“ご当地グルメ×お酒”ドラマ 「#居酒屋新幹線」
現地で体験したくなる作品は共感が命!

エンターテインメント VOL.12

©︎「#居酒屋新幹線」製作委員会・MBS

出張先の旅情感と、新幹線車中での「孤食×SNS」という新しい食の楽しみ方を掛け合わせた、オリジナルTVドラマ「#居酒屋新幹線」。眞島秀和さん演じるサラリーマンが、出張帰りの新幹線でご当地グルメを堪能するというシンプルなドラマながら、誰かに話したくなる、現地に行きたくなるという人が続出しています。

今回は、作品化のきっかけや経緯、舞台のロケーションやご当地グルメの選定、そして企画の経緯や裏側にある意図などについて、幹事社でプロデューサーを務めたKADOKAWAの木之内安代氏と、同じく共同幹事社であるjekiコンテンツビジネス局の武内佑介が語り合いました。

出かけたい!という気持ちに応える疑似体験ドラマ

武内:はじめて「#居酒屋新幹線」の企画を伺った時、社内ではかなり大きな反響がありました。新幹線と出張、グルメとくれば、誰もが話したいネタがあるからなのでしょう。

木之内:皆さん出張の多いサラリーマンですものね、絶対そうだと思います(笑)。もともとは脚本家4名からご提案を受けた企画で、原作権を持ち、映像だけでなくパラレルなコンテンツにしたいと、映像制作だけでなくメディアや出版部もある当社に持ち込まれたと聞いています。当社でも「面白そう!」と共感する人が多く、実現するにはどうしたらいいか議論する中で、御社の名前が挙がりました。

武内:それでjekiに撮影協力を要請いただいたのですよね。確かに、駅や車内の撮影をどうするか、課題は多く、私たちも悩みましたが、企画の面白さに社内でも盛り上がり、「jekiとして全面的に参画するべきではないか」という結論に至りました。そして共同幹事として、一緒に企画を進めさせていただくことになりました。

木之内:二社幹事となって本当に心強かったです。武内さんから「新幹線の撮影はハードルが高い」と聞いていたので、ちょっと緊張していましたが、jekiさんのお力添えもあって、無事JR東日本さんにも撮影協力をしていただけることになり、ありがたく思っています。着席の場面はセットとはいえ、他は全て本物の駅や車両なので、リアリティや臨場感が断然違いますからね。

現実とドラマを橋渡しする「共感」と「ちょっとした非日常」

武内:原作がない中で作品を形にしていくのは難しい作業でしたね。

木之内:まずはじめたのは、主人公のキャラクターの設定からでしたよね。様々な意見がありましたが、40代半ばで仕事はしっかりしているけれど、仕事でも色々とストレスをかかえ、家族ともちょっとあったり、そんな彼がホッとする時間が新幹線の中という。それで「45歳の内部監査室務め」という設定になりましたね。

武内:そうそう、そんな人は身近にいそうだと。実際に「自分みたいだ」と感じる人もいましたし、身近な経験を話したりしながら、主人公像を肉付けしていきました。

木之内:企画として成功させるには、「共感できるキャラクターが必要」という考え方で一致していましたね。そして、リアルな出張の旅情感を出したいから、買い物のシーンは必須だし、新幹線の中でリラックスして自分だけの時間を満喫するならどうするか…、と順に発想を広げて設定を組み立てていきました。その上で、リアルだけれど、ドキュメンタリーではなくドラマなので、ちょっとした特別感や「ここまでする?」というややオーバーな部分も入れたいなと。たとえば、彼は新幹線の時間を「宴(うたげ)」と呼び、極上の時間にするために、ランチョンマットや器など七つ道具を持ち込んでいるとか。

武内:あれは、さすがに現実的には気恥ずかしいところがありますよね(笑)。でも、あまりに美味しそうに召し上がるので、「おちょこくらいはいいかな」と、ちょっと真似してみたくなりますよね。

木之内:ですよね(笑)。実は私も、出張の帰りに瓶入りのクラフトビールを購入して、栓抜がなくて飲めずにがっかりしながら持ち帰った経験があります。どんな方も、「このお酒はグラスで飲みたかった」とか、「プラスチックのスプーンじゃ味気ないな」などと、思ったことがあるのではないでしょうか。主人公の行動が「ありかも」と思わせるのは、そんな経験から共感できる部分があるからだと思います。そして、その前後にちょっとしたエピソードも入れられたらいいなと思いました。

悲哀と茶目っ気、食への関心が配役の決め手に

武内:エピソード的にもあるある的なことが多くて、主人公に自分を投影する人もいるでしょうね。そんな主人公を演じていただく方については、いろいろと名前があがり、皆さんそれぞれ異なるイメージが湧きましたが、その中でも一番さりげない感じで、「こんな人がいそうだな」と親近感が湧きそうな方として、眞島秀和さんもいらっしゃって。

眞島秀和さん ©︎「#居酒屋新幹線」製作委員会・MBS

木之内:そうでしたね。眞島さんは、45歳のサラリーマンという、仕事の悲哀も感じさせつつ、でも決してハードボイルドではなく、ちょっと茶目っ気のある演技も似合いそうな方で、男女ともに愛されるキャラクターだなと。また、本作品において食べるシーンは非常に重要ですが、眞島さんならご当地の食材の美味しさを、最大限の演技で表現していただけそうということで、オファーが決まりました。

武内:「眞島さんの食べ方がきれい」という方が多いそうですね。そういえばTwitterにも「モグ和さんが見られるの嬉しい」という、女性ファンの声があがっていました。

木之内:確かに、眞島さんは食べるシーンをすごく大切にされていて、「ひとくちを大きくすることを意識した」とおっしゃられていました。食べる前にしっかりとしつらえてから、写真を取って食べ始める丁寧さは演出ですが、そこも所作がスマートだし、ぱくっと大口で食べて、もぐもぐと…、という演技が実においしそうなんですよね。

武内:ああ、わかります(笑)。各回に登場するゲストキャストの方は、ロケ地や鉄道にゆかりのある方が多いですね。

木之内:そうですね。たとえば、第一回に登場する新山千春さんは青森県出身ということで、早々に決まりました。もちろん登場人物のイメージに合っているのが前提ですが、そうした個人的なちょっとしたリンクがまたドラマの厚みや共感につながるように感じます。

人とのふれあいの中で気づく、隠れた美味とその物語

武内:登場するお酒やご当地グルメもすごく美味しそうなのですが、決して“王道”という訳ではないんですよね。

木之内:はい、そこはとても意識しました。誰でも知っている定番ばかりではやっぱりつまらないだろうと。実は、リサーチ時期に私が産休に入ったのですが、じっくりとアイディアを練る時間をとることができました。脚本家や監督をはじめ、各方面からさまざまなアイディアをいただき、中でも御社からいただいたリストは、さすがに実体験に基づくリアルな情報が満載で、大変参考になりました。

武内:当社のスタッフは、新幹線沿線の魅力をしりつくしていますからね(笑)。コース仕立てで提案した者もいたり、そのアイディアをもとに制作チームが一丸となってブラッシュアップしていきました。いずれの回も、「真似してみたい」「食べてみたい」と思っていただける組み合わせになったと思います。

青森の名物「にしん切込」「ミズの煮物」と地酒「菊乃井」

木之内:まさに「組み合わせ」は、食材選定のキモでしたね。監督も食番組などを多く手掛けている方で、お酒と食材のマリアージュをどう楽しむか、徹底的にこだわってくださいました。仮案も作ったのですが、あとから実際に組み合わせて食べてみて、「この食材なら純米吟醸の方が合う」とか、現地で見つけた食材に惚れ込んで「こちらを扱いましょう」とか、かなり最後まで調整されていましたね。

武内:せっかくなので、具体的にいくつか紹介しましょうか。

木之内:ぜひ、ドラマを観ていただきたいと思いますので(笑)、個人的な好みで紹介させていただければ。私は、4話で登場した、宇都宮のド定番の「サクレレモン」というシャーベットに「蜂蜜酒」を入れた食べ方や、古酒と燻製羊羹「燻×羹」とのマリアージュ、たこの白子、それから2話の仙台の回で登場したステーキ丼弁当は、中に入っていたコンビーフが特においしかったですね。眞島さんもとっても美味しいとおっしゃっていました。

宇都宮の定番「サクレレモン」に「蜂蜜酒」を入れた食べ方

実は駅で購入できるものも多いですが、気づかない人も多いんですよね。逆に仙台の「笹巻きえんがわずし」や宮古の「瓶ドン」などは、地元の方はあまり知らないけれど、お土産には大人気という。地元の人にもそうでない人にも、そういう「えっ、そんなのがあるの」という気づきを提供したいと思いました。そして、魅力的なご当地グルメには必ず物語があるので、できるだけドラマの中に盛り込むようにしました。たとえば、1回目のメイン食材の「生姜味噌おでん」は、「青函連絡船待ちの人々を温めたんだよ」という話が出てきます。そうしたところから、主人公は青森の「温かいおもてなし」を感じ取るわけですね。

時代に合わせた、旅の愉しみ方としても提案したい

武内:ドラマの裏話をするだけでも、美味しいものを食べる旅に出たくなりますね。そして、旅先でおいしいものに出会うと、誰かに話したくなるのもわかります。ドラマのタイトルに#(ハッシュタグ)がついているように、主人公はSNSに「#居酒屋新幹線」として、その日のメニューを写真に撮って投稿しています。

木之内:その投稿に反応したり、新しい情報を教えたり、まるで本当に居酒屋の常連さんのようなやり取りが行われるようになっています。そのやりとりから「自分も行ってみよう」「食べに行こう」というアクションにつながることも想像できますよね。まさにこのドラマが、そうしたやり取りのきっかけのひとつになればうれしいです。

武内:jekiとしても、人の流動や地域の活性化につながればいいなと考えています。さらに今回のドラマがユニークなのは、旅先で賑やかに豪華な宴会をしなくても、黙食・孤食でもこれだけ愉しめ、地域の魅力に浸れるのだということでしょう。さらにネットを通じて知った情報と現地の実際との対比や、現地では気づかなかったことにSNSを通じて気づくとか、デジタル時代の楽しみ方もいろいろ出てきました。その意味で、コロナ禍を意識しながらの旅や、デジタルとリアルの融合など、「新しい生活様式の中での旅の楽しみ方のヒント」が多数盛り込まれています。それらもドラマを通じて提案できればと思いました。

木之内:それは実感しましたね。たとえば、チームで行く出張も、個々で行って現地集合というスタイルが一般化しています。でも、非同期でLINEやSlackで連携していたりして、以前よりむしろ連絡は密だったり。私自身、プライベートでも小さな子どもがいて毎日大騒ぎなので、新幹線の車中は貴重な一人時間なんです。一人だけの旅の時間も、ちょっとした工夫や意識次第で、こんなに豊かになるのだという気づきになればいいですね。

武内:これからも眞島さん演じる高宮進が出会う、様々な地域の美食と美酒が楽しみです。本日はありがとうございました。

<了>

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jekiが取り組むアニメ・キャラクターコンテンツの開発背景や裏話など、表には見えてこない舞台裏をキーマンへのインタビューを中心に紹介します。

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