地域の課題に応じて価値を繋ぐ、デジタルチケットプラットフォーム「wallabee」

地域創生NOW VOL.8

(左)ジェイアール東日本企画 デジタル・ソリューション局 ソリューション第四部長 八城 康彦
(中)ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス開発局 担当局長 田邉 敬詞
(右)ジェイアール東日本企画 ソーシャルビジネス開発局 部長 福田 暢英

従来の紙製チケットをデジタル化してスマホに集約することで、公共交通機関や商業施設、イベント主催者などの事業者と、電子チケット購入者の利便性を飛躍的に高めたデジタルチケットプラットフォーム「wallabee」(ワラビー)。2019年7月にリリースされて以降、金沢市の観光チケットサービス「ゆるりゆったり涼み旅 金沢」や新潟での観光型MaaSの実証実験「にいがた MaaS Trial」など、導入実績も増えている。この「wallabee」は、どのような経緯で誕生し、地域課題の解決にどのようにつながっているのか。開発担当であるjekiデジタル・ソリューション局の八城と、同プラットフォームの導入を推進しているjekiソーシャルビジネス開発局の福田に、ソーシャルビジネス開発局担当局長の田邉が話を聞いた。

「wallabee(ワラビー)」とは https://www.wallabee.net/

スマートフォンのブラウザで交通機関や商業施設、イベントなどのチケットの購入・管理・使用ができる、アプリのダウンロードが不要な電子チケットサービスです。
チケットはオンライン決済のほか、現地での対面決済でも購入できます。
使用時には、ブラウザの画面上にデジタルスタンプを押印することで認証される仕組みで、利用者はブラウザでチケットの保管および利用履歴の確認ができます。チケット販売者側は利用実績がリアルタイムで把握でき、クラウド上で集計・分析されたデータをダウンロードして活用することができます。

各地域での実証事業に大きな手応え
柔軟に対応できるプラットフォームとして進化

田邉:電子チケットサービス「wallabee」を開発した経緯についてお聞かせいただけますか。

八城:背景として、「MaaS」の動きが国内でも活発化してきたことがあります。当社では、2019年、JR東日本、東急電鉄とともに、伊豆エリアで観光型MaaS「Izuko」の実証実験を行いました。鉄道、バス、AIオンデマンド乗合交通、レンタサイクル、観光施設などをスマートフォンで検索・予約・決済し、目的地までシームレスに移動できる、国内では先駆的な取り組みで、4月1日~6月30日まで実施した「Phase1」では、専用アプリを開発しました。静岡デスティネーションキャンペーンの実施期間だったこともあり、アプリのダウンロード数は、6か月間の目標値であった2万ダウンロードを約2か月で達成するなど、初動は好調に推移しました。
 一方、専用アプリは、操作性、機能性で利用者のニーズに応えきれない面があり、多くの課題が浮き彫りになりました。海外のアプリをベースに開発したため、日本の観光・交通事情に合わない部分や、もっと自由に設計したいと感じる部分が多く、もどかしさがありました。

福田:結局、アプリをダウンロードしていただいても、実際の利用につながりにくいケースがあることが判りました。このことから、旅行先で手軽に使ってもらうためにはアクセスしてすぐ使えるブラウザベースが望ましいのではと考えました。また実証実験では、サービスの改善点や試してみたいアイデアもどんどん増えていきましたが、アプリだと改修や審査に時間がかかります。一方、ブラウザベースであれば、新しい機能や改善を迅速に反映できるというメリットがあります。

八城:ちょうどそんな時、jeki北陸営業所から、アクティビティや食事などがセットになった、観光に関する電子チケットが作れないかと相談がありました。改めて他の製品も比較してみたのですが要件が合わず、では、ブラウザベースで柔軟に設計できる電子決済プラットフォームを自分たちでつくろう、ということになったのです。

地域ごとに異なる課題に寄り添い、
旅行を軸に地域を活性化する施策を展開

田邉:それが、「wallabee」のデビューとなった、2019年7月の「ゆるりゆったり涼み旅 金沢」なんですね。

福田:はい、その後は様々な地域からオファーをいただきまして、2019年後半からは大変な忙しさでした。同年10月から新潟市「にいがたMaaS Trial」、12月から伊豆エリア「Izuko」Phase2、そして2020年に入ってからは仙台圏エリア「TOHOKU MaaS 仙台trial」、4月には群馬県で「ググっとぐんMaaS」を展開しました。期間限定のキャンペーンなので、そういった意味でも開発に手間のかかるアプリよりブラウザベースの方が向いていると実感しました。

八城:何より地域によって課題も魅力も、やりたいことも異なるので、UIも含めて柔軟に設計できるのは「wallabee」の大きな強みです。仕様が固定されたプロダクトインの製品ではこうはいかないんじゃないでしょうか。

田邉:具体的に地域によってどのような課題があるのでしょうか。jekiが提供するソリューションに対する期待感などについてお聞かせください。

電子チケットをスタッフに見せてスタンプ認証

福田:たとえば、新潟への観光客は新潟駅周辺に偏りがちなのですが、少し離れたところでも本当にいいところがたくさんあります。「にいがたMaaS Trial」の「ほろ酔いチケット」の対象とした古町花街もその1つで、本当に雰囲気のある古き良き飲食街なんです。もともと地元や旅行会社などで販売していた紙チケットを「wallabee」で電子チケット化しました。「出張で来て、行きの電車内で電子チケットを知って購入した」という利用者もいて、手応えを感じています。

八城:仙台も課題は似ていますね。観光客は仙台駅から蔵王や松島といったメジャースポットに集中しがちで、もっといろんな地域を巡ってほしいという地元のニーズがありました。特に東日本大震災の被災地となった沿岸部は人が訪れることが復興支援にもなりますから。ただ、課題は同じでも、地域によって組み合わせるもの、見せていくものは違うので、それぞれ地元の方と一緒になって作り上げていくことになります。

福田:その中で考慮すべき課題の1つが交通機関ですよね。たとえば、伊豆には車で行くという人も多いのですが、実は公共交通が充実していて、使いこなすと本当に楽しい旅になるんです。一方、地域では高齢化に伴う担い手不足や採算性の問題、幹線道路の渋滞などの課題もある。そして、今はコロナ禍で一時停滞していますが、今後はインバウンドや都市部からの観光客を中心にキャッシュレス化が求められるようになるでしょう。当社としてはこうした地域課題を総合的に解決することを考えながら提案を行い、「wallabee」を使った観光キャンペーンもその一助として捉えています。

他社システムやリアルとも“つながる”ことで、
地域の新たな魅力を創出・提案する

田邉:地方創生や地域の活性化は、まさに当社にとってのミッションの1つであり、これまでも様々な取り組みを展開してきました。そこに「wallabee」が使えるようになったことで何か大きく変わった実感はありますか。

福田:一番感じるのは、観光という行動を組み立てる上で、デジタル上の「プラットフォーム」ができたということですね。地域ごとに観光資源も交通機関も全く違うし、たとえば初めて来た人とリピーター、鉄道好きと食べ歩き好きと、それぞれ訴求する見せ方は全く違うでしょう。組み合わせることで点から線、そして面になることで地域の様々な魅力を見せることができます。さらにそれを短期間で低コストで実現させていく。

八城:技術的には「マイクロサービスアーキテクチャー」として、様々なものを「つなぐ」ことがポイントになります。たとえば、オンデマンドバスなら配車や予約のシステム、他の交通機関や飲食店、イベント、アクティビティなどのチケットシステムとも組み合わせる必要があり、パターンは無限にあります。1年間の実証を通じてそうしたリクエストを実現させてきたことが自信になりましたし、もはや「できません」とはいいたくないですね。

田邉:それは心強いですね。もちろん、オープンプラットフォームとしての「wallabee」の柔軟性があってのことなのだと思いますが。そういえば、当社で開発したICカード対応クラウドサービス「SF-UNITY」※をつないだのも面白かったですね。

※交通系ICカード等の利用履歴に応じた抽選やクーポンの発行ができるキャンペーン用プラットフォーム

八城:新潟駅のぽんしゅ館の「唎き酒機」との連携ですね。デジタルチケットを購入すると特典でスマホにでてきたQRコードでゲームができて、その場で追加で飲めるチケットが当たるという。そうしたリアルとの連携がしやすいのも、「wallabee」の強みだと思います。旅の起点となる駅や施設と連携させるのも面白そうです。ただし、いろいろアイデアは膨らみますが、どんなにいいシステムも浸透しなければ意味がないので、地域と綿密に連携しながら進めていきたいと考えています。

福田:そのあたりは、やはり今までの蓄積が私たちの強みですね。たとえば、契約を交わすにも1か所ずつ行うのは大変なので、地域の課題やリソースを熟知されているだけでなく、取りまとめることができる地域のキーパーソンとの関係は重要です。幸いそうした方々とは信頼関係が出来上がっているので、一緒に考えながら組み立てた構想を可視化して実現する場として「wallabee」が役に立てばと思っています。

データ活用で次の「打ち手」が可能に
地域とともに新しい旅の提案スタイルを考える

田邉:こうしてみると、様々なデータがとれそうですね。データ活用についてはどのように考えていますか。

福田:まさにそこが「wallabee」のもう1つの価値だと思います。たとえば、新潟の古町花街美食めぐり「ほろ酔いチケット」も紙チケットとして販売されていた時は、使われた数が合わないとか、どんな方が使ったのかわからないなどの課題がありました。「wallabee」の導入によって数が合わないということがなくなり、様々なデータが取得できて、施策の改善や新しい企画へと役立てることができます。

八城:クラウドでリアルタイムで把握できるというのがいいと思います。これまでのキャンペーンでも結果報告としてデータは出していましたが、常に「終わった後」でした。でも、お店側でデジタルスタンプを押すと即座に売上に反映されるし、毎日集計結果を確認することができます。いわばPDCAを早く回せるようになるわけですね。

田邉:こうしてみると、地域に様々な課題や魅力があり、解決を模索する中に「wallabee」が入ったことで、欠けていたパズルのピースが埋まったような、そんな印象があります。今後はどのような施策や活用などを考えていますか。将来の展望について聞かせてください。

福田:直近では仙台の第二弾が始まっていますし、JR西日本を介して京都や瀬戸内地方のキャンペーンで「wallabee」を採用いただいています。今後はオープンプラットフォームとして多くの方々にご利用いただければと思っています。特に個人的には、ローカル線のプロモーションなど、各地域の隠れた魅力を発掘できるような施策に思い入れがあります。1つのエリアでも、ニーズに応じて様々な見せ方ができるし、逆に嗜好に合わせて全国を横串に刺す見せ方もできると思います。

八城:その組み合わせが拡充してきたら、データの分析から「この人にはこんな旅行」というように、究極的には1to1マーケティングも可能になるのではないでしょうか。さらに高齢者の旅をサポートするとか、見守るといった使い方もできるでしょう。もちろん、伊豆エリアの観光特急列車「サフィール踊り子」の車内サービスに利用できる専用モバイルオーダーサービス「サフィールPay」で実証できたように、施設内や地域内のキャッシュレス決済のプラットフォームにも活用できますし、その意味で、「wallabee」が縁の下でしっかりと施策を支える存在になれたらと思っています。

田邉:いろいろ構想が膨らみますね。これはもう福田さんに47都道府県を行脚いただいて(笑)。

福田:ええ、説明に伺いますよ(笑)。今後、地域の方々とともにマーケットインで施策を構築し、toC向けのプロモーションも含めて提案できる、そこに私たちの強みが発揮できると考えています。JR東日本グループが掲げる、お客さまや地域の皆さまの「心豊かな生活」の実現を目指します。

八城:駅や商業関連施設、紙媒体などのリアルな接点もあれば、山手線のトレインチャンネルや改札を出たら情報が通知されるLINE Beacon、JIC(jekiインタラクティブ・コミュニケーションズ)の協力の下デジタルで展開するプロモーションも可能です。

田邉:着々と準備も整ってきていますね。今後の展開についても楽しみにしています。

上記ライター田邉 敬詞
(ソーシャルビジネス開発局 担当局長)の記事

アパレルで伝統文化をつなぐ。〈スノーピーク〉が〈LOCAL WEAR〉プロジェクトで見据える未来とは?(恵比寿発、×コロカル共同取材)

地域創生NOW VOL.7

田邉敬詞(ソーシャルビジネス開発局 担当局長)

引谷幹彦(ソーシャルビジネスデザイナー)

アパレルで伝統文化をつなぐ。〈スノーピーク〉が〈LOCAL WEAR〉プロジェクトで見据える未来とは?(恵比寿発、×コロカル共同取材)

地域創生NOW

日本各地で様々な地域創生プロジェクトが立ち上がっている昨今。
そのプロジェクトに携わっているエキスパートが、“NOW(今)”の地域創生に必要な視点を語ります。

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  • 田邉 敬詞
    田邉 敬詞 ソーシャルビジネス開発局 担当局長

    1993年株式会社ジェイアール東日本企画入社。一般クライアント、JR東日本の広告営業、交通媒体など、様々な部署を経て、2016年にソーシャルビジネス開発局着任。主に中央省庁の案件を担当し、jekiソーシャルビジネスの事業拡大に向けたイノベーション事業を手掛ける。

  • 八城 康彦
    八城 康彦 デジタル・ソリューション局 部長

    2009年株式会社ジェイアール東日本企画入社。交通系ICカードをはじめとするデジタル・プラットフォーム事業や、通信・決済にかかるソリューション事業の開発を手掛ける。 2018年よりMaaSやチケットレスシステムの開発プロジェクトを担当。開発力の強化に向けてJAMテクノロジーズ株式会社の設立に従事し、2020年同社取締役に就任。

  • 福田 暢英
    福田 暢英 ソーシャルビジネス開発局 部長

    1996年東日本旅客鉄道株式会社入社。旅行業、観光開発業務を担当。JALPAKに出向し、オーストラリアでの業務経験もあり。 2018年10月よりjekiに出向し、観光型MaaS「Izuko」に始まり、数多くの観光型MaaS、デジタルチケットの事業を手掛ける。