子どもたちが生き物とふれあうきっかけを提供したい
「ネスレ ピュリナ ペットケア」がめざす、人とペットが共生する豊かな社会

中之島サロン VOL.20

(写真左より)
ネスレ日本株式会社 ネスレ ピュリナ ペットケア マーケティング部 コーポレートブランドマネジャー 内記 利宏氏
jeki関西支社 営業部 猪原 玲

人生に豊かな彩りを添えてくれるパートナーとして、ますます大切な存在となっている「ペット」。世界最大の総合食品飲料企業のネスレでは、ペットについても健康で幸せに長生きできるよう、栄養研究や製品開発に取り組み、ネスレ日本株式会社 ネスレ ピュリナ ペットケア(以下「ピュリナ」)として事業を展開させています。さらにペットを取り巻く社会問題にも向き合い、犬猫の譲渡会支援や子ども向け動物愛護教育プログラムなどの活動も開始しました。その背景に込められた意図や思い、そして今後の展開について、ジェイアール東日本企画(jeki) 関西支社の猪原玲が、ピュリナの内記利宏氏に伺いました。

「ペットフードカンパニー」から「ペットケアカンパニー」へ

猪原:まずは、ピュリナについてお話をいただけますか。

内記:ピュリナは、ネスレのペットケア部門であり、世界におけるペットケアのリーディングカンパニーとして、多くの国で活動をしています。
米国で1894年創業の「ロビンソン・ダンフォース コミッションカンパニー」という飼料会社が前身で、1902年に「ラルストン ピュリナ」に改称、2001年にネスレグループに加わり現在の社名となりました。1956年には世界初の犬用ドライフードを開発しました。その後もペットがより幸せに健康で長く生きられることをめざして、アメリカにある世界最大級のペットケア研究施設「ネスレ ピュリナ ペットケア センター」を核とした施設での最先端の栄養・健康・美味しさについての知見をもとに製品・サービスの開発を行っています。

製品ブランドとしては、「プロプラン」「プロプラン ベテリナリーダイエット」「ピュリナ ワン」「モンプチ」
「フィリックス」の5つを、多様化するお客さまのニーズに応え展開しています。さらにペットフードカンパニーから真の“ペットケアカンパニー”に発展することを宣言し、ペットを取り巻く社会的問題に向き合い、ペットとペットオーナーの皆さまの豊かで幸せな生活をサポートすることをめざしています。そんな、ピュリナが大切にしている企業活動を体系的に発信するために立ち上げたのが、「PURINA CARES(ピュリナケア)」のプロジェクトです。

猪原:PURINA CARES(ピュリナケア)では具体的にはどのようなことを行うのでしょうか。

内記:一言で言えば、「ペットケアカンパニーとして、人とペットと社会のためにできることすべてを大切にする」という思いが込められたプロジェクトです。ピュリナは「人とペットは一緒にいるともっと幸せになれる」という信念をもっており、それに基づいて人とペットのためにできることはすべて大切にしようと考えています。具体的には活動の3本の柱として、“ペットの健康”のための「製品開発・R&D」、“持続可能な未来”のための「サステナビリティ推進」、そして“人とペットの豊かな共生社会”を実現するための「人とペットの共生社会推進」を掲げています。

「製品開発・R&D」については、人間と同様にペットも食事を通して健康を維持できることが、当社の研究で明らかになってきました。たとえば2010年にはMCT(中鎖脂肪酸)がペットの認知機能の健康維持に貢献するという研究結果を発表しており、2021年にはフードに含まれる卵由来のタンパク質が唾液中の猫アレルギーの原因物質を中和し、猫の被毛やふけに付着する猫アレルゲンを減らす画期的なキャットフード製品「ピュリナ プロプラン リブクリア」を発売しています。そうした知見を製品づくりに活かし、皆さまが手に取りやすい形で提供することがミッションです。

2つめの「サステナビリティ」については、ペットとの幸せな暮らしは地球環境も含めて人の社会が持続可能であってこそ存在すると考え、ピュリナだけでなく、ネスレグループ全体で商品やパッケージなどのサステナブル調達に取り組んでいます。具体的には、プラスチックパッケージを100%リサイクル可能に設計すること、2025年までにバージンプラスチックの使用量を3分の1削減することを、コミットメントとして掲げています。

2022年春発売の「モンプチ クリスピーキッス180g」も紙パッケージとなり、袋に使用するプラスチックを従来製品比で39%削減することに成功しました。当初は戸惑う声もありましたが、折り紙にしてペットと遊ぶ動画をSNSで公開して好評の声をいただくなど、少しずつ前向きに捉えていただけていると感じています。

社会課題に向き合い、行政や地域、NPOなどと連携

猪原:3つめの「人とペットの共生社会推進」も、PURINA CARES(ピュリナケア)のプロジェクトの一環なのですね。

内記:「人とペットの共生社会の実現のために」と目標を掲げていますが、決して私たちだけでは実現し得ないことは認識しています。2018年4月に活動を始めましたが、問題や解決策を少しずつ探りながら、行政やNPOの方などと意見交換をしてきました。その中でピュリナができることを考え、皆さんと連携しながら活動しています。

その一つが「ピュリナ ネコのバス」という移動式保護猫の譲渡会です。まるで猫カフェのような、ゆったりとしたバスの車内で、「保護猫を家族に迎えたい」と考える方々と保護猫がふれあいながら、お互いに新しい家族を探そうというものです。保護猫活動のNPOの方、行政の方などと連携して全国各地を回っています。猫の譲渡会は屋外ではストレスが大きくて開催が難しいという声に応え、ピュリナではバスという「場」を提供しています。バスが停まっていると、「なんだろう」と興味をもってくださる方が多いです。

猪原:保護猫の活動を知らない方にも、知っていただく機会になっているのですね。

内記:そうです。私たちにとってもさまざまな方とふれあう機会が増え、多彩なネットワークができました。その中で、行政が子どもたちに行っている、人とペットの共生や動物愛護を目的とした教育について知る機会がありました。

以前は本物の犬や猫を連れて行ったそうですが、今はアレルギーや動物側のストレスなどへの配慮が必要になり、また受け入れる学校側の先生の負担も大きいために実施が難しいという話を聞きました。苦肉の策としてぬいぐるみなどで代用するそうですが、効果は今ひとつだそうです。

そもそも学校で動物にふれあう機会は激減しており、2003〜12年の調査では93.4%の学校でなんらかの動物が飼育されていたのが、2017〜18年で85.8%、また鳥や哺乳類を飼育している学校は49.1%、半分以下へと落ち込んでいます(※1)。生き物の温かさや命を実感する機会が減っているとはいえ、子どものアレルギーや先生のオーバーワークなどの問題もあって飼育が増えることはなさそうです。
※1 出典:科学研究費助成事業 研究成果報告書(大手前大学 中島由香著)

昔はよく家の前につながれている犬を撫でたり、外飼いの猫と遊んだりという機会もありましたが、現在は犬の86%、猫の94%が完全室内飼育で(※2)、ペットにとって室内飼育はいいことなのですが、子どもたちとのふれあいは減るばかりです。
※2 出典:「いぬ・ねこのきもちWEB」犬猫との暮らし調査2021(株式会社ベネッセコーポレーション)

「猫のスイッチはどこ?」に衝撃。生き物とふれあう機会をVRで提供

猪原:ここまで子どもたちが動物とふれあう機会が減っているのは驚きました。いろいろと問題も出てきそうですね。

内記:確かにこの状況が続けば、ペットは限られた人のものになり、共生社会などとは言えなくなります。人が人以外の生き物に愛情をもち、命の大切さを感じる機会を失うことにもなりかねません。それを痛感したのが、「ネコのバス」の譲渡会の時に、初めて猫を抱っこしたという小学2年生くらいの男の子に「どこにスイッチがあるの?」と聞かれた時です。猫が逃げようと動くので、止めるにはスイッチを切ればいい、という発想になったようです。

ふれあう機会がなければ、動物を生き物として見れなくなってしまいます。この体験と以前視察で伺った動物愛護教育現場で見た問題とが重なって、将来大きな問題になるかもしれないと感じました。

実際、犬を18歳までに飼ったことがある人は、大人になっても66.7%が犬を飼うのですが、ペットを飼ったことがない人の場合は18.5%にとどまります(※3)。つまり、子どもの頃に犬猫にふれあった経験がないと、大人になった時にペットを飼おうと思わない傾向が強いのです。ビジネス的にも望ましくありませんが、社会としても、動物との接し方やぬくもりを知らない、ひいてはペットとの暮らしの豊かさや責任を知らない人が増えるのは良いこととは思えません。
※3 出典:「全国犬猫飼育実態調査2016」(一般社団法人日本ペットフード協会

猪原:子どもの頃に教えてもらったことは覚えていますよね。家にペットがいなくても、動物園に行ったり、近所の犬に触ったりという機会があればいいですが。

内記:そう、せめて子どもたちが楽しみながら動物愛護を学ぶきっかけになればと思い、「ともにくらす PURINA わんにゃん教室 the VR」という動物愛護教育プログラムを開発しました。VRゴーグルを装着して映像を見ながら、犬・猫と仲良くなるための正しいふれあい方や、一緒に暮らすための正しい知識を身に着けてもらおうというものです。

また、この動物愛護教育プログラムでは、VR技術を活用したことでの利点がありました。まず新しいテクノロジーということで、子どもたちに興味をもってもらえることです。VRで犬・猫が登場すると、子どもたちは大喜びで歓声が上がります。やや難しいことを学ぶには最初に「面白い!」と思ってもらうことが大切なので、いい“つかみ”になっています。気を散らすことなく集中して取り組んでもらえるのもメリットかもしれません。
さらに犬・猫の目線で追体験ができるので、たとえば人間に上から頭を撫でられる怖さを実感できます。ダメと言われて分からなくても、実際に体験すると、すとんと腹落ちするようです。

個人的に印象に残っているのは、アレルギーのために動物とふれあったことがないお子さんに、「みんなと一緒に犬や猫のことを勉強できて嬉しかった」と言われたことですね。動物が怖くて触れなかったという子にも、ワンクッションを与える機会になったのではないかと思います。

2022年6月に初めて大阪の小学校でこのプログラムを活用した授業を実施し、その後数回行っています。秋には福島で実施しましたが、いずれも「ネコのバス」で知り合った行政の方の協力があってのこと。実は、教材も大阪府さんに協力いただいて作成することができました。今後はもっといろんなところで活用してもらえるよう、さまざまな方々との連携を深めていきたいですね。

業界をリードする会社として一石を投じ、活動の輪を広げたい

猪原:今後の展開についてお伺いできますか。行政やNPOなどとの連携も続けながら、ピュリナとしてのスタンスもあるかと思われます。

内記:「ネコのバス」は一匹でも多く猫の命を救いたいというNPOの支援として始まり、活動は譲渡が中心です。もちろんそれも大切であるのは間違いないのですが、ピュリナでは民間企業として別の角度からも動物愛護や人とペットの共生を考え、行動することが大切だと考えています。

たとえば、前述したような子どもたちと動物とのふれあいの機会創出も、重要な取り組みだと思っています。人とペットが共に生きることは、人の健康や幸せにもつながることは間違いなく、動物の命やぬくもりを知らない子どもたちが増えれば、必然的に大きな社会問題になるのは明らかです。その前に、なんらかの形で手を打つ必要があるでしょう。

そのために今私たちができるのは、動物愛護教育プログラムを活用した授業をより多くの場で開催すること。さらには、それを機にリアルに犬猫にふれあう機会を提供したいと考えています。現在は授業の中で、自治体運営の動物愛護センターやシェルターなどを紹介するにとどまりますが、ゆくゆくは授業後に、「ネコのバス」で実際に保護猫とふれあう機会を作っていきたいと思っています。

猪原:おそらくゴールはまだ先に見据えられていると思いますが、ピュリナがめざす未来、そのための活動についてもお聞かせください。

内記:VRを活用した動物愛護教育プログラム、そして「ネコのバス」も活動は広げていきますが、すべて自分たちでカバーできるとは思っていません。弊社のような民間企業が参画することで、地域やNPOの活動が活性化したり、全く異なる企業が参入したり、活動の輪が広がっていくことを期待しています。なので、短期的にピュリナがすべきことは、jekiさんにもお手伝いいただいて展示会などで多くの方にピュリナの活動の目的や内容を知ってもらい、理解してくださる方を一人でも増やすことと思っています。

そして中長期的には、多くの方にペットとの暮らしの楽しさや豊かさを知っていただき、人とペットのよりよい共生社会の実現をサポートしていきたいと考えています。そのためにも、社会的な活動はもちろん、製品の開発・提供なども含め、日本のペットケアを牽引していきたいと考えています。

猪原:ぜひ、私たちもお手伝いができればと思います。本日はありがとうございました。

猪原 玲(いのはら れい)
関西支社 営業部
2019年jeki入社。関西支社営業部に配属後、主に関西の商業施設や自治体を担当。
2020年よりネスレ日本さまを担当。

内記 利宏(ないき としひろ)
ネスレ日本株式会社 ネスレ ピュリナ ペットケア
マーケティング部 コーポレートブランドマネジャー
入社後、キャットフード「モンプチ」の製品担当を経て、「ピュリナ」コーポレートブランドマネジャーに就任。以後、サステナビリティ分野の開拓、NPOや各地の自治体と協働での動物愛護などの社会貢献事業の展開を行う。

中之島サロン VOL.14

なぜ今、地域特有の課題やリソースを活用した先進的な取り組みが活発になっているのか。地域だからこそ生まれるイノベーションとはどんなものなのか。jeki関西支社が、さまざまな分野で活躍される方々をお招きして話を伺いながら、その理由をひも解いていきます。

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