ADK MS、東急エージェンシー3社の出資により昨年4月に設立されたData Chemistry社(以下、DC社)は、発足から1年が経ち、広告業界で徐々にその存在感を放ち始めている。デジタルを取り巻く環境が加速度的な変化を遂げるなか、同社の取り組みや今後のコミュニケーションツールとしてのデジタルの展望について、代表取締役社長の沼田洋一氏と、同社取締役を兼任するjekiメディアマーケティングセンター長の直井が語った。

簡単におふたりの自己紹介をお願いします。

沼田:新卒で旭通信社に入ったのが1988年。最初は雑誌部に配属され、2年目くらいから雑誌のデータベースを独学で作り始めました。その後、メディアプランニングに携わっていましたが、どうしても上位2社と競合してしまう。そこで、自分一人で戦っても仕方ないと、裏側に回ってメディアプランニングのシステム開発や生活者調査手法の開発などの研究開発部門を立ち上げたのが、ADKが発足した1999年です。2014年には、DC社の前身であるアクシバルの立ち上げに携わり、そこから5年を経てDC社を立ち上げました。「みんながやっていないことをやる」のが私の仕事です。

直井:私は1992年にjekiに入社して以降、人事の仕事を長くやってきました。人事制度をつくったり、新卒採用をしたりと、jekiの基幹部分の構築に携わった後、ハウスエージェンシー部門の営業として、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンに携わり、またファッション系に強い商業施設にも携わってきました。その後、メディアマーケティングセンターのセンター長として着任し、時期を同じくしてDC社にもジョインしました。

DC社の設立の背景や狙いをお聞かせください。

沼田:ADKは、新しい体制への変革を進めるなか、多様な事業パートナーと連携する「オープンネットワーク型」への転換を戦略の一つとして掲げていました。当時構築し始めたばかりのDMPについて、協業の可能性を前提に、jekiさんや東急さんと話をしていたところ、各社ともデータ領域について同じ課題認識を抱えていることがわかりました。そこで、紆余曲折を経て、3社でやってみることになったのです。

競合する会社ではありますが、3社が材料を持ち寄ってソリューションをつくることが本来の目的なので、できるだけ情報を共有し、3社以外の会社と戦って、3社がうまく生き残っていこうというのがDC社の設立の目的です。

この3社で組むことの強みはどんなところにあるのでしょうか。

沼田:いくつかありますが、例えばjekiさんと東急さんは「移動者」「交通」などの領域に強いので、その特徴をうまく出し、DC社の強みとしていきたいと思っています。その可能性は皆、感じています。

jekiが参画した狙いや考えをお聞かせください。

直井:jekiでは、今後デジタル領域にどう注力するかという全社的な課題があり、いろいろな可能性を探るという動きのなか、DMPの協業で話を進めることになりました。DC社に参画するにあたり、jekiが持つ強みをどのように活かせるか、例えば「移動者マーケティング」や「移動者DMP」との連携の可能性などを視野に入れて、いろいろ議論してきました。沼田社長がおっしゃっていた「DC社としていかに強みや特徴をつくるか」という部分に、「jekiがどう貢献するか」は重要なミッションだと思っていますし、jekiに期待されているのも「移動者」といったところにあると思います。

jekiが持つ特殊なエッセンスを加えて、DC社の特徴の一つとして構築することが、自分の重要なミッションだと考えています。今、ADKさんや東急さんの方といろいろ議論をしていますが、まさに「ケミストリー」の名の通り、良い意味での化学反応が起きていると感じますし、ノウハウ・スキル・情報など、jekiだけでは得られないこともあり、すごく刺激のある時間を共有できていると思います。

DC社が開発したパブリックDMP『DC Catalyzer』の機能や特徴、活用の事例などをお聞かせください。

沼田:DC社では、テレビの“機器ログ”と言われるデータを百数十万台分ほど持っており、このデータをどう活用できるかが一番大きなポイントです。DC社が持っているタグをWEBサイトに設置してもらうことで、WEBサイトに来た人の履歴などを取ることができる。そのデータと我々の持っているテレビ視聴のデータを紐づけると、WEBサイトに来た人のテレビ接触状況などが可視化できるわけです。

パブリックDMP『DC Catalyzer』はデータの化学反応を起こす“触媒”として機能

沼田:今までできていなかったことなので、大きなポイントだと思います。更に、プロファイリング的なサービスも作成中です。タグを設置してもらうことで、自社の顧客をもっと明確に見られるのが新しいポイントです。実際、昨年からいくつかの広告主に使っていただき、評価を頂いています。例えば、全国にお店をお持ちの広告主には、自社サイトに来た人が、岩手県ではどの局の番組を見ているのかなど、局時間帯別にデータをお出しできます。「あ、そういう数字を見られるんだ!」という部分で、新しい価値の提供ができているように考えています。

直井:今あらたに取り組んでいるのは、アプリのデータとの連携です。広告主のアプリからモバイルIDを連携することで、同様の分析をしていこうと考えています。例えば、外食チェーンであれば、どこのお店に来たかや予約した時間など全部わかるので、そのデータをリンクさせれば、テレビの効果可視化みたいなこともできるし、デジタルでの広告配信もできます。
今は、DC社として、「分析」と「デジタルの広告配信」の二軸が取り組みの主となっています。広告主のWEBサイト由来のデータを、我々の持っている様々なデータと紐づけて、いろいろな解析をしたり、配信につなげることに注力しています。

「分析」と「デジタルの広告配信」の二軸ということですが、広告主のニーズはどちらが多いのでしょうか。

沼田:設立当初は、配信の方がニーズが多いのではと考えていましたが、1年やってみて、分析の方が需要が多いことがわかりました。

分析の方がニーズが多いということですが、そこから広告主のどのような課題が見えていますか。

沼田:よく「可視化」と言われますが、意外と、自社の顧客を把握できていないところを感じます。DC社の前身会社・アクシバルでは、パネルデータで可視化サービスに取り組んでいましたが、WEBサイト由来の状況は全数データでないと取れないので、そのデータを取ることが可視化のポイントに思います。
広告主がいくら顧客データをたくさん持っていても、どんなテレビ番組を見ているか、どんな趣味嗜好があるかをわかっているわけではないので、それを外部データと紐づけて見るのが大きなポイントだと思っています。

元々、広告会社はそこが得意な領域です。今までは調査データでつくっていましたが、今は広告主が顧客データをいっぱい持っているので、そのデータと外部データをどうやってリンクさせるかが広告会社の課題ですし、そのツールをつくるのが自分たちの会社の役割だと思っています。

以前はパネルデータ中心で取り組まれていたわけですが、全数データとはかなり違いがあるものですか。

沼田:いえ、そんなに違いはありません。出せるものはそんなに変わらないのですが、粒度や深さが違うということです。ただ案件によって、例えば、日用品であればパネルデータで見た方がいいケースもありますし、やはりDMPで見ないとわからないものもあるので、それは両方だと思っています。

逆に言うと、パネルデータと全数データの両方がわかるプランナーってあまりいないんですよ。だから、両方がわかるのは大きなポイントだと思いますし、DC社にジョインしているメンバーがその役割を担っていければ強みになると思っています。

競合社DMPとの差別化はどのように考えていますか。

直井:先ほど話のあった「移動者」や「交通」、それに「コンテンツ」に強い3社が集まっているので、それを武器にして、いかにエッジを立てるか、いかに突き詰めるかが重要だと考えています。

沼田:そうです。一社一社であれば、そんなに強くはないかもしれないですけど、3社で化学反応を起こしたら、こういう特徴が生み出されるといいと考えています。それこそ3社が揃ってではなくとも、「移動者」や「交通」に強い2社、「コンテンツ」に強い2社で取り組めば、いろいろ違ったことができると思っています。競合するところはいっぱいある一方、そういうなかで一緒にやれればいいなと思っています。3社揃ってではなくても、2社の強みを組み合わせることができるのも、この会社の良いところだし、それが社命だと考えています。

DC社がこれから目指していることをお聞かせください。

直井:「デジタル」を強調すること自体、もうなくなる時代が来ると考えています。デジタルやデータを活用することは当たり前すぎて、あえて言うことでもないというか、取り組んでいることが普通になってしまうのが大前提の時代になる時に、コミュニケーション施策においても、デジタルやデータの連携・活用は必要不可欠な取り組みだと思っています。先ほど、交通やコンテンツの話が出ていましたが、個人的には、プロモーションやクリエイティブ、そうした領域におけるデジタルやデータの活用・設計にも取り組んでいきたいと考えています。

例えば、数万人規模で集まるイベントにおいて、集まった人の属性や志向性、何に反応するかなど、データとしてしっかり取っていることはないように思います。今なら、アプリなどを活用し、イベントでデータを取り、広告主に対する新しいサービスやインセンティブの提供などにつなげることもできるはずです。単純にイベントをやりましょうと言うより、イベントを使ってこういうコミュニケーション設計をすることも含めて提案できるような、そういうポジションをとっていければと思っています。

沼田:アプリを短期間でつくれるようなプラットフォームがあって、それをイベントの中身に合わせてカスタマイズして使ってもらうようにすれば、ファンマーケティング的なところに活用したり、継続的に情報発信したりすることもできるかもしれないですね。そこまでできるといいなと思います。

最後に、デジタル技術は加速度的に発展しているわけですが、一方でデータの活用について規制がかかりつつあります。そのようななかで、コミュニケーションツールとしてのデジタルの未来をどうお考えでしょうか。

沼田:GoogleからChromeでのサードパーティCookieの提供を今後2年以内に停止することが発表されたことなどをふまえ、DC社としてどう対応するかはいろいろ議論をしているところです。広告主の企業が、顧客とつながるIDのようなものはCookie以外でも残ると思います。そこに我々が情報を付加して、顧客のプロファイリングをするなど、いろいろなやり方を考えなければならないところです。ただ、データを連携した広告配信は多分難しくなるので、個人的には、10年くらい前の広告枠に戻る感じだと思っています。

そうすると「あなたの顧客はこういう趣味嗜好なので、こういうサイトに広告を出した方がいいですよ」といった、昔でいう雑誌の選び方みたいなところに戻っていく。そういった意味では、もう少しメディアとの組み方を模索していき、プレミアムな枠をどう確保するかといったようなことは取り組み課題になるかもしれないと思います。もっとメディアとデータ連携することによって、「こういう趣味嗜好の人はこういうメディアサイトに多い」みたいなことに取り組んでいくこともあるように思います。

まさに出版社などもデジタル化が進んでいます。

沼田:はい。今は、テレビが視聴層的に高齢化したメディアになってきていて、若い人を捕捉したいと思ったらデジタルとなりがちですが、スマホで見ているのはTwitter、Facebook、LINEだ、となってしまうと、コミュニケーションツールが中心で、メディア的な広告枠は、ほぼない状況だと思います。
SNSは、つながった人の趣味嗜好の表れでしかないので、そこをもっと広告的に使うならメディアとつながるしかない。そういう意味では、いろいろな特徴を持ったメディアとどう連携するかは課題です。また、jekiさんや東急さんであれば、「うちの路線にはこういう人がいる」という、交通メディアのプロファイリングみたいなものができれば面白いですね。

直井 伸司
メディアマーケティングセンター センター長 兼 株式会社Data Chemistry 取締役

1992年jeki入社 。約17年間、人事部門にて、採用、教育、評価、制度など人事全般を担当。
その後、JR局にて、「JR SKISKI」や「大人の休日俱楽部」のキャンペーンなどJR東日本関連の案件を担当した後、
第一営業局にて、JR東日本グループの商業施設の担当などを経て、
2019年7月、メディアマーケティングセンターのセンター長となり、現在に至る。
なお、現在は、㈱Data Chemistry、㈱JICの取締役を務める。