お客さまを待つのではなく会いに行く。「移動販売」の価値とは?
〜プラットフォーマー「Mellow」に聞く、モビリティビジネスの未来〜(後編)

PICKUP駅消費研究センター VOL.33

以前から広がり始めていたものの、コロナ禍によってさらに脚光を浴びることとなった「移動販売」。駅消費研究センターでは、お客さまを待つのではなく“会いに行く”ことのできる「移動販売」を、多様な顧客と関係を深めるための新たな顧客接点と考え、その現状と今後に注目しています。時代の動きをいち早く捉え、日本最大級のモビリティビジネス・プラットフォーマーとして急成長を遂げる、株式会社Mellowにお話を伺いました。今回はその後編です。
前編はこちら

株式会社Mellow

15年以上にわたり延べ1000店以上のフードトラックと関わり、1000件以上の屋内外フードエリアの企画・運営業務に携わってきた石澤正芳氏を中心に、2016年に創業。日本最大級のモビリティビジネス・プラットフォーム「SHOP STOP」を展開し、フードトラックを中心とした移動型店舗と空きスペースのマッチングを行う。SHOP STOPの営業場所は、オフィス街を中心に、マンション、大学、病院、物流倉庫、建設現場など、さままざまな場所へと広がりを見せている

事業者に対しては、開業から経営相談までトータルにサポート

Mellowは、2020年からフードトラック事業者のサポートにも力を入れ始めました。フードトラックには既製品がなく、全てカスタムオーダー。しかし、店のコンセプトや商品も決まらないうちに車を買ってしまい、いざ始めてみると車の仕様が提供する商品に合わず、行き詰まってしまう事業者もいるといいます。そこでスタートさせたのが、フードトラックのサブスクリプションサービス「フードトラックONE」です。

トヨタグループで車のサブスクリプションサービスを手掛ける株式会社KINTOと連携。必要な機能と安全性を実現したフードトラックの標準モデルをつくり、新車フードトラックの5年間のリース契約と各種保険や車検、さらに営業支援をパッケージ化しました。月々定額のサブスクリプションにすることで最小限のリスクで開業することができる上、事業計画や店のコンセプトに関する相談、営業に関する不安や疑問にも答えて、開業から継続経営までをトータルにサポートします。

「これまで、出店場所を提供する形で事業者を支援してきましたが、事業者の中には継続的な売上を確保できず、長く続けられない方もいることがずっと課題だったのです」

フードトラックONEの会員とは毎月面談、出店場所ごとの売上データなどを基にアドバイスし、ノウハウの提供や経営相談を行っていきます。

「共同代表の石澤正芳は、15年以上にわたり延べ1000店以上のフードトラックと関わり運営業務に携わってきました。その中で、数多くの成功パターンや失敗パターンを見てきています。そのような何年にもわたって蓄積してきたノウハウを、始めたばかりの事業者さんにも提供し成長につなげていただきたいと考えています」

初期投資を抑えて参入障壁を減らし、余計な心配をせずに事業者がビジネスに集中できる仕組みをつくる。プラットフォーマーとして、開業から事業の継続までMellowがしっかりサポートしていくというわけです。

フードトラック事業者向けのサブスクリプションサービス「フードトラックONE」を、2020年4月から開始。コロナ禍における飲食店開業や業態転換の支援策として期待されている

移動型店舗が街の新たな価値を生み出す

街が活性化し繁栄していくと、スモールビジネスは苦境に立たされます。地価が上がるため、必然的に賃料が上がる。すると、チェーン店のような大資本ばかりが生き残り、小さな店は退去せざるを得ない状況に陥ります。街の成長に伴って、そのようなことがあちこちで起こっていました。結果、街そのものの個性は薄れていってしまいます。これに対してMellowは、SHOP STOPを新たな街の価値にしていきたいと言います。

「フードトラックは、それぞれのシェフの個性が魅力です。その個性を消さない形でショップ・モビリティの仕組みをつくることは、街の価値向上につながると思います」

Mellowでは、出店料を売上に応じた変動費にしています。家賃のような固定費にしてしまうと、参入できる事業者が減る上に、儲かる売れ筋のメニューしか残らなくなるからです。その結果、店の個性は消えていき、SHOP STOPとしての選択肢や魅力も減ってしまいます。変動費にすることによって、店は個性を保ったまま存続でき、街に彩りを与えることができるのです。

さらに、移動型店舗には、状況に応じた可変性があります。空きスペースや需要に合わせて商品・サービスを変えて配車すれば、スペースも店も効率が上がる。それによって場所の価値や店の価値を最大化することができれば、街の魅力も膨らみます。そのような形で、持続可能な街づくりの一つの要素としてSHOP STOPが機能することを目指しているそうです。

移動型商店街の時代はもうそこまで来ている

将来的にさらにSHOP STOPが広がっていくと、さまざまなお店が並ぶ商店街も、やがて移動型になっていくのかもしれません。

「Mellowでも、移動型商店街の実装は考えています。ただ、公園のような場所に出店しても、単なるにぎわい創出だけでは事業者の売上は上がりません。データを蓄積して、収益の出る場所や時間、お店の組み合わせなどを見つけることが必須です」

ただし、Mellowが考える移動型商店街は一度に多数の移動型店舗が集まるというより、朝・昼・夜で店を入れ替えることにより多数の店を利用できるイメージだといいます。そうすると各時間帯は3店舗ずつだとしても、トータルで9店舗の商店街になります。

「現在、SHOP STOPを345カ所で展開していますが、条件の合う場所では、複数の業態を楽しめる移動型商店街のようにしていきたいと考えています」

2021年秋の開業に向けて清水建設が計画を進めている「豊洲MiCHiの駅」では、既にSHOP STOPの導入が決まっています。元々ある空きスペースを利用するのではなく、計画段階から移動型店舗の導入を想定して開発するという初の試みです。SHOP STOPによって、ニーズや時間帯に応じた移動型店舗が代わる代わるやってきて、さまざまな商品・サービスを提供する。Mellowが考える移動型商店街のイメージに、より近くなるといいます。

人が介在する商品・サービスに価値が出せる

コロナ禍の影響もあり、人の移動が大きく変わろうとしている今は、デリバリーやECへのニーズが高まっています。しかし、移動型店舗は、それらだけでは届けられない価値を提供できると、小関さんは語ります。

「移動型店舗は、人と人とのつながりや、温かいやりとりが生まれやすいことが大きな特長です。コロナ禍による自粛中、印象的だったのが、移動型店舗にお買い物に来たお客さんがすごく楽しそうだったことです。お店の人とのおしゃべりが止まらない方もいらっしゃいました。人の魅力や個性まで一緒に運べるのも、移動型店舗のいいところだと思っています。そういう意味で、移動型店舗では特に人が介在する商品・サービスを提供することで価値が出せると思います」

フードトラックをはじめとする個性豊かな移動型店舗では、店主やスタッフとのちょっとしたやりとりも大きな魅力となる

例えば、マッサージのような接客込みのサービス、あるいは物販でも市場の仲卸が売る鮮魚のように目利き店主の専門知識に触れられるようなもの。モノを運ぶデリバリーとは違い、技術を持った人が需要のある場所まで出向いたり、ECでは伝えきれない世界観を直接消費者に伝えたりすることができ、移動型店舗にする価値が大きいといえます。

ランチタイムのオフィス街におけるフードトラック需要にしても、コロナ禍で顕在化したマンションや病院での需要にしても、大きなニーズは意外なところに眠っていました。SHOP STOPは、特定の場所に移動型店舗がやってくるというモデルですが、Mellowは将来的に複数のスポットを一定時間で巡回するモデルも考えているといいます。街を巡回し、顧客により近づくことで成り立つビジネスにも対応したいとの考えからです。

移動型店舗の展開方法や、需要があるのに気付いていないロケーションや商品・サービスの組み合わせなどは、まだまだ無限にありそうです。ただ待つのではなく、ニーズのある場所に柔軟に移動できるモビリティビジネスの可能性は、今後ますます広がっていきそうです。

取材・文 初瀬川ひろみ

<完>

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.46掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2020年12月)のものです。

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。