駅商業施設は人口減少社会にどう向き合っていくか(前編)~利用者数拡大から利用頻度拡大へ~

PICKUP駅消費研究センター VOL.16

 世界でも有数の鉄道大国日本。中でも東京をはじめとする都市圏では、通勤・通学で日々多くの人々が鉄道を利用しています。
 「jeki移動者調査2016」によると、東京70㎞圏内に住む12-69歳の週1回以上鉄道利用率は60%であり、人数換算すると約1,690万人にのぼります。この鉄道利用者の規模の大きさこそ、駅商業施設が売上を拡大してきた原動力とも言えるでしょう。
 このように、商業においても“集客力がある”“好立地”と捉えられる駅ですが、少子高齢化・人口減少が進む中で、その状況は今後も続くのでしょうか?
 今後本格化するであろう人口減少社会に向け、駅商業施設も従来の発想にとらわれない新しい在り方が必要になるかもしれません。今回は、駅消費研究センターとしてのひとつの考えをご紹介いたします。


定期券保有者の駅商業施設利用実態を探る

 人口減少、そしてそれに伴う鉄道利用者の減少が予想される中で、駅商業施設はどうあるべきか。まずは、一都三県在住の鉄道利用者が駅商業施設を現状どのように利用しているのか、その実態を探るべく、通勤で日々鉄道を利用する通勤定期券保有者を対象にアンケート調査を実施しました。

●ノンユーザーは、ほぼいない

 アンケート調査によると、定期券保有者の94.2%が駅商業施設(調査では駅直結の商業施設と定義)を何かしら利用したことがあると回答しました(グラフ1)。これはつまり、定期券保有者の大部分は駅商業施設を利用したことがあるユーザーであり、ノンユーザーはほぼいないということです。

●ユーザーの大部分は低・中頻度ユーザー

 また、一都三県に立地する主な駅商業施設のうち、最もよく利用する施設についてその利用実態を詳しく聞いてみました。施設の利用頻度では、「2~3ヶ月に1日以下」が35.8%と最多。次いで「月1~3日程度」が31.2%と、日々通勤で鉄道を利用している定期券保有者の“最も利用する”施設といえども、頻度はそこまで高くないということが分かります(グラフ2)。

●超高頻度で来館しても、1来館当たりの利用金額は低くない

 最もよく利用する施設の利用頻度が「週4日以上」を「超高頻度」、「週1~3日程度」を「高頻度」、「月1~3日程度」を「中頻度」、「2~3ヶ月に1日以下」を「低頻度」とし、利用頻度別に施設での利用金額を聴取しました。最も利用する駅商業施設での「1来館当たり」と「年間」それぞれの利用金額を聴取したところ(表1)のような結果になりました。これによると1来館当たりの利用金額は、施設の利用頻度によって大差はないことが分かります。つまり超高頻度で来館をしていても1来館当たりの利用金額は低くはないということです。また来館日数が多い超高頻度来館者は、他のユーザーに比べ、年間利用金額が圧倒的に高くなります。

●高頻度・超高頻度来館者の売上におけるインパクトは大

今回のアンケート調査から分かった、最もよく利用する駅商業施設の、利用頻度別人数構成比(グラフ2)や利用頻度別の年間利用金額(表1)から試算をすると、人数構成では全体の3割程度である高頻度・超高頻度来館者が、年間推定売上金額の7割を占めるということになります。人数としてはそこまで多くなくても、高頻度・超高頻度来館者の売上におけるインパクトがいかに大きいかがお分かりいただけるかと思います。

利用者数拡大から利用頻度拡大へ −−超高頻度来館者の育成がカギ

これまでご紹介してきたように、通勤で日々鉄道を利用する人の大部分は既に駅商業施設のユーザーでありノンユーザーはほぼいないという点、そして人数としてはそこまで多くはない高頻度・超高頻度来館者の売上におけるインパクトが非常に大きいという点を踏まえると、既存ユーザーの来館頻度をいかに高めるかが重要と言えそうです。これまでは売上拡大のために新規ユーザーの獲得(利用者数拡大)が重視されがちだったように思いますが、これからは既存ユーザーをいかに高頻度来館者に育てるか(利用頻度拡大)がより大切になってくるでしょう。
また駅商業施設は、日々の生活動線上にあり、来館ハードルが低いということが大きな特徴。「利用頻度拡大」は、駅商業施設の立地特性を最大限に活用した戦略とも言えます。来るべき人口減少社会に向け、駅商業施設は、「利用者数拡大」から「利用頻度拡大」へ戦略をシフトする必要がでてきそうです。

<後編に続く>


後編では、「利用頻度拡大」戦略にシフトするためのヒントをご紹介いたします。

■調査概要

<駅ビル利用に関する定量調査(2018年11月)>
調査手法:
インターネット調査
調査対象:
一都三県在住の20-59歳の有職者、通勤定期券保有かつ通勤で鉄道を
週5日以上利用、一都三県に立地する指定ビル利用経験者

上記ライター安川 由紀
(駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト)の記事

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。