オレンジページ×イマドキファミリー研究プロジェクト
共同研究から見えた家事・食事意識の変化と、今後の暮らし<前編>

イマファミ通信 VOL.22

イマドキファミリー研究プロジェクトでは、2018年度は家族の日常生活で欠かすことのできない「食事」に着目した研究を行い、「食」に関する多くの知見を持つ生活情報誌『オレンジページ』の「次のくらしデザイン部」とタッグを組んで「イマドキ家族の食事に関する共同研究」を実施してきました。その内容をもとにした「共働き家族の食事の支度」に関するレポートを「イマファミ通信」に8回にわたって掲載し、多くの反響をいただいています。

今回はその総括として、ともに研究にあたってきた「次のくらしデザイン部」シニアマネジャーの高谷朋子さん、『オレンジページ』編集長の秋山リエコさんをお迎えし、「イマドキファミリー研究プロジェクトチーム」のメンバー5名が参加する大座談会を開催。研究の結果から見える家事や食事に対する意識の変化を踏まえ、オレンジページが世の中の兆しとして感じていることとの共通点などを伺いながら、「今後の暮らし」についてディスカッションしました。

秋山リエコ
『オレンジページ』編集長
料理出版社、フリーランスを経て2000年株式会社オレンジページ入社。料理テーマを中心に編集制作に携わる。人気料理家の初のプライベートレシピ集となる『藤井恵 わたしの家庭料理』や、累計52万部突破の「帰ってから作れる」シリーズの立ち上げなどを手がけ、2017年より料理専門誌『オレンジページCooking』(季刊)編集長を務める。2019年より現職。

高谷朋子
「くらしデザイン部」シニアマネジャー
女性誌出版社を経て1990年株式会社オレンジページ入社。『オレンジページ』『オレンジページCooking』にて編集業務、「読者コミュニケーション部」にて読者調査、読者イベント企画、通販商品開発、ライセンスブランド立上げ等に従事した後、2011年より現職。2017年、マーケティングユニット「次のくらしデザイン部」設立。

共働きママが増え、意思的な食の切り盛りが自己肯定感をアップ

高野:「イマドキ家族の食事に関する共同研究」では、共働きママ・専業主婦ママによって時短や効率化への割り切り方に違いがあったり、パパの参加によって家事の負担感が変わったりと、いろいろと興味深い結果が得られました。これらをもとに「イマファミ通信」に「共働き家族の食事の支度」として掲載してきましたが、記事を振り返り、納得したことや意外に思われたことなどについてお聞かせいただけますか。さらに『オレンジページ』読者の変化とも照らしあわせて共通点を伺いながら、「今後のくらし」についてディスカッションできればと考えています。

高谷:まず今回の共同研究については「なるほど」と思うことが多かったですね。オレンジページが1999年から行っている「食生活調査」でも、有職主婦の方が専業主婦に比べて時短や効率化に積極的であり、有職主婦の割合が増えるにつれてニーズも高まっていることが明らかになっています。今回の共同研究ではその傾向が強まり、さらに状況をポジティブに捉えていることが印象的でした。働く主婦が多数派になり、忙しい中で完璧にやろうと無理をするよりも、自分なりの解決策を見出すことを楽しみながら「できている私を認めよう」という、ちょっとした「自己肯定感」へと変わってきたように思います。

また共働きママの方が簡便な“お助け食品”を使い、使う人ほど「料理が好き」と答える割合が高い傾向にあるという調査結果が出ていましたが、オレンジページの調査でも同様に有職主婦の方が「料理が好き」という割合が高いんです。できる範囲で栄養のことを考え、楽しみ、あらゆる解決策を駆使している。その実感が料理をポジティブに捉えることにつながっているのだと思います。

土屋:以前、高谷さんが仕事と子育てでお忙しいのに「料理は趣味」とおっしゃられていたことが印象に残っています。忙しい方ほど「料理が好き」と答える方が多いように感じられます。

高谷:できる時間が限られていて、その範囲内で頑張っているのだからと、自己肯定しやすいのかもしれません(笑)。以前は「共稼ぎ」として家計を支えることが主目的だったのが、今は生き方として主体的に「共働き」を選ぶ人が増えてきたことも関係しているように思います。稼ぐことではなく「働くこと」が主目的になり、結果として家事の時間が限られ、仕事と同じように「効率的に工夫して行うもの」として捉えられるようになったのではないでしょうか。

秋山:女性が外に働きに出るのが肩身が狭かった時代を経て、生き方の一つとして認められてきていますよね。外に出ると服装やメイクにも気を配る必要が出てきて、多くの人と接点ができてきます。その中でかつては妻の仕事とされていた料理や家事に対する責任が少し軽くなって、夫やそれ以外の誰か、機械や外部サービスなどとシェアということにも抵抗がなくなってきたのではないでしょうか。妻が働きながら家事もやるのが当たり前になれば、今後は夫にも同様に求められるようになるのが自然でしょう。

高野:確かに共働きママは、朝食づくりを「自分の仕事」とは捉えておらず、「たまたま私がやっているだけ」という感覚の人が多いようです。一方、専業主婦ママは「私の仕事」として「ちゃんとやらなきゃ」と思う方が多い。調査でも、専業主婦ママは朝食の簡便化について「もっとできるはずなのにできていない」と引け目に感じ、「朝もっと早く起きれば」「作り置きしておけば」と自分でなんとかしようとする傾向にあります。

家事に対する割り切りが、食のメリハリにつながる

澤:専業主婦はたとえパンを焼いてもカーテンを縫っても家族のために「完璧な家事」を追求すれば、いくらでも「やること」があるわけですよね。そして家事全体を自分の仕事だと思っている。一方、有職主婦は時間に限りがあるから、優先順位をつけて割り切るしかないと考えている。

高谷:そうそう、「このくらいのホコリじゃ死なないし、それより明日に備えて寝なきゃ」みたいな(笑)。

秋山:確かに買い物一つとっても効率性を大事にしていますね。出勤電車でネットスーパーに注文し、帰宅のタイミングでそれが届いている…というような段取りと切り盛り。まさに仕事そのものです。だからこそ、有職主婦には「今日の献立の正解はこれ!」と教えてあげるととても喜ばれるんです。有職主婦の方が調理も「単なるタスク」として捉えているからこそ、メリハリを付けてポジティブに楽しんでいる印象がありますね。休日にパエリアやニョッキなんかを作って、平日はお助け食材で楽に済ませる。「料理は好きだけど平日は仕方ない」という割り切りを自身で行えるからだと思います。

高野:そうした調理に対する作り手の傾向が明らかになってきたとして、誌面にはどのように活用されているのですか。

秋山:「メリハリ」は大きなキーワードの一つとして取り入れています。料理をしなくなったといわれながらも、ひな祭りやクリスマスなど歳時食のニーズは年々高まっていますね。そして「中庸に簡単でそこそこという料理」より、「すごく簡単だけど驚きがある料理」と「作っているときからしっかり“ハレ”を感じさせる本格的な料理」というように両極端なものが求められています。その傾向はオレンジページnetのレシピ検索でも顕著で、人によって好むものが両極端であると同時に、同じ人でも時と場合で両極端に分かれます。

疲れているときは、クリスマスに出来合いのスポンジケーキに子どもでデコレーションさせようとか。今年は週末に休みが重なるから丸鶏を買ってローストチキンを焼こうとか。簡単でもわびしくない、ママだけが頑張らなくてもいい。でも、時にはしっかり作って楽しみたい。そんな思いがうかがえます。

高谷:両極端ながら、なぜそれを選択するのかといえば、いずれも自分をポジティブにするからなんですよね。「忙しいけれど、工夫してイベントを楽しめた」「余裕があったから今回は奮発した」など、気持ちを高め、または落ち着かせてくれるもの。それを「気持ちパフォーマンス=気もパ」として、2019年6月に発表した「オレンジページ生活白書」の中で紹介しています。

高野:「気もパ」ですか!?それはまた興味深いですね。ぜひ詳しく聞かせてください。

時短、コスパの次にくる「気持ち」を動かすキーワード

高谷:創刊以来、オレンジページは読者の声を聞きながら誌面を作ってきましたが、これまでの膨大な調査データを改めて見直し、2019年6月に「オレンジページ生活白書」という形でまとめました。さらに、ここ数年の流れから「今の生活者の心のボタンがどこにあるのか」を探る中で、「イマドキファミリー研究プロジェクトチーム」との共同研究からもたくさんの示唆をいただき、「気もちパフォーマンス=気もパ」という言葉につながったのです。

実際にこれまでのオレンジページの表紙にあるキーワードを見てみると、1990年代くらいは「簡単」、バブルが弾けると「節約」や「時短」が主流でしたが、2000年前半くらいをピークに減っているんです。それに変わって上昇しているのが「褒められ」「愛され」といった自己肯定、「やみつき」「ワクワク」といった高揚感、そして「ふわとろ」「もちもち」「シャキシャキ」といった食感など味に対する五感表現などです。

高野:確かに気持ちと直接リンクしているキーワードがたくさん登場していますね。

秋山:先日メンバーでブレストをしたとき、日本ほどいろんな国の食事を取っている国はないという話になったんです。冷蔵庫に豆板醤もケチャップもあり、今やもう「ガパオ」も定番になりつつあって。とにかく日本人の食の探求ぶりはすごいと、私たちも知恵をしぼって飽きられないようにしなくてはと決意を新たにしているところです。

おそらく「美味しい肉じゃがのレシピ」ってそう変わらないでしょう。それをいかに時代に合わせて包み紙を替えて出すかが勝負であり、それは時代の空気を読むことかもしれないし、時代に先んじて提案することで気づきを与えることかもしれません。いずれにしても読者と追いかけっこをしながら変化していく中で、今回、新しいあり方として「気もちパフォーマンス」を打ち出したのは、食べる人も作る人も「心を揺り動かされること」が、日本での何かのきっかけになるだろうと考えているからなんです。

高谷:この何年かの兆しを言葉に落とし込んだだけで、新たに作り出したわけではないんですよね。日々のちょっとした気持ちの変化、ワクワクと高揚するだけでなく、「やらなくていいよ」「あなたらしくでいいよ」という肯定感、コミュニケーションの中で感じる達成感や感謝など、料理によって気持ちのパフォーマンスがあがるのではないかと思っているんです。もちろんオレンジページで既に表現してきたことであり、これから急に変えるものでもありません。既にそういう流れがきており、それを一つ取り出して「名前をつけてみた」というところです。

高野:気持ちを高揚させるだけでなく、緩める方も入るんですね。確かに家事や料理は単なる労働ではなく、生活と密着した「楽しみ」や「癒し」などにもなるように心と密接に関係している実感があります。「気もパ」をどのように捉えていらっしゃるのか、もっと伺えればと思います。

イマファミ通信

イマドキファミリー研究所では、働き方や育児スタイルなど、子育て中の家族を取り巻く環境が大きく変化する中で、イマドキの家族はどのような価値観を持ち、どのように行動しているのかを、定期的な研究により明らかにしていきます。そして、イマドキファミリーのリアルなインサイトを捉え、企業と家族の最適なコミュニケーションを発見・創造することを目的としています。

[活動領域]

子育て家族に関する研究・情報発信、広告・コミュニケーションプランニング、商品開発、メディア開発等

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  • 高野 裕美
    高野 裕美 イマドキファミリー研究所リーダー/エグゼクティブ ストラテジック ディレクター

    調査会社やインターネットビジネス企業でのマーケティング業務を経て、2008年jeki入社。JRのエキナカや商品などのコンセプト開発等に従事した後、2016年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、食品メーカーや、子育て家族をターゲットとする企業のプランニング業務に取り組む。イマドキファミリー研究プロジェクト プロジェクトリーダー。

  • 荒井 麗子
    荒井 麗子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2001年jeki入社。営業職として、主に商業施設の広告宣伝の企画立案・制作進行、雑誌社とのタイアップ企画などに従事。2011年より現職。現在は営業職で培った経験をベースに、プランナーとして商業施設の顧客データ分析や戦略立案などのプランニング業務に取り組んでいる。

  • 澤 裕貴子
    澤 裕貴子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2002年jeki入社。商業施設の戦略立案などのプランニング業務に従事し、 その後アカウントエグゼクティブとして広告宣伝の企画立案・制作進行などの業務を担当。 2011年より現職。現在はJRやJRグループ会社の調査やコミュニケーション戦略立案などを中心に、 プランニング業務に取り組む。

  • 土屋 映子
    土屋 映子 イマドキファミリー研究所 シニア ストラテジック プランナー

    2004年jeki入社。営業職として、主に企業広告のマスメディアへの出稿などの業務に従事。2009年より現職。現在は商業施設の顧客データ分析や戦略立案などを中心に、プランニング業務に取り組んでいる。

  • 河野 麻紀
    河野 麻紀 イマドキファミリー研究所 ストラテジック プランナー

    2008年jeki入社。ハウスエージェンシー部門のプランニング業務に従事した後、営業局、OOHメディア局を経て、2017年より現職。現在は営業・メディアで培った経験を活かし、再びプランニング業務に取り組んでいる。