ローカル紙が地域、そして海外をつなぐ
三宅秀幸氏(神戸新聞社 メディアビジネス局 イノベーション・パートナー部)×藤田裕幸(ジェイアール東日本企画 関西支社)

中之島サロン VOL.15

神戸新聞社 メディアビジネス局 イノベーション・パートナー部 三宅秀幸氏(左)
ジェイアール東日本企画 関西支社 藤田裕幸(右)

新聞離れと言われて久しい昨今、神戸新聞社では従来の事業ドメインや地域の枠を越え、先進的な挑戦に取り組んでいます。
地元を知り尽くしているからこその強みとは。また、地域社会を支え続ける矜持とは。 
新規事業の中心メンバーである同社メディアビジネス局 イノベーション・パートナー部の三宅秀幸氏にお聞きしました。

自主的な行動が”会社公認”に

藤田:御社は地方紙発の新規ビジネスに先進的に取り組まれています。三宅さんはその中心で事業を担っていらっしゃいますが、新規ビジネスに携わるきっかけなど、これまでの経緯をお教えください。

三宅:新聞業界全体に言えることですが、主な収入の元である販売部数は減少傾向です。僕が入社した14年前には56万部あった販売部数も今は43万部。幸い神戸新聞はグループである「デイリースポーツ」の電子版などが好調で、デジタルでの収入が紙面の広告収入とほぼ同額になり、デジタル化への転換は成功しつつあると思います。
ただ新聞社として、紙面をお届けできなくなる地域を作ってはいけないという信念があります。当社としてはDX化を推進しながら新規事業に注力することで、地方紙を支え、地域社会に貢献していきたいという思いを持っています。

藤田:そういった時代背景や御社の地域社会への思いがあり、イノベーション・パートナー部ができたと……。

三宅:ええ。それもありますが、実は入社以来13年間、ずっと営業畑を歩んできました。その傍らで新規事業もしていたんです、勝手に(笑)。それが大きくなってきたので、部署として作っていただいたというところもあります。今は、ジェイアール東日本企画さんと一緒に行っている「神戸レザー」と「日本酒」の事業が柱となっています。

バンコク研修でつかんだ”外”の視点

藤田:三宅さんと弊社は、中小企業庁様の補助事業「ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業」(運営/ジェイアール東日本企画)の研修に参加いただいてからのお付き合いですね。

三宅:はい、2016年に参加しました。地域産品を海外で販売する研修があり、実際にタイの「ショップチャンネル」に岩手県のリンゴを持ち込んで売り込みました。もうその研修がめちゃくちゃ楽しくて。地域の活性化をしながら、こんなことができるんだと。当時、淡路島や北播エリア(※)、東播エリア(※)と、兵庫県の中でも地方の営業を担当していて、その課題を肌で感じていた時期だったので。
※北播エリア=西脇市・三木市・小野市・加西市・加東市・多可町/東播エリア=明石市、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町

藤田:研修に参加されて最も学びになったことや経験として得たものは何でしたか。

三宅:”外”の視点ですね。商品や地域の外側にある環境を俯瞰するということでしょうか。
例えば兵庫県のある地方の日本酒を神戸新聞で紹介する場合、“商品自体の良さ”をアピールすることが多い。地域の内側で販売する場合は、売り手と買い手のバックグラウンドや認識が似ているのでまだいいのですが、地域の外、さらに海外にまで市場を広げる場合は、商品作りの段階から、多様な視点を取り入れなければ売れません。
研修でバンコクに行き、現地の人がどんな考えで生活し、ビジネスをしているのかを体感できたことは、ビジネスパーソンとして大きな財産となりました。今、仕事をする中でも、その時の感覚を大事にしています。
研修後、地域資源を海外展開できたら……と、いろいろ画策していたところ、偶然兵庫県からお声をかけていただき、フランスで日本酒をプロモーションする事業を受託することになりました。そこから、海外に兵庫の県産品を販売する事業に携わっています。

地方の時代だからこそ情報網が強み

藤田:地元情報の発信を行う御社では地域の情報をアーカイブされておられますよね。そういった媒体社としての強みを、三宅さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

三宅:神戸新聞は地方版が12版あります。これほど切り替えている新聞社は珍しいのではないでしょうか。県内に30以上ある支社、総局、支局の記者から、日々地域に根差した情報が集まります。これは間違いなく他企業にない強みですね。さらに創刊120年余りという膨大な記事のアーカイブも重要な企業資産です。

藤田:昨今、地方創生事業にはさまざまな業態の事業者が参入してきています。そのような中で御社ならではの強みや独自性についてどのようにお考えでしょうか。

三宅:地方には行政、企業、団体など多くの組織があり、似たような業務をしているのに、お互いを知らないことが多々あります。我々はその隙間を埋めることができます。
例えば地域エネルギー。兵庫県、神戸市、JAなど、それぞれの組織で取り組んでいますが、情報交換する機会がありませんでした。地域の自然エネルギーを使って地域デザインをするプラットフォーム「地エネと環境の地域デザイン協議会」を当社が立ち上げ、担当者同士をつなぐ場として運営しています。そういったことができるのが、我々の最大の強みだと思います。

藤田:個人的に御社のネットワークは本当にすごいと思うことが多々あります。自治体などの行政、企業の窓口だけではなく、組合、外郭団体などにも強いネットワークがあり、さまざまなルートをお持ちになっている。そういったネットワークは御社の記者の方が取材をする中で生まれる人脈なのでしょうか。

三宅:そうですね。情報が集まることの側面として、さまざまな団体とお付き合いができます。
ただ「地エネと環境の地域デザイン協議会」は、辻本一好という編集委員が、20年間農業をテーマに取材をしていたんですね。一般紙ではかなり珍しい人材です。取材をしてきた中で「兵庫農業の課題」というテーマがあると聞いたとき、営業として直感的に“それ、儲かるんちゃうかな”と(笑)。すごいコンテンツが自社の中にあったなと。それを形にしていくことで、日本酒事業に結びついていったんです。

藤田:新聞社という土俵では、全国紙と競合になることはないですか。

三宅:販売では熾烈な争いをしています。ただ今は、地方の時代というか、コンテンツも地方のものが強く求められているように思います。地方の情報やニュースはネットの中に潤沢にあるわけではない。情報を求めるパイは少ないけれど競合も少ないんです。そういう意味では全国紙のほうが大変な時代だと思います。一昨年、ポートランドの方と意見交換する機会があったのですが、アメリカは新聞社の衰退が日本より早いらしく、地方紙がなくなったエリアもあるようです。そうなると地元に報が届かないだけでなく、新聞社に代わって行政を監視する機関がなくなり、地方の衰退につながる可能性があります。
地方紙を存続し、健全な社会を維持するためにも新規ビジネスを成功させていきたいですね。

兵庫五国が際立つ、興味深い土地柄

藤田:地域を巻き込んだ新規事業は、地域の方との信頼関係が欠かせないと思います。新たな取り組みを始めるにあたり、壁や難しさなどを感じることはないのでしょうか。

三宅:ありますね。最初はエリアを決めて一本釣りです。新しいことが好きな人が多いエリアは神戸、次に淡路島、姫路でしょうか。そのあたりから攻めて全県に広げていく、みたいな。

藤田:ほかに、兵庫県内で地域ごとの特色はありますか。

三宅:兵庫県は“兵庫五国”と言われる通り、摂津国、播磨国、但馬国、丹波国、淡路国の旧五国が集まってできた県なので、各エリアで特色が全く異なります。そして、「兵庫」という県名より、神戸や姫路、淡路島という地名の方が知られている。神戸ビーフや、姫路城、淡路玉ねぎ、明石鯛など、県名より地名が目立つ、興味深い土地だと思います。

藤田:創立120年以上という歴史的背景も踏まえ、新聞社として住民主体の地域づくりを考えていらっしゃると思います。昨今、地方創生の上で欠かせないSDGs的観点から、事業の展望をお伺いできますか。

三宅:当たり前ですが、地方の新聞社は別の場所に移ることはできません。2018年に創刊120周年を迎え、「私たちは公正に伝え、人をつなぎ、くらしの充実と地域の発展につくす。」という社是を掲げましたが、これは持続的に地域を発展させるというSDGsの意志を内包しています。

また、当社は阪神・淡路大震災の教訓を伝えるために「117KOBEぼうさいマスタープロジェクト」という事業を継続実施し、新聞協会賞をいただいています。こういった地域性の高い事業や社是の流れを受け、日本酒と神戸レザーの事業を手掛けることになりました。

日本酒で感じる地域エネルギーの循環

藤田:2つの事業の概要を教えていただけますか。

三宅:まず日本酒ですが、先ほどお話した、「地エネと環境の地域デザイン協議会」が始まりです。協議会が立ち上がった2018年頃からSDGsが言われ始めましたが、まだ一般的ではなく、具体的に何をすればいいのか悩む企業や団体が多くありました。協議会でシンポジウムなどを行っても伝わりづらい。そこで、象徴的なモノを作ろうということになり、「飲むだけでSDGsにつながる」「地域の資源循環がわかる」日本酒を開発することになりました。
プロジェクトの起点は、バイオガス事業に取り組んでいる神戸市の弓削牧場。畜産で出る糞尿や、チーズの廃液を発酵させるとバイオガスが発生し、消化液が出ます。この消化液を肥料にして、酒米となる山田錦を栽培し、収穫後、日本酒メーカーに醸造してもらうのが一連の流れです。

「地エネと環境の地域デザイン協議会」日本酒分科会プロジェクトの機械除草の様子。除草剤など農薬を使わない栽培に挑戦している(画像提供:神戸新聞社)

藤田:今後事業を継続する上での課題や展望はいかがでしょう。

三宅:日本酒に限りませんが、各業界のしきたりを知らなくて、地雷を踏むということはあります(苦笑)。まだまだ勉強中です。
今後の展望としては、海外市場を睨んだ動きをしていきたいです。このプロジェクトの日本酒は海外向けに企画し、化学肥料や除草剤を使用せずに山田錦を栽培しました。というのも、兵庫県の日本酒プロモーションでパリの展示会に出展した際、「オーガニックの日本酒はないのか」とよく聞かれたんです。今回は県内4酒蔵とご一緒していますが、酒蔵側は海外市場を意識しているように思えます。このコロナ禍でも日本酒の海外輸出量は約3%増加しています。ワインは世界で35~40兆円近くの市場がありますが、日本酒は250億円くらい。まだまだノビシロがあります。酒蔵各社は、海外市場に力を入れており、白鶴酒造さんは海外に工場を作ったりしています。県内には中小規模の酒蔵が多いので、新聞社として応援していけたらと思っています。

プロジェクトで開発された日本酒のラベルデザイン案。資源循環型の日本酒をミニマルに表現している(画像提供:神戸新聞社)

世界の神戸ビーフをアップサイクル

三宅:神戸レザーは2019年から。“民間でおもしろいことをしている人がいる”と、神戸市からお声がけいただきスタートしました。モノや情報が飽和した東京でやるよりは、海外でブランドを立ち上げようということになり、jekiさんとパリの「アトリエ・ブランマント」(日本の伝統工芸品やアート作品を扱うギャラリー&ショップ)で、神戸レザーの新ブランド発表会を開催しました。その年の「ミラノサローネ」の若手部門「サローネサテリテ」に、デザイナーさんが、神戸レザーの作品を出展したところ、最優秀賞を受賞。この年のテーマが“食”で、神戸ビーフをアップサイクルした商品ということで高く評価されました。さらに、パリの「メゾン・エ・オブジェ」という大規模展示会にも出展し、波に乗りまくっているブランドに成長しています。

藤田:弊社も当事業ではブランディングのお手伝いをさせて頂きました。改めて「神戸レザー」というブランド名は、神戸発のプロダクトを世界に発信する上で非常に分かりやすいブランド名と考えております。

三宅:「神戸ビーフ」は、世界中で知られているブランドです。「メゾン・エ・オブジェ」に出展したときも、「神戸ビーフのレザーです」と説明すると、それだけで高品質と思ってもらえる。神戸ビーフというブランドのおかげで、神戸レザーも垂直的な立ち上げができ、その点は、とてもラッキーでした。

藤田:そんな波に乗っているプロジェクトですが、ご苦労されている点はありますか。個人的には、レザーという動物性の商品の象徴的な側面を、ビーガンや動物愛護の視点など世界のトレンドとどう折り合いをつけていくかがキーになると考えておりますが。

三宅:たしかに世界的に、ビーガンや動物愛護の視点からレザー商品を反対する動きはあります。ただ、神戸レザーは食用の牛から出る副産物をアップサイクルした商品。 “サスティナブルなブランド”というコンセプトは作れているかと思います。

さらに、食用と皮革用では牛の品種が異なります。神戸レザーの牛は皮革用と比べて個体が小さく、皮も薄い。品質で勝てない上に、輸出にコストがかかるため価格競争もできません。そこで、コラボレーションなど品質や価格ではないところで戦う作戦で進めています。

販売店や配送網を巻き込んで地域商社の構築を

藤田:現在、挑戦されている新規ビジネスは、新聞発行という本業になにかしらの影響を及ぼしているのでしょうか。

三宅:現状、まだまだ本業に直結しているとは言えません。紙面でプロジェクトを特集するときの広告収入と、商品が売れるといくらかのロイヤルティはありますが、個人的に目の前の収入は求めていません。
それよりも、広告ではお付き合いがなかったところと一緒に事業ができることに大きな価値を感じています。関係性を深めて、新聞社の新しい収益モデルを作っていきたい。ロングタームで考えています。

藤田:最後になりますが、コロナ禍における地元での取り組みはありますか。

三宅:ほかのチームの話ですが、コロナ禍で給食がなくなり、材料の玉ねぎが大量に余ったということで、新聞販売店で販売したら、5日間で8トン売れたんです。

藤田:おもしろい取り組みですね! 昨今、新聞社の販売網を使って地域の店舗と連携した買い物サービスや、IoTデバイスを使った高齢者の見守り支援など、新しいビジネスも生まれていますね。

三宅:はい。新聞と一緒に玉ねぎを届け、集金できることは発見でした。新聞販売店には、配達、集荷、集金、地域拠点、顧客情報、地域情報などさまざまな機能と情報が集積されています。このリソースを活用しないのはもったいない。将来的には地域商社のようなものを作りたいと思っています。商品開発をして、配送網で物流も担って。新聞販売店自体を活用した事業も何かできるかもしれません。情報だけでなく、リアルなモノを扱うスタイルを構築できればと思っています。

藤田 裕幸
jeki関西支社 営業部ソーシャルデザインチーム
広告会社で官公庁、民間企業のプロモーションに携わり、2018年よりjeki関西支社営業部ソーシャルデザインチームに在籍。主に自治体・省庁関連の案件に取り組む。
近畿圏エリア以西で地域と伴走しながら、観光・産業振興を中心に様々な事業に取り組んでいる。

三宅 秀幸
神戸新聞社
メディアビジネス局 イノベーション・パートナー部
兼 デジタル推進局 WEBマーケティング部

1984年兵庫県三田市出身。2007年神戸新聞社入社。広告営業を経て、現在は新聞社の新規事業開発に従事。地方新聞社の資源を活用し、地域の産品を海外に発信する事業などを行う。ギターとたき火、日本酒が好き。
PRSJ認定PRプランナー、中小企業庁ふるさとグローバルプロデューサー修了(2017年)。

【実績】
兵庫県委託事業 平成30年度「はりまの酒 フランスパリプロモーション」
神戸市委託事業 平成30年度「神戸イノシシレザー等のパリでの新ブランド発表会」
国土省補助事業 平成30年度「空き家・空き地等の利活用等に関するモデル事業」
平成30年度補正予算小規模事業者持続的発展支援事業 共同・協業販路開拓支援事業「神戸レザー新ブランド育成支援事業」
令和元年補正予算 共同・協業販路開拓支援補助金「神戸レザーブランド化推進事業」
2018年~「地エネと環境の地域デザイン」事業など

中之島サロン VOL.14

なぜ今、地域特有の課題やリソースを活用した先進的な取り組みが活発になっているのか。地域だからこそ生まれるイノベーションとはどんなものなのか。jeki関西支社が、さまざまな分野で活躍される方々をお招きして話を伺いながら、その理由をひも解いていきます。

>記事一覧はこちら

>記事一覧はこちら

6月15日公開 PICK UP 駅消費研究センター VOL.39 について

2021年6月15日公開のPICK UP 駅消費研究センター VOL.39「地域や自然とつながる循環型レストラン「Maruta」(調布市)―社会問題に応える、生産緑地の開発モデルへ」について、6月17日より公開を中止しておりましたが、一部内容を修正のうえ、7月9日に再公開致しました。