シリーズ地域創生ビジネスを「ひらこう。」㉛
駅前大通りでのんびりリラックス!
新潟市の社会実験事業「東大通みちばたリビング」

地域創生NOW VOL.41

写真右から
jeki 新潟支社 営業第一部 部長代理 太田 英彦
新潟市 都市政策部 主幹 西澤 暢茂氏(現:土木部 みどりの政策課)
JR東日本 新潟支社 長谷川 元気氏

人の往来の起点となる駅は、街にとっては入口、玄関にあたる。そのため駅前が賑やかであればその街は元気に見えるし、閑散としていれば街も寂しく映る。北信越地方最大の都市である新潟市の玄関口である新潟駅は今、約60年ぶりとなる大規模なリニューアルを行い、駅周辺の建物も建て替えが進むなど、エリア全体が変わろうとしている。そこで、2022年10月、木々が色づきはじめた駅前のメインストリート「東大通(ひがしおおどおり)」に、ベンチやテーブル、常設カフェなどを設置し、賑やかで居心地のいい空間、駅から街に歩きだしたくなる通りへと変える社会実験事業「東大通みちばたリビング」を行った。この事業に携わったジェイアール東日本企画(jeki)新潟支社の太田英彦が、事業の推進役であった新潟市都市政策部の西澤暢茂氏とJR東日本新潟支社の長谷川元気氏を迎えて、事業を振り返りながら街の賑わいづくりと、街への愛情を語った。

「ギリギリアウトがちょうどいい」

太田:事業が終了してから早いもので半年が経ちます。振り返ってみると大変でしたが、楽しかったですね。改めてとなりますが、今回の事業について経緯説明をお願いできますか。

西澤:新潟市は、陸の玄関口である新潟駅のエリアから、大型商業施設が集積する万代エリア、旧市街の古町エリアまでのだいたい2㎞の都心軸周辺エリアをつなぎ、緑あふれ、人・モノ・情報が行き交う活力エリアにしていこうとする、都心のまちづくり「にいがた2km」という取り組みを行っています。今回の事業は、その玄関口である駅前エリアで、人中心のウォーカブルなまちづくりを進め、賑わいをつくっていこうという目的で始めたものです。折しも新潟駅の60年ぶりのリニューアルが進み、周辺の民間ビルの建て替えも進んでいますから、駅に降り立った方がちょっと街を歩いてみたいと思っていただけるような場所にできないか、それが発想の原点です。それでJRさんやjekiさん、商店街の皆さんと一緒にスタートしたわけです。

長谷川:とはいえ、最初に話を伺った頃はなかなかイメージがつかなかったですね。何しろ東大通というのは幅の広い歩道があるものの普通の道路ですので。でも、そこに常設のカフェやおしゃれなテラスができて雰囲気が一変し、居心地のよい空間になったことに驚きました。

太田:イメージができないのは私も同じで、初めての事業ならではの難しさでしたね。おかげで周辺ビルのオーナーさんや商店街の皆さんへの説明が大変でしたよね。

長谷川:そうそう。大規模なイベントが行われるといった噂が流れたことで、トイレはどうするのか、ゴミが散乱するのではないか、そういったことを心配される方もいらっしゃって、それを一つずつ説明していきました。

太田:加えて、時間もあまりなかったんですよね。動き出したのが7月で、本番は10月1日から。余裕を持って11月開催にしようという話もありましたが、それでは寒くなると、私自身が10月にこだわったんです。でも、言ったはいいけど時間がなく、道路使用などの申請も多くて焦りました(笑)。そんななかでも西澤さんは淡々かつ理路整然と関係者に説明されていて、凄いなと思っていましたけど。

西澤:いやいや。いろんな方が関わっていくなかで、いかに良い取り組みにしていくか。理想はありながらも、現実的な落としどころを模索する毎日でしたよ。実行委員会も頻繁に開催したものの、なかなかまとまらない。そんななか、太田さんが「この取り組みは、終わったときに皆さんが良い関係で、楽しかったと思えたらそれで良いのです」とおっしゃって。なるほどと納得したと同時に、進むべき道が見えたことを覚えています。実際、この事業を通してこのエリアに今後の展開につながるような関係性が生まれたと思います。

太田:よく覚えていますね(笑)。そして、なんとか初日を迎え、10月1日が「日本酒の日」ということもあり、日本酒と音楽を楽しんでもらうイベントを行いました。

西澤:日本酒とジャズとのコラボイベントは最高に良かったです。ジャズの音量については心配していましたが、結果的にもっと大きくても良かったんじゃないか、そんな声もいただきました。

太田:「音をあまり大きくしない方がよいのではないか」という意見もでていましたからね。これも駅前通りに面した場所での初めての開催だからこそで、音の加減が難しかったですね。

長谷川:今回、良かったのは規制する側に西澤さんがいてくださったことじゃないですか。何しろ、西澤さんは「やりすぎくらいがちょうどいい」とおっしゃっていたくらいですからね(笑)。

西澤:先駆者の教えの「ギリギリアウトがちょうどいい」ですね。枠におさまっていると新しいことができないんですよ。一応、申し上げますが、ギリギリアウトはアウトなので、企画段階ではあくまでそういうマインドが必要だということですから(笑)。

太田 長谷川: (笑)。

次のステップは“稼げる通り”になること

太田:今回の事業で印象深い思い出はありますか。

長谷川:ファッション専門学校の学生さんの作品を、店舗跡地のショーウィンドーに飾ったことですね。1か月の期間中に2回も衣装を変えるなど、意欲的に取り組んでくださり、最後はハロウィンの衣装を飾って季節感まで出してくれました。別の高校生さんたちとは一緒にゴミ拾いも行いました。次の機会があれば、学生さんたちのアイデアを形にするような催しが実現できたら良いなと思っています。

太田:期間最後に通り全体で行ったハロウィンイベントは良かったですよね。天気も恵まれましたし、ハロウィン衣装を着た家族連れも多く来られて。周辺の企業さんからもお菓子の協賛などでご協力いただきましたからね。

西澤:盛り上がりましたね。ちなみに、聞いたところによると周辺の専門学校では、学園祭を行っていない学校もあるそうです。そこで、学生さんにイベントに興味があるかと聞いたところ、皆さん興味を示し「やりたい」とおっしゃっていたので、今後もこの取り組みは続きますから、学生さんとも一緒に進められるといいと思います。学生さんにとっては思い出の1ページになるでしょうし、街にとっても若い世代の皆さんが街に愛着を持ってもらえる機会になり得ますからね。太田さんは印象に残ったことはありますか。

太田:準備段階では周囲の積極的な協力は得られませんでしたが、徐々に応援してもらえるようになったことですね。あるビルのオーナーからは、「頑張っているからどうぞ」と、コーヒーをごちそうになりました。あれは嬉しかったですね。もうひとつ印象に残ったのは、通りに昼の顔と夜の顔が生まれたことです。出店してくださったキッチンカーが昼と夜で違ったことで、街の雰囲気もガラリと変わる。これはおもしろかったですね。

「東大通みちばたリビング 昼の様子」(写真左)「東大通のキッチンカー 夜の様子」(写真右)

西澤:居酒屋風や軽食系などキッチンカーも多彩でしたからね。ただ、水曜と土曜の週2回だけだったので、個人的に今後は開催日を増やすとか、連続して実施することもやってみるとよいのではと思っています。

長谷川:「NIIGATA」のモニュメントを背景に、テラスから多くの方が写真を撮っていたのも嬉しかったですね。

NIIGATAモニュメントと新潟駅

西澤:今も観光客の方が写真を撮られていますので、今回の事業のレガシーといえますね。モニュメントもそうですが、駅前が変われば新潟市のイメージも変わります。今回、この通りが大事な空間だと認識できたので、今後もっと多くの人たちに関わっていただき、通りの特性に応じてだと思いますが、いずれは道路でも稼げるようになれるといいなぁと考えているんです。国も道路利活用を活性化するため、道路上でも歩行の空間を確保しながら、物販や飲食などが実施できる制度を整えています。今後、この稼ぐ観点が加われば、取り組みの幅も広がります。そのような道路の可能性を考えるため、まずは、いろいろと試してみる社会実験を続けたいですね。

長谷川:そうですね。根付くのには時間がかかるでしょうが「東大通に出店したい!」そんな思いを持つ方が増えるといいですね。今回、キッチンカーの出店は週に2回と決めていたこともあり、売り上げ的には芳しくないところもあったようですが、ある店主の方は「売り上げは厳しいが、広告と考えて出店してみた」と言っておられました。少なくともショーウィンドー的な需要はあるのですから、いろいろと試せることはありそうです。

東大通のキッチンカー

太田:実際、期間中にこのイベントに参加するにはどうすればいいのかといった他の自治体の方からの相談もいただきましたからね。関心も高いと思います。

長谷川:後は、こちらからテーマを持って進められると良いのではないかと思っています。先日、新潟市の説明会で聞いたのですが、新潟は川、海、水田は活用できているが、広大な砂丘地を活用しきれていないそうです。砂丘地はサツマイモの栽培に適しており、さまざまな用途に適したサツマイモの品種が栽培されているようです。次は、サツマイモをテーマにしてもおもしろいんじゃないですかね。

西澤:いいですねぇ。新潟の街に潜む新たな魅力を掘り起こし、それを発信する場になれれば新潟の街の価値を上げていくことにつながりますからね。次回が楽しみです。まぁ、盛り上がりすぎるのも通りという場所柄を考えながらですけどね(笑)。

太田:次回はもっとお金を使ってしまいそうですね。話しは尽きませんが、次回に向けて引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

太田 英彦
ジェイアール東日本企画 新潟支社 営業第一部 部長代理
新潟市在住。2013年にジェイアール東日本企画入社。地元新潟市や新潟県内の各自治体などの地域創生関連(観光、農産、まちづくりなど)のプロモーション業務に従事。

西澤 暢茂
新潟市 都市政策部 主幹(現:土木部みどりの政策課)
新潟市在住。2004年に新潟市役所入庁。主に都市計画、都市交通、公共空間活用など、まちづくり分野の業務に従事し、2023年より現職(「にいがた2km」の緑化推進など)。

長谷川 元気
JR東日本 新潟支社 総務部 新潟駅周辺整備推進室
2009年入社。駅の出改札、車掌、運転士、不動産関係業務を経て、2022年より現職。新潟駅や「にいがた2km」の活性化に資するイベント実施など、まちづくりの業務に携わる。

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