シリーズ地方創生ビジネスを「ひらこう。」㊸
「わたしたち“Team Carbon Zero”が未来を変える!」
東京都中央区のゼロカーボン機運醸成事業

地域創生NOW VOL.53

左から
東京建物株式会社 都市開発事業第一部 事業推進グループ 北 りり華 氏 
開智日本橋学園高等学校2年生 下田 紗羅 氏
中央区 環境土木部 環境課 ゼロカーボン推進係 矢仲 隼也 氏
jekiソーシャルビジネスプロデュース局 第一部 宇佐美 恵理

「地球温暖化から地球沸騰化の時代になった」とグテーレス国連事務総長が言うとおり、温暖化に歯止めをかける脱炭素の取り組みは喫緊の課題となった。日本政府も2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」宣言を表明し、成長戦略の一環として脱炭素経営に取り組む企業やESG投資も増えている。一方で、民生部門(家庭・業務その他部門)の排出量は未だ高く、社会の構成員であるひとり一人が脱炭素社会づくりに貢献する「賢い選択」を行うことが重要だ。
「ゼロカーボンシティ」宣言を行った東京都中央区では、2050年も社会の担い手であり続ける10代から20代の若い世代向けに、気候変動問題を楽しく自分ごと化し、区内全体への波及効果をもたらすアクションを実践する「Team Carbon Zero(チームカーボンゼロ)」を立ち上げた。この事業に携わるジェイアール東日本企画(jeki)の宇佐美恵理が、中央区環境土木部環境課でゼロカーボンを推進する矢仲隼也氏、Team Carbon Zeroのメンバーである北りり華氏、下田紗羅氏を迎えて、その取り組みと、その向こうに広がる希望を語った。

中学生から社会人までがワンチーム

宇佐美:脱炭素社会をめざす上で、個人の意識と行動変容の重要性が増していますが、中央区がゼロカーボンシティ実現に向けた機運醸成の取り組みを行うようになったきっかけを教えてください。

矢仲:2021年3月に中央区は、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティ中央区宣言」を行いました。地球温暖化は深刻な問題ですが、誰かが解決してくれると思いがちです。でも、それでは世の中は変わりません。中央区では、区はもちろん、区民や事業者の方にも二酸化炭素削減に向けて積極的に取り組んでいただくことが重要だと考えました。そこで、10代から20代の若い世代が、脱炭素化に向けた区民・事業者の主体的行動をリードし、区内全体への波及効果をもたらしていくことを目的に、「Team Carbon Zero」を立ち上げ、機運醸成のきっかけにしようと思ったのです。

宇佐美:なぜ、若い方たちをターゲットにしたのですか。

矢仲:これからの時代を担う世代だからというのがいちばんの理由です。将来を担う世代に脱炭素の取り組みを考え実践・発信していく機会を設け、彼らに行動を開始・継続してもらうことで、区民・事業者の方の行動変容を促す存在になってもらいたいというのが狙いです。16名の定員で募集をかけたのですが、おかげさまで中学生から社会人まで19名が参加してくださっています。ちなみに下田さんは、どうして応募されたのですか。

下田:アイドルのKing&Princeのファンで、彼らが自動車メーカーのCMに出ていたので、じっくり観ていたら「カーボンニュートラル」という聞いたこともない言葉が出てきたんです。それで、どういう意味だろうと思って調べると、ちょうど同じタイミングで学校からこの取り組みのチラシをもらい、「これは参加せねば」と、応募してみました。

宇佐美:アイドルがきっかけって面白いですね! 北さんはどういう理由で参加を決めたのですか。

北:社内の告知がきっかけで募集を知りました。最初は座学形式のものかと思っていましたが、調べてみると中学生から社会人まで幅広い年齢層のメンバーが、地球の未来に対して考え、企画から提案まで行うという実践型プロジェクトということだったので、興味をもって応募しました。

矢仲:じつは運営側としては、応募してもらえるか不安だったのですが、定員を上回る応募で、しかも、皆さんが並々ならぬ思いをもっておられたので、身が引き締まる思いでした。また、事務局を担う宇佐美さんの熱意もすごくて(笑)、心強かったです。

宇佐美:ありがとうございます。この事業の公募時に、若者の柔軟な発想力や行動力を生かす脱炭素事業と聞き「私がやりたい」と企画書を書きました。若い方を巻き込むためには、同じ目線で見ても魅力を感じられるプログラム構成にする必要があると考えたので、高い熱量をもって脱炭素分野で活躍されている方に登壇をお願いし、若者に訴求するような募集チラシとチームロゴを作成し、環境イベントを調べて参加してみるなど、いろいろな準備をしました。1回目のワークショップはたんたんエナジー木原さんをお招きしカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を実施。2回目は、気候変動研究の第一人者である東京大学江守正多教授に来ていただき話を伺いました。それぞれの感想を聞かせてもらえますか。

下田:カードゲームは、企業、政府など役割を決め、企業目標の利益とカーボンニュートラルの同時達成を目指すゲームで、私は自動車メーカー役でした。当日はみんなと初対面で緊張していたのにだんだん楽しくなって、気付けば、他のメンバーと脱炭素を実現するための交渉をしていました。江守先生からは、環境にやさしい経営をしている企業の商品・サービスを選んで応援するなど、高校生の私でもできる具体的なアクションを教えていただき、ほんのちょっと自分のできることが見えたように思います。最近も、YouTubeで江守先生の動画を偶然見つけ視聴しましたが、ワークショップに参加していなかったら見なかったと思うので(笑)、それだけでも進歩したんじゃないかと思います。

北:カードゲームは非常にクオリティが高く、大人の私も夢中になって取り組んでしまいました。いちばんの学びはステークホルダーが協力しながら、温暖化への注意喚起を行う部分で、かなりのリアリティがありましたね。江守教授からの学びは、これまで温暖化対策が「取り組まなければいけないもの」だったものが、「取り組みたいもの」と、ポジティブな姿勢で考えられるようになったところです。

写真:カードゲームを体験しているワークショップの様子

矢仲:私も運営側として感銘を受けることが多くありました。年齢の幅がありながら、メンバー同士とても活発にコミュニケーションを取っている姿が印象的でした。また、メンバーの感想から、多くのメンバーにカーボンニュートラル実現の難しさを実感してもらえたと思うと同時に、何らかのアクションを起こしたいという意欲を強く感じました。このことから、メンバーに脱炭素を身近な課題として「自分ごと化」してもらえたのかなと思いました。

たかが1本。でも、みんなで植えれば森になる

宇佐美:本日行われた3回目のワークショップでは、本事業の中枢となるグループワークに向けて3つのグループをつくり、それぞれが今後始動する実践行動の内容を発表してもらいました。お二人は同じグループですが、どんな実践行動をしていく予定でしょうか。

下田:私たちは脱炭素行動の普及啓発を目的に2つの実践行動を進める予定です。ひとつが、区内の中学生に間伐材を使ったものづくりに挑戦してもらい、環境問題を自分ごと化してもらうことです。もうひとつが、脱炭素への行動変容を促す広告を映像でつくり、それを公共交通機関で流してもらって、中央区に集まる多種多様な方々に環境問題について考えるきっかけを届けたいと考えています。北さん、付け加えてください。

北:分かりました(笑)。中学生を対象にしたのは、矢仲さんのおっしゃるとおり、若い人にこそ環境問題を自分ごと化してもらいたいからで、ものづくりをすることも、手を動かすことで深く理解してもらえるからです。映像広告に関しては、朝の通勤時間を狙って、私たちのまとめた映像を見てもらえる機会をつくることができればと、想像を膨らませていましたよね。

宇佐美:チームメンバー自身で中学校に行き、ワークショップの機会をくださいと交渉するところから始めるんですもの、すごいですよね。皆さんがキラキラした目で実践行動の第一歩を踏み出していく姿に、企画運営側としては感無量です(笑)。ところで、自分ごととして行動を変えていく秘訣って何だと思いますか。

下田:自分がエコな活動、例えばエコバッグを使うとか、エアコンの温度を抑えても、この行動が地球環境にどう影響しているのか分からないじゃないですか。実感が得られないことが、自分ごとにすることへの難しさにつながっていると思います。私は、江守先生の話を聞いて、「あぁこうなるのか」ということを知れたので、モチベーションにつながりました。実感を得ることが大事なんじゃないかと思いますね。

北:今の若者は発信力があると感じています。Team Carbon Zeroの活動も積極的にSNSに投稿してくれていますよね。先日読んだ本の中に「ゼロを5つ付けてみよう」という言葉が出てきたんです。例えば、緑化であったら、私が植える木は1本かもしれないけれど、ゼロを5つ付けて10万人が木を植えれば森になる、そういう考え方を持つことができれば、あとは自分たちの強みである発信力を生かして自信をもって歩んでいけるのではないかと思います。

宇佐美:そうですね。中央区で生まれたゼロカーボンアクションへの共感の輪が、ドミノ倒しのように東京中に広がって、さらに日本全体にまで広がっていくと考えると夢が膨らみます。最後に、Team Carbon Zeroをどのように発展させていきたいですか。

北:チーム活動は2025年3月まで続くのですが、その頃にはこの活動の共感者を学校や企業の垣根を超えて、今の2、3倍でなく、10倍程にまで増やして、1人でも多くの方々のアクションにつながるプロジェクトになっていると想像しています。下田さんはどうですか。

下田:私は、チームのみんなともっと仲良くなりたいですし、メンバーだけじゃなく、もっと多くの人に活動を知ってもらい、Team Carbon Zeroに入りたいと思ってくれる人が増えれば嬉しいです。それから、インスタグラムのフォロワーが増えるといいなぁ(笑)。そうしたら私たちの活動が中央区だけでなく日本全体にとって、もっと意味のあるものになっているはずです。

矢仲:お二人の言うとおり、Team Carbon Zeroの活動が共感の輪をつくり、脱炭素に取り組む人が増えていくといいですし、このチームが中央区における脱炭素化のブースターとして躍動し続けるようにしていきたいですね。気が早いですが、このプロジェクトが区の皆さんにどういった影響を与えるのかが楽しみです。

宇佐美:理想の状況に近づくために自分の行動に影響力があるのか実感を得るのが難しいという話が出ましたが、私たちは、「少しずつかもしれないけれど、必ず変えていける」と信じている方が集まっているチームだと思うので、より多くの方に知ってもらえるように活動していきましょうね。本日はありがとうございました。

東京都中央区 ゼロカーボン機運醸成事業「Team Carbon Zero」について
https://www.city.chuo.lg.jp/a0036/kankyo/20230411teamcarbonzeroboshu.html

「Team Carbon Zero」Instagram
https://www.instagram.com/team_carbonzero/

宇佐美 恵理
jekiソーシャルビジネスプロデュース局 第一部
大学卒業後、東京地方裁判所、最高裁判所司法研修所で司法行政事務に携わる。より現場に近い意思決定と行動変容支援への思いが高じ2022年jeki入社。現在は中央区事業・環境省事業事務局として脱炭素を通じた地域課題解決支援に取り組んでいる。

矢仲 隼也
中央区 環境土木部 環境課 ゼロカーボン推進係
2022年入庁。入庁から現在まで、2022年4月に新設された環境課ゼロカーボン推進係にて、脱炭素社会の実現をめざすゼロカーボンの推進に取り組む。

北 りり華
東京建物株式会社 都市開発事業第一部 事業推進グループ
2023年入社。大学では参加型建築、都市コミュニティデザインを専攻。現在は都市開発事業部にて、中央区の市街地再開発事業に携わる。

下田 紗羅
開智日本橋学園高等学校2年生
国際バカロレアプログラム (IB)を学習中。

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