たまごにこだわるキユーピー 現代人のニーズに応える画期的な商品で食卓に価値を 笠原かな枝氏(キユーピー)×高野裕美(ジェイアール東日本企画)

創業100周年を迎えたキユーピー。次の100年にむけて2018年末「キユーピー2030ビジョン」を策定した。看板商品の一つであるマヨネーズの原料、タマゴにこだわり続けるキユーピーは、2012年に「キユーピーのたまご」シリーズを発売している。たまごの喫食機会を増やすことを目指すシリーズについて、チームリーダーを務める笠原かな枝氏に、現代の子育て世帯の実態・インサイトを探るjeki「イマドキファミリー研究プロジェクト」プロジェクトリーダーの高野裕美が聞いた。

高野裕美氏、笠原かな枝氏
写真右:笠原かな枝氏:キユーピー 家庭用本部 営業企画部 業態対応チーム チームリーダー
写真左:高野裕美:ジェイアール東日本企画 イマドキファミリー研究プロジェクト プロジェクトリーダー

忙しい共働き世帯の朝食にたまごの美味しさを届ける家庭用卵加工品ブランド「キユーピーのたまご」シリーズ

高野:キユーピーといえばマヨネーズやドレッシングなど、常温商品のイメージが強くあります。「キユーピーのたまご」シリーズのような冷蔵商品も以前からあったのでしょうか。

「つぶしてつくろう」シリーズ
ゆで卵が丸ごとパウチに入った、食べる直前に袋のままゆで卵をつぶし、簡単にできあがるチルドサラダ。「つぶしておいしい」シリーズから2019年3月に「つぶしてつくろう」シリーズにリニューアル

「ふわとろたまごのスクランブルエッグ」
湯せんまたはお皿に出して電子レンジで温めるだけで、風味豊かなスクランブルエッグを味わえる。 2018年2月発売。

笠原:業務用では古くから取り扱っていました。半熟卵を2000年代に入ってから展開していましたが、家庭用の「キユーピーのたまご」シリーズは2012年にとろ~り半熟たまごから始まり、2015年に「つぶしておいしいたまごのサラダ」を全国発売してから拡大しました。

高野:「つぶしておいしい」シリーズや「ふわとろたまごのスクランブルエッグ」などは、どのような経緯で開発されたのでしょうか。

笠原:いずれの商品も、「イマドキファミリー研究プロジェクト」でも対象になっている共働き世帯を主なターゲットにしています。そうした世帯の朝食に、たまごを食べて元気になってもらいたいと考えています。
日本人はたまごが好きで、プリンなどの加工品も含めてですが、年間一人当たり333個のたまごを食べています。私たちが毎年11月5日の「いいたまごの日」に発表している「たまご白書」でも、2018年の調査では、半数の人がとても好き、全体でも9割の人が好きと答えています。
一方で、1日に1.4個食べたいという意向を持ちながら、実際は1個よりも少ないこともデータからわかっています。この乖離を解消するために、手軽に食べられる商品として誕生したのが「キユーピーのたまご」シリーズです。
共働き世帯が中心ですが、「ふわとろたまごのスクランブルエッグ」に関しては、ホテルの朝食のようなスクランブルエッグが家でも食べられるというコンセプトのため、50代から60代の、食事の時間をゆったり過ごすことができる世帯、年齢層もターゲットに含めています。

高野:共働き世帯は年々増加傾向で、2018年には「夫婦と子の世帯」のうち60.3%が共働き世帯となっています。(総務省統計局「労働力調査」より作成)
「イマドキファミリー研究プロジェクト」では、オレンジページとの共同研究で、子育て世帯に9日間の朝食の写真日記をつけてもらう調査を行いました。すると、共働き世帯ではさつま揚げやプロセスチーズなどの、調理不要のタンパク質が登場する機会が多くなり、たまご料理の出現率が少なくなっています。朝食の準備に対する負担感も共働き世帯では高くなっていて、フライパンや鍋が必要となるたまごが敬遠されているのかなと思いました。

笠原:まさにそういう人に対応できるように、すぐに食べられることをコンセプトに開発しています。先ほどの意向と実態の乖離も、食べたいけれどフライパンを出すことを考えると悩む、そんなときにそのままであったり、電子レンジで温めるだけで食べられるとなれば使ってもらえると考えています。

高野:「つぶしておいしい」シリーズは、パウチの中にゆでたまごが丸ごと入っていて、開封せずにパウチのままつぶしてマヨネーズと和えてから食べるところが非常に斬新なアイディアです。あらかじめたまごとマヨネーズを和えておくのではなく、こうした形を選んだのは何かきっかけがあったのですか。

笠原:そこには二つの理由があります。まずはカットすると一定の大きさに揃ってしまう。自分でつぶすと好みの大きさで食べることができます。手作り感を出せるということが一つ。次に、食べる直前にたまごとマヨネーズを合わせるのでフレッシュ感が残る。たまごとマヨネーズの混ざり具合に少しムラがあると味覚に変化を与えることができます。サラダのときは粗めに、細かくしてタルタルソースのベースに、とアレンジの幅も広くなります。
実は、このアイディアは業務用では以前から利用しているものです。業務用にカットしたたまごサラダを提供していたのですが、あるパン屋さんから手作り感を出したいという要望があり、店舗で混ぜるタイプのものを作りました。
発売してからの副次的なメリットとしては、出来合いのものを出すことに罪悪感を覚える人に、その意識の解消につながるということもあるようです。冷凍食品でも、以前はそのまま食べられることが求められていましたが、今はあえて一手間かける商品も出てきています。「家事をサボっている」と思われたくないというニーズにも応えられていると感じています。
また、包丁や火を使わないので子どもにも手伝ってもらえます。子どもも調理に参加することで食育につながるという面もあります。

高野:袋の中でつぶすので洗い物も少なくて済み、忙しい朝にはありがたい商品です。つぶすことは子どもも好きそうですね。
発売してからの売れ行きはいかがですか。設定したターゲットに届いていると感じていますか。

笠原:「スクランブルエッグ」は、プロのシェフが作ったような本格的な味わいが評価され、朝食をゆったり楽しむ層に反応してもらっています。店頭では有名パンケーキ店で食べる朝食をイメージして試食販売をすることもあるので、共働き世帯と共に、少し高めの年齢層の方にも買ってもらえています。
「つぶしておいしい」の方は、共働き世帯を中心に幅広くデイリーな利用をいただいています。店頭で試食販売をすると、たまごサラダを食べたいけれども、面倒という声もいただきます。
朝食に火を使いたくないという意向もあり、たまご料理の登場頻度が落ちているのは、調理の手間も一因です。若い世代では、ゆでたまごが難しい料理になりつつあるとも聞いています。特に朝は、たまごに限らず調理に時間がとれないというところが実態です。そこで「キユーピーのたまご」シリーズなら、すぐに食べられるという点で評価いただいているのかなと思います。

創業者の思いを受け継ぎ、次の100年にも元気の源、たまごを食卓へ

高野:商品について、今後どのような成長を期待していますか。また、今感じている課題はどのようなものでしょうか。

笠原:もっと幅広く認知を獲得していく必要があると感じています。共働き世帯などの、調理時間を短くしたいシーンに役に立つ商品であると、まだまだ伝えきれていない部分があるので、そこは課題です。
「つぶしておいしい」、「スクランブルエッグ」共に、小売店のどの棚で展開するのか、ということも課題です。今はピザやパンケーキ・ホットケーキなどのチルド商品の近くに置いてもらうことが多くなっています。ただ、現状では単品の印象も強いので、「朝食」を切り口にしたラインナップで棚での提案ができればという考えもあります。

高野:それは他社の商品も含めて、ということでしょうか。

笠原:そうですね。一部のスーパーマーケットチェーンなどでは、たまごの栄養に再注目して、厚焼きたまごなどのたまご料理とたまごサラダを集めて売り場を作っているところもあります。
今までにない商品でもあるので、どの売り場へ導入するともっとお客さんに届けられるのか、検討を続けているところです。

高野:認知面が課題ということですが、販促についてはどのような施策を行なっていますか。

笠原:今は店頭での試食が中心です。見て、食べるというのが最も商品理解につながると考えています。

高野:「スクランブルエッグ」はパンケーキと合わせて、という風に単体だけでなく他の食材と組み合わせた食シーンの提案は適しているように感じます。食べ方の提案という意味では、レシピサイトなどとのコラボレーションもあると思います。

笠原:まだ店頭に広く展開できておらず、メディアで取り上げられても手に入らなければ意味がない。知ってもらいたい気持ちはありますが、まずは店頭での棚の確保だと考えています。
「つぶしておいしい」は、3月に「つぶしてつくろう」に商品名を変えて、全面的にリニューアルを行います。これに合わせて、5月に初めてテレビCMを展開する予定です。今も年間3億円くらい売れているのですが、まだ袋を開けてフォークなどでたまごをカットされることもあるようで、良さを伝えきれていない。「調理器具不要」という点も啓蒙して、デイリーに使ってもらうために広告投資をすることにしました。
リニューアルしたパッケージでは、文字の量を少なくして「つぶす」という工程を想起してもらえるデザインになっています。この点は流通の方にも評価してもらっています。
リニューアルとテレビCMをきっかけにさらなる認知が獲得できればと考えています。

高野:「キユーピーのたまご」シリーズ全体の、今後の展望はいかがでしょうか。

笠原:創業者の中島董一郎が作ったマヨネーズ、1925年に発売し今も赤いキャップでラインナップされているものは、卵黄だけで作られています。これは、中島がアメリカへ行ったときに欧米人との体格差に驚き、日本人にもっと栄養をつけてほしいと考え、より栄養価を高めるために欧米では一般的な全卵ではなく、卵黄だけにしたのです。マヨネーズに卵黄しか使わなかったことで、残る卵白も無駄にしないよう、創業以来たまごの加工技術も磨いてきました。スクランブルエッグのふわとろな食感も、こうした技術の結晶です。
おかげさまでキユーピーといえばマヨネーズとドレッシングの会社で、ほぼ100%の方に「キユーピー=マヨネーズ」と認知していただいています。今後はマヨネーズのイメージから一歩進んで「キユーピー=たまご」という想起も高めていきたいと考えています。
少し前はコレステロールが高いと敬遠されていたたまごですが、低糖質ダイエットブームやフィットネスブームもあり、タンパク源として再注目されています。たまごは肉や魚よりも筋肉に変わる効率が高く、完全食品といわれるほど高い栄養価を誇っていますが、ビタミンCと食物繊維は含まれていません。そこで野菜と組み合わせることができれば私たちのたまごとサラダに相乗効果を生むことができると考えています。
2019年に創業100周年を迎えるにあたり、昨年「キユーピーグループ2030ビジョン」を制定しました。その一つにもサラダとタマゴのリーディングカンパニーとなることを掲げています。
業務用では古くからホテルやレストランなどさまざまな場面で利用いただいており、キユーピーの卵加工品は長い歴史を持っています。一方、家庭用の「キユーピーのたまご」シリーズの歴史はまだ浅いものですが、これからの100年に向けて、よりたまごを食べてもらえるような商品開発を目指していきます。
たまごは元気の源になるものなので、毎日の食卓にたまごを登場させたい。そこには加工品も含めて、忙しくても食べることができるように、これからも私たちがお手伝いできればと思っています。

対談を終えて

商品作りの背景にある、「栄養価の高い卵で、毎日の食卓を支えたい」という思いを強く感じました。「卵黄を使ったマヨネーズで日本人の体格向上に貢献したい」という創業以来のDNAが、まもなく創業100周年を迎える今でも脈々と受け継がれているのだと思います。今回、試食もさせていただいたのですが、どれも短時間で簡単に出来るのに味は本格的。私どもの「イマドキファミリー研究プロジェクト」の研究においても、「家族の食事の栄養バランスは大事にしたい」一方で、「調理に手間をかけることよりも、家族と食事を楽しむ時間をとることが大切」という潮流が見えています。「キユーピーのたまご」シリーズはそんな今の時代にもフィットしている商品だと感じました。

高野 裕美