「途中下車」を探ったら、沿線愛着を生み出すヒントが見えてきた

PICKUP駅消費研究センター VOL.15

仕事帰りに「途中下車」ってしますか?
駅消費研究センターが研究している駅での消費。その主なターゲットは通勤・通学で鉄道を使う人々です。ただ定期券を持っていて途中下車が可能でも、降りる場所は、自宅最寄り駅や会社や学校の最寄り駅、乗換え駅など大抵決まってしまっているのではないでしょうか。
通勤・通学者がもっと「途中下車」を行い、今まで通過していた駅にも降りるようになれば、駅消費は更に活性化するでしょう。駅消費研究センターでは、人口減少など都市・消費環境が変化する中で、「途中下車」による新たな需要創造に可能性があるのではないかと考え、「仕事帰りの途中下車」をテーマに研究を行いました。今回はその結果を一部ご紹介いたします。

首都圏通勤者の4割が途中下車をしていた!?

鉄道の通勤定期券を所有する首都圏在住の有職者1000人にアンケートを実施したところ、直近1ヵ月で仕事帰りに(乗換え以外の目的で)途中下車をしたという人は37.3%(グラフ1)。意外といるんだな、という印象でした。具体的に途中下車をした駅を聞くと、新宿・渋谷・池袋などのターミナル駅や、乗換え駅といった回答が目立ちました。途中下車をした理由は、「目的のお店・施設があったから」が82.8%と圧倒的(グラフ2)。途中下車をしていても、「ぶらり・・・」というよりは、目的がないと降りない様子。ただ実際に普段途中下車をしている人にインタビューをしてみると、「目的のお店の利用前後でプラスαあれこれやってしまう」という声が多く聞かれ、一度降りてしまえばそこからの派生消費は結構あるようです。

途中下車「する派」VS「しない派」。意識の違いとは?

普段仕事帰りに途中下車をしている人としていない人それぞれにインタビュー調査を実施すると、途中下車を「する派」と「しない派」の意識の差が見えてきました。
 一つ目は、仕事のオン・オフの境界線の違い。仕事帰りの流れを、仕事圏/通勤圏/自宅圏の3つに分けた場合に、どこに境界線を置くかという違いです(図1)。しない派は「家につかないと仕事モードが抜けない」と、自宅圏の手前にオンとオフの境界線がある。一方、する派の境界線は通勤圏の手前。通勤圏を自分が自由に過ごせるオフの時間と捉え、カフェに寄ったり、マッサージに行ったりと思い思いの時間を過ごしていました。

二つ目は、ワークライフバランスの取り方の違い。する派が「仕事だけで一日を終わらせたくない」と、一日単位でワークライフバランスを取っているのに対し、しない派は「趣味は週末でいい、日々のリズムは変えたくない」と平日・休日をあわせた一週間単位でバランスを取っているようでした。
 また、自宅沿線へのなじみや愛着については、する派の方が高めという傾向がありました。アンケート調査では、しない派の自宅沿線愛着度が71.8%であるのに対し、する派は83.2%。10ポイント以上の差がありました。またインタビューでも、しない派が途中駅に対するイメージがないのに対し、する派は途中駅を「ホッとできる」「ホーム感・ご近所感覚がある」場所と言っていました。

「途中」である意味は?

途中下車をする派に、その理由についてインタビューをしてみると、「途中」である意味も見えてきました。
 まずは、会社や家からの適度な距離感。勤務先最寄り駅だと会社の人に会いそうで嫌、自宅最寄り駅まで来ると家に帰りたくなってしまう。会社の人もいないし、家からも適度に離れている途中駅はちょうどいいようです。
 加えて、ちょっとした「わざわざ感」も重要な様子。する派は、途中下車をすることで仕事と一日の終わりの間にもう一つアクションした自分に満足ができるようですが、それが面倒くさくても続かないし、簡単すぎても物足りない。定期券内、毎日通う動線の範囲内という手軽さがあって、しかも途中で一度降りるというわざわざ感があることが、バランスがよいようです。

より多くの人に「途中下車」をしてもらうために

ではどうしたら、より多くの人が途中下車をするようになってくれるのでしょうか。
 する派としない派では情報収集態度にも違いがあり、する派が能動的なのに対し、しない派は受動的でした。そんな彼らにも届きやすいという点で、電車内のディスプレーやデジタルサイネージの活用は有効と考えます。その情報が沿線の情報であること、タイムリーに提供されることも重要でしょう。次の駅に着くまでの間に、その駅の人気スポットランキングが出るとか、イベントや店の混雑・空席情報が出るとか。現在も飲食店の情報は一部提供されていますが、飲食店以外の仕事帰りの楽しみ方の提案があってもよいですね。仕事帰りは疲れていますから、リラックスや体のメンテナンスができるようなことも喜ばれそうです。しない派へのインタビューでは「ヘッドスパやジムがあれば降りるかもしれない」という声も聞かれました。
 沿線情報の配信は、地域情報ポータルサイトなど情報が集まるところと提携できるとよいかもしれません。日々利用している電車内で、沿線情報に触れることで、利用者の頭の中に沿線情報のストックができていくことが望まれます。

「沿線コーペティション」が途中下車を活性化する

途中下車が増えると、沿線の駅商業施設や街にとっては、消費が活性化するというメリットがあります。生活者も、途中下車によって満足感が高まれば、日常がもっと豊かになり、沿線への愛着が生まれるでしょう。途中下車には、沿線価値を高める可能性が秘められていると感じました。
 商業施設や街を個別に考えると、それぞれが競合相手になってしまいますが、沿線を一つの大きな括りで捉えれば、お互いが協力して情報を提供し合うことで、双方にメリットが生まれます。ある時には競争(competition)するが、ある時には協調(cooperation)し合う「コーペティション(co-opetition)」という考えがありますが、途中下車を促す、そして沿線全体を活性化していくには、「沿線コーペティション」という視点が重要になってくるのかもしれません。

調査概要

  • <途中下車実態調査>
  • 調査手法 : インターネット調査
  • 調査実施日 : 2018年9月14日~9月19日
  • 調査対象 : 一都三県在住の20-59歳の有職・通勤定期券保有者
  • サンプル数 : 1,000サンプル(一都三県における有職・定期券保有者の性年代構成比で割付)

  • <仕事帰りの途中下車に関するインタビュー調査>
  • 調査手法 : インタビュー調査
  • 調査実施日 : 2018年10月9日~10月10日
  • 調査対象・サンプル数 : <途中下車実態調査>回答者のうち、
    ①平日の仕事帰りに途中下車をよくする人 3サンプル
    ②平日の仕事帰りに途中下車をしない人 3サンプル

  • ※両調査においては「途中下車」を「自宅最寄り駅で下車するまでに、定期券内の駅で、乗換え以外の目的で電車を降りること」と定義。

上記ライター安川 由紀
(駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト)の記事

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。