シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉞
秋田の元気につながれば「あなたの夢をかなえます!」
秋田若者チャレンジ応援事業

地域創生NOW VOL.44

写真左から
jeki 秋田支社 営業第一部 澤田 今日子
秋田県 あきた未来創造部 地域づくり推進課 主査 鈴木 博之 氏
jeki ソーシャルビジネス・地域創生本部 地域プロデューサー 金子 晃輝

2008年をピークに日本の人口は減り続けており、経済活動や地域の維持といったさまざまな問題を引き起こしている。特に高齢化が進む地方でその傾向は顕著であり、なかでも秋田県は13年1月に106万人いた人口が、23年5月現在、91万人にまで減少している。ただ、自治体も指をくわえて眺めているだけではない。
秋田県庁では特定の部署だけでなく、部署ごとに地元秋田を盛り上げるプロジェクトを進めており、あきた未来創造部 地域づくり推進課では、若者の目指す夢が地域活性化につながるものならば支援を受けられる若者チャレンジ応援事業、通称「若チャレ」を行う。
22年度からこのプロジェクトに関わるジェイアール東日本企画(jeki)秋田支社の澤田今日子と地域プロデューサーとして普段は秋田県にかほ市で活動する金子晃輝が、事業を主導する地域づくり推進課の鈴木博之氏を迎えて、秋田を元気にする若者の挑戦について振り返ってもらった。

県民最大の課題“はずかしがりや”も克服できる支援体制

澤田:地元を元気にする種を見つけ、育てていくという、やりがいのある事業に携わらせていただきましたが、そもそもどういう経緯ではじめられた事業なのでしょうか。

鈴木:秋田県は人口減少が進んでいますから、県庁としてもなんとか歯止めをかけたくて、観光の部署であれば交流人口を増やし、産業労働課であれば起業を促す施策など部署ごとに人口減少を止める取り組みを行っています。地域づくり推進課も若者のやりたいことを応援することで地域を盛り上げ、流出を止め、進学や就職を機に出て行った方たちにも戻ってきてもらおうと19年度からスタートした事業です。

澤田:5年目となる今回は、5つのチャレンジが選ばれました。2年間で最大400万円まで補助してもらえる審査条件に「先進性」や「事業計画の妥当性」だけでなく、「秋田らしさ」が目立つのも大きな期待があるからですね。そして22年度は、私たちjekiが担当させていただきましたが、期待されていたのはどんなことでしたか。

鈴木:まずは応募者をもっと増やしていただきたいということ、それから資金援助だけでなく、事業をしっかり進めていただくための伴走支援を充実させるといった期待がありました。実際、応募者が増えましたね。

金子:県も力を入れる事業というのにロゴもなく、ホームページもない状況だったので、まずはブランドづくりから手を付けました。そして、これまでは県庁に郵送で書類を提出しなければならなかったものを、スマートフォンやパソコンからでも応募できるようにして、中身もパワーポイントだけでなくテキストにも対応するなど、応募をしやすくしたのです。告知についても興味関心を掘り起こすために、限られた期間でしたがネットの反応を見ながらトライアンドエラーを繰り返し、ターゲットである若者にしっかり刺さるようにしたことが、応募者の増加につながったんじゃないでしょうか。

「若チャレ キービジュアル」

澤田:一方で応募数を増やすためにハードルを下げすぎると、「とりあえず試しに」といった方も出てきます。しかし、やる気があって頑張れる方でなければ続きませんから、募集要項や宣伝物のビジュアル、文言には苦労しましたね。さらに言えば、ウェブ広告を今回初めて導入したことも応募者の増加につながりましたね。

金子:そうですね。厳然たる事実として若者は新聞を読みませんから。その上で、SNSの広告で興味関心を持ってもらってから、検索サイトに誘導し、募集する仕組みにしました。実際、これまでとは違う動きだったと思うのですが、県庁内部の反応はどうでしたか。

鈴木:戦略というよりも、ポスターが奇抜だったので上司としては応募者がほんとうに増えるのかと半信半疑だったのではないでしょうかね。「なんでスーツを着て鍬を持っているのか」って聞かれましたから(笑)。

金子:おもしろくないですか(笑)。スーツの人が鍬を持っていると、「なんだこれは」と、気になりますよね。秋田県は民間の広告含めて、控えめなデザインが多いので、そこは飛び越えたかったんです。賛否両論あるとは思いましたが、大事なことはターゲットである若者が反応することだったので、このデザインでいきました(笑)。

鈴木:いい意味で、皆さん印象に残ったと思いますよ。そして、伴走支援も充実していました。これまでは審査にクリアされた方のみが伴走支援を受けられたのですが、今回は採択する前、手を挙げた方すべてが伴走支援を受けられる仕組みにしてもらいました。プレゼンまでに自分のアイデアを磨いてもらい、最後に採択する方式でしたので、今年はダメでも、次の年にもチャレンジできる。これもよい取り組みだったと思います。

金子:セミナーやワークショップに著名な起業家に来てもらい、ビジネスプランニングや市場調査だけでなく、リアルな失敗談も聞ける工夫など、充実したインプットを心がけました。ただ、インプットだけではダメなので、実践に近い形でのアウトプットにも力を入れています。例えば、プレゼンテーションのやり方に加え、受講者に毎回発表してもらうことで、県民性の一番の問題である「はずかしがりや」な部分を克服できるんです。さらに、それぞれにメンターがいましたからね。やる気の低下や離脱も防ぐことができました。

鈴木:成功例はよく聞きますが、失敗談はなかなか聞けませんからね。あれは貴重な経験だったと思います。

見向きもされなかった「柿」を地域の宝に‼︎

澤田:最終的に30件の応募があったのですが、男女比や年齢層などバランスよく集まってくださいましたね。

金子:そうでしたね。UターンやIターン、学生さんと多種多様で、共通点といえば多くの方が事業の未経験者でした。でも皆さんの熱意も共通でしたね。

鈴木:もともと秋田県は起業件数が少なく、地域活動を行う若者も少ない上に、減ってきている。だから、我々としては若者にもっと地域活動に参加してほしいという気持ちがあるんです。

澤田:そういう意味では応募者の皆さんは貴重ですね。鈴木さんの印象に残った方はいらっしゃいましたか。

鈴木:起業する案件が多かったなかで、「ヤングケアラーの居場所をつくる」や「日本ミツバチが限界集落を救う」という案件は目を引きました。我々の課がやる事業なので、第一義は起業ではなく地域活性化です。秋田の活性化につながるストーリーが必要で、大きな利益を得られるに越したことはないですが、事業の継続が大事ですからね。お二人が気になった方はいましたか。

澤田:中間審査で惜しくも選考から漏れてしまったのですが、その方の情熱が印象深かったです。たまたま街中でお会いしたときに駆け寄ってこられて、「不採択の理由を教えてください」とおっしゃったんです。その姿が、自分が認めてもらえなかったことではなく、次につなげたいといった感じだったので、思わず応援したくなりました。

金子:う~ん、決めきれないですね。でも、あえて選ぶとすれば民家の庭や畑で放置された柿をリブランディングするプロジェクトですかね。これこそまさに理想的な事業化で、地域に貢献していく「若チャレ」だと思いました。メンターとの相性もよく、伴走中に事業がスタートして、プレゼン時は事業拡大の段階にまで成長していましたからね。

鈴木:審査委員の方々も食いついていましたよね。本来、補助金を得てから自分のやりたいことがスタートするのですが、事業がスタートして、さらに新たなチャレンジに取り組んでいましたからね。応募段階では事業化されていなかったので問題ないのですが、そのスピードには驚かされました。

澤田:最終審査時は柿の帽子にオレンジ色のコスチュームと、セルフブランディングもバッチリでした。

鈴木:仕事につかう軽トラックもオレンジ色になっていましたよ。そういう戦略の上手さがメディア露出にもつながっていましたね。

金子:小さく事業をはじめて、ニーズにもマッチして周囲も応援してくれる。いいケースになりました。

「柿のリブランディング事業者によるイベント出店の様子」

澤田:いまはワインとビールに展開していこうとされています。いずれ柿のビールが名物になるといいですね。さて、最後に「若チャレ」を今後どのようにしていきたいですか。

鈴木:おかげさまで、これまで採択されてこられた方々が活躍され、新聞やテレビで取り上げられている姿を見ると、この事業の意義を感じます。でも、もっと県内だけでなく県外の方に知ってもらって、秋田県が若者に、チャレンジに優しい県だということを知ってもらえれば地域を取り巻く環境にもいい影響があるのではないかと思っています。

金子:私も同じです。こういった事業は多くはないので秋田発で全国規模にまで広げたいと思っています。コロナ禍で働き方が変わったこともあり、秋田から離れた方でも愛県精神は強いので挑戦してもらえるのではないかと思います。あとは、もっと地域に根付かせるためにも、地元の方々との関係性をもっと強固にしていくことが必要かもしれませんね。

澤田:この5月にはJR東日本秋田支社さまの協力を得て、過去の採択者の皆さんと秋田駅前でイベントを行いました。JRグループとして地域に貢献することは使命でもあるので、採択された方だけでなく採択されなかった方の支援もしていけるように若チャレに関わっていきたいと思っています。本日はありがとうございました。

澤田 今日子
ジェイアール東日本企画 秋田支社 営業第一部
企業広報、観光・加工食品の支援などを経て、2017年にjeki入社。
秋田県内の自治体を中心にプロモーション事業に従事。

鈴木 博之
秋田県 あきた未来創造部 地域づくり推進課 主査
2014年度入庁。観光振興課、市町村課を経て22年4月より現職。
若者の活躍を通じた地域活性化に取り組む。モットーは「不屈の魂」「闘魂」。

金子 晃輝
ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス・地域創生本部 地域プロデューサー
一般社団法人ロンド代表
2020年4月からjekiにて地域づくりプロデュースを中心に秋田県にかほ市の廃校活用を担当し、jekiとして初の地域課題の解決を目的としたビジネスプランコンテストを開催や『HAGAIGUにかほワーケーション』の関連施設である象潟新産業支援センター「しまのま」の運営等を行う。

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

>記事一覧はこちら

>記事一覧はこちら