オレンジページ×イマドキファミリー研究プロジェクト
共同研究から見えた家事・食事意識の変化と、今後の暮らし<後編>

イマファミ通信 VOL.23

イマドキファミリー研究プロジェクトでは、2018年度は家族の日常生活で欠かすことのできない「食事」に着目した研究を行い、「食」に関する多くの知見を持つ生活情報誌『オレンジページ』の「次のくらしデザイン部」とタッグを組んで「イマドキ家族の食事に関する共同研究」を実施してきました。その内容をもとにした「共働き家族の食事の支度」に関するレポートを8回にわたって掲載し、多くの反響をいただいています。

今回はその総括として、ともに研究にあたってきた「次のくらしデザイン部」シニアマネジャーの高谷朋子さん、『オレンジページ』編集長の秋山リエコさんをお迎えし、「イマドキファミリー研究プロジェクトチーム」のメンバー5名が参加する大座談会を開催しました。今回はその後編です。(前編はこちら)

秋山リエコ
 『オレンジページ』編集長
料理出版社、フリーランスを経て2000年株式会社オレンジページ入社。料理テーマを中心に編集制作に携わる。人気料理家の初のプライベートレシピ集となる『藤井恵 わたしの家庭料理』や、累計52万部突破の「帰ってから作れる」シリーズの立ち上げなどを手がけ、2017年より料理専門誌『オレンジページCooking』(季刊)編集長を務める。2019年より現職。

高谷朋子
「くらしデザイン部」シニアマネジャー
女性誌出版社を経て1990年株式会社オレンジページ入社。『オレンジページ』『オレンジページCooking』にて編集業務、「読者コミュニケーション部」にて読者調査、読者イベント企画、通販商品開発、ライセンスブランド立上げ等に従事した後、2011年より現職。2017年、マーケティングユニット「次のくらしデザイン部」設立。

くらしや生き方に密接な「食」だからこそ、大切にしたい

高野:『オレンジページ』が、家事や食で気持ちが揺り動かされることを「気もちパフォーマンス=気もパ」として誌面づくりのキーワードに掲げられたのは、とても興味深く思いました。それもワクワクとした高揚感だけでなく、「やらなくてもいい」という肯定感や家族からの感謝などによる達成感、自分自身の満足感など本当に多面的に捉えられているのですね。

高谷:そうですね。人って高揚するだけでなく、開放されたり、肯定されたり、許されたり、「いいよ、やらなくて」という緩急が必要でしょう。たとえば、年末の掃除などもやらない人が増えていますが、「やらなくても構わない気持ち」にはなりにくく、いまだに「やらなきゃと思う」人は多いんです。だから、忙しくてできないと、できないことを負担に感じたり、イライラしたりしてしまう。そこに「忙しいなら玄関だけでいいよ、目につくところだけで」と緩めることで心の荷が下りる人もいるのではないかと思うんです。

土屋:アンケートでも「朝食の理想は旅館の和定食」というような答えが多かったのですが、私も家事や食事づくりに対して「こうありたい」という思いが常にありますね。季節の移り変わりや世界中の料理を楽しみ、行事や縁起を大切にする日本人として、改めて食事に手がかかる民族だったんだと気づきました。フランス人の朝食はフランスパンだけと聞いたことがあり、忙しい中ではそれでもいいのではないかという思いと、自分が食べてきた幸せな食を次の世代に伝えたいという思いの間で揺れ動いています。

秋山:確かに、お節料理をフルコースで手づくりする人は少なくなっても、元旦の朝からアジの開きはイヤという人がほとんどでしょう。買ってきた黒豆であっても「ちょっと違う器で」いつもよりも違うしつらえでやりたいという方が多いはずです。大掃除もそうで、昔ながらの家族総出の大掃除とはいかなくても、やることで月日の移り変わりを感じたい人が多いんです。「本当はやりたい、でもやれない、でも気持ちだけでもやりたい」というところでしょうか。

そうした皆さんの気持ちを踏まえて、オレンジページがどうありたいかといえば、今も昔も変わらず「生活者の役に立つ、楽しくなる」ことだと思っています。ただし、時代によっては専業主婦たちでしたが、今後は生活の基盤を考えるあらゆる「生活を大切にしたい人たち」を対象にしていきたいと考えています。

オレンジページが提供する新しい時代の「生活のお墨付き」

土屋:生活を大切にしたい人たちにとって、料理には「楽したい」と「作りたい」という相反するマインドが常に共存していますよね。

秋山:そうですね。表現は変わると思いますが、ずっと共存していくと思います。その中でたとえば「楽にできる」という訴求も時代で変化しており、今は「包まないロールキャベツ」「揚げない南蛮漬け」というように、「〜しない」という表現にインパクトを感じるようですね。

さらに若い人だけでなく、これまでしっかり作っていた世代にも突き刺さっているんですよ。「揚げないコロッケ」「蒸さないシュウマイ」「包まない餃子」など、手間の楽さに対して味が同じなのに驚かれることが多いですね。逆にこれまで作らなかった世代にも「こうやったら簡単だから作れる」という訴求ができればと思います。

土屋:それ本当に目からウロコでした。手間をかけて作るのが難しかったロールキャベツの代わりにミルフィーユキャベツを作ったところ、子どもは大喜びで。手間をかけずともおいしいものが出来上がると「簡単にうまくやれた私は賢いぞ!」と自分を褒めたくなります。「〜しない」というアイディアはブロガーさんなどもやっていたりしますが、やはり「オレペが言っているんだからいいんだ」という肯定感は何ものにも代えがたいです。

秋山:それは持ち上げすぎでしょう(笑)。

荒井:いえいえ、私もオレペに載っていればOKって思えますよね。味や作り方について裏が取れているレシピって、この時代には大きな価値がありますよ。

河野:絶大な「お墨付き」ということですよね。

秋山:そうおっしゃっていただけるのはありがたいです。やはり「おいしさの裏とり」は難しいんですよ。近年は舌のレベルに差が出てきて、味のストライクゾーンがどこにあるのか悩みながら探っています。たとえば出汁も取り方が多様化していて、簡略化すると人によっては「おいしいという感動が少ない」可能性が出てきます。今までにない感動を味わってほしいからこそ、みんな職人のようにレシピを追求していますね。先日もあるスタッフが夜分にかぼちゃのスコーンの生地をこねだして…、かぼちゃの産地によって出来上がりが違うって訴えるんです。しかし、どんなにいろいろやっても結果が全て。目に見えない努力をし続けることが全体のモチベーションを高め、「お墨付き」と言ってもらえるのかもしれません。私がオレンジページを辞めることがあったら、レシピを極める様をまとめて「オレンジページの作り方」という本を出したいくらいです(笑)。

高谷:若い読者はもちろん、ベテランの方にも「オレンジページがいっているならいいんだ」と思ってもらえるのはありがたいことです。そして、それだけのことを期待してもらって大丈夫な作り方をしていると自信を持っていえます。

高野:その試行錯誤の前に、おそらく企画を立てる前から多くの読者の声を聞かれていると思います。そうした読者の声をどうやって集めていらっしゃるのですか?

高谷:昨年は誌面やメールを通じて年間283回のアンケートを取りました。企画を立てるときも、編集長に通す前にアンケートを取って裏取りすることを徹底しています。またリアルでワークショップやグループインタビューを行ってお話を伺うことも多いですし、ご自宅に伺ってお話を聞くこともあります。Web上のコミュニティは365日、どなたでもいつでもコメントできるようになっています。そうした読者のネットワークが常に裏側にあって裏取りできるのも、オレンジページの「お墨付き」に貢献していると思います。

家事のオープン化とコントロールで達成感を手に入れる

高野:これまでお伺いした感じからは、家事を負担に思いながらも、自分では「よし」と思いたいと思っている。まさに“メリハリ”。そんな姿が見えてきます。

高谷:「うまく賢くできている私」というのも「気もパ」につながっていますね。自分だけが必死にやるのではなく、「揚げない南蛮漬け」のように情報や工夫でこれまでできなかったことができたり、便利な機械やサービスを使いこなしたり、そういうことでも充足感を得られると思います。専業主婦より有職主婦の方がロボット掃除機の所持率も高いし、それによって生み出される時間で子どもと過ごす時間が生まれるのであれば、その価値をよしと捉えられるのではないでしょうか。

秋山:いい意味で昔の人より子どもっぽくて、子どもと一緒に楽しめる親が増えたように思いますね。かつてはそこまで自分が成熟していなくても「お母さんだから」「お父さんだから」と社会的に諦めざるを得ない部分もあり、それによって人間を成長させたかもしれませんが、今はみんなで楽しむほうが幸せという価値観になってきています。実際、子どもとお父さんだけでわいわい遊んでいて、お母さんは台所に引っ込んでいてというのは不自然でしょう。

秋山:人間はやることの多さに潰されることもありますが、逆にやり遂げて達成感があると疲労が吹き飛び、喜びすら感じます。「人に全部やってもらうことが幸せ」ではないんですよね。自分でできるように工夫できるか、夫に協力してもらえるかどうか、そこは頑張りどころなのでしょう。

澤:全部楽にしたからといっていいわけじゃないですよね。私もそうですが、母が専業主婦で手をかけて親がやってくれたことを、子どもにもやってあげたいと思っている有職主婦は多いと思います。でも、仕事もあるなかで母と同じ方法を取ろうとすれば「できない」という罪悪感が残りそうです。そこを仕事で培った段取りと割り切り、今の時代ならではの便利なモノやサービスを活用して「今どき」の楽しみ方とすれば、達成感が得られそうですね。

秋山:料理もそうですよね。簡単な料理ばかりではワクワクはしない。でも、かつて母親世代のような手の込んだものを毎日作るのは難しい。そこをどうやって楽しく、おいしくするか。腕の見せどころといえるでしょう。

高野:これまで一人でやっていた家事や料理を、一人で担いすぎないというのはポイントかもしれませんね。

河野:時短や効率化が目的なのではなく、みんなで楽しく過ごす時間や居心地のいい空間を作っていくために、様々な工夫やハックを上手に活用することが「生活を楽しむ」ことにつながるのではと改めて感じました。みんなが幸せになるために、家族が協力し合うことも大切ですよね。

高谷:家事のオープン化はこれからのキーワードだと思っています。あえて長屋のようにコミュニティを作って分担しながら、その中で子育てをするなど、一度核家族になって小さくなっていったものがまた広がっていく兆しがあります。まずはその前に夫や子ども、そして時短グッズやお助け食材、ロボット掃除機や外部サービスなども含め、上手にコーディネートして指揮を取っていくスキルが求められてくるのかもしれませんね。そうすることで有職主婦はもちろん、専業主婦も「手間ひまかけて料理を作ること」や「子どもとゆったり過ごす時間」を楽しめるようになればいいなと思います。

高野:いろんなお話ができて、大変参考になりました。今後とも、ぜひご一緒に様々なことに取り組めていければと思います。本当にありがとうございました。

【座談会を終えて】
本来は、楽しい取り組みでもあるはずの「食事の支度」。時間がない中でできること、できないことを割り切って「気持ちを緩める・頑張らなくても楽しめる」ことを提案する、単なる簡便化ではなく「気もちパフォーマンス」を上げていくというのは、食関連だけでなく、様々な商品・サービスにも応用できることなのではと感じました。

イマファミ通信

イマドキファミリー研究所では、働き方や育児スタイルなど、子育て中の家族を取り巻く環境が大きく変化する中で、イマドキの家族はどのような価値観を持ち、どのように行動しているのかを、定期的な研究により明らかにしていきます。そして、イマドキファミリーのリアルなインサイトを捉え、企業と家族の最適なコミュニケーションを発見・創造することを目的としています。

[活動領域]

子育て家族に関する研究・情報発信、広告・コミュニケーションプランニング、商品開発、メディア開発等

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  • 高野 裕美
    高野 裕美 イマドキファミリー研究所リーダー/エグゼクティブ ストラテジック ディレクター

    調査会社やインターネットビジネス企業でのマーケティング業務を経て、2008年jeki入社。JRのエキナカや商品などのコンセプト開発等に従事した後、2016年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、食品メーカーや、子育て家族をターゲットとする企業のプランニング業務に取り組む。イマドキファミリー研究プロジェクト プロジェクトリーダー。

  • 荒井 麗子
    荒井 麗子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2001年jeki入社。営業職として、主に商業施設の広告宣伝の企画立案・制作進行、雑誌社とのタイアップ企画などに従事。2011年より現職。現在は営業職で培った経験をベースに、プランナーとして商業施設の顧客データ分析や戦略立案などのプランニング業務に取り組んでいる。

  • 澤 裕貴子
    澤 裕貴子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2002年jeki入社。商業施設の戦略立案などのプランニング業務に従事し、 その後アカウントエグゼクティブとして広告宣伝の企画立案・制作進行などの業務を担当。 2011年より現職。現在はJRやJRグループ会社の調査やコミュニケーション戦略立案などを中心に、 プランニング業務に取り組む。

  • 土屋 映子
    土屋 映子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2004年jeki入社。営業職として、主に企業広告のマスメディアへの出稿などの業務に従事。2009年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、プランニング業務に取り組んでいる。

  • 河野 麻紀
    河野 麻紀 イマドキファミリー研究所 ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。ハウスエージェンシー部門のプランニング業務に従事した後、営業局、OOHメディア局を経て、2017年より現職。現在は営業・メディアで培った経験を活かし、再びプランニング業務に取り組んでいる。