シェアリングエコノミーは社会をどう変える!?
−−石山アンジュさんに聞く、シェアがもたらす豊かな暮らし(後編)

モノやスペース、スキルや知識まで、あらゆるものがシェアされる時代。大きな広がりを見せはじめたシェアリングエコノミーは、果たして社会をどう変えていくのでしょうか。シェアリングエコノミー協会事務局長であり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師でもある石山アンジュさんにお話を伺いました。今回は、その後編です。<前篇はこちら>

石山 アンジュさん

内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/
一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長
石山 アンジュさん
1989年生まれ。2012年株式会社リクルート入社。その後、株式会社クラウドワークス経営企画室勤務を経て、現職。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。17年内閣官房シェアリングエコノミー伝道師に任命。著書に『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』。

制約から解放され自由なライフスタイルが実現

生活は、シェアによってどのように変わっていきますか。

石山: 最も大きく変化するのは、働き方と暮らし方です。この2つは営みの基本であり、一方で制約でもあります。週5日フルタイムで仕事をする働き方は、人生の大半を仕事に占められることになりますし、大金を支払ってマイホームを買うことも人生にとって大きな負担になります。これをシェアに変えるだけで、ライフスタイルは大きく変わるのです。例えば家をシェアすると、自分がいないときや使わない部屋を民泊などで誰かに貸すことによって、ローンや家賃を支払うだけのものから収入を得るものになります。さらに、自分自身もいろいろな場所に家を持つことが可能になります。定額で全国住み放題のようなサービスもありますから、それを利用すれば多拠点生活やアドレスホッピング(固定の拠点を持たず、さまざまな場所を転々と移動しながら生活する)のようなライフスタイルが実現できます。しかも、そこに高いコストは必要ありません。
 働き方についても、シェアリングサービスを通じて生活の中で収入を得るとか、インターネット上でスキルをシェアして収入を得ることもできます。そうすれば、好きなときに好きな場所で、自分の裁量で働くことが可能になります。コワーキングスペースを利用すれば、働く場所に縛られるという制約を外すこともできます。例えば、全国に展開しているコワーキングスペースに登録すると、日本全国が自分の仕事場になるのです。

非常に魅力的なライフスタイルですが、特に家をシェアすることなどは精神的なハードルも高いような気がします。

石山: 精神的なハードルを感じやすいのは、戦後の高度経済成長期や、バブル期を経験してきた人たちが多いのではないでしょうか。高度経済成長の大量生産・大量消費の時代は、個人にどんどんモノを買ってもらわなければならなかった。昔は3軒に1台だったテレビが1家に1台になり、1部屋に1台になり、今や1人で幾つものデバイスを持つようになっています。かつては、家を開放して近所の人とテレビを観ることに、抵抗はありませんでした。誰かと一緒にテレビを観なければならなかったから、そこにつながりも生まれました。ところがモノの個別化が進むとそれに伴ってつながりの希薄化が生まれ、全て自己完結するようになってしまう。そうなると、何かを誰かと共有するという価値観に慣れていないので、所有の観念が強くなります。精神的なハードルというのは、そういう経済成長によって生まれたものではないでしょうか。市場経済が、個人の価値観に大きく影響していると思います。
 今は、所有欲や物欲が減ってきています。物質的に豊かになって、いつでも持てる、いつでも買えるから持たなくていいという考えです。「所有から利用へ」といわれるように、高級車を買うことよりも、レンタカーで誰かと一緒に出かけてSNSに写真を載せることの方に価値を感じる人が増えているように思います。SNSに投稿して共感されたいのです。あらゆるものが多様化しすぎた結果、もはや個性を求めなくなっていて、むしろ誰かと共通点があることの方がうれしい。分かち合うことが幸せなのです。それは、まさにシェアの理にかなっています。

「信頼」がシェア社会のキーファクターになる

シェアが社会に根付いていくために、特に重要なことは何ですか。

石山: 「信頼」だと思います。これまでのようなB to Cのモデルでは、企業のブランド力などによって信頼できるかどうか判断されましたが、シェアは個人間での貸し借りや売買になりますから、何によって信頼するかが重要な鍵になります。特に、民泊や家事代行サービスのようにリアルな場で直接会ってやり取りをする場合は、信頼のハードルがとても高い。それをクリアにするのが、実際にサービスを利用した人が付ける評価やコメントなどのレビューシステムです。実際に利用した人が率直に発信をすることで、結果的に信頼を担保するのです。
 信頼には3つのフェーズがあります。第1は「ローカルな信頼」。かつての地縁に基づいたコミュニティでは、おしょうゆの貸し借りでそのしょうゆに毒が盛られていないかどうかは、顔見知りというお互いの関係性によって信頼が担保されました。第2は「制度への信頼」。企業のブランド力や食品の品質基準に基づいたしょうゆだから信頼するということです。そして第3が「分散された信頼」。レビューシステムのように、みんながよいと言っているから信頼するということです。シェアリングサービスでは、この第3の信頼が重要なキーファクターになります。

分散された信頼がローカルな信頼に取って代わるということですか。

石山: シェアによって人とのつながりは、圧倒的に増えました。昔なら、モノの貸し借りはご近所3軒くらいだった。今は、SNSなどを通じて100人、1000人とつながり、海外の人ともつながれます。そうなると、個人単位でローカルな信頼を築くのは難しい。劇的に人とのつながりが増える中で、どうやったら昔のような信頼がつくれるか。取って代わるというより、つながりが増えたときに信頼を構築できるやり方を模索した結果が、レビューをするという分散された信頼だったということです。けれど、情報操作や悪用の危険性など課題もあります。どうしたら信頼できるのか、あるいは信頼されるのか、最終的には自分自身で考えていかなければなりません。
 資本主義のいいところは良くも悪くも全てをお金で解決できるところです。無駄な人間関係をつくる必要がない。けれど、シェアによってつながりを増やすためには、どうやってお互いの信頼関係をつくっていくかが重要です。個人としての意識を高めていかなければならないし、リテラシーも高めなければいけないので手間も掛かります。それでもつながりを増やせば、いざというときのよりどころや依存先が増えて心理的な安心が得られる。先行きが不安な今、つながりが人の幸福や安心に直結するのだと思います。

確かに、経済の停滞や少子高齢化などにより社会不安が高まっています。シェアによってそのような社会課題も、解決できるのでしょうか。

石山: 地方では人口減少で税収が減り公共交通が維持できなくなることによって、交通弱者や買い物弱者が生まれています。行政の手も企業という資本の手も届かない場所で、最後に残るのは“民民”の解決策です。例えば、マイカーで移動している地域の人と、車を持たない高齢者をマッチングして病院へ送っていくといったライドシェアにより、交通弱者の問題解決につながります。しかも、インターネットでつなげば、その地域に人手が不足していても、情報やモノ、人の時間などを距離に関係なくシェアできる。政府も、重点施策としてシェアリングエコノミーの活用を推進しています。

シェアで、駅に人とのつながりを生み出す場を

シェアが普及していく社会で、駅にはどんな可能性があると思いますか。

石山: 今の日本にはパブリックな空間が少ないように感じます。コミュニティサロンというよりも、もう少し生活に近いところで人との関わりを持てる場所があるとよいと思います。例えば昔の銭湯のような、緩やかに人が集まる公共空間です。そういう意味で、駅が持つ場の可能性はすごく感じています。駅は生活する上でとても重要な空間ですから、買い物だけでなく人とのつながりを生むような場がもっとあればいいと思います。
 地方のものすごく小さな駅では、待合室にストーブが置いてあって、寄贈された本も置かれていたりします。そこで、おばあちゃんたちが楽しそうに話し込んでいる。そういう憩いの場やつながりの場を、都心の駅でも意図的につくるという試みをぜひ期待したいです。例えば、つながりの場としての銭湯が駅ビルの中にあったらすごく面白いと思います。
 オランダのアムステルダムでは、庭用の工具のような数カ月に一度くらいしか使わない物を、町の中で貸し借りできる仕組みがあります。韓国のソウルでは、寄贈されたスーツをクリーニング代程度の料金で借りることができるシェアリングサービスがあり、若者たちが就職活動や結婚式などで盛んに利用しています。そういうことは、駅でできると思います。また、子どもの預かり合いができるようなスペースやサービスが駅にあったら、すごく喜ばれるのではないでしょうか。駅は、とても可能性に満ちていると思います。

2019年2月に上梓した著書『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』(インプレス)。シェアの価値と可能性について石山さんの経験を通してまとめた、実践的なシェアライフの入門書だ

取材・文 初瀬川ひろみ
撮影 小宮山裕介

<完>

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.41掲載のインタビューを一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2019年7月)のものです。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター 研究員

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター 研究員

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。