『新たな価値を提供するサブスクサービス』ラクサス 〜ブランドバッグ借り放題で、選ぶ苦しみから解放する〜

PICKUP駅消費研究センター VOL.28

近年、食品、ファッション、車、動画・音楽、飲食店など、さまざまな分野において、急速に導入事例が増加してきたサブスクリプションサービス。そんな中でも、単純な定額制や定期宅配ではなく、顧客に新たな価値を提供し続けているサービスを2回にわたって取りあげ、その概念や今後の展望を伺いました。今回は、高級ブランドバッグのレンタルサービス「ラクサス」を運営するラクサス・テクノロジーズ株式会社の代表取締役社長Founder & CEO、児玉昇司さんにお話を伺いました。

ラクサス・テクノロジーズ株式会社
代表取締役社長 Founder & CEO
児玉 昇司さん

<ラクサス・テクノロジーズ株式会社>
2006年、エス株式会社として設立。「世界中に笑顔を」という理念の下、各種ECサイトの企画・開発・運営やアプリの企画・開発等を行う。2015年、毎月定額で有名ブランドバッグが使い放題になるサブスクリプション型のファッションシェアアプリ「Laxus」をローンチ。2017年にラクサス・テクノロジーズ株式会社に社名変更。

日常にずっとあり続ける、返さなくていいレンタルとは

 「月額6,800円(税別)で高級ブランドバッグが借り放題」というシンプルで魅力的なサービスが人気を集め、着実に会員数を伸ばしている「ラクサス」。借りられるバッグは、エルメスやルイ・ヴィトン、グッチなど57ブランド約3万点。ハイブランドばかりの驚くほど豊富なラインナップの中から、スマートフォン向けのアプリやパソコンを利用して使いたいと思うバッグを選べば、ほどなく自宅に届きその日から使うことができる仕組みです。
 これまでのバッグレンタルサービスが披露宴やパーティーなど特別な日のための需要がメインだったのに対し、ラクサスが主眼を置いているのは日常使い。しかし、期日までに返却しなければならないこれまでのレンタルでは、日常使いに不向きでした。それを解決したのがサブスクリプションだったと、代表取締役社長Founder & CEOの児玉昇司さんは言います。
 「返すという行為を人は嫌がる。返却義務があると、どうしても自分のものではないという意識が働いてしまいますから。サブスクリプションにすれば、契約している限り返す必要はありません。我々はサブスクリプションによって、自分のもののように“日常にずっとあり続ける”ものにしたかったのです」

現在約3万点あるブランドバッグの中から、スマートフォン向けアプリまたはパソコンで好みのものを探してレンタルできる

 かつてECサイトの運営に携わっていたという児玉さんは、人々が実は苦しんで買い物をしているのではないかということに気付いたそうです。サイトを訪問する人が購入そのものにかける時間はわずか5%ほど。残りの95%は、サイトを出入りしながら他のECサイトや価格比較サイトを閲覧している時間だそうです。
 「失敗したくないので、一番安い所を探しているのです。しかも、欲しいバッグを全部買うことはできないので、実用性のある無難なものを選ばざるを得ない。せっかく買うのに、冒険するチャンスも失っていました。つまり、高価なものほど失敗しないために苦しんでいたのです。そんな“選ぶ苦しみから解放する”サービスを、ラクサスは目指しました」

“取っ替え引っ替え”を楽しんで、平均継続率90%以上

 “選ぶ苦しみから解放する”ラクサスのコアバリューは、「取っ替え引っ替え」。欲しいバッグがあれば、片っ端から使うことができるのが最大の魅力です。そんなメリットを満喫する会員の平均継続率は90%以上。登録6カ月以上の会員に限ると継続率はさらに上がるといいます。サービスを使い始めの頃は、損をしたくないという思いから、できるだけ高いバッグや自分が知っているバッグばかりを選ぼうとします。この段階では、まだ選ぶ苦しみから解放されていない状態。最も継続率が低いのもこの時期です。それが6カ月を超えると、継続率が大きく跳ね上がります。
 「その頃になると既に5回くらいバッグを交換していて、何を借りても失敗はない、気に入らなければ交換すればいいんだ、ということに気付くのです」
 「取っ替え引っ替え」が板に付き、周囲からもバッグを褒められたりすることで、ラクサスの価値を実感するようになる。使い続けることによって、マインドスイッチが起きているのです。
 さらに、ラクサスはデータを積極的に活用し、会員の利便性と満足度を高める工夫もしています。もちろん、情報提供を承認している会員に限られますが、スマートフォンの位置情報と連携し、例えばシャネルやグッチなどのブランドの店舗を訪れると、アプリ上にそのブランドのレンタル可能な商品が表示される。また、過去の利用履歴やアンケートへの回答などからAIが自動的に好みを分析し、会員におすすめのバッグも提案をする。そのようにして、会員とバッグとの出合いを増やし、「取っ替え引っ替え」を楽しめる環境を整えています。
 そして、入会のハードルを下げるために行っている無料体験にも、継続率を高めるための工夫が。単に1カ月の会費を無料にするのではなく、会員登録するとまず10,000円分のポイントを付与。それを1カ月分の会費に充てても、3,200円分のポイントが余る仕組みです。1カ月でやめてしまえば、3,200円は捨てることになります。すると、足りない3,600円を自分で払ってもう1カ月継続する会員が増えるといいます。
 「2カ月継続しバッグを2回交換してもらえれば、ある程度価値を実感してもらえることが分かっています。それで、この仕組みを考えたのです」
 他にも、返却時まで部屋に置いておかなければならないデリバリー用の箱のデザインにも気を配るなど、さまざまなきめ細かなサービスによって継続率を高めることに成功しています。

送られてくる箱は、ゴッホやモネなどの名画を使ったデザイン。季節やイベントによってもデザインは変わるという。「箱を受け取った瞬間から楽しみが始まり、部屋に置いてあっても恥ずかしくないデザインに」という考えから、こだわって作られた

サービスの質を高め顧客満足度を追求する

 児玉さんは、サービスを通じて蓄積された貴重なデータを今後はブランド側にフィードバックしていきたいといいます。例えば、個々のバッグの貸し出し期間を見ると、どう使われたかが分かります。とても人気があり貸し出しは多いのにすぐに返却されるバッグは、実体験が借りる前の期待値を下回っている可能性がある。一方で、一度借りられたらなかなか返却されないバッグは、実体験が期待値を上回っていたのかもしれません。
 「貸し出し期間の長さは満足度の指標の一つとも考えられます。ブランド側は、売れた数は知っていても実際に使われていたのかを知りません。それを知れば、次のデザインにも役立つはずです。そのようなデータをブランド各社に無料で提供しようと考えています。我々だけでこのサービスは成り立ちません。ブランド各社にデータを活用してもらい、共存共栄していきたいのです」
 AIの活用については“広げていくAI”を目指しているそうです。AIはデータを絞り込んでいくために使われる傾向があります。膨大な情報の中から、ユーザーが求めているものを探し当てるのには非常に有効ですが、それだけでは新たな出合いは生まれません。予想外の発見によって、ユーザーである会員が本当に好きなものにたどり着ける提案。潜在的な好みを掘り起こせるような、AIの活用が重要だといいます。
 「“あなたが使いそうにないバッグ”というリストを作ってみてもいいくらいです。できる限り出合いを増やして、自分の欲しいものを広げていってほしいですね。」
 会員の満足感を高めるためには、これだけやっておけばいいというセオリーはありません。データも活用しつつ、一方で直接会員の話も聞き、一人一人の会員をしっかり見て本音を探っていくことも重視しています。
 「サブスクリプションは、本質的に囲い込みだと思っています。囲い込めば広告費は縮小させていくことができる。その分、サービスそのものの質を高めて顧客満足度を上げていくこと。それが、サブスクリプションの未来だと思います」

取材・文 初瀬川ひろみ
撮影(人物) 小宮山裕介

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.43掲載の記事を一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2019年12月)のものです。

PICK UP 駅消費研究センター

駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/お茶の水女子大学 非常勤講師/Move Design Lab・未来の商業施設ラボメンバー

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事。2012年より駅消費研究センターに所属。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。

  • 和田 桃乃
    和田 桃乃 駅消費研究センター研究員 / 未来の商業施設ラボメンバー

    2019年jeki入社。営業局にて大規模再開発に伴うまちづくりの広告宣伝案件、エリアマネジメント案件全般を担当し、2024年1月から現職。これまでの経験を活かし、街や駅、沿線の魅力により多角的に光を当てられるような調査・研究を行っている。