トータルな品質を知ってもらうことで、その存在価値を高めるマウスコンピューター 小松永門氏(マウスコンピューター 代表取締役社長)×町野公彦(ジェイアール東日本企画)

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ VOL.6

BTO(Build to Order)の受注生産方式でパソコン販売を行うマウスコンピューター。2016年にブランド名とロゴを一新、テレビCMも放送開始し、認知を急速に拡大してきた。 国産のBTOコンピュータブランドとして、成長を見せるマウスコンピューターは、いかにして消費者の支持を集めているのか。

(写真右)マウスコンピューター 代表取締役社長 小松永門氏
(写真左)ジェイアール東日本企画 コミュニケーション・プランニング局 担当局長 兼 駅消費研究センター センター長 町野公彦

選択肢として候補に上がることが大事「マウス」を印象づけるテレビCM

町野:マウスコンピューターといえば、中村獅童さんや乃木坂46を起用したテレビCMが印象的です。

小松:やはり認知がないと選択肢として候補に上がりません。そのためには「マウス」というメーカーを知ってもらうことが大事だと考えています。最初は知らなくても、「どこかで聞いたことがある」と思い出していただける状態にしていかなければいけないという意識が根本にあります。
「マウス」の認知を上げるため、私たちは2016年にブランド名とロゴを変更しましたが、そのために約2年前から、私たちが市場でどのようにとらえられているのか、状況を把握し、そのためにどのようなコミュニケーションが必要なのかを検討しました。
調査でわかったのは、パソコンに詳しい層への認知は進んでいたものの、そうではない一般の消費者への認知が少ないということでした。より効果的に認知を獲得していくためには、社名をブランド名として使うのでは文字数が多いのではないか、ロゴもシンプルなものの方が良いのではないか、ということでブランド名とロゴを今のものに変更しています。

町野:ブランド名やロゴを変えたのは、ターゲット設定をパソコンに詳しい人から、よりライトな層へと変えていく狙いもあったのでしょうか。

小松:そういった議論はありませんでした。もともと私たちの製品は軽量のモバイルPCからゲームやクリエイティブ作業に特化した専門的なハイエンドPCまで、あらゆるお客様のニーズに答えられる幅広いラインナップがありましたが、それをどのように多くの人に知っていただくかが課題でした。
中村獅童さんを起用したテレビCMは、獅童さんの知名度も高く、日本の伝統芸能である歌舞伎俳優ということもあって、私たちの「日本製」という点も合わせて認知獲得につながったと感じています。現在の乃木坂46さんのテレビCMも含めて、私たちは業界的にはチャレンジャーの立場なので、埋もれてしまわないようクリエイティブに関しては少し冒険しても良いのかなと考えています。

乃木坂46を起用したテレビCM。チャレンジャー企業として、あえてクリエイティブでは冒険をするようにしている。

町野:Webサイトを拝見すると、消費者等、真に使う人の立場に立った真摯な取り組みをされている印象があります。

小松:おっしゃる通りで、メーカーとしてはものづくりへのこだわりもありますが、そういったものにとらわれず、お客様のニーズが一番にあるべきだと考えています。
2010年代に入った頃から、継続的に私たちから購入、利用してもらうことが今後のビジネスのベースになると考えていました。そのためには品質向上とカスタマーサポートが重要だと考え、取り組みを進めています。
例えば、弊社の特長として24時間365日のサポートがありますが、従来の電話やFAX、メールの対応に加え、2年前よりチャットやLINEでの対応もはじめています。最近では電話よりもLINEの方が身近に活用している人も多く、そういった方々が気軽に問い合わせをしていただける場になっています。さらに、故障箇所の画像やエラーメッセージ画面を撮影した画像を送っていただくなど、電話とは違った形のコミュニケーションが可能です。

顧客との直接接点におけるコミュニケーションも重視。最近ではLINEを通じたサポートも実施。

問題を隠さない企業文化定着が顧客満足向上の鍵

町野:消費者が感じるストレスを軽減することも、ブランドの知覚品質向上につながります。そうした潜在的な不満はどのように見つけだしているのでしょうか。

小松:そうですね。アンケートや定量的な調査をもとに、お客様の要望や不満を把握しています。

私たちの品質改善への取り組みとしては、故障やお客様からのご指摘やご意見を全て品質管理部門に集約する仕組みを整えることも行なっています。人は悪い情報を隠したがるものですが、そこをしっかり報告して改善につなげていくことを会社のカルチャーとして定着させたいと思っています。問題が起きて、報告されていないことがわかったときは、私から直接指導することもあります。

町野:ピンチがチャンスと言いながら、日本企業は悪いことを隠しがちな気もします。

小松:メーカーとして一番残念なのはリコールです。それにより社内の営業やコールセンターは大変な思いをするため、問題の報告に二の足を踏んでしまう気持ちもわかります。しかし、結局は、問題を隠すとお客様にさらなる迷惑をかけてしまいますし、会社の信用も損ねてしまいます。こういった場合、いかにリコールという決断を前向きにできるかが重要だと考えています。
残念ながら、品質的な問題をゼロにすることは難しいです。よって、お客様のもとに届いた製品に問題が起こった場合は、速やかに公表し、無償改修や修理、ソフトウェアならアップデートなどの対応をしています。
社内で、情報共有の仕組みを取り入れてから、自分たちがものづくりに対してどのような責任を背負っているのかという意識が高まり、品質は全般的に上がっています。

町野:サポート体制や品質の向上によって顧客満足(CS)を上げることができているとのことですが、一方でCSを上げるためには従業員満足度(ES)を上げなければならないという説もあります。

小松:良い製品を作るためには、経験を持った従業員が継続的に働いてもらうことが非常に重要だと感じています。製造の現場やコールセンターは派遣やパートなどの短期雇用になりがちですが、私たちは一定期間働き続けてくれている人を積極的に正社員採用するようにしています。毎年数十人がパートから正社員へ転換しています。
また、工場では転勤のない地域限定社員も導入しています。労務管理も法令遵守を徹底していますし、サービス残業が疑われるような場合は調査も行っています。労務管理については当たり前のことをしているだけですが、働いていて不条理なことが起きない会社であることは大事だと考えています。

町野:今後はどのような取り組みをお考えですか。

小松:販路としては、従来のWEBでの購入のほかに家電量販店、法人のお客様など、広がりを感じていますが、認知はまだまだだととらえています。

認知獲得が進むと、それに比例してお客様の期待値も上がります。「マウスといえばテレビCMをしている会社だね」というイメージが広がったときに、その期待に応える製品やサービスを届けていかなければならない。より一層の努力が必要になるという点で、また難しさがあると感じています。

町野:顧客満足度は、顧客の事前の期待に対してどうだったのかを問うものなので、事前期待値の把握とそれに対する満足度の関係をみていくことがますます重要になるということですね。

<対談を終えて> 同社のサイトには、病院、学校、映像制作会社、ブライダル関連企業等における同社プロダクトのB to B導入事例も紹介されています。
対談直後、小松社長に、『こうした企業において、御社のプロダクトは、様々な人々の「命」や「勇気」や「愛」につながっているんですね』と申し上げました。
それに対し、うなずかれたときの小松社長の真摯な眼差しに同社の強い意思を感じました。

jeki × 宣伝会議 共同取材シリーズ

昨今の市場環境やコミュニケーション環境の変化のなか、成長を遂げる・ヒットを生むその底流には何があるのか。その一端を探るべく、jekiは宣伝会議マーケティング研究室と一緒に、ヒットコンテンツ・躍進企業のキーマンの意識に流れる「顧客視点・顧客志向」を紐解いていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長を兼務。