変わる、スポーツの在り方。
―原田宗彦(早稲田大学 スポーツ科学学術院教授)×稲葉耕一(ジェイアール東日本企画 関西支社長)―

中之島サロン VOL.11

今やスポーツは、アスリートだけのものではなくライフスタイルの領域にまで広がり、日々の暮らしを豊かにするうえで欠かせないものとなっています。さらにコロナ禍により、その価値観の変容がますます加速している今、広告会社として改めて「スポーツ」を見つめるべく、今回の対談を行いました。早稲田大学 スポーツ科学学術院の原田宗彦教授をお招きし、ジェイアール東日本企画 関西支社長・稲葉耕一が、スポーツによる都市づくり、パークマネジメント、これからのスポーツの在り方などについてお伺いしました。

対談・撮影場所/ボルカフェ(大阪府箕面市)

「体育」から「レジャー」へ。

稲葉:はじめに、原田先生がスポーツによる都市づくり、パークマネジメントに関わられた経緯やきっかけをお聞かせいただけますか?

原田:20年ほど前、大阪体育大学にいた頃に、2008年夏季オリンピックの大阪招致に関わったことが、大きなきっかけです。招致にあたり、都市にどのようなオリンピックレガシー(遺産)を残すかといった課題に取り組んでいく中で、スポーツと都市づくりの親和性の強さに興味を持つようになりました。

稲葉:2008年夏季オリンピックの招致となると、かなり以前から、スポーツによる都市づくりに取り組まれていたとのことですが、今のようにクローズアップされるようになったのは、ここ数年だと感じています。

原田:その背景には、スポーツのパワー(力)の増大があります。欧米でスポーツといえば、「遊び」がルーツにありますが、日本のスポーツは、教育として「体育」の中で発展を遂げてきました。よって、昔のスポーツ(体育)は、遊びをベースとした「自由闊達」な概念ではなく、まちづくりや都市経営とも無縁の産物でした。

稲葉:確かに体育と聞くと、楽しそうなイメージは持ちにくいですね。

原田:そうです。それもあって、日本では、なかなか「スポーツまちづくり」といった考え方が生まれませんでした。それでも、徐々にスポーツ産業やスポーツビジネスが発展し、野球に加えてサッカーやバスケットボールのプロ化が進むにつれて、スポーツ界に大きなパラダイムシフトが起きました。さらに、2015年にはスポーツ庁が設置され、スポーツの概念が大きく広がり、スポーツツーリズムや武道ツーリズムのような新しい考えが広まりました。

withコロナの時代に向けて。

稲葉:コロナ禍の影響から、世の中全体で健康への意識が大きく変わりました。それもあって、今後、スポーツがさらにライフスタイルの領域に組み込まれていくだろうと、私は考えています。原田先生はwithコロナの時代、スポーツはどのように変化していくとお考えですか?

原田:確かに今回のコロナ禍は、個人のライフスタイルに大きな影響を与えました。新常態における新しい働き方、特に自宅でのテレワークが日常化する中で、健康への意識がいい方向に変わりました。今、世界中でたくさんの人が走ろう、自転車に乗ろう、というように身体を動かし、視覚と聴覚だけに頼るテレワークの効率を高めるために、アクティブな生活をするようになっています。欧米では、自転車の売り上げが前年の倍以上になっている英国のような国があります。

稲葉:それを考えるとこれからの時代、例えば街の中に遊歩道やサイクリングコースがあればうれしいですよね。自然と運動に親しむようになるでしょうし。

原田:それは良いアイデアです。例えば、高齢者向けの運動教室を開くと、たくさんの人が集まり、その後の血糖値の検査の数値が一時的に改善されます。でも教室が終われば、また運動をしなくなり、数値は元に戻ります。つまり、街に遊歩道やサイクリングコースを整備して、アクティブな生活ができる環境を整えないと、根本的な改善には結びつかないのです。だからこそ、自然とアクティブな生活をおくることができる「スポーツまちづくり」が重要になるのです。

稲葉:街を整備するなら、大阪はとても向いていると思います。土地が平たんで、コンパクトシティですし、さらに今後、ワールドマスターズゲームズのレガシーとしても受け入れやすいと思います。

原田:確かに、大阪はぴったりの場所だと私も思います。今後、快適に歩き、走ることのできる遊歩道や、信号がないサイクリングロードが整備されれば本当にいいですね。

稲葉:サイクリングロードといえば、今、茨城がすごいんですよ。

原田:県にはサイクリングプロジェクトを推進するスポーツ推進課という部署があり、サイクリング王国を目指しています。土浦駅を結節点に、「つくばりんりんロード」と「霞ヶ浦一周サイクリングロード」をつなぐ「つくば霞ヶ浦りんりんロード」を整備しました。これは、旧筑波鉄道の廃線敷と霞ヶ浦を周回する湖岸道路を合わせた全長約180kmのサイクリングコースです。また県外から訪れるサイクリストの起点となるJR土浦駅には、全国初の駅直結型サイクリング拠点「りんりんスクエア土浦」も整備され、サイクリスト向けのホテルもオープンしました。

稲葉:JR東日本でも、自転車を解体せずにそのまま乗車できるサイクル専用列車【※1】を走らせたりと、数年前からスポーツ振興に関わるインフラの整備を続けています。
北陸新幹線では、大型荷物置き場を作ることで、増加する海外からのお客様、スキー客のニーズに対応しました。

原田:本当にすばらしいプロジェクトです。今後もアクティブライフを推進するインフラを整えていけば、withコロナの時代に最適な都市づくりが実現できそうですね。

「武道」は観光資源になるか?

稲葉:コロナ禍が収束したら、インバウンドで武道ツーリズムが盛り上がると、原田先生の著書で拝読しました。

原田:武道は日本の大きな、しかし隠れた観光資源ですよ。例えばみなさんは、何かしらの武道をやった経験がありますよね?

稲葉:確かに、私も体育の授業に柔道や剣道がありました。

原田:そうです。さらに、日本にはどの街に行っても武道場があって指導者がいますよ。それは私たち日本人にとっては日常の景色になっているので、武道が観光資源になるとは想像がつかないかもしれませんが、海外から見るとかなり特殊で魅力的な環境なのです。ちなみに、Googleで最も検索数が多かった日本語って何だと思いますか?

稲葉:やはり、日本文化に関わるものですよね?

原田:なんと、忍者です(笑)。

稲葉:なるほど(笑)。数年前から、沖縄では沖縄空手が海外からも注目を集めているそうです。日本の武道って、背景が語れるのでそのあたりが受けているのだと思います。

原田:沖縄県には、空手振興課があります。積極的なプロモーションを展開しています。現在は、スポーツ庁を中心に武道ツーリズムを啓蒙する仕組みをつくっており、昨年は武道ツーリズム研究会が立ち上がりました。これには私も座長として関わっているので、しっかりとお手伝いしていきたいと思います。

稲葉:沖縄空手はもちろん、他の武道にしても、日本には土地に歴史や伝統などのしっかりとしたバックグラウンドがあるので、観光資源として打ち出しやすいですよね。さらに、海外からの人気も考えると、武道ツーリズムがこれからのインバウンドのキーになっていくことは間違いないかと。

都市公園のこれから。

稲葉:大阪城公園や天王寺区のてんしば【※2】をはじめ、大阪にはパークマネジメントの事例が、たくさんあるとお聞きしています。国内外の成功事例を通して、パークマネジメントの仕組み、地域に与える効果について教えていただけますか?

原田:まず、パークマネジメントの成功事例としては、マンハッタンのブライアント・パークが有名です。これは、BID(Business Improvement District)によるもので、公園の活性化によってメリットを得る周辺の会社からの出資で成り立っています。企業がお金を出し合って管理や経営を行う事業体をつくり、そこから得られた利益を公園の整備と経営に再投資するというやり方です。公園がキレイになると、人が集まり、周辺の地価も上昇するなど好循環が生まれます。

稲葉:日本ではパークマネジメントやBIDが、あまり浸透していないように私は感じているのですが、いかがでしょうか?

原田:確かに、日本ではまだこれからですね。ただ、2017年の都市公園法の改正に伴い、飲食店や売店といった便益施設の建ぺい率を2%から12%に引き上げたことなどもあって、都市公園を取り巻く状況は大きく変わりつつあります。この近くだと、千里南公園がすごく上手にパークマネジメントをやっています。公園内に美しいカフェレストランがオープンして、常時行列ができる人気スポットになっています。これは「Park-PFI」という新しい公民連携の仕組みで、全国で多くの成功事例が報告されています。

稲葉:東京でいえば、南池袋公園がすごくキレイになりましたよね。芝生広場ができて、ヨガをやったり、たくさんの人が思い思いの時間を過ごしています。

原田:BIDやPark-PFIに代表されるパークマネジメントの手法は、走ったり、散歩をしたり、利用する人が自由にそれぞれの過ごし方を楽しむことができる、「アクティブライフの場づくり」だと私は考えています。野球禁止、キャッチボール禁止、犬の散歩禁止なんてことをまずはやめましょうと(笑)。

稲葉:規制規制でなにをすればいいか、わからなくなりますもんね(笑)。

原田:アクティブライフ的な視点から捉えると、ガーデニングや犬の散歩、自転車通勤も立派なスポーツです。そういう切り口から、都市づくりとスポーツを絡めて、もっとたくさんの人がスポーツに親しめるような仕組みを生み出すことが重要です。

稲葉:先ほど話に出たように、自分が住んでいる街に遊歩道やサイクリングロードがあれば、毎日の通勤がもっと楽しくなると思うんですよ。例えばフットパス【※3】ができれば通勤で歩くのも楽しくなる。今後、私たちもインフラ整備と関わりの強い広告会社としていろいろな視点から、人々のアクティブライフを促進できるような取り組みに、携わっていきたいと考えています。


※1
サイクル専用列車「B.B.BASE」
自転車を解体せずに、そのまま車内のサイクルラックに搭載できるサイクル専用列車。2018年より運行を開始し、千葉県房総地区のサイクリング需要に応えている。
https://www.jreast.co.jp/chiba/bbbase/
  
※2
大阪天王寺公園エントランスエリア“てんしば”
約7,000㎡の芝生広場を要する都市公園。レストランやカフェ、遊具場、フットサルコートなどの多彩なテナントが並ぶ。
https://www.tennoji-park.jp/
  
※3
フットパス
森林や田園、街並みなど、地域の風景を楽しみながら歩くことができる小径。イギリスを発祥とし、近年、日本でもさまざまな地域で、各々の特徴を生かしたフットパスの整備が進んでいる。
https://www.japan-footpath.jp/

原田 宗彦
早稲田大学 スポーツ科学学術院教授

1954年大阪生まれ。ペンシルバニア州立大学健康・体育・レクリエーション学部博士課程修了(Ph.D.)。鹿屋体育大学助手、フルブライト上級研究員(テキサスA&M大学)、大阪体育大学大学院教授などを経て、2005年から早稲田大学スポーツ科学学術院教授。主な著書に、『スポーツイベントの経済学』(平凡社新書、2002年)、『スポーツマネジメント改訂版』(大修館書店、2015年)、『スポーツマーケティング改訂版』(大修館書店、2018年)、『スポーツ・ヘルスツーリズム』(大修館書店、2009年)、『スポーツ産業論第6版』(杏林書院、2015年)、『スポーツ都市戦略』(学芸出版社、2016年:不動産協会賞受賞)、『オリンピックマネジメント』(大修館書店、2019年)、『スポーツ地域マネジメント』(学芸出版社、2020年)など。一般社団法人日本スポーツツーリズム推進機構代表理事、日本スポーツマネジメント学会会長、Jリーグ参与、公益財団法人日本バレーボール協会理事、公益財団法人日本トライアスロン連合顧問を務める。これまで観光庁「スノーリゾート地域の活性化推進会議」議長、スポーツ庁「スポーツツーリズム需要拡大のための官民連携協議会」座長、2026年愛知・名古屋アジア大会レガシー委員長、2026年札幌冬季五輪開催概要計画検討委員会委員長などを歴任。スポーツマネジメントの視点から、東京五輪後のスポーツの未来を見据えた日本のスポーツビジョンづくりが研究テーマ。

稲葉 耕一
執行役員 関西支社長

1991年jeki入社。営業局配属後、運輸、食品他多くの商品、サービスのAEを担当。広告電通賞準グランプリを受賞した航空会社のキャンペーンでは代理店サイドの責任者として陣頭指揮を執る。2014年第三営業局長を経て2017年より関西支社長。関西支社長就任後、大阪市交通局のCI構築のコンペを獲得、実施。

<撮影場所>
BorCafe – ボルカフェ –
大阪府箕面市小野原東6-29-1
TEL:072-768-8881

上記ライター稲葉 耕一
(執行役員 関西支社長)の記事

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なぜ今、地域特有の課題やリソースを活用した先進的な取り組みが活発になっているのか。地域だからこそ生まれるイノベーションとはどんなものなのか。jeki関西支社が、さまざまな分野で活躍される方々をお招きして話を伺いながら、その理由をひも解いていきます。

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  • 稲葉 耕一
    稲葉 耕一 執行役員 関西支社長

    1991年jeki入社。営業局配属後、運輸、食品他多くの商品、サービスのAEを担当。
    広告電通賞準グランプリを受賞した航空会社のキャンペーンでは代理店サイドの責任者として陣頭指揮を執る。2014年第三営業局長を経て2017年より関西支社長。
    関西支社長就任後、大阪市交通局のCI構築のコンペを獲得、実施。

6月15日公開 PICK UP 駅消費研究センター VOL.39 について

2021年6月15日公開のPICK UP 駅消費研究センター VOL.39「地域や自然とつながる循環型レストラン「Maruta」(調布市)―社会問題に応える、生産緑地の開発モデルへ」について、6月17日より公開を中止しておりましたが、一部内容を修正のうえ、7月9日に再公開致しました。