シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉚
なぜ、猛暑のサウナ、厳寒のキャンプが、茨城県大子町を楽しみ尽くすことになるのか?

地域創生NOW VOL.40

写真左から
jeki 水戸支社 石澤 聖
大子町役場 まちづくり課 タウンプロモーションチーム 係長 北村 英之

茨城県北部にある大子町(だいごまち)は、人口1万5千人ほどの小さな町。現在、その豊かな自然を生かしたアウトドアを軸にして町のブランディングを行っている。ここまで聞くとよくある話だが、大子町がおもしろいのは「らしさ」にこだわるところ。例えば、大子町は、その地形から冬は寒く、夏は暑い。特に冬は日本三名瀑のひとつ「袋田の滝」も凍り、氷瀑として知られるほど。一方で、この厳しい気候が土地の恵みを格別なものにしている。
こうした強みとも弱みとも言える大子町の魅力を丸ごと感じてもらおうと「全方位、アウトドア。自然基地大子町」をキャッチフレーズにNATURE BASE DAIGOと銘打った魅力発信を行っている。今回、そのコンセプトづくりから関わったジェイアール東日本企画(jeki)水戸支社の石澤聖が、大子町役場まちづくり課タウンプロモーションチームの北村英之氏を迎えて、大子町を丸ごと味わうための楽しみ方について話した。

「大子町やべーな」は唯一無二の魅力

石澤:北村さんにお会いしたのは、大子町がJR東日本さんと包括連携協定を結んだことがきっかけで、魅力発信の事例を紹介しに行った時でしたね。

北村:ちょうどタウンプロモーションチームがスタートしたタイミングで、大子町をどう売り出していくか、いかに盛り上げていくかという時でした。最初にアウトドアを軸にブランディングしましょうと提案を受けた時には、ありきたりな案かなと思ったのは事実ですが(笑)、石澤さんの提案が「大子町らしさ」にこだわり、キャンプだけでなく、トレイルランニングやサイクリング、収穫体験に川釣り、大子町の自然をすべて網羅した上での提案だったので、大子町を考えてくれているいい提案だなと思ったんです。

石澤:私も提案する以上、大子町に通って魅力を自分なりに考えたんです。そして、気付いたのが町の気候だったのです。同じ茨城県なのに水戸市内と比べるといつも気温が3、4度違う。夏は暑く、冬は寒くて「大子町やべーな」って(笑)。でも、それが魅力だと気付いたのです。

北村:今シーズンはマイナス12.5度も記録しましたからね。盆地なので夏は気温だけでなく湿度も高く、確かに「やばい」(笑)。ただ、厳しい気候や寒暖差が奥久慈りんごや奥久慈茶などの特産品の味に違いを生むなど、大子町の豊かさは気候のおかげでもあるんです。

石澤:それで、アウトドアであれば地域の魅力を出せるんじゃないかと思い、大子らしいクセのあるアウトドアコンテンツにしようと思ったわけです。それで、夏は暑さを生かした「サウナ」のイベントを行いました。熱くなった体は冷たい川の水で冷やし、ロウリュも奥久慈の茎茶を使うなど香りまで大子産にこだわりました。冬もこんなに寒いんだから、体感してほしいと「キャンプ」に決め、そこで、大子町産の薪・炭を使った焚き火で、常陸牛や奥久慈しゃもをいただくという極端な企画を提案させていただいたのです。私が言うのもなんですが、北村さんだからOKしてくださったのだと思いますよ。

「NATURE BASE DAIGOサウナでととのう夏の大子町」(写真左)と「NATURE BASE DAIGO First Winter Camp」(写真右)。

北村:いやいや、大子の自然を感じてもらうという軸がしっかりしているからこそ、実現できたのだと思いますよ。これが大子に関係のないことであれば、「なんのためにやるの?」ということになったでしょうからね。実際、森の中でホラー映画を見るイベントは、即却下しましたしね(笑)。極端といえば、水戸市内のホテルで行った「音の装飾」も実現まで大変でしたが大子の魅力を出せましたね。

石澤:大子町の豊かな自然を、町を離れても感じてもらいたいと展示物のない音だけの展示でした。ホテルのエントランスに設けた展示エリア内の四方にスピーカーを設置し、真ん中のアウトドアチェアに座ると、実際に収録した環境と同じ音がサラウンド体験できるというものでした。八溝山や久慈川、月待の滝など各地へ足を運び、川のせせらぎ、鳥のさえずり、風のささやきといった実際に大子町で聞こえてくる音をレコーディングして、ホテルのエントランスで再現するという企画でしたが、あれも、最初は北村さんだけが賛同してくださった。

水戸市内のホテルで開催した「DAIGO SOUNDS OF NATURE BASE」。

北村:そうそう(笑)。でも、大子に来なきゃ聞けない音が水戸で聞こえるのはおもしろいなって思ったのです。結果的には絶賛してくださる方もいて、いい企画だったと思います。

石澤:言い出しておきながら私も初めてのことだったので、レイアウト変更など試行錯誤をやらせていただきました。大子町さんのありがたいところは、何をやるにしても一緒に取り組み、試行錯誤をいとわないところで、グッズの開発に至っては、北村さんたちの方がアイテムを広げてくださっていますからね。

北村:それは担当である我々だけが、「あいつらが何かやっている」、「ロゴなんかつくって」と思われるのが一番嫌だからです。それで、庁内報で我々の想いや考え、目指すべき姿をしっかり伝えながら、じわじわ周囲を巻き込んでいきました。そうじゃないとロゴをつくっても、それで終わってしまいます。だから、ロゴができた時にフリースをつくったのですが、その時も仕事以外でも着たくなるようなデザインになるように気を付けました。それが今では長袖シャツをつくってほしいなどとお願いされるようになり、職員がロゴやコンセプトに愛着を持ってくれています。それが何より嬉しいですね。また、町内の小・中・高校にステッカーを配布したことがあったんですが、子どもより親が喜んでいたという話を聞いた時も嬉しかったなぁ。

大子町役場の庁内報と各グッズ

石澤:アパレルのデザインもそうですが、ポスターの写真やInstagramも北村さんが撮られてセンス抜群なんですよね。何しろ茨城新聞社の広告賞で鹿島アントラーズと並んで優秀賞をとりましたからね。ロゴの制作時もアイデアをもらいましたし、素晴らしい!

北村:そんなに褒めてどうするのですか(笑)。グッズに関しては、まずは自分が着たい、それから職員に着てほしい。そして、着ているだけで、かっこいいなと思うのをつくっていけたらいいなと思っているんです。

クセが強いからファンも熱くなる

石澤:大子町では、サイクリング企画「DAIGO RIDE QUEST(以下、ライドクエスト)」も実施しました。もともと大子町はサイクリングに力を入れていますよね。

北村:そうですね。道の駅のレンタサイクルにもロードバイクやEバイクが導入されましたし、山坂を上る奥久慈里山ヒルクライムルートを体験してもらう「ツール・ド×大子」のイベントもあるなど、環境は整備されていると思います。そして、何より町長がサイクリストですからね。

石澤:だから町長は若いんですね。ヒルクライムの話も出ましたが、「音の装飾」の録音をした八溝山が舞台ですね。あそこは自動車でもきつく、玄人好みのコースです。

北村:ハードなコースですが頂上の眺望は最高です。それにヒルクライムの坂にかけた「坂好きの盃」という参加商品もあり、こちらもかなりの人気でした。

石澤:逆にライドクエストは、初級者にアプローチしたもので、名前から想像されるとおり、ロールプレイング形式のスタンプラリーです。体力を使うとお腹がすくので、美味しいお店をまわってもらい、食べるとエネルギーや心が回復していくといった企画です。現在、水郡線では自転車をそのまま持ち込めるサイクルトレインも走っていますし、道の駅でもレンタルできるので気軽に楽しめます。これも、地域の皆さんの協力があっての実現でした。北村さんとは別の部署の企画でしたが、どう思われましたか。

「DAIGO RIDE QUEST」の参加風景と協力店舗で提供される商品

北村:やってみて思ったのですが、自分が観光地に行って、レンタサイクルを借りてもどこをまわればいいのか、ってよくあるじゃないですか。その動機づけにはなるなと思いました。それに地域を巻き込んでいたのはよかったな、と思います。ただ、周知がギリギリになっていたので、来年はもっと皆さんに知ってもらい、来ていただきたいですね。

石澤:そうですね。もし自転車に乗られるのであれば、大子町の魅力のひとつがアップダウンのある地形なので、ちょっと頑張ってもいいかなと思われる方には、遠くまで足を延ばして川沿いの景色や隠れた名店を楽しんでほしいです。そして、大子町の人のあたたかさにも触れていただきたい。とにかく人が優しいですからね。今回も協力店舗の交渉のなかで、帰社時間になっても帰ってこないので、上司はてっきり交渉が難航しているのかと思っていたら、実はおもてなしを受けていたってことがままあったので(笑)。

北村:そうそう、そのパターン。確かによくびっくりされます(笑)。

石澤:今後も地域の皆さんともっと一緒にできるか、それを目標にやっていきたいと思っていますし、いずれは地域の方から提案されるようになりたいですね。北村さんは、今後やりたいことはありますか。

北村:私には小学生の子どもが2人いるので、この子ら世代が大きくなっても「NATURE BASE DAIGO」というブランドをカッコいい、自慢したいと思ってもらえるようにしたいですね。「NATURE BASE DAIGO」から大子町を自慢してもらう。それは、誰かに自慢したくないものは広まらないと思うからです。また、町の人たちにもライドクエストをはじめ、おもしろいことをやっているな、こんなところもあるのかと町の再発見につながればと考えています。そして、茨城県外の方は大子町をきちんと読める方があまりいないので、「たいしちょう」、「たごちょう」と呼ばれることなく、「だいごまち」と一発で呼んでもらえるように頑張りたいですね。

石澤:今年秋のJRもサポートする観光キャンペーンであるデスティネーションキャンペーンは、対象が茨城県なので、ぜひ、県外の方にも大子町を知っていただき、このクセのある魅力を伝えていきたいと思います。本日は、ありがとうございました。

石澤 聖
株式会社ジェイアール東日本企画 水戸支社
2020 年 jeki 入社。主に JR 東日本、茨城県内各自治体のブランディングやプロモーションに携わり、地域の気候風土などの特徴を踏まえた、ストーリー性を重視した企画をさまざま手掛けている。

北村 英之
大子町役場 まちづくり課 タウンプロモーションチーム 係長
大学卒業後、2005年大子町役場入庁。建設課、生活環境課、総務課を経て、2021年まちづくり課にタウンプロモーションチームが創設されると同時に配属。大子町の魅力を掘り出し、情報発信に取り組む。

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