変わりゆくアート市場と、その展望(前編)
ー金島 隆弘(ACKプログラムディレクター、京都芸術大学客員教授)×中江 健介(株式会社ジェイアール東日本企画 関西支社 京都営業所)ー

中之島サロン VOL.12

都市部だけでなく、地域ならではの特徴を活かしたアートフェスティバルが各地で盛んに開催される昨今。国内最大級のアートフェアなどの数々の仕掛けをはじめ、アジアを中心に数多くのアートプロジェクトで話題を巻き起こすアートディレクター・金島隆弘氏に、私たちは、企業は、自治体はこれからアートをどう捉え、どう関わっていくべきなのか、日本のアートをとりまく周辺をお話しいただきました。

対談・撮影場所/前田珈琲 明倫店(京都市中京区)
■ACKプログラムディレクター、京都芸術大学客員教授 金島 隆弘氏(右) 株式会社ジェイアール東日本企画 関西支社 京都営業所 Social Designチーム シニアプロデューサー 中江 健介

京都で初開催する日本最大級の現代アートのフェア。

中江:金島さんは、2021年、京都で開催予定のArt Collaboration Kyoto(ACK)という新たなアートフェアのディレクターを担当されていらっしゃいますよね。背景とコンセプトについて教えていただけますか。

金島:はい、ACKは国際性を意識したアートフェアなんですが、日本では国際的なフェア自体が少なく、あったとしても海外ギャラリーの出展数は限られていました。そこで、京都で国際的なアートフェアの開催を本格的に目指していこうという流れになったのですが、海外のギャラリーに参加いただくことは簡単ではありません。地理的にも不便な日本のフェアに、単に「出展してください」では参加が難しいので、ACKでは、日本のギャラリーがホストとなり、海外のギャラリーをゲストとして迎えるという方法をとることにしました。

中江:アートフェアとしては、新しい方法ですね。

金島:感覚としてはこの10年くらいで、日本のギャラリーが他国のギャラリーと組んでアーティストの活動を支える機会が多くみられるようになり、国際的なネットワークをギャラリー自身が持つようになってきました。コラボレーションにより、単独では出展のハードルが高い海外ギャラリーにも参加いただけるようになり、日本と海外の比率がほぼ半分ずつとなったのが今回のACKです。

京都府が主導する、新たなかたちのアートフェア。国内と海外それぞれ約20(計約40)の有力ギャラリーが集まる「ギャラリーコラボレーション」、京都ゆかりのアーティストによる個展やグループ展で構成される「キョウトミーティング」の2種類のセクションにより、京都を現代アートの制作・発表・販売の世界的拠点とすることを目指す。2月の開催は延期となったが2021年内で開催予定 。https://www.a-c-k.jp/

中江:素晴らしい仕組みですね。コラボレーションに対する各ギャラリーの反応はいかがでしょうか。

金島:ギャラリーの方からは好評をいただいています。国際的なアートフェアでは、お互い自国のアーティストを中心に発表することが多く、大々的に他国のアーティストを紹介しにくいので、コラボ先のギャラリーと協力しながら出展できるのは貴重な機会であるとも伺っています。
また、海外のコラボレーションだけですと、京都のアーティストを紹介できる機会は限られますが、京都府も主催に入りながら一緒に準備しているACKでは、地元のアーティストの発信をするという視点も大切です。
そこでACKでは、コラボレーションに加え、キョウトミーティングというセクションを設け、京都にゆかりのあるアーティストを個展やグループ展で紹介するセクションを設けています。こうした地元のアーティストが海外のギャラリーやコレクターの目に留まる機会を設けることも大事だと考えています。

世界から見えた日本のアートの現状。

中江:そういえば、金島さんはメーカー勤務を経て、アートの世界に飛び込まれましたよね。最初に関わったのがアートフェア東京(AFT)【※1】なんでしょうか。

金島:AFTとはメーカー勤務後に勤めていた東京画廊の北京担当として、出展者の立場から関わったのが最初でした。前任のディレクターから後継の相談を受けたのは、東京画廊を退職してフリーで3年くらい美術の仕事をしていた頃のことです。

中江:それでもディレクターを引き受けられたわけですよね。

金島:アートフェアのことは全くと言っていいほど知らなかったですけれどね(笑)。中国、韓国、台湾などと美術の仕事をしていたフリーの頃は、どちらかというとアーティスト側に立っての制作支援に興味がありました。マーケットの世界には興味がなくて。ただ、当然ながら美術にもお金がかかります。アートフェアは、お金を出す側の気持ちを理解するためにはいい方法なんじゃないか、と思ったのが決断した理由でした。

中江:当時のコンセプトは何だったんですか?

金島:日本で現代アートを買うという習慣がまだあまり定着していなかったので、「美術は買えるもの、関わって楽しいもの」ということをいかに伝えるかを大切にしました。あとは企業が美術とどう関わることができるのか、そういう仕組み作りの構築ですね。

中江:5年携わられたAFTの次の活躍の場として選ばれたのが、中国で開催されているアートフェア、アート北京ですね。

金島:東京画廊で北京にいた時からの知り合いがディレクターをされていて、「アート北京をアジアと交流するイベントにしていきたい」と声をかけていただいたんです。

中江:同じアートフェアとはいえ、東京と北京では違いがありましたか?

金島:例えば、入場者数や売上なども日本と桁が違うんです。

中江:アーティストがアートフェアに出展する場合、基本的にはギャラリーに所属しなければなりませんが、こうしたアートフェアにおけるクオリティとは、そもそも出展ギャラリーのレベルに左右されると思っているんですが。

金島:確かにそうです。アートフェアに出展するギャラリーを審査するコミッティーがあり、権威のあるメンバーが揃うほど、彼らの意思に沿う=クオリティが高い、とされるのが実情です。欧米はスタンダード、つまりルール作りが得意ですから。さらに言えば、ヨーロッパの主要なアートフェアの主催は、建物自体であることが多いんです。スイスのアート・バーゼル【※2】も主催は、メッセ・バーゼルで、日本で例えるなら「東京国際フォーラム主催」のような感じです。だから会場代がいくらかかったとか、というような話じゃないんですね。会場そのものもがノウハウや付加価値を蓄積して開催するから、彼ら自身が儲かる仕組み作りができるんです。バーゼルは政府も絡んでいるので、1週間でフェア1年分の運営費を稼ぐとも言われています。

中江:こちらもスケールが違いますね。アジアでは会場が主催しているところはないんでしょうか?

金島:上海で近年スタートした西岸芸術与設計博覧会(West Bund)は、会場を管理する市政府が主導していますが、その程度だと思います。

中江:国内各地にも、大型の施設が持て余されているケースがありますが、そうした仕組み作りの中に何かいいヒントがありそうです。それで北京から戻られて、東京ではなく京都へ来られたんですか?

金島:はい。中国で40歳を迎えて立ち止まって考えた時に、「もう1回学生をしよう」と。一度住んでみたかったこともあって、京都芸大の博士課程を受験しました。学びに年齢は関係ありませんから。

中江:でも、活動は学業だけに留まっていませんよね。

金島:最初は何もなく、まっさらで帰ってきたんですよ。沖縄の「やんばるアートフェスティバル」もそうですが、AFTで一緒に仕事をした人や仲間から相談されたり、声をかけられたりして、アートプロジェクトやアートワードの審査員などを少しずつさせてもらえるようになったんです。

引用元 http://yambaru-artfes.jp

沖縄本島北部地域を会場とし、やんばるの原風景とともに現代アートや伝統工芸を体感できる地域芸術祭。今年で4回目を迎える。

中江:大忙しですね。この前田珈琲 明倫店の20周年記念のアートプロジェクト「tower(KITCHEN)【※3】」も金島さんのプロデュースですよね。

金島:チームを作って取り組みました。社長の前田さんとは、前田珈琲が北京支店を立ち上げる時に現地でお会いしたのがそもそもの馴れ初めです。京都に学生として住むようになってグッズを作りたいと相談を受け、「それなら、もっとスケールの大きいアートプロジェクトをやりましょう」と。それで完成したのが「tower(KITCHEN)」です。

前田珈琲 明倫店20周年を記念したプロジェクトで、店内のキッチンが彫刻作品に大変身!

コンクリートの直方体に開けられたいろいろな形の穴では、コーヒーをはじめとしたメニューのやりとりが行われる。吊り下げられたオブジェが不思議な動きをすることも。

ようやく動き始めた日本の美術市場。

中江:このプロジェクトは、クラウドファンディングで資金を集められたそうですね。そういえば、金島さんとはじめてお仕事をしたのは、京都にゆかりのあるアーティストを海外の有名なアートフェアに連れていくというプロジェクトで、京都市と一緒にクラウドファンディングを立ち上げた時でしたね。

金島:2年ほど前ですね。

中江:先ほども言いましたが、アートフェアにはギャラリーでないと参加できないのが基本ですし、ましてや日本の若手アーティストが海外のアートフェアに出展となれば、トップギャラリーに所属していなければ無理な話です。そこで、芸術関連の大学が多数ある京都市が日本でもトップのギャラリーと組んで、審査を通過した若手アーティストをクラウドファンディングで連れていくというものでした。

金島:システムとしては画期的ですが、最も大切なことは、若い人がどうすれば制作を継続できるかという環境の問題です。それは海外に進出すれば解決という話ではありません。プロ野球でもメジャーリーグに行ったら成功で、国内にいれば失敗とはならないですよね。

※Image courtesy of Taipei Dangdai.
※台北當代より承諾を得て掲載しています。

ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディング(ガバメントクラウドファンディング)による全国初のアーティスト支援プロジェクト。京都市の8つの美術系大学卒業生の優秀なアーティストに、今アジアで最も勢いのあるアートフェア「TAIPEI DANGDAI Art & Ideas 2020」へ出展できる機会を創出した。

中江:おっしゃるとおりです。では、昨今の日本のアート市場を金島さんはどうご覧になっているんでしょう。

金島:結構変わってきていると思います。私がAFTに関わっていた頃は、古美術を中心に買われる方こそいらっしゃいましたが、現代アートのコレクターはまだ少なくて。でも、コレクションされる方や一度買ってみようかと興味を持つ会社員などが増えていて、アートのマーケットは少しずつ大きくなっている印象があります。

中江:アートが身近なものになりつつあるわけですね。

金島:大変な状況ではありますが、新型コロナが美術にはいいお金の流れをもたらしているとは聞いています。家から出られず、趣味を充実させたいとき、予定していた出費を美術に、と考える方も多いんだそうです。また、今までは一般的ではなかったネットでのアートの取り引きも増えています。アーティストが自分の作品をSNSに上げるとコレクターが見つけて、インスタ買いすることもあるのだとか。それにつれて、作品の価格を意識した転売が行われてしまう現状にも直面させられています。

中江:転売問題は、どの分野にも言えることですね。話は変わりますが、メディアがアートのECサイトを運営することなどについては、どうお考えですか?

金島:メディアの公平性の観点から考えると、特定の作品を扱って販売するためにバランスを取るのは工夫が必要ですよね。扱っている作品を自社のメディアでプロモーションするわけですし。そうすると情報が偏る可能性が出てくるわけです。

中江:アートの中にある思想やいろんな価値観を、どうチョイスしてキュレーションしていくかというのは難しい問題ですね。

金島:私は美術には答えがないと思っています。日本の人はすぐに答えを聞きたがりますけれど。中国では、購入した美術でお金を稼ぎたいというのもあるんでしょうが、作品について全部自分で調べます。自分で調べて、見て、判断するから強い。結局、一人ひとりが考えて判断することがどんどん求められる時代になっていく気がします。
(後編に続く)

※1
古美術・工芸から日本画・近代美術・現代アートまで幅広い作品のアートが展示される日本最大級の国際的なアートフェア。2005年より開催。

※2
1970年に始まった、スイス北西部の都市バーゼルで毎年開催される世界最大規模のアートフェア。

※3
京都芸術センターとして生まれ変わった築80年以上の旧明倫小学校1階の教室にオープンしたカフェ。20周年を記念して、店内のキッチンを「tower(KITCHEN)」という彫刻作品に作りかえようというプロジェクトが始動。2020年に完成した。

金島隆弘
ACKプログラムディレクター、京都芸術大学客員教授

1977年東京生まれ、京都在住。2002年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、ノキア社、株式会社東芝、東京画廊+ BTAP、ART iTなどを経て、2007年に FECを設立。展覧会企画、交流事業のコーディネーション、アーティストの制作支援、東アジアの現代美術の調査研究などを手がける。
2011年よりアートフェア東京エグゼクティブディレクター、2016年よりアート北京アートディレクターを経て、現在は京都市立芸術大学大学院美術研究科博士課程に在籍しながら、2021年より国立京都国際会館で開催される新しいかたちのアートフェアACK (Art Collaboration Kyoto)のプログラムディレクターを務める。

中江 健介
株式会社ジェイアール東日本企画 関西支社 京都営業所

2008年jeki入社。本社営業局を経て、2017年関西支社開設、2018年京都営業所開所を担当。
現在は、関西支社と京都営業所において、ローカルコンテンツのリサーチおよびプランニング業務に従事。

<撮影場所>
前田珈琲 明倫店
京都市中京区室町通蛸薬師下ル山伏山町546-2
京都芸術センター内1F
TEL:075-221-2224

上記ライター中江 健介
(関西支社 京都営業所)の記事

中之島サロン by 関西支社

なぜ今、地域特有の課題やリソースを活用した先進的な取り組みが活発になっているのか。地域だからこそ生まれるイノベーションとはどんなものなのか。jeki関西支社が、さまざまな分野で活躍される方々をお招きして話を伺いながら、その理由をひも解いていきます。

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  • 稲葉 耕一
    稲葉 耕一 執行役員 関西支社長

    1991年jeki入社。営業局配属後、運輸、食品他多くの商品、サービスのAEを担当。
    広告電通賞準グランプリを受賞した航空会社のキャンペーンでは代理店サイドの責任者として陣頭指揮を執る。2014年第三営業局長を経て2017年より関西支社長。
    関西支社長就任後、大阪市交通局のCI構築のコンペを獲得、実施。

6月15日公開 PICK UP 駅消費研究センター VOL.39 について

2021年6月15日公開のPICK UP 駅消費研究センター VOL.39「地域や自然とつながる循環型レストラン「Maruta」(調布市)―社会問題に応える、生産緑地の開発モデルへ」について、6月17日より公開を中止しておりましたが、一部内容を修正のうえ、7月9日に再公開致しました。