シリーズ地方創生ビジネスを「ひらこう。」㊻
ドローンで物流ルートを開拓!
新幹線とのリレーで佐渡の宝を首都圏へ!

地域創生NOW VOL.56

左から)
jeki新潟支社 和田 珠李
アールイー株式会社 代表取締役 今井 直樹 氏
JR東日本新潟シティクリエイト株式会社 清水 理三郎 氏
AIR WINGS合同会社 代表 林 賢太 氏
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 イノベーションデザインセンター 渡邉 隆之

2023年11月、新潟県佐渡市にて物流を中心とした離島の課題を解決し、佐渡の魅力をアピールするための実証が行われた。新鮮な海産物を約60キロメートル離れた新潟市までドローンで運び、そこから新幹線で大消費地の首都圏へと運ぶ。通常1日から1日半かかるところを最短6時間にまで短縮し、「鮮度」を佐渡の強みにする当プロジェクト。今回は実証を進めたJR東日本新潟シティクリエイトの清水理三郎氏、AIR WINGSの林賢太氏、アールイーの今井直樹氏を迎え、実証に伴走したジェイアール東日本企画(jeki)の渡邉隆之と和田珠李とで、当プロジェクトの取り組みから新たな物流と離島の可能性を語った。

「鮮度」を武器に首都圏を開拓

渡邉:昨年の秋に佐渡から首都圏へ、ドローンと新幹線をつないで新たな物流の形を証明しました。我々jekiが佐渡の課題抽出と特産品の選定。そして今井さんが販路を担当し、清水さん、林さんが実際に運ぶ現場を担当してくださいました。皆さん、佐渡や新潟とはどんな関わりだったのですか。

林:もともとは技術的な検証を目的に、新潟と佐渡の間でドローンを飛ばしませんかという提案を新潟市や佐渡市に行っていました。というのも40キロほどの越佐海峡は、一般的なドローンでは航続距離が届きませんが、弊社の強みである飛行機型のドローンであれば飛行可能なので、その検証に適していたのです。そうしたなかで清水さんを紹介いただきました。

清水:我々もJR東日本グループとして、ドローンを活用した駅のビジネスや新幹線荷物輸送の可能性を新潟県や新潟市と検討していました。同時に、佐渡でホテルを運営していることもあり、島の魅力を知る一方で“離島ならではの課題”も把握していましたから、ドローンを使って新たな挑戦ができるのではと思いました。なかでも物流は解決したい課題でしたね。

今井:物流は離島の代表的な課題で、私も佐渡をはじめ離島の販路開拓をよく手伝いますが、良いものがあってもコストの高さが障壁となることが多くあります。でも、付加価値があればその壁も越えられます。そのひとつが「鮮度」です。

渡邉:佐渡は、空路もなく船便もタイムリーに出るわけではないですからね。それでドローンに注目されたというわけですね。

清水:そうです。佐渡の魚介類や作物を東京へ運ぶのに、早くても1日以上はかかりますし、新潟市内でさえ鮮度があまり強みになっていなかったので、ぜひチャレンジしたいと思いました。というのも、東京の商業施設にいたときに、ドローンではありませんが生エビを運んで販売したことがありました。「今朝、佐渡から運んできました」というと、お客さんが喜んでくださいましてね。佐渡ブランドには高い期待があったのです。

今井:日本人は特に生鮮品を好みますからね。しかも新幹線だけでなくドローンで佐渡から運ばれてくる、そのストーリーは魅力的。清水さんの話からもニーズの大きさがわかりますよ。

渡邉:鮮度を武器にするということで、島内では何を運ぶかを決めるのもなかなか大変でした。以前からjekiとして佐渡の課題解決に取り組んできましたが、和田さんはこの事業にあわせて、島内のポテンシャル調査をさらに行ったそうですね。

和田:農家の方や地元のお菓子メーカー、漁連の方などにヒアリングを行ったのですが、佐渡にはまだ知られていない美味しいものがたくさんある、ということに驚きました。佐渡産品はもともと生産量が少ないものが多いため、島内消費に留まっていたり、魅力を発信できていないことから市場に出回らない現実がありました。実感としては、私たちのような外の人間がPRを含めてもっとお手伝いできればと感じました。

渡邉:調査の中でイチゴや牡蠣など佐渡の特産品が多くあることがわかりましたが、南蛮エビ(甘エビ)とズワイガニの雌であるメガニが選ばれた理由をお聞かせください。

和田:時期ですね。調査は真冬の1月、2月に行いましたが、実際にドローンで運ぶのは秋口でした。南蛮エビは特に新潟県も推している商品であるということも大きかったですね。

清水:季節を変えるとノドグロとか、アスパラとか美味しいものがまだまだいっぱいあるんですけどね(笑)。

今井:私は汽水湖の牡蠣を推したいですね。まず汽水湖での生産が珍しく、通常の養殖では3年かかるのに対し、汽水湖だと1年で出荷されます。さらに、海水と真水の混ざる環境で育つため磯臭くないのも特徴で、生産自体もボリュームがあります。牡蠣は揺れが苦手なので、ドローンの振動がどれほどかわかりませんが、新幹線物流は安定性があるので、ドローンも適しているのであれば、首都圏でも人気が出ると思いますよ。

清水:メガニも喜んでいただけたんじゃないですか。生きたまま運べましたからね。

今井:そうそう。メガニの評判は良かったです。あるレストランのオーナーさんはメガニが生きた状態で納品されたのを見て、定期的に仕入れたいとまで言っていましたよ。飲食店のオーナーやシェフは全国の食材に精通しているので、いい素材は作り手側のモチベーションアップにもなります。それにハイエンドの飲食店であれば、高単価ビジネスとして成立しますからね。

林:もうひとつ良かったのが、チルド便で送った事前のサンプル品とドローンで運んだものを比較できたことですね。メガニもチルド便だと動いていませんでしたが、ドローンの方は、まだ元気に動いていましたからね。

和田:それは、現場の方々が協力してくださったことも大きいと思います。新潟、佐渡と両漁連さんがパートナーとして参加してくださり、「いちばんいいものを選んでおく」とおっしゃってくださいましたし、何より皆さんが、ドローンが海を越えていくということを楽しみにしてくださって、多くの課題にも前向きに取り組んでいただきました。

持続可能性に不可欠な物流以外のドローン活用

渡邉:今回のチャレンジは、航空法などに則って行う必要があったのですが、一番苦労された点はどんなところでしたか。

林:航空法で常にドローンと通信をつなげておかなければならないと定められているので、それをクリアすることでした。事前のヒアリングでフェリーでも圏外になる場合があると聞いていたので、事前調査として、まずは1月、2月にフェリーの甲板に出て、ひたすら電波を確認し、今度は船をチャーターしてドローンで確認するのですが、飛行距離の短いドローンで行うので離発着も船の上で行わなければいけません。寒さもあり本当に大変でしたが(笑)、なんとか通信も確保できるとわかったのでほっとしました。新幹線荷物輸送も法改正で生まれたと聞きましたが、最初というのはなんでも大変なものですね。

清水:新幹線荷物輸送は「はこビュン」というのですが、これも先人たちのおかげです。ただ、こうした初めてのことを乗り越えると感動もより大きなものになりますね。ドローンが新潟に着いた時は、新潟のすべてのテレビ局が来てくれて、凄く盛り上がりました。

実証実験当日の様子 写真提供:AIR WINGS合同会社

和田:越佐海峡を越えてドローンが飛んで来るということで、メディアの方もドローンが見えた時には興奮されていました。

今井:逆に私だけが東京で荷物を待っていたので、首都圏に届いた時の感動は私しか知らないと思いますけど(笑)。東京でも一緒に待っていた飲食店の方々が喜んでくださり、取り組み自体をおもしろがってくださいました。今回は佐渡でしたが、この仕組みで日本各地の隠れた食材が発掘できるのではないかと期待しています。

実際に輸送された南蛮エビ 撮影:ジェイアール東日本企画

渡邉:今回は離島でしたが山間地域でも同様に可能性がありますよね。

今井:食料アクセス問題というのですが、近年、高齢者を中心に買い物困難者が増えていますから、こうした課題解決にもつながるかもしれません。

清水:JR東日本グループとしてもそこは課題として認識していまして、新潟県内でもまずは地方中核都市、その次に山間部に向けて何かできないかと考えています。路線がある限り、駅には駅社員がいますが、列車の数はそんなに多くない。であれば、その空いた時間を事業に活かすのがよいのでは、と個人的には考えています。それこそドローンを活用した新しいビジネスが生まれるかもしれません。

林:今回良いなと思ったのが、ドローンの往復で荷物を運ぶことで収支バランスをとることができる可能性があるとわかった点ですね。ドローン物流はここ数年で活発化していますが、帰りは空荷なので売上は片道分だけとなってしまい、バランスがとれませんでした。しかし、今回は行きに「特産品」、帰りに「血液製剤」を運ぶモデルを検討したので、持続可能なモデルになるのではないかと期待が持てました。

今井:事業を続けていくためには、往復もそうですが、輸送量も確保されなければならないと思います。今後はその問題も解消していきたいですね。

渡邉:そうですね。実は今回もドローンでどれくらいの量を、何回飛ばせばいいのかなど、地元の生産者の方が事業の可能性を検討されていたので、いずれ解決できるのではないかと思います。

林:私もそう思います。ドローンによる島内物流も考えていますし、密漁や漁場の監視など、物流以外の用途も含めて効率的な運用ができるようになればさらに事業は安定するはずです。航空法の制限もありますが、夜間も飛ばせるようになると可能性はさらに広がりますね。

清水:そういう意味では、駅の屋上などでドローンが発着できることも可能になるかもしれませんね。新潟市は先進的な取り組みをされていますし、それが今回の実証にもつながっていますから、期待できますね。ドローンが飛んでいる姿は夢があり、応援したくなるじゃないですか。トキと並んでドローンが佐渡の名物になるといいですね。

林:ドローンをトキと同じくピンク色に塗装して、トキが飛んでる!と思ったらドローンだった…みたいな感じにしましょうか(笑)。

清水:どっちをみても幸せに感じる、みたいな。金箔もしてね(笑)。

一同:(笑)

渡邉:ドローンもそうですが、佐渡と新潟の可能性の広がりは話が尽きませんね。新たなモデルの実現に向けて今後もよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

和田 珠李
jeki 新潟支社
新潟生まれの新潟育ち。前職のブライダル貸衣装店スタイリスト職から一転、
畑違いの広告代理店jekiに2016年入社。新潟県、地元自治体の業務から商業施設の販促担当などさまざまな事業に携わりながら日々奮闘中。

渡邉 隆之
jekiソーシャルビジネス・地域創生本部 イノベーションデザインセンター
2017年jeki入社。地域と都市の課題を、テクノロジー・データの活用で解決をめざすDX業務のプロジェクトマネジメントに注力。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程在学中。

清水 理三郎
JR東日本新潟シティクリエイト株式会社
2000年、東日本旅客鉄道株式会社に入社。その後、(株)ルミネ、(株)阪急阪神百貨店、(株)JR東日本ステーションリテイリング等への出向を経て、JR東日本では、主に地域活性化事業を担当し、地産品ショップ「のもの」や農業生産法人、ふるさと納税事業等の立ち上げを経験。現在は、新潟にて新潟駅新駅ビルのリーシングおよび運営体制の確立、地域活性化を担当。

林 賢太
AIR WINGS合同会社 代表
大手航空会社の技術部門と新規事業開発部門を経て、2022年11月に起業。有人機と飛行機型ドローンの運用ノウハウを活用し、ニーズ調査から運航まで一貫したサービスを提供。現在は、佐渡の物流課題の解決と魅力向上をめざして、プロジェクトを推進中。パイロット、航空機整備、ドローンの国家資格を保有。

今井 直樹
アールイー株式会社 代表取締役
日本各地の生鮮品・加工品の販路開拓支援や商品企画、店舗企画など食関連のサプライチェーン全体を総合的に支援。ここ数年は生成AIや官民データ活用による販路開拓や業務支援サービスの開発に注力。

上記ライター渡邉 隆之
(ソーシャルビジネス・地域創生本部 イノベーションデザインセンター)の記事

シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑫ 震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス 

地域創生NOW VOL.22

渡邊仁(仙台支社営業第一部 部長代理)

渡邉隆之(ソーシャルビジネス・地域創生本部 イノベーションデザインセンター)

シリーズ 地域創生ビジネスを「ひらこう。」⑫  震災から10年、支援への感謝を込めて「東北」からのメッセージ~東北ハウス

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

>記事一覧はこちら

>記事一覧はこちら