Move Design Lab(ムーブ・デザイン・ラボ)は、生活者の「移動行動」を探求し、“新しい移動”を創造していくことをミッションに、今年9月より始動したプロジェクトです。この場を借りて、MDL設立の背景と、その主な狙いについて説明いたします。
日本は「移動減少社会」
はじめまして。Move Design Labの中里です。
Move Design Lab(MDL)は、変わりゆく生活者の移動の実態を考察し、“新しい移動”について構想するジェイアール東日本企画(jeki)のプロジェクトです。
なぜ私たちが移動に注目するのか。第一の理由は、移動が全ての生活者に共通した行動であるという点です。しかしこの基本的な行動についてこれまであまり多くは語られてきませんでした。もちろん居住地や旅行といった大きな移動についての研究や議論は盛んなものの、毎日の暮らしの中で行われる移動行動についてはほぼスルーされてきたといっても過言ではありません。
生活者の意思決定の表出である移動を深く知ることは、生活者を深く知ることである、と私たちは考えています。後述しますが、移動が当たり前でなくなりつつある世の中において行われる移動を知る価値はさらに高まると考えています。
そしてもうひとつ私たちが移動に注目する理由があります。それは日本社会が「移動減少社会」に移行し始めている兆候があり、それが社会に与えるインパクトが大きいと考えるからです。 皆さんは最近、「移動が減った」と感じることはありませんか?
そう聞いてもピンとこないかもしれません。
では、たとえば服を買いに行くことは減っていませんか?書店に行くことは減っていませんか?もしかしたら飲み会の回数が減っていたりしないでしょうか?
あるいは、かつて賑わいを見せた歓楽街で閑古鳥が鳴いているのを目の当たりにしたことはありませんか?行列スポットだった場所が嘘みたいに閑散としていたり、客より店員のほうが多い店に足を踏み入れて気まずくなったり。そういえばラーメン店の行列も昔ほどは見なくなったような気もします。
以前であれば若者でにぎわっていたあの場所、あの行楽地、あの商店街。あの活気は今、どこへ行ってしまったのでしょうか???
移動減少社会はデータでも明らかです。次に紹介するのは国交省の調査データです。
確かに移動は減っているのです。
このデータから日本は既に移動減少社会に入ったと読み取れると思います。
これを年代別にみるとさらに深刻な状況がうかがえます。
そう、若い世代が移動していないのです。
このデータを見るかぎり、休日の外出率は近い将来5割を下回る可能性があります。自宅で休日を過ごすのが多数派である時代が、いま到来しようとしているのです。
移動はなぜ減ったか ~ファーストプレイス化~
なぜ移動は減ったのでしょうか。もちろん少子高齢化というメガトレンドの影響はいうまでもありません。しかしそれは若い世代の移動減少の理由にはなりません。
私たちは移動減少社会を加速させる要因の一つとして、インターネットの存在が大きいと考えています。生活者が一日のかなりの時間をインターネットに費やしている事実は(自身の実感も含めて)既に承知のことと思います。しかし私たちがそうしたことに加えて脅威に感じるのは、ネットサービスの進化により、外出しなくてもできることが飛躍的に増えてきている点です。今後これが移動行動に非常に大きな影響を与えていくのではないかと私たちは考えています。
既に大きな影響を受けているのが買い物に関する移動です。ネットショッピングの存在によって、リアルな店舗に足を運ぶ買い物は今後徐々に減っていくことはほぼ間違いないでしょう。ちなみに私たちの調べでは、リアルな店舗のショッピングを重視する「リアルショッピング派」と、「ネットショッピング派」の比率は現時点でほぼ五分五分。若者に絞ればネットショッピング派のほうが既に優勢になっています。
もちろんインターネットによる移動への影響は消費だけにとどまりません。労働、教育、娯楽などあらゆるものがインターネットを介し、外出せずに自宅でできるようになります。私たちはこの現象を「ファーストプレイス化」と名づけることにしました。ファーストプレイスとはつまり自宅のこと。学校や会社といったセカンドプレイスや、それ以外の場(店舗など)であるサードプレイスで行われていたあらゆることが、次第に自宅の中でできるようになっていくファーストプレイス化は移動の大きな脅威になります。ファーストプレイス化は移動減少社会を推進し、その猛威は今後より一層強まっていく可能性があると推察します。
このままいくと生活者は「しなくていい移動」は極力控え、あらゆることを人の手を介さず家で済ませるようになっていく可能性があります。そうした社会は健全といえるでしょうか。
“Move Design” ~「新しい移動」創発で、移動減少社会に挑む~
そうしたなか、Move Design Lab(ムーブ・デザイン・ラボ)は設立されました。
MDLのミッションは「移動のいまとこれからを見つめ、“新しい移動(MOVE)”を創発していくこと」にあります。
先述した通り、しなくてもいい移動は今後次第に減っていくことになるでしょう。しかしその一方で「新しい移動」の兆しも見られます。たとえばネットで知ったリアルな場所へのチェックインや、GPS機能を利用したスマホゲームなどは、まさに「新しい移動」。弊社が今年実施した調査によると、スマートフォンを使い始める前までは訪れたことのなかった場所に足を運ぶようになった、と答えた人が3割にのぼりました。
「移動は、作れる。」
MDLはこの想いのもと、「新しい移動(=MOVE)」を生み出す様々な取り組みを通じて移動減少社会に挑んでいきます。
MDLの基本コンセプトは「Move Design(ムーブデザイン)」。
これには2つの意味が込められています。
ひとつは新しい移動のデザイン。つまり新しい移動のトリガー(引き金)について考えていくことです。これはリアルであることの価値を再考することと等価であると考えられます。
もうひとつは新しい移動体験のデザイン。移動をカスタマーエクスペリエンスと捉え、リアルな空間ならではの魅力的な経験価値を創造していきます。
MDLは様々な経歴を持つメンバーで構成されており、マーケティング、プランニング、リサーチ、メディア、プロデュースなど、メンバーそれぞれのバックグラウンドを活かした活動を行います。また同時にオープンイノベーションを意識し、外部の企業や団体等との共同研究や実験、ソリューション開発等にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。様々な企業と協力して“新しい移動”の創発ができるとすれば望外の喜びです。
今後もこのウェブサイト上で情報発信をしていきます。どうぞよろしくお願いします。
※補足 Move Design Labは、弊社「移動者マーケティング」を発展させたものです。「移動者マーケティング」とは「買い物の前には移動がある」という事実から、生活者とショッパーの間に「移動者」というフェーズを想定し、移動シーンに適したマーケティングを仕掛けよう、というコンセプトに基づいたものです。つまり「移動シーン」にフォーカスをあてた、いわば生活者を待ち伏せるマーケティングが移動者マーケティングです。
それに対し、おおもとの移動自体が減ってきているという問題意識から生まれたのがMDLです。MDLのコンセプトは「Move Design」。移動そのものをいかに意義あるものに変え、移動を増やしていくかということに重きを置いています。
五明 泉 Move Design Lab代表/恵比寿発、編集長
1991年jeki入社。営業局配属後、通信、精密機器、加工食品、菓子のAEを歴任、「ポケットモンスター」アニメ化プロジェクトにも参画。2014年営業局長を経て2016年よりコミュニケーション・プランニング局長。