jekiの媒体事業に革命的変化!
~メディアソリューション本部発足でjekiの媒体事業はどう変わるのか~

jekiが描く交通広告の未来 VOL.9

写真左より
デジタルサイネージ事業局 メディアセールス部長 宅野 陽子
常務取締役 社長補佐CDO ソーシャルビジネス・地域創生本部長 高橋 敦司
取締役 メディアソリューション本部長 交通媒体局長 星野 雅央
上級執行役員 メディアソリューション本部副本部長 デジタルサイネージ事業局長 稲葉 耕一

2023年4月、jekiは中期経営計画に基づき、大規模な組織改正を実施。メディアソリューション本部を発足させた。JR東日本の交通媒体の管理・販売を担う交通媒体局を核に、デジタル媒体やJR東日本以外の媒体も含めた新たな媒体社構想を体現することが期待される組織だ。今回の組織改正によって何が変わるのか、そして、どのような価値を提供していくのか、キーマンたちが語った。

なぜjekiは革命的な組織改正を実行するのか

宅野:まずは組織改正の全体像について、高橋常務から説明をいただけますか。

座談会は、jeki社内にある山手線E235系のモックアップ内で実施した。

高橋:創業以来34年の間、jekiでは「媒体」というとJR東日本の交通媒体のことを指し、それを事業の柱としてきました。しかし近年、世の中の媒体全部がデジタルになろうかという時代になりました。そんな変化の中で、社内では我々の「媒体」も今のままではないだろうなと薄々は気付きつつも、「我々の媒体は交通媒体しかない」という意識が残っていた気がします。Web広告費がテレビ広告費を上回るという時代に、広告会社としてのjekiはもっと領域を拡大できるのではないかと常々思っていました。

2020年以降、新型コロナウイルスの影響などで交通媒体への出稿が減ったこともあり、この危機を逆に機会と考え、当社の媒体事業を革命的に変えようと考えました。「革命的」と言うからには組織を変える必要がある。そこで今までの交通媒体本部から、より複合的にあらゆるノウハウを結集し、デジタルも徹底的に追求しながら新しいメディア事業を展開しようと考え、組織改正に至りました。
これまでも、別組織として並立していた媒体事業やプロジェクトがありました。その一つに、2022年7月に設立したデジタルサイネージ事業局があります。これはJR東日本の駅・車内以外のスペースで、サイネージの設置から配信まで一気通貫に展開するサービスを担っています。すでに他の鉄道会社、大型アミューズメント施設に採用され、好スタートを切っています。

JR東日本グループでもさまざまなWebサービスやアプリを提供していますが、そこにはまだそれほど広告枠はありません。しかし、世の中ではそうしたWebサービス内にも広告枠を設けてマーケティングをすることは当たり前。ならばそれも取り込んでいかないといけない。

それからもう一つ、2022年に始まった「Virtual AKIBA World(VAW)」もあります。世界初のメタバース・ステーションとして誕生した山手線31番目の駅「シン・秋葉原駅」を中心とするコンテンツです。JR東日本が2021年から推進している「Beyond Stations構想」の一環として展開しています。これまでは交通広告というとリアルに存在するものしかないと思っていましたが、メタバース内でも媒体として開発できるのではと考えていかないといけません。繰り返しになりますが、媒体の概念を広げていくためには、今までの交通媒体本部だけの動きではなかなか革命的と呼べるほどには変えることができない。メディアソリューション本部はjekiの媒体事業と広告事業を革命的に変える推進のエンジンとなります。

宅野:メディアソリューション本部がどのような部署や機能を持っているのか、解説いただけますか。

星野:メディアソリューション本部は機能別に4局、2センター、1室でスタートします。これまで通りJR東日本を主体としてきた交通広告の媒体事業は「交通媒体局」が担い、新本部においても一つの大きな軸になります。
「デジタルサイネージ事業局」は交通広告の領域ではない、駅の外のメディア開発を担います。駅から出た場所でのコミュニケーションを開発しながら、移動者が家から駅に来て、電車に乗り、駅に到着し、街へ出ていく、この一連をどうつなげていくのかを考えていくことになります。

そして、JR東日本の「Beyond Stations構想」を実現していく機能を持っているのが「Beyondメディア局」です。ここでは、交通媒体局が担うJR東日本の駅ナカの広告事業を従来とは違う形で、たとえばダイナミックなメディア開発や、駅ジャックなどを通じて、駅に人が集うような媒体をテーマに開発していくことを期待されています。「オンライン媒体局」はJR東日本のオウンドメディアやデータを活用した配信など新たな領域の拡張を担います。これが4局の役割です。
「メディアソリューション推進センター」は、メディアソリューション本部の各局の機能によって生まれていく価値を連携・つなぐ役割で、広告会社やクライアントへソリューションを開発して提供していくことを担うイメージです。

シンプルに言えば、オンライン、オフライン、バーチャルをシームレスにつなぐソリューションを開発・提供していくということです。JR東日本の交通媒体を軸に、デジタルサイネージ事業局が作るメディアもあれば、Beyondメディア局が作るもの、オンライン媒体局が作るもの、これらすべてをクライアントのリクエストに応えて一つの商品にしていくことができる。さらにJR東日本のデータが加わると価値を増幅できる、それがメディアソリューション本部のめざすところです。

個別進化を続ける事業領域を連動させることでより大きな成長に期待する

宅野:高橋常務が「革命的」と表現するほどに組織を変えた狙いについて教えてください。

高橋:私は長らくCDOという立場で会社全体のDXを推進してきましたが、なかなか変われていない領域だった一つが、交通媒体だったかなと思っています。それが悪いという話ではなく、長い間交通媒体は、一つの枠や面に値段がついていて、それを埋めていくビジネスだったからです。それがどうDXと関係するんだろうということをみんなが悩みながらやってきたわけです。
一方、営業側の立場では、クライアントから、「交通媒体は見た人が何人いるかわからない、テレビとWebはそれがわかる、メジャメントできないじゃん」という話が出てくるようになりました。そこで当社の交通広告可視化ソリューションUniversal OOH Plusをローンチすると、この反応は非常に良かった。

そうした事象を併せて考えてみると、我々は社内の別の部門では、Suicaしかり移動者調査しかりたくさんのデータを扱っていて、データは溜まっている。だけど、そのデータと我々の売り物がつながっていないところが多々ありました。今年度よりスタートした当社の中期経営計画のキーワードに“タテとヨコ”という話がありますが、我々の業種・業態ではどうしても媒体は媒体、営業は営業とタテに割っていく発想になりがちです。しかしjekiは「ポケットモンスター」アニメ化への事業参画をきっかけにコンテンツビジネスが成長し、東日本大震災復興から本格的に始めた地域活性化ビジネスの分野でも売上規模が当初の10倍近くに伸びるなど、個々に“タテ”に成長しています。それらを“ヨコ”につなげるともっと大きな成長が期待できるんじゃないかというのが、今回の当社の中期経営計画「新と芯」のコンセプトでもあります。

そもそも我々は、おそらくデジタルサイネージを数としては日本で最も多く運用している会社なので、これを他のデジタルソリューションやデータと接続できれば、今までにない領域にも進出できるのではないかと考え、昨年デジタルサイネージ事業局をつくりました。だから、外部の方々から当社の媒体でこんなことができると言って頂くことも多いのですが、OOH媒体としてのDXを一番論じられるのは当社。これまで蓄積してきた媒体開発・運用ノウハウに加え“タテ”と“ヨコ”を一体化させる仕組みがメディアソリューション本部だと思います。

宅野:“ヨコ”というのはjeki社内に限りませんよね。

高橋:まずは社内、次にJR東日本グループ。グループ外もクライアントや協力会社など、組むことができる存在は無限にあると考えています。例えば、クライアントである名古屋市交通局との協力がすでに始まっています。そうした取り組みを起点にクライアントの価値を高めることができれば、我々のビジネスも“ヨコ”に広がっていく。
また、会社としてそういうイメージを持ちましょうというメッセージでもあります。これまでは“タテ”の成長ばかりに目線が行きがちだったところを、どうやって“ヨコ”方向へつなげ、新たな価値を生み、収益を生み出す展開ができるのかを考えましょうということです。

宅野:名古屋市交通局との取り組みはデジタルサイネージ事業局の仕事ですね。

稲葉:これまでJR東日本のデジタルサイネージを企画・施工や運用、保守、広告販売をしてきたノウハウと、一般営業で拡大してきたクライアントとの関係を活かして、広告業務の幅を広げて新しい事業の柱にしていきましょうというのが我々の取り組みの狙いです。
名古屋市交通局では、3月25日に地下鉄東山線の車内サイネージの1両目が導入されました。これを約1年かけて21編成126両に展開していきます。また広告販売ではABCクッキングスタジオと女性専用車両のトレインチャンネルを組み合わせた商品を発表しました。今後は、23年中に大型アミューズメント施設などとの取り組みも準備中で、駅や電車から街へと広がっていく、そういうフィールドを開発していきます。

移動する人を起点に考えるソリューション事業になっていく

宅野:新たな組織体制ではどのようなステークホルダーにどのような価値を提供できるとお考えですか。

星野:まずは我々が提供するものは何なのか、ということが大切です。我々は、人が家を出て、駅に着いて、電車に乗って移動して、別の駅について、目的地へ行く、そのすべての流れにリアルメディアを持っています。その間、人はスマートフォンなどのメディアにも触れています。そうした移動中の接点において、人を起点として「何を」「どう」提供していくのかを考えていくことが必要だと思っています。

高橋:今まで移動者は、家を出て駅までと、電車に乗ったあとの価値体験、さらにその間にスマホに触れるときの価値体験は別々のものだった。これからはそれらをシームレスに価値提供できるようにしたい。もちろん、家を出てから到着するまでずっと追いかけられると気持ち悪さがあるかもしれませんが、そこもデータなどの活用によって適切なコミュニケーションを設計できるはずです。
生活者にとっては、移動することで知らないものに出会えたり、気付きを得られたり、その先にある購買行動でもお得なオファーがあったり、間違いなくリッチな価値体験になると考えています。

稲葉:OOHというものは場所がコンテクストになっていて、人を引き寄せる効果がある。具体的な効果検証は、デジタルで可視化しないといけないのかもしれないし、そこには今後取り組んでいく必要はある。ただ、我々はアドテクの会社ではないので、コンテクストを意識しつつ、今までの知見を活かした商品開発方面で強みを発揮していかないといけない。

宅野:「場所」の価値を数値化することは難しい。OOH、サイネージで何人集まるからいくらですよとはなかなか言えません。ただ、価値の付け方、評価のあり方は未来に向けて、変わっていくし、変えられるようになっていきますよね。

高橋:Web広告と同じように論じると「何人見たのか」ということだけで評価することになる。一方、プライスレスな部分、話題になるというのも価値でありながら、話のベースになる指標さえもないのは大きな課題でした。サインボードをデジタルサイネージに替えるとどんな効果があるのか、こんな価値がありますよという説明はできないといけない。画面がきれいだとか、見栄えがいいですよ、だけでは意味がないので、そこをどう伝えていくかを考える必要があると思います。それは決してメジャメントという数だけの話ではないと思っています。

宅野:新組織によって描かれる未来の一つにjekiマーケットプレイス構想もあります。

稲葉:DSPやSSPなど、テクノロジーの進化によって広告の世界にも素晴らしいビジネスが誕生しました。媒体の買い方もそれらによって変わってきています。繰り返しですが、データによる効果検証も求められ、生活者とのタッチポイントも増えています。jekiとしてもより一層そうした環境の変化に対応していこうというのがjekiマーケットプレイス「MASTRUM(マストラム)」のめざすところです。
 ただ、我々がやるのであれば「人起点のオムニチャネル」という言い方が良いのではないかと思っています。人起点というのはjekiマーケットプレイスが強みにすべき点です。

高橋:すでに似たようなサービスは世の中にたくさんあります。それでも我々が始める意味と価値はある。基本的にDSPやSSPは先に空き箱を作ってから品物を入れるか、極めて限定的な品物を売る市場があるところからのスタート。「マーケットプレイス」という概念は、本来は「市場」ですから、そこに店を出したいという農家などがたくさんいて市が立ち、そこで買いたいという人が集ってはじめて成り立つもの。我々はおそらくどこよりも品物が揃った市場を立てることができる。これが最大の価値です。

稲葉:これまで我々の媒体といえば、主にJR東日本グループのものだけでしたが、jekiマーケットプレイスには当然ながら他社のメディアもご参加いただけます。場合によってはメタバース内、オンラインメディアもマーケットプレイスに入ってくる。
当然日本全国から買うこともできますし、世界にも開かれたものになります。例えば、世界中のクライアントがプログラマティックに、データも可視化された形で山手線の広告を買うことができる。

高橋:「世界の鉄道駅の利用者数ランキングTOP10」などの情報をサイトで見ると、ベスト10を占めるのは日本の駅です。さらに、その日本の駅のほとんどは、JR東日本の管内となってます。これほど多くの人が利用していると聞くと海外の人はみんな驚きます。
ただ、それほどのポテンシャルを持ちながら、現状アドテクの領域ではクローズドな環境になっています。海外、アメリカやシンガポールの企業が予算に応じた広告投資を効率よくしようと思っても、日本企業と同じように「枠買い」とならざるを得なかった。「MASTRUM(マストラム)」が稼働すれば、世界中から我々の商品の価値を認めていただき、気軽に出稿してもらうことができます。そうなれば広告を見る移動者にとっても、通勤や通学で利用する道で今までと違う景色に触れることができるようになります。

星野:メディアソリューション本部内が連携することにより、新たな価値を創出するとともに、格段に交通広告は変わっていくでしょうね。これまでだと一定期間、例えば1週間出しっぱなしにしかできなかったものも、リアルタイムデータに基づいて時間帯で変わっていくような広告も可能になります。クライアントにとってもより効率の良いコミュニケーションが実現できるようになるでしょう。

宅野:そうした変化を起こしていくことが今回の「革命的」な組織改正のめざすところですね。皆さん本日はありがとうございました。

高橋 敦司
常務取締役 社長補佐 チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)
ソーシャルビジネス・地域創生本部長
1989年、東日本旅客鉄道㈱入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス(現・JR東日本びゅうツーリズム&セールス)代表取締役社長に就任。2013年、JR東日本本社営業部次長、同担当部長を経て、2017年jeki常務取締役営業本部長、2022年より現職。(一社)日本旅行業協会広報委員長、日本広告業協会ビジネス統括委員会委員など公職経験多数。

星野 雅央
取締役 メディアソリューション本部長 交通媒体局長
広告会社を経て2004年jeki入社。
媒体社部門である交通媒体局にて販売責任者として商品施策・販売施策、新規媒体開発に従事、最近では新宿ウォール456の開発を手掛けた。「交通広告共通指標推進プロジェクト」では代表幹事を務めて広告効果の業界共通指標を整備、現在は「交通広告メジャメント標準化検討会」事務局長としてデジタルソリューションを活用した広告効果の可視化を推進し、業界全体での交通広告の媒体価値向上に注力。2021年3月から交通媒体本部長交通媒体局長、2023年4月発足のメディアソリューション本部長に就任。

稲葉 耕一
上級執行役員 メディアソリューション本部副本部長 デジタルサイネージ事業局長
1991年jeki入社。営業局配属後、運輸、食品他多くの商品、サービスのAEを担当。
広告電通賞準グランプリを受賞した航空会社のキャンペーンでは広告会社サイドの責任者として陣頭指揮を執る。2014年第三営業局長、2017年より初代関西支社長。関西支社長就任後、大阪市交通局の民営化事業をプロポーザルで獲得。CI構築やブランディング広告を実施するなど、関西エリアのクライアントを開発。2022年7月に新設されたデジタルサイネージ事業局長、2023年4月発足のメディアソリューション本部で副本部長に就任。

宅野 陽子
デジタルサイネージ事業局メディアセールス部長 兼 交通媒体局メディア営業部
出版社、教育系企画会社を経て2005年jeki入社。JRグループ企業の営業担当、秘書、関西支社を経て交通媒体局、2022年7月からデジタルサイネージ事業局に配属。新規取扱い媒体の販売及び商品設計等を担当。

jekiが描く交通広告の未来

生活者の行動やメディア環境が激変するなか、jekiが描く交通広告の未来とは。調査で見えてきた交通広告の今や、新たな価値創出の取り組みを紹介します。

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