思い込みを捨て、「内側からの発想」で考えること。 −−福島屋 代表取締役会長 福島徹さんに聞く、お客さまのための店づくりとは(後編)

PICK UP駅消費研究センター VOL.25

東京都羽村市を本拠とするスーパーマーケット「福島屋」は、“食のセレクトマーケット”を謳い、安心・安全で良質な食材・食品を提供することで人気の高いお店です。安売りはしない、チラシは配らない、といった独自の経営手法でも注目される福島屋の、代表取締役会長を務める福島徹さんにお話を伺いました。今回は、その後編です。<前篇はこちら>

株式会社福島屋 代表取締役会長
福島 徹さん
1951年生まれ。大学卒業後、両親が経営していたよろず屋を継ぎ、酒屋・コンビニエンスストアなどを経営。80年に業態転換し、現在のスーパーの業態へ。自ら産地へ赴き、生産者から直接米や野菜を仕入れ、つくり手とのコラボレーションによる福島屋オリジナル商品を多く開発。価格競争はせず、折込チラシも使わずに、およそ40年黒字経営を続けるユニークな経営手法が注目されている。著書に『福島屋 毎日通いたくなるスーパーの秘密』(日本実業出版社)。

編集力を持つスタッフと職人、2つの方向での人材育成

福島屋は創業しておよそ40年。今、課題だと思っていることはありますか。

福島:百貨店、総合スーパー、ショッピングセンター(SC)など、大型店はどこも厳しい状況のようですね。中には「まるで4番バッターばかりそろえた野球チームだな」と思う店舗もあります。ブランドバリューだけでテナントをリーシングしているような印象を受けるSCも多い。僕は、4番バッターばかり集めた店が、そう魅力的だとは思いません。
うちの店は、価格が高めだから高級志向のように思われがちですが、僕自身にはそういった志向で品ぞろえする考えはまったくないですね。六本木店のオープン当初、インスタントラーメンを1銘柄だけ置いたんです。「何でこんなものを売るんだ」とお客さまに叱られましたが、誰にでも手抜きをしたい日はあります。そこはうまく使い分けをしてもらえればいいわけで、“陰日向”“高い安い”といったデコボコがある方が、お客さまにとって楽しい店になるというのが僕の考え方です。
 そんなふうに考え、トータルで店づくりができる“デザイン力”“編集力”といった力が小売業界で求められていると感じています。僕は、そうした力を高めるために、さまざまな集まりに顔を出して、キーパーソンに話を聞くようにしています。農業者や漁業者はもちろん、自治体職員、政治家、デベロッパー、交通関係者、それに同業者も含め、あらゆる分野の方とお話しして力を磨いていくことがライフワークになっています。

2014年、“TASTING MARKET”をコンセプトに営業開始した「福島屋 六本木店」。お店で販売している食材を使って、各食材の“プロ”であるスタッフが手作りする総菜やスイーツなどが人気を集める。イートインコーナーやカフェ、ワインショップも併設され、福島屋らしいトータルの“編集力”がうかがえる

改めて、きちんとした売場の“編集”をしなければならない時代がきたということでしょうか。

福島:そこを重視して福島屋の店づくりをしてきたのですが、一般に生産や流通の実情をリアルに把握して、店舗全体のディレクションができる人材が、小売業界には意外と少ないのではないでしょうか。
 これからの小売業には、総合的なデザイン力・編集力、あるいはディレクション力を持つ人材の育成が必要になってくるでしょうね。消費者ニーズの変化に、丁寧かつ柔軟に対応できるようにするためにも、考えていかなければならない課題だと思います。福島屋でも、こうしたスタッフ教育に力を入れています。ただ、全スタッフがそういった人材になる必要はありません。編集力を持つスタッフを育てる一方で、“職人”を育てる必要もあると思っています。

職人を育てるというのは、どういうことですか。

福島:各売場スタッフは棚づくりのプロに、調理スタッフはおいしさを追求するプロに、といったように自身の担当を極めたプロフェッショナルを育てたいと思っています。例えば、総菜コーナーで販売しているおにぎり。おにぎりは握り方で味が変わりますからね。評価表をつくって、口うるさくも言い、担当スタッフに“おにぎり職人”になってもらおうというわけです。2016年に開店した秋葉原店は、売場よりバックヤードのほうが広いので、調理スペースを多く取れます。そこを職人養成の場にするとともに、いろいろと新しい取り組みにトライする実験店舗的な役割を負わせていこうと考えています。

思い込みは捨て去って、「内側からの発想」で考える

福島屋の今後の店づくりについて、他にどのようなことを考えていますか。

福島:生産者との連携は大方できていますし、生産者と共同開発したプライベートブランド商品も数が増え、定着しています。規模の小さい会社で、何店舗も新規出店はできませんし、僕は自分のやりたいこととリンクしないことはやりたくないから、出店の引き合いがあっても、事業をどんどん拡大していこうとは考えてはいません。
 今まで通りに店づくりを充実させていくことが主だと思っています。ただ、取り組みたいことはいろいろありますよ。例えば、商品の売買だけではなく、収益を上げられる仕組みをどうつくっていくか。これも今後のテーマです。そのために、いろんな人が同じテーブルについて議論しながらプロジェクトを進めることが必要だと思っています。その際、「外側からの発想」ではうまくいきません。

「外側からの発想」とはどのようなことなのでしょうか。

福島:僕が過去の失敗から学んだものに「内側からの発想を大切にする」というのがあります。内側からの発想とは「自分はこの店で何をしたいのか」を問い直すことや、お客さまの立場になりきってその生活を想像し、どのような品ぞろえや売場が喜ばれるのかを、突き詰めて考えることです。
 対して外側からの発想とは、「スーパーとはこういうもの」という思い込みや、売上・来客数といった数字です。数字を読むのはもちろん大切なのですが、それにとらわれると、当たり前の発想しかできなくなります。
 百貨店とはこう、駅ビル・エキナカとはこう、といった「あるべき論」では、結果、物まねになってしまいます。従来のイメージを捨て去って、内側からの発想で店づくりを考えることが大切だと思います。
 そういった意味では、僕はこれからの社会では、個人商店が増えた方がいいんじゃないかと思っています。大きな組織になるほど、外側からの発想にとらわれやすくなってしまいますから。

横断的な議論で共存共栄を探っていく

小売業界は今後どうあるべきだと思いますか。

福島:小売店だけが利益を上げればいいという発想をやめた方がいいと思います。もう一人勝ちをよしとする時代ではありません。生産・物流・小売のどこが弱っても困るのですから、共存共栄を考えていくことが大事だと思います。ステークホルダーが一緒になり、さらには異業種の人も加えて、さまざまな発想で議論をしてみてはどうでしょう。僕は異業種とのコラボレーションで商品開発をした経験がありますが、それまでにない発見がいろいろとありました。

いろいろな主体と連携することで、オリジナリティーのある商品やサービスを開発していくことも大事ですね。

福島:そうですね。ただ、よく「ストーリーのある商品の開発」などと言いがちですけれど、それは無理な話です。皆で試行錯誤したプロセスを後から見ればストーリーになっているのであって、先行してストーリーありきで商品をつくっても、お客さまには響かず、面白いものは出来ないでしょう。いろいろな主体と連携し議論していく中で、感じ取ったものを形にしていくことでストーリーは出来ていくのだと思います。
 こうして、横断的に議論を進めていく際に必ず問題になるのが、組織間の隔たりです。業界間、同業他社間、さらには同じ会社内でも、組織間の隔たりは大きく、それがハードルになるのです。どうするべきか頭で分かっていても、実際にはなかなか変えられない。でも、そのハードルを取り払って、多様な人々と、内側からの発想を持って取り組むべきだと思います。

今後の駅商業施設について、何かアドバイスをいただけますか。

福島:SCとテナントが、とにかく対話をすることが大事だと思います。横のつながりを持って、一つの生き物のようになっていく必要があるのではないでしょうか。テナントの入れ替えではない方法で、新陳代謝をしていかないと。そのためにも、SCとテナントとがコミュニケーションをしていくことが大切だと思います。
 僕たち福島屋も、地域の生産者や物流、同業他社、お客さま、街の人など、さまざまな人たちとの議論をしながら、店づくりを続けていきたいと思っています。

取材・文 高橋盛男
撮影(人物) 片山貴博

<完>

※駅消費研究センター発行の季刊情報誌『EKISUMER』vol.42掲載のインタビューを一部加筆修正の上、再構成しました。固有名詞、肩書、データ等は原則として掲載当時(2019年9月)のものです。

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駅消費研究センターでは、生活者の移動行動と消費行動、およびその際の消費心理について、独自の調査研究を行っています。
このコーナーでは、駅消費研究センターの調査研究の一部を紹介。識者へのインタビューや調査の結果など、さまざまな内容をお届けしていきます。

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  • 町野 公彦
    町野 公彦 駅消費研究センター センター長

    1998年 jeki入社。マーケティング局(当時)及びコミュニケーション・プランニング局にて、様々なクライアントにおける本質的な問題を顧客視点で提示することを心がけ、各プロジェクトを推進。2012年 駅消費研究センター 研究員を兼務し、「移動者マーケティング 移動を狙えば買うはつくれる(日経BP)」を出版プロジェクトメンバーとして出版。2018年4月より、駅消費研究センター センター長。

  • 安川 由紀
    安川 由紀 駅消費研究センター研究員/駅消費アナリスト

    2007年jeki入社。コミュニケーション・プランニング局で鉄道や商業施設関連のプランニングに従事した後、2014年より現職。現在は、駅利用者を中心とした生活者のインサイトや消費行動の研究に取り組んでいる。

  • 松本 阿礼
    松本 阿礼 駅消費研究センター研究員/Move Design Lab 駅消費アナリスト

    2009年jeki入社。プランニング局で駅の商業開発調査、営業局で駅ビルのコミュニケーションプランニングなどに従事した後、2015年より現職。現在は、駅利用者を中心とした行動実態、インサイトに関する調査研究や、駅商業のコンセプト提案に取り組んでいる。