シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉖
「感謝と伝承」東京都と被災4県の絆が生んだ「復興フォーラム」

地域創生NOW VOL.36

写真左から
jeki仙台支社 担当部長 高橋 亜紀
宮城県 復興・危機管理部 復興支援・伝承課 震災伝承班 班長 伊藤 崇宏氏
宮城県 復興・危機管理部 復興支援・伝承課 主任復興行政推進員 髙橋 利江氏

「もう」なのか、「まだ」なのかは、その人の置かれた立場によるが、12年目の3月11日を迎えようとしている。被災者の心情を慮ればいたずらに過去を掘り返すべきではないが、災害はどこにでも起こりうる厄災であるため風化させてもいけない。
震災直後から続く被災者への支援だが、その姿も少しずつ変化している。例えば東京都が、2016年に独自で復興応援イベントを行ったことをきっかけに、青森、岩手、宮城、福島の被災4県が東京都の想いに感謝するとともに、連携する形ではじまった「東日本大震災風化防止イベント(通称:復興フォーラム)」。いまや5つの都県が一緒になって開催している。22年3月には宮城県が幹事となり、その事務局を担当したジェイアール東日本企画仙台支社の高橋亜紀が、宮城県復興・危機管理部の伊藤崇宏氏と、同部の髙橋利江氏を迎えて、前回の復興フォーラムを振り返りながら、その役割と語り継ぐべきテーマについて語り合った。

東北から感謝とともに元気を伝える

高橋(亜):17年にスタートした復興フォーラムですが、宮城県が幹事を務めるはずだった21年の開催はコロナ禍で中止となり、翌22年にスライドした経緯がありました。

伊藤:同じ部署にはおりましたが、中止の決まった時は別の班におり、担当ではなかったので、バタバタしているのを傍から眺めているだけでした。

髙橋(利):私にいたっては出向で宮城県庁に来ておりますので、復興フォーラムも今回からの担当です。だから、前回の大変さも知りませんでした。

伊藤:ただ22年も引き続きコロナ禍にあったこともあり、どうやったら開催できるかを皆で考え、初めてリアルとオンラインとのハイブリッド開催となりました。手探り状態のなか、いろいろと悩みましたが、悩みながらも長年続けてきた支援に対する感謝であるとか、風化を防止するために被災地の状況を知ってもらうことが大事だと思い、ジェイアール東日本企画(以下jeki)さんの協力を得ながら進めました。

高橋(亜):そうですね。この復興フォーラムはそもそも16年の3月に東京都が独自に復興応援をされ、その想いに応えようと岩手県の声掛けで、被災した東北4県が一緒に「復興フォーラム」を東京で行うようになったのがきっかけです。各県が持ち回りで幹事を務めており、事務局は弊社がずっと受託させていただいています。時を経て私が感じることは、震災復興から地域創生、東北の魅力発信の機会へと、少しずつですが変わってきたことです。リアルでの開催時は都民の皆さんに会場に来ていただき、東北側の現状をお伝えしながら、物販などで直接的な支援をいただいていましたからね。ところが前回はオンラインも加わりました。なかなか大変でしたよね。

22年3月に東京都内の汐留シオサイトで開催した復興フォーラムの様子。

伊藤:いちばんは、企画を練る際に、お客さんのお顔が見えないことでした。一方で、オンラインにもメリットがあり、国内外を問わず遠方からも期間中常にアクセスできますし、SNSを活用したことで普段の生活の中でも東北を感じていただけました。特によかったのは手探り状態だったので他県の担当の方々とざっくばらんな話し合いができたことでしたね。

高橋(亜):一日限定のリアルイベントだけだと定員も決まってしまいましたからね。ただ、震災復興と一口に言っても、各県によっても、また県の中でも地域ごとに温度差があります。震災復興から地域創生と言いましたが、そう言い切れない場所も未だ多くあります。そういう部分をまとめていくのも大変だったのではないですか。

伊藤:その答えは難しいですね。我々ができることはただ想いを忌憚なく出し合い、形をつくっていくしかありません。だからこそプロセスも大事だし、イベントだけでなく後につながるように何ができるかを重視しました。そういう意味では、うまくバトンが渡せたのではないかと思います。

髙橋(利):今年も震災復興を地域創生の機会と捉えてポジティブに持っていこう、東北を見てもらうきっかけにしようとすると同時に、日本のどこでも災害は起こりうるので、震災の記憶が薄れていかないようにすることを考えました。23年3月開催の復興フォーラムでは、プロフィギュアスケーターの羽生結弦さんに震災時の経験を話していただき、メッセージ動画という形でご協力いただきました。海外にも影響力をお持ちなので、その発信力に期待しています。

伊藤:今回幹事の福島県さんから、東北全体の復興発信へのイメージについてしっかりと考えてご提案いただいたことが起用のきっかけだそうです。羽生さんが宮城県出身者だからというだけではなく、以前からずっと東北を背負って発信してくださっており、震災復興を象徴する方なので本当に嬉しいです。

髙橋(利):コロナ禍で寸断されてしまいましたが、インバウンドの方にももう一度東北に目を向けてもらう機会になればと考えています。

高橋(亜):東北各県にちりばめられた点の魅力を線としてつなぎ、面にすることができれば、ほかの地域に負けない魅力を発揮すると言われていますからね。

伊藤:そうなんです。私は多くの人に東北へ来てもらうカギは、東北の「人」だと思っています。手前味噌ですが、温かい心を持つ魅力的な人も多いですし、各地域の魅力ある見所などの点と点を結ぶのも連携し合うという意味で人ですからね。震災がきっかけで観光でもいろいろと新たな連携が生まれているので期待したいですね。

賛否両論あっていい、怖いのは風化

高橋(亜):復興フォーラムも東北各県の連携が欠かせませんね。その上で震災を語り継ぐこと、未来につなげることの2つの大きな役割があるわけですね。

伊藤:私が震災の伝承を担う課にいることもありますが、震災について語り継ぐことに関しては、時間の経過とともに風化の懸念もあります。でも映画『すずめの戸締まり』の新海誠監督や『荒地の家族』で今年の芥川賞を受賞した仙台市在住の作家 佐藤厚志さんのように、震災によっていろいろなものを抱えることになった人を描いてくださる方もいらっしゃる。我々としても次の世代に、どう伝えていけば自分事として関心を持ってもらえるのかという課題として持っている中で、さまざまな意見は当然あるわけですけれど、こうした作品をつくってくださっているのには頭が下がる思いです。

高橋(亜):賛否あることも被災者のひとりとしてわかります。心の復興はいつまでと言えないくらい長期的な課題ですからね。私自身、いまだに自分が経験したことだとは思えません。震災当日はすべての情報が遮断されていたので、わからなかったのですが、翌日メディアに触れ、実家近くの地域が大きな被害を受けたことを知り衝撃を受けましたから。髙橋さん、伊藤さんはあの日はどう過ごされたのですか。

髙橋(利):私は仙台市内で仕事をしていました。余震が少しだけ収まったので帰宅することになったのですが、帰る手段がなく、ようやく帰れると思えば停電で外は真っ暗な闇でした。結局、自宅近くの家族が住む家に向かったのですが、眠れない一夜を過ごしました。

伊藤:私は東京の団体に出向していましたが、たまたま休暇を取って仙台に戻ろうとしていたところでした。いま思えば間違った判断ですが、被災の映像を見た途端に「戻んなきゃ」と思い車を走らせました。しかし高速は通行止め、信号も停電で使えず、なんとか宇都宮近くまで行った時にようやく、いま戻ったら迷惑をかけると、東京に引き返しました。結局、家族と2,3日は連絡が取れず、気の休まらない時を過ごしました。我々一人ひとりにとってあの日のことは、忘れられないですよ。だから復興支援・伝承課があると思うのです。現在、震災の復旧・復興に従事した職員にインタビュー調査を行い、当時の経験などについて報告書にまとめています。それは、次の地震や災害に生かしてもらうためです。我々も復興を行う中で、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震での兵庫県や新潟県の経験がとても参考になったからです。

高橋(亜):「忘れてはいけない」はフォーラムの大事な役割ですからね。

伊藤:はい。ただ、先ほども言いましたが、フォーラムには東北の元気を伝えるという使命もありますので、今年は、東北観光推進機構が運営するコミュニティサイト「TOHOKU Fan Club(東北ファンクラブ)」も活用させていただき、周知できたらと思っています。クラブには、震災ボランティアで東北を訪れた方や東北出身者など首都圏在住の東北に関心があるコアな層が多数いらっしゃるようなので、まずは知っていただくことでオンラインでアクセスいただくほか、汐留でのイベントにもお越しいただけると思っています。

東北観光推進機構が運営するコミュニティサイト「TOHOKU Fan Club(東北ファンクラブ)」ロゴ。
TOHOKU Fan Club(東北ファンクラブ)サイト:https://tohokufanclub.com/

高橋(亜):実際、双方向のやりとりがあってこそ、伊藤さんもおっしゃった東北の魅力である人が生きますし、誰かのファンとなり、東北へまた行きたいとなりますからね。そういう意味では生産者さんにも魅力的な方が多くいらっしゃいます。今年の物販は、宮城県ではどんなものを予定しているんですか。

髙橋(利):まだ案の段階ですが、県の沿岸部のスイーツを考えています。なぜ、スイーツかと言いますと、イベント会場がオフィス街の汐留で人通りも多く、昼時にはOLさんを、夕方には仕事帰りのお父さんをターゲットにしたいと考えています。

高橋(亜):戦略的なマーケティングですね(笑)。これからの東北は交流人口をもっと増やしていかなければならないので、山形県や秋田県を含めてさらなる連携が必要ですね。

伊藤:そうですね。震災復興も地域創生も取り組んでいる人たちの想いは皆さん一緒ですからね。

高橋(亜):はい、引き続き東北を盛り上げていきましょう。
本日はありがとうございました。

3.11 想いをつむぎ、未来へつなぐ。
東日本大震災 風化防止イベント ~さらなる復興に向けて2023~

【東日本大震災復興フォーラム 開催概要】

■期間
2023年3月5日(日)~3月11日(土)11:00~19:00

■会場
汐留シオサイト(東京都港区東新橋)
プラザ汐留シオサイト店前 通路広場

■主催
東日本大震災復興フォーラム実行委員会(青森県・岩手県・宮城県・福島県・東京都)

■共催
一般社団法人 汐留シオサイト・タウンマネージメント

■後援
復興庁・一般社団法人 日本経済団体連合会・公益社団法人 経済同友会・東京商工会議所

■会場内コンテンツ
・東北4県エリア
東北4県の知事・東京都知事からのメッセージや、東北を代表し、
羽生結弦さんからの復興支援への感謝のメッセージ動画を放映します。
このほか、復興が進んだ東北のいまや、震災当時の状況をパネルなどで紹介します。
・応援・感謝エリア
東日本大震災を後世に語り継ぐ活動を行っている方々の情報をパネルと映像でご紹介します。
被災地と首都圏をつなぐメッセージ交換パネルも設置します。
・東京都エリア
被災地に対し、継続的な支援を行っている東京都の取組を知ることができるコーナーです。
パネル展示のほか、VR体験も実施予定です。
・物販エリア
東北4県の地場産品を厳選して販売いたします。また、期間・数量限定で人気のご当地スイーツを販売します。

■オンラインイベント
3月19日(日)まで特設サイトにて開催
・東北4県知事・東京都知事・羽生結弦さんからのメッセージ動画
・震災語り部団体・伝承施設の紹介
・東北の魅力的な観光・物産情報
・汐留シオサイトイベント、会場の最新情報など

高橋 亜紀
jeki 仙台支社 担当部長
業界紙記者、編集ライターなどを経て、2012年jeki入社。入社時から国や地方自治体の復興関連事業に携わり、現在は地域創生や農政に関する事業に多く携わる。

伊藤 崇宏
宮城県 復興・危機管理部 復興支援・伝承課 震災伝承班 班長
2005年度入庁。経済商工観光部観光課主査、保健福祉部医療政策課主任主査(県立病院機構派遣)などを経て、20年4月から震災復興・企画部震災復興推進課(現課の前身)企画員を務め、21年4月より現職。
「みやぎ東日本大震災津波伝承館」の管理・運営など県の震災伝承施策推進のほか、被災地の復興情報の発信などに携わる。

髙橋 利江
宮城県 復興・危機管理部 復興支援・伝承課 主任復興行政推進員
2022年4月、東京海上日動火災保険株式会社から宮城県庁へ出向。
震災の記憶・教訓などの伝承および震災の風化防止などに向けた広報・啓発などの事務に携わる。23年から復興フォーラムの主担当として取り組む。

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