DMOの可能性と果たすべき役割。(後編)
―林口砂里(エピファニーワークス代表取締役)×稲葉耕一(ジェイアール東日本企画関西支社長)×溝口淳夫(ジェイアール東日本企画北陸営業所長)―

中之島サロン VOL.8

中央:エピファニーワークス代表取締役 林口 砂里氏 左:ジェイアール東日本企画関西支社長 稲葉 耕一 右:ジェイアール東日本企画北陸営業所長 溝口 淳夫

全国各地で、地域創生が積極的に進められている昨今、そのかじ取り役となるのがDMO。Destination Management/Marketing Organizationの略称で、行政・民間を超えて幅広く連携しながら、地域の活性化に向けて事業を推進する観光法人のことを言います。
今回は、DMOの候補法人※として、富山県西部のエリアを担う一般社団法人 富山県西部観光社「水と匠」でプロデューサーを務める林口砂里氏(エピファニーワークス代表取締役)をお招きし、ジェイアール東日本企画関西支社長の稲葉耕一と北陸営業所長の溝口淳夫が、DMOの可能性やその役割などについてお伺いしました。
後編となる今回は、観光を軸に富山県西部地区で活動する地域振興組織「水と匠」のマーケット戦略や今後の展開などについて、語っていただきました。今回はその後編です。(前編はコチラ)

※観光庁を登録主体として、日本版DMO及びその候補となり得る法人のこと

マーケティングと感性の両輪から。

溝口:「水と匠」で取り組んでおられる施策の多くは、クリエイティブクラス※を第一ターゲットに置かれているそうですが、その層にアプローチする理由は何ですか?

※クリエイター、クリエイター以外にもクリエイティブなものに感度が高い人、産業観光に興味のある人を含む階層のこと。

林口:私たちはDMOのM、つまりマーケティングを大事にしていて、先日、Yahoo! JAPANのデータソリューション部に、富山県西部の観光地やコンテンツの検索ログを分析してもらいました。その分析結果として、例えば、富山の五箇山と岐阜の白川郷は近いエリアにあって、どちらも世界遺産なんですが、五箇山の検索数が10だとすると、白川郷は100ぐらい検索されているんです。一方、草津温泉を調べてみると223ぐらい。やはり、全国的な観光地と比べて白川郷でも半分以下、高岡大仏や瑞龍寺は五箇山よりも下。ということは、富山県西部は観光地としては認知されていないも同然です。ただ、注目すべき結果もあって、五箇山よりも鋳物メーカーの能作さんの方が多く検索されていたんですよ。つまり、富山県西部は観光地としてよりも、伝統産業やものづくりの分野での認知があるんじゃないかと考えました。それを踏まえると、私たちは、やはり、「産業観光」に力を入れるべきなのではないか、と。長い間製造業に携わってきたエリアなので、今までやってきたものづくりを生かした観光業をやる方が自然ですし、強みを生かせるから、ここに特化していきましょうと。

稲葉:そこから、富山県西部、特に高岡の強みである伝統工芸やものづくりの分野は、クリエイターの方々に響くだろうという考え方ですね。

林口:はい。伝統工芸などは、グラフィックや映像、ファッションなどを含めてクリエイティブな仕事に関わっている方に興味を持ってもらえる分野なので、そこをターゲットにしようということになりました。

稲葉:なるほど。能作さんの鋳物って、Appleやダイソンの製品に近いような気がするんですよ。商品がすごく体験的で知的な感じがしますよね。そういったものをつくれる企業って、そうそうないですよね。そこで、どうして能作さんには、それができたんだろうって、すごく不思議に思っています。

林口:能作さんの成功には、行政のサポートも大きく寄与しています。20年以上前から、県や市のデザインセンターがマッチングを行っていて、その中で、能作さんとデザイナーやプロデューサーが出会われたところから新しい展開が始まりました。ただ、能作さんのように外部の人が入るとどこでも上手くいくかと言えば、そうではないのですが。

溝口:それが難しいところですよね。ある手法が上手くいったからと言っても、それが他に通用するかと言えば、決してそうじゃないと。

林口:そうですね。地元との向き合い方だったり、その土地が持っている特徴だったりをちゃんと捉えてくれて、世界を広げてくれる人と出会えば、すごく上手くいくんですけど、実際はなかなか難しいですよね。

溝口:外部の力がないと広がらないけど、変な方向に行ってしまうこともありますし。

林口:そこがすごく難しいところです。だからこそ私は、上手くいく組み合わせを考えて、間をつなぐ役割を果たせればと。もちろん、直接やりとりした方が早い場合もありますが、お互いまったく違う言語で話していたりする場合だと、しっかりと翻訳させてもらった方が上手くいくこともありますし、お互いがハッピーになれるプロジェクトができると、これまでの経験から実感しています。

稲葉:すごくわかります。良い人とはなかなか出会えないし、さらに、出会えてもお互いが微妙に違う言語で話をしていると、足並みもそろわないですよね。林口さんはそこを上手につなぐ役割も果たしておられると。

溝口:なるほど。本当に成功しているものって、それがすごく上手くできているものなんですよね。

稲葉:今、「デザイン経営」って言葉をよく聞きますよね。例えば、先ほどのAppleやダイソンだったり、そういった企業を見てみると、やっぱりデータの積み上げだけじゃなくて、感性をすごく大切にしているんですよ。

林口:データだけでは限界はありますよね。データを取ることは客観的な事実として大切ですが、その分析結果に対して、ある種の発想力がなければ何も生まれませんから。

稲葉:「感性」は大切。間違いないですね。

林口:「感性」ってすごく抽象的な言葉ですが、とても大事だと私は思っています。数字や客観的な事実からだけでは、人を感動させることはできません。やはり、そこを超えていくものをつくり出すには、感性が大切なんですよ。

溝口:それは、私も最近になって本当に感じています。データと感性、その両方をきちんと見つめることが、これからもっともっと重要になっていくんだろうなぁと。

DMOで何をするか、何をもたらすか。

溝口:「水と匠」でこれから、どんな活動をされるのか教えてください。

林口:私たちのDMOは大きく6つの事業を柱にしています。1つ目は先ほど話したYahoo!と進めているデータ分析です。今年度は行政からの依頼で、地域から提供してもらうデータとYahoo!が持っているビッグデータをクロスさせたデータベースの構築・共有を行っています。さらに今、地元でそのデータを分析できる人材を育成したいと考えていて、行政や観光協会などの方を対象に、セミナーを実施する予定です。

稲葉:なるほど、地元で人を育てることは大切ですからね。先ほど話に出た産業観光については、どう取り組む予定ですか?

林口:それが2つ目で、例えば、企業の研修として利用いただけるような産業観光を中心としたツアーを企画したいと考えています。それから、海外の方には、「エデュケーテッドツーリズム」という新しい枠組みのツアーを提供する予定です。旅先の歴史や文化について学びたい方が、欧米ではかなり増えてきているので、彼らをターゲットにしようと。それからまた、アジアの富裕層・中間層向けのツアーも中国の代理店と組んで進めています。

稲葉:アジアの富裕層・中間層をターゲットに考えることは、これからのビジネスに必須ですよね。例えば京都でも、様々な階層に対してどうすれば上手にもてなすことができるのかを、すごく勉強しておられるようですよ。

林口:はい。特に中国の富裕層の感覚は、日本人とかなり違っていて、金や銀をすごく好まれたり、きちんとサーティフィケートされているものを価値基準とされているんですよ。例えば、人間国宝の作品とか国のお墨付きがないとまったく売れなかったり。そうしたことを踏まえながら、中国にアプローチしていきたいと考えています。

稲葉:中東の方はどうですか?

林口:中東やインド、それからタイなども、これからターゲットになっていくと思います。

溝口:これからは、そういった国からの観光客がどんどん増えていくんですよね、すごくおもしろくなりそうです。

林口:そういう動きもしっかりと見ておかないといけませんね。それから3つ目は、物を売るという商社やギャラリー的な役割にも注力していきたいです。地域同士をマッチングさせて新しい商品や作品をつくって販売していくことを進めています。そして、4つ目が空き家や空き店舗をリノベーションして、宿泊施設やレストランにするというエリア・マネジメントです。その第1弾の物件がもう決まっていて、築130年ぐらいのアズマダチの古民家を宿泊施設にリニューアルして、レストランも併設する予定です。

稲葉:なるほど、そういった取り組みの中で課題になるのが、スポンサーですよね。

林口:それは大きな課題ですよね。もちろん、自分たちで銀行からお金を借りてもできるかもしれませんが。

溝口:他にもファンドをつくったりなど、いろいろな方法がありそうですね。

稲葉:企業のコミュニティ基金とかって、何百億と運用できたりするじゃないですか。そういったのを使えば継続的にできるんじゃないかなって思います。それを実現する何かがあればなぁ。

林口:自分たちの資本を良いことに使おうって、今、投資家のマインドも公益資本主義的なものに変わってきているじゃないですか。なので、地域にも残すべき価値があることを、世の中に伝えていければと考えています。

溝口:ふるさと納税的な感じですよね。地域のために投資しましょうと。

林口:あるいは、地域に別荘を持つとか。

溝口:なるほど、その考え方もすごく良いですね。

林口:都会に比べたら安い価格で素晴らしい邸宅を持てて、しかも、歴史や他では見られない景色もあって、さらにそれが、地域の活性化につながりますよと。そういった価値を投資家の方にわかっていただければ良いんですけど。それもあって、まずは自分たちがひとつの事例を手掛けてみようと、今回のリノベーションへと踏み出したんですよ。そんなに次々にはできませんが、まずはひとつ成功させれば、次につながるのかなと考えています。

稲葉:外部の方が投資してくださるからこそ、できることもありますもんね。

林口:間違いないですよね。次に5つ目ですが、これまで、観光協会にしても、行政にしても、情報を上手く発信できていなかったところがあるので、私たちは、広報の部分を戦略的にきちんとやっていこうと考えています。例えば、10月に東京でイベントを開催するにあたって、リリースをつくって800件くらいのメディアに配信しました。

稲葉:それが大切なんですよ。そのあたりも、なかなか上手くいっていない場合が多いなぁ、と。そして、最後は人材育成ですよね。

林口:はい。それについては、もう痛感しています。ホテルマンだったり、観光業に従事する人材が本当に少なくて、海外の観光客を迎えるにしても、国家資格として認定されている通訳案内士は、県内で7名しかいないんですよ。なので、とにかく、人材を育成することが大切です。例えば、観光専門の学科が新設される専門学校と連携したり、今いろいろと進めていますよ。

稲葉:「観光」というものの捉え方も変わってきてますよね?

林口:そうなんです。観光は、これからすごくビジネスになる分野だと思います。ただ、早くしっかりとしたものを形作って、観光客を満足させないと、続いていかないですよね。実は、今、結構危ういと思っています。あまり上手にもてなせていないよなぁって。

稲葉:高岡はそんなことないんじゃないですか?

林口:いえいえ、まだまだ、これからですよ。飛騨高山とか、すごく上手にやれている地域はありますが、彼らはずっと前から取り組んでこられた結果ですし。

溝口:飛騨高山は、インバウンドを意識してからすごく変わったんですよ。

林口:私たちのDMOはまだまだこれからですが、地域を代表する経済人の方々が入ったことで、地域にもっと関わっていくべきだな、と地元の意識が少しずつ変わってきていると感じています。こうやって少しずつでも変わっていけば、どんどん良くなっていきますし、そのお手伝いをできればと。

北陸が持っている可能性。

稲葉:溝口営業所長は今、北陸にいて、どんな地域創生の展望がありますか?

溝口:北陸はまだまだ可能性がある土地ですよ。例えば、東京や大阪ともつながって、不測の事態が生じた際の首都機能のバックアップ都市としても、かなり活躍すると思いますし。

稲葉:文化的には関西の方が近いですよね。

溝口:はい。それを踏まえて今、京都から越前、金沢、高岡、新潟の燕三条をつないで、伝統工芸などのものづくりを使った施策ができればおもしろいだろうな、とかいろいろと考えています。jekiには関西支社があって、北陸営業所と新潟支店があって、全部自分たちでつなげられるんですよ。

林口:そういった広域なルートができたら、人はもっと回遊しますね。

溝口:私もそう考えているんですよ。これはおもしろいなと。

林口:どんな人たちへのアプローチを考えていますか?

溝口:さっきの話でもあった海外からの観光客ですね。彼らは、その土地が持つ物語や歴史がすごく好きですし、こだわりますよね。だから、京都に隣接した古代の高志国(こしのくに)という歴史的背景をフックに、さらに、伝統工芸でもつなげると。

林口:京都のブランド力を使えば、すごいことになりそうです。楽しそうですね。

溝口:そうですね。そこを上手く使いながら、どんどんやっていきたいですね。林口さんも、ご一緒に(笑)。

林口:こちらこそ、ぜひ、お願いします(笑)。

林口 砂里
文化・地域振興プロデューサー/(有)エピファニーワークス代表取締役
富山県高岡市出身。東京外国語大学中国語学科卒業。
東京デザインセンター、P3 art and environment等での勤務を経て、2005年に(有)エピファニーワークスを立ち上げる。これまで、現代美術、音楽、デザイン、仏教、科学といった幅広い分野を融合させるプロジェクトを手掛ける。
2012年より拠点を富山県高岡市に移し、伝統工芸と先端技術が出合う『工芸ハッカソン』のプロデュースをはじめとし、地域のものづくり・まちづくり振興プロジェクトに取り組む中、2019年、地域の観光を推進するDMO候補法人「一般社団法人富山県西部観光社 水と匠」のプロデューサーに就任。

主な実績
・西本願寺 「スクール・ナーランダ」や「伝灯奉告法要協賛行事」プロデュース(京都、他)(2017~)
・国際北陸工芸サミット「工芸ハッカソン」他プロデュース(富山県、文化庁)
・京都市主催の音楽フェスティバル 「OKAZAKI LOOPS」プロデュース(京都市)(2016、2017)
・2017年開館「富山県美術館」のプロモーション(2015~)
・「伝統的工芸品国民会議全国大会」監修(富山県)(2015)
・国際プロジェクトALMA望遠鏡コンテンツ制作プロデュース(国立天文台)(2014年秋「21_21 Design Sight」、
2015年金沢21世紀美術館、2016年青山・スパイラルにて展示)
・高岡市文化創造都市懇話会委員として、文化創造都市ビジョン策定に携わる(高岡市)(2014~2015)
・「富山ブランド販路拡大調査」(富山県)(2014)
・「高岡クラフト市場街」企画運営(2013~)
・科学×音楽「宇宙とヒトをつなぐもの」(主催:(独)科学技術振興機構)(2010)プロデュース

上記ライター稲葉 耕一
(執行役員 関西支社長)の記事

上記ライター溝口 淳夫
(北陸営業所長)の記事

中之島サロン by 関西支社

なぜ今、地域特有の課題やリソースを活用した先進的な取り組みが活発になっているのか。地域だからこそ生まれるイノベーションとはどんなものなのか。jeki関西支社が、さまざまな分野で活躍される方々をお招きして話を伺いながら、その理由をひも解いていきます。

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  • 稲葉 耕一
    稲葉 耕一 執行役員 関西支社長

    1991年jeki入社。営業局配属後、運輸、食品他多くの商品、サービスのAEを担当。
    広告電通賞準グランプリを受賞した航空会社のキャンペーンでは代理店サイドの責任者として陣頭指揮を執る。2014年第三営業局長を経て2017年より関西支社長。
    関西支社長就任後、大阪市交通局のCI構築のコンペを獲得、実施。

  • 溝口 淳夫
    溝口 淳夫 北陸営業所長

    1992年jeki入社。入社後は、本社~長野支店~本社~仙台支店に勤務し、主に、JR東日本グループ流通関連会社の販促・広報宣伝活動業務を担当。 特に、2016年3月の仙台駅東口開業(SCゾーン等)に関しては、多くの関係者との調整がある中、業務受諾側の現場責任者として陣頭指揮を執った。 2016年仙台支店副支店長を経て、2017年より北陸営業所長に就任。2019年度石川県アンテナショップリニューアルに関する運営事業を受諾。

6月15日公開 PICK UP 駅消費研究センター VOL.39 について

2021年6月15日公開のPICK UP 駅消費研究センター VOL.39「地域や自然とつながる循環型レストラン「Maruta」(調布市)―社会問題に応える、生産緑地の開発モデルへ」について、6月17日より公開を中止しておりましたが、一部内容を修正のうえ、7月9日に再公開致しました。